ゴツプロ!第九回公演『無頼の女房』演出 青山勝(劇団道学先生) インタビュー

ゴツプロ!第九回公演『無頼の女房』が下北沢・本多劇場にて6月6日より上演される。
本公演は東京公演のほか、7月6日、大牟田公演も予定。
日本を代表する作家・坂口安吾とその妻・三千代をモデルに、戦後、混沌の時代を懸命に生きながら、どこか滑稽で愛おしい人々の姿を描いた、中島淳彦(1961~2019)の代表作。出演はゴツプロ!メンバーのほか、かんのひとみ(劇団道学先生)、浅野令子、土屋佑壱、鹿野真央(文学座)、 前田隆成、剣持直明(劇団だるま座)、久保酎吉が名を連ね、劇団道学先生の青山勝が演出を務める。初演時に塚口圭吾役を務めた青山勝さんのインタビューが実現した。

ーー初演は塚口圭吾役を演じておられましたよね。そのときの思い出は?

青山:調べてみたら、2002年初演で22年前。ということで、もうだいぶ記憶も薄れているんですが、この作品、稽古が始まる時点では全くその影も形もないといいますか、戯曲としては始めの数ページしかなかったわけなんですね。1カ月の稽古のうち、毎日毎日、何ページかが上がってきたものをその場で覚えては、すぐ立ち稽古という連続でした。なので、詳細な記憶がほとんどなくて、もう勢いに任せて作ってましたよね。で、今回演出するにあたって、はじめて「こういう作品か」っていうくらいの感触でした。

ーー今回依頼を受けて、改めて記憶をたどったような。

青山:そうですね。稽古が進むと同時に、不思議なことに22年前の稽古中の記憶やらなんやかんやが引っ張られて出てくる。「こんなこともあんなこともあったなあ」って(笑)。実際、上演台本が完成したのが初日の3日前だったものですから。それまでにだいぶ紆余曲折があったり、特に後半終幕部分が何度か書き直しがあったりして。そんなすったもんだがあったんですよ(笑)。特にラストシーンがなかなかうまくいかなかった。当時の演出は青年座の黒岩亮さんだったんですが、この方と話し合って、作家の中島淳彦に書き直してくれという話をして、やっとなんとか出来上がったのが3日前という感じでしたね

ーー初演のときは、結構バタバタとしていたんですね。

青山:本当ですね。その頃、中島淳彦が作家として脂がのっている時期だったから、ものすごくオファーも多かったんです。年間おそらく7本8本も新作戯曲を書き下ろしていたものですから、おそらく本人ももう無我夢中といいますか、確か稽古場に一度も来られていませんでしたし、本番も1回か2回見たぐらいだと思います。でもやっぱり読み返してみると、本当に脂が乗ってる40代前半の作家が書いた作品だなって。熱と勢いがありますよね。

ーー私も台本、読ませていただいたんですけれども、パワーがあるなっていう感じはします。台詞のやり取りひとつとっても。

青山:はい。書き手としてのエネルギーがものすごく旺盛だった時期なんだと思います。確かに忙しかったでしょうが、「今やらなきゃいつやるんだ」っていう想いもきっと本人的にはあったんじゃないのかな。残念ながら亡くなってしまってるので、今、彼の感想を聞くことはできませんけど。おそらく、本人にとっても読み返してみたら「なかなかの出来じゃないか」って自分で評するんじゃないかとは思いますけどね。

ーー作品の面白さについて教えてください。

青山:作家を扱っている物語、そのまま妻、家庭ですよね。おそらく自分の創作活動についての諸々の姿を、色濃く投影しているのだと思います。モデルは坂口安吾と妻の三千代さんなんですが、かなり中島淳彦と奥さんの奈津美さん、そのやり取りとか、実際の家庭の有り様を反映してるんじゃないかと思います。僕は中島とは長い付き合いなので、夫婦のやり取りをちょっと覗き見るような面白さもありますし、まったくそういう関係性がない人でも、「作家が作品にかける気持ち」、つまり自分の皮膚とか血肉みたいなものを切り裂くように言葉を紡ぎ出してるんだっていうことが、直に伝わってくるような気迫のこもったセリフ、文章なのではないかと。創作活動に携わってない人であっても、興味深く観ていただけると思いますね。

ーー坂口安吾さんとその奥さんがモデルですけども、戦後すぐという時代特有のエネルギーがあるのではないかとも思いました。

青山:おっしゃる通りだと思います。昭和23年で、まだ焼け跡も片付かないような時代なんですけども、東京の近郊、蒲田とか、あの辺が舞台になっていて。復興に向かって、新しい国の出発の突端にいる人たちが持ちうる力強さとかエネルギーとか、何かやっぱり強くあるんだなと感じます。むしろ、そこを外してしまうとあの作品の空気感みたいなものが出てこない。なので、再生という言葉が一つのテーマかなとは思っています。その国が生まれ変わろうとしてるときっていう、その真ん中にいたのが坂口安吾という人物なので。そこら辺のエネルギーがダイレクトに伝わればいいかなと思っています。決してスマートではないんですよね。むしろ少し暑苦しくてゴツゴツしてる。でも何かそこにピュアなものがあったりして。

ーー坂口安吾さんの他に脇を彩る作家さん、その日常というのが普通に生活してる人たちから見るとちょっと非現実的、非日常的な感じもしますね。

青山:戦後すぐ、作家は一般市民のような日常生活と、創作活動とが相容れないと思っていた節があってですね。おそらく戦後からしばらくは作家とか音楽家とか、画家とかそういう芸術家と呼ばれる人は規則正しい生活をしちゃいけないんだ、みたいなものがあったようです(笑)。錯覚だと思うんですけど(笑)。だからか薬物依存のような、やぶれかぶれな生活を送る人も多かった。今はね、テニスやって朝早く起きてみたいな生活のほうが創作活動にはいいんだって言う人もちゃんといますけど、当時はそんな人はどこにもいなくて、壮大な勘違いというか、幻想の中にいた感じがします。

ーーあとは、夫婦の関係が、深いところに繋がりがあるというか、ちょっとしたやり取りの中でも愛情があるような。

青山:そうですね、実際作家の中島と奈津美さんが言っていたようなセリフもあるんですよ。今回出演する、女優のかんのひとみが口にしてたんですが「ほんとに言ってたよ」ってね。それがなかなか、夫婦じゃないとちょっと口にできないような恐ろしい言葉でもあったりするんで。ああ、やっぱり(中島が)塚口圭吾をよりどころに自分の言葉で書いてたんだなというのは強く感じますね。そういう意味では、奥さんに対するラブレターだったような気もしますけど(笑)。

ーー今現在、稽古についてはいかがでしょうか

青山:まだ立ち稽古になって今日で2日目なんです。全部で6場あるんですが、まだまだ粗削りな段階でしょうか。山でいうならまだ2合目くらい。残りの8合がどれぐらい高いかと考えると、ちょっとまだみんなもわかってないと思うんですけど。登り甲斐のある山なのは確かでしょうね。ちなみにこれ、いろんな劇団でもやられているんですよね。東京ヴォードヴィルショーの佐藤B作さんとあめくみちこさんとか。とはいえ、これまでやった中で「一番よかった」と言われなくてはやる意味がないと思っています。

ーー圭吾役がゴツプロ!主宰の塚原さんですね。

青山:そうです。自分がやったことのある役を演出するというのは何かちょっと不思議な感じですが(笑)。まあ、今までもそういう経験もあるので、塚原くんには頑張ってほしいとしか。

ーーこの作品を初めて観るお客様に向けて「こういうところを観てほしい」というところは?

青山:戦後、昭和23年の流行作家、坂口安吾がモデルの塚口圭吾なる作家の家が舞台で、その家にいる奥さんとか親戚の遠縁の若者だとか、お手伝いさんだとか書生だとか、毎回毎回原稿取りに来る編集者であるとか、友人の作家だとかライバルの作家だとか、愛人だとかが入り乱れて複雑な人間模様みたいなものを描いていく作品です。基本的にはシンプルな色合いが混ざり合って複雑な色味になっているような構造になっています。そんなシンプルな色合いの人物像を味わってほしいなというのがまず一つ。13人いるんですけど、それぞれものすごく魅力的な人が揃っていて、自分の趣味に合う人を必ず1人や2人、見つけられるかなと思います。戦後すぐっていう時代は今からもう80年ほど前。そこまで離れると本当に同じ国の同じ国民なのかと思えるほどある種のエネルギーが違っている。それこそ焼け野原から立ち上がろうという人たちのエネルギーを、少しでも生きる糧にしてもらえればなと思います。

ーーあとは、この作品を「またやるんだ」と思って観に来る人もいるでしょう。

青山:そうですね。おそらくいろんな劇団によって上演されていて、延べにすると結構な人数の方がご覧になっていると思うので。少しでも目に止まってもらえればとてもうれしいですね。

ーーありがとうございます。公演を楽しみにしています。

イントロダクション
まだ焼け跡も片付かない戦後、昭和23年。作家・塚口圭吾とその妻・やす代が暮らす東京近郊の家には、今日も原稿 待ちの編集者たちが詰めかける。 最後の無頼派ともてはやされる流行作家だった圭吾は、その重圧から神経過敏となり、酒と薬物で心身のバランスを 保っているようなものだった。ことあるごとに二階から飛び降りるのも、薬物で高揚した精神のなせるわざ。 「原稿を走る筆の音が、まるで身を削る刃物の響きに聞こえて」 そんな圭吾に寄り添ってきたやす代にとある変化が訪れたことで、夫婦の時間が変わっていく。
混沌の時代を懸命に生きながら、どこか滑稽で愛おしい人々。日本を代表する作家・坂口安吾とその妻・三千代をモデルに、一癖も二癖もある登場人物たちそれぞれの愛の形を描き出す、中島淳彦の代表作。

概要
日程・会場:
東京
2024年6月6日(木)~6月16日(日) 本多劇場
福岡・大牟田
2024年7月6日(土) 大牟田文化会館小ホール
作:中島淳彦
演出:青山勝(劇団道学先生)
出演:塚原大助 浜谷康幸 佐藤正和 泉知束 渡邊聡 44北川 /かんのひとみ(劇団道学先生) 浅野令子 土屋佑壱 鹿野真央(文学座) 前田隆成 /剣持直明(劇団だるま座) 久保酎吉
協賛:株式会社ニューロードグループ ヘアークリアー 株式会社イベント・レンジャーズ 炭火焼肉ホルモン劇場den 麺屋黒田 PASTA DINER PITANGO 中華とお酒 新花 SHINKA make me me BARBER-BAR
後援:SPC GLOBAL
企画・製作・主催:ゴツプロ合同会社
問い合わせ: staff@52pro.info

ゴツプロ!公式サイト:https://52pro.info/

取材・文:高浩美

構成協力:佐藤たかし