個性豊かな俳優陣が舞台『未来少年コナン』開幕。
「未来少年コナン」は、日本アニメーション制作により1978年に宮崎駿が初監督した。NHK総合(現在の-G)初のTVアニメーションシリーズの放送は当時の青少年に大きな驚きと感動を生んだ。
物語は最終戦争後の荒廃した地球を舞台に、恐れを知らない野生児コナンがなおも権力にしがみつく人間たちと戦う、胸躍る冒険アドベンチャー。鳥と心を通わせる能力を持つ少女や、様々な飛行メカ、異変を予知する虫の大群など・・・躍動感あふれる描写や、世界観は、その後の宮崎作品へと受け継がれていく要素がぎっしり詰まっている。
舞台化するのは、日本ではミュージカル『100万回生きたねこ』や村上春樹原作の『ねじまき鳥クロニクル』などを手掛け、その唯一無二の空間演出で観客を魅了し続けているインバル・ピント。そして、世界的振付家マギー・マランの子息で多彩なクリエイターであるダビッド・マンブッフが共に演出を担う。脚本は、舞台芸術集団 地下空港主宰で国際的にも活躍している劇作家・演出家の伊藤靖朗、そして音楽は優れた美的感覚と知性から生まれる音楽表現で、舞台、テレビ、映画など幅広く作曲活動を行い、近年ではNHK「らんまん」の音楽を手掛けた阿部海太郎。その音楽に舞台公演や映像作品でのコラボレーションも多数手がける詩人大崎清夏が歌詞を乗せる。兼ねてより宮崎作品を敬愛していたインバル・ピントとダビッド・マンブッフ。二人の想像を超える感性で、芝居だけでなく、ダンス、歌や音楽、美術、衣裳、照明などを巧みに操り、芸術的かつ身体的な表現で、新しい舞台芸術作品を誕生させる。
地球の破滅、放映当時、この設定に驚きを感じた少年少女も多くいたと思う。ここでは1人の怒りが人々に伝染、大きな争いとなって世界が壊れていく様をダンス、フォーメーションで表現、インバル・ピントとダビッド・マンブッフの真骨頂とも言えるシーンが初っ端から。それから海のシーン、アニメでも印象的な場面、大きなサメをコナン(加藤清史郎)が仕留め、おじい(椎名桔平)に見せる。
ここはのこされ島、人間はこの2人。それでものどかに平和に暮らしていたが、そこに1人の少女が海岸に漂着、名前はラナ(影山優佳)、彼女はハイハーバーという島で暮らしていたが、科学都市インダストリアの者たちにさらわれ、隙を見て逃げ出したのだった。コナンとラナはすぐに打ち解ける。だが、そんな他愛のない時間は長くは続かなかった。すぐにラナを追ってモンスリー(門脇麦)がやってきた。美しく聡明なデキる女性、戦闘能力も高い。おじいはそんなモンスリーと対峙、悲劇が。
コナンはモンスリーに誘拐されたラナを助けるためにのこされ島を出る。
出会いと別れ、おじいの言葉を胸に刻むコナン。野生児・ジムシー(成河)、よく食べ、よく動く、コナン同様に運動神経は抜群。2人は意気投合する。そして、一度見たら忘れられないヒゲ、船長ダイス(宮尾俊太郎)、ちょっと軽薄なところもあるが、基本、「いい人」。ラナを「ラナちゃん」と呼ぶ。この物語では徹底したヒール役・インダストリアの行政局長レプカ(今井朋彦)、冷酷非情、大いなる野心に燃えている、それはインダストリアの実権を掌握し、太陽エネルギーをもって戦略爆撃機ギガントを復活させ、世界の支配者となること。太陽エネルギーの秘密を握るラオ博士(椎名桔平)の手がかりとなるラナを追っていたのだった。
アニメは1978年4月〜10月に全26話を放送。かなり長いストーリーを2幕ものにするのは苦労も多かったと思う。だが、原作の空気感を伝えつつ、独自の表現方法で物語を紡ぐ。アニメを覚えているなら、かなりの場面で脳内でアニメのシーンが蘇る。ジムシーとコナンが最初に出会う場面、成河の身体能力の高さは折り紙付きだが、加藤清史郎もなかなかのもの。ラナと出会い、様々な試練と冒険を経て、変化していく。真っ直ぐな気性はそのまま、どんなことがあってもへこたれない、ラナを救うためにはどんなことでも成し遂げる気持ち、加藤清史郎が奮闘、アニメのコナンとダブって見える。ちょっと気分屋のジムシー、コナンは熱血漢だが、彼はそこまで熱くはなく打算的なところもあるが、憎めない愛嬌のあるキャラクター、成河が軽々とした身のこなしでその性格を見せる。
そしてコナンの人生を変える存在・ラナ。アニメの名シーン、自分の命を顧みず、コナンを助けに行ったりする芯の強い少女、影山優佳が可憐なだけではない、行動力のある少女として構築する。大人キャラクターを演じる面々、冷たい印象のモンスリー、だが、後半はコナンの人柄に触れ、そして独裁的なレプカに疑問を持つようになる、その心の変化を門脇麦が細かい芝居で見せる。
ラストは…アニメを視聴してたなら、ラスト近くの「おお〜」なオチは先刻承知。船長ダイス、”海の男”を自負、部下からの信頼も厚いが、ちょっと軽薄、その愛嬌のあるキャラクター、コメディリリーフ的存在、宮尾俊太郎がかなり振り切って!そしてこのカンパニーでは最年長の椎名桔平はおじいとラオ博士の2役。おじい、優しい老人、といった風情だが、やるときはやる!ラオ博士、偽名を使ってサルベージ船の責任者となっていた。だがラナのテレパシーで正体がわかってしまうが、そのあとはコナンにも優しくなる。1幕ではおじい、2幕ではラオ博士、一瞬、「どっちも椎名桔平だったかな?だよね」とわからなくなるくらい、キャラクターを体現、ベテランの貫禄を見せた。
物語のベースにあるのは人々の争い、紛争、原作アニメでは架空の最終戦争から20年経過した世界。登場人物、それぞれの心の変化や野心、欲、仲間を思いやる、愛、打算etc.人間が皆、持っている感情、原作のアニメもそうだが、そういった心情、これを俳優の演技はもちろんだが、視覚的に見せていく。また、フライングなども駆使、アニメの世界観をきっちり具体的に見せる。プロローグがあり、アニメのテーマソングが流れ、キャラクター勢揃い、タイトル大写し、という2.5次元の「ある、ある」パターンは無し、そういった手法に捉われず、きっちりとした芝居で見せる。映像も使うが、VR的ではなく、アナログ的なアート映像。クリエイティブスタッフのこだわりも感じる。ところどころに歌唱、ミュージカルではないが、アクセントにもなっており、聞き応十分。『未来少年コナン』のリアル世代はもちろん、アニメを見てない子供たちはすぐに原作アニメも見てみたいと思えるはず。観終わったあと、アニメもまた観たくなる、そんな気持ちにさせる作品であった。公演は東京は6月16日まで。その後は大阪、6月28日より開幕。
ゲネプロ前に簡単な会見が行われた。稽古場に日本アニメーションさんが来たそう。その時のことを振り返り、加藤清史郎は「(作品は)宝物ですね、演出のインバル・ピントさんを始めとする僕らに託していただいた」と語る。「舞台化するなら、どうしていくことが面白いのか、美しいのかを追い求めながら今日に至りました。メンバーキャストスタッフみんな、本当にこの作品に向き合って向き合って、向き合い続けて朝から晩まで今日まで…その気持ちを胸に、明日からですけれども、本番は走っていきたいなと思っています」と挨拶。影山優佳は「素敵なカンパニーの皆様にお会いできて、毎日一緒に過ごさせていただけること、そして同じ舞台に立たせてもらえることができました。ラナは強くて儚くて、心がある女の子。このキャラクターに何度助けられたことか。挫折と発見の日々の中で、キャストの皆様初め皆様にたくさん助けていただいて、今日までやってきました。明日から本番、ラナとして、助けられてきた役に乗っかって、今度は客席から見てくださっている皆様が、”明日ももうちょっと頑張ってみようかな”っていう生きる希望を持って帰ってもらえるように。ハードルを上げるようですが、楽しみにしていただけたらと思います」と挨拶。
それからインバル・ピントの演出を受けたことのある成河と門脇麦。
成河は「比較的ハードでダークな演目が多かったですが、今回は非常にシンプルで奥行きのある、かわいらしくてどこか大人のセンスを持ったような世界、『100万回生きた猫』が好きだったお客様には楽しんでいただけると思う作品です。インバルの描く絵というのが息を飲むほど美しい…非常に幅広い年齢層、いろんな方たちにすごく受け入れる器のある作品でもあります。楽しんでいただけたらと思います」と語り、門脇麦は「私は『ねじまき〜』からです。インバルさんの作品に欠かせないのはダンサーの皆さん。2時間役者がセリフを説明してもきっと伝わらないかもしれないものを、ダンサーの肉体を使ってたった何十秒かで、もうどんな言葉でも感情に刺さってくるっていう作り方を…。すごく素敵、ダンサーさんの肉体を使うことによりシンプルになる…今回のお話もすごくシンプルなので、具体的なものを抽象的に物語が豊かに…何か感性みたいなものが引き出されていくような作りになっていると私は思ってます。あのインバルさんらしい超絶キュートのシーン、今回はそういうかわいいシーンがいっぱい見えて美しいですし、嬉しいですね。インバルらしい超絶キュートなシーンがある。自分が出るシーンも正面から見たいなと思うほど、本当に美しい舞台になっておりますので、多くの方に楽しんでいただけたらなと思います」とコメントした。
また、インバル・ピントの作品は初めての宮尾俊太郎、今井朋彦、椎名桔平。宮尾俊太郎は「他の舞台と圧倒的に違うなと思ったのはまずこの髭ですね(一同、笑)。インバルさんご自身が衣装デザインをされて、舞台セットもデザインされて、そして振り付けもして、演出もされる、これは世界を見てもなかなかそんな方いらっしゃらない。これを1人の人間が作れることは、本当に奇跡ですし、一つの世界観をまとめてくださる、そこにいろいろなキャリアを持ってきた俳優の方々が生き生きとキャラクターを演じたときに、きっとお客様がまだ見たことのない想像できなかった、みたいになると思っております。ぜひ楽しんでいただきたいです」とコメント。今井朋彦は「どういう演劇の現場でも、必ずいくつかのアイディアが用いられますが、その中から採用されるアイディア、残念ながらボツになるアイディアがありますが、インバルさんの現場ほどボツになるアイディアが多い。たくさんのアイディアが持ち寄られて、結果的に選ばれるのは一つだけかもしれません。たくさんの採用されなかったアイディア、それは単に捨てられるだけではない。これからゲネプロで皆さんにご覧いただくのですが、採用されたアイディアの中に採用されなかったものたちが何か…練り込まれてる、そういう舞台だなと。なかなか味わいな体験をさせていただきました。楽しみにご覧ください」
カンパニーの中でも最年長、演じるキャラクターも、ほぼ最年長、椎名桔平は「お三方が演じる子供たちが伸び伸びと、本当子供たちがみんなそうだといいなと思うぐらい、非常に素敵で…。人間の持つ自然な無邪気さとかたくましさとか美しさとかそういうものが体現されてると思います。それとは別に、これ宮﨑駿さんが40数年前にアニメ化した作品がベースですが、今の時代を予想していたかのような…今、世界で起こっています紛争とか、日本でも(地震など)大きな自然災害がありましたが、そういったものが物語の中に込められています。まさに、今、僕らがそういったメッセージ性を受け取り、この作品に込められるんじゃないかと思ってやってきました。難しいテーマ性を…僕たちも頑張って…先ほど(門脇)麦ちゃんもおっしゃいましたけど、非常にすごい演出家、難しいテーマを魅惑的に融合させて、具体化、そういうところにも注目していただきたいと思います」
最後に加藤清史郎が公演PR。
「一言っていうのはすごく難しいなと…そう思うくらい僕個人としてはいろんな思いが詰まった作品になってます。インバル・ピントさんは、劇場という場所にその作品の空間を作り上げることが本当にお上手で、素敵な空間がこの『未来少年コナン』も開けた瞬間に広がっていると思います。そんな空間を皆さんに体感し、同じ空間の中で共存していただいて、『未来少年コナン』という世界の中で…終わった後終演後、その日ではなくても、いつかどこかで”コナンがこんなこと言ってたな”とか、”舞台『未来少年コナン』でこんなことあったな”というのが、皆様の中のどこかで息をし続けていただけたら嬉しいなと思っております。こんな素晴らしい作品を自分たちに託していただいた。コナンであり続けることを志して舞台に向き合っていきたい。僕はコナンとして舞台を駆け回りたいと思ってます」と熱く語り、会見は終了した。
ストーリー
西暦20XX年、人類は超磁力兵器を使用し、地球の地殻を破壊、大変動が起こった。五つの大陸はことごとく海の底に沈み、栄華を誇った人類の文明は滅び去った。それから20年後、孤島・のこされ島では少年コナンが育ての親・おじいと二人で暮らしていたが、ある日、謎の少女ラナが島に流れ着き、コナンの運命が動き出す。島には工業都市インダストリアから行政局次長モンスリーが飛来して、ラナを誘拐してしまう。コナンはラナを助け出すため、いかだに乗って冒険の旅に出ることに。 旅先では謎の野生児・ジムシーやインダストリアの貿易局員・船長ダイスなどと出会ってゆく。一方、自然に溢れたラナの故郷・ハイハーバーには、天才科学者・ブライアック・ラオ博士の居どころを探すインダストリアの行政局長レプカ率いる兵士たちが襲いかかる。コナンは仲間たちと巡り合い、大切な人を守るために様々な困難に立ち向かってゆく。そして人類に残された世界で、新しい未来を切り拓いてゆくのであった。
概要
舞台『未来少年コナン』
日程・会場
東京:2024年5月28日~6月16日 東京芸術劇場 プレイハウス
大阪:2024年6月28日~30日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催・企画制作:ホリプロ
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
※大阪公演あり、詳細後日発表
原作:日本アニメーション制作「未来少年コナン」
演出・振付・美術:インバル・ピント
演出:ダビッド・マンブッフ
脚本:伊藤靖朗
音楽:阿部海太郎
作詞:大崎清夏
キャスト
コナン:加藤清史郎
ラナ:影山優佳
ジムシー:成河
モンスリー:門脇 麦
ダイス:宮尾俊太郎
レプカ:今井朋彦
おじい・ラオ博士:椎名桔平 ほか
ダンサー
川合ロン、笹本龍史、鈴木美奈子、皆川まゆむ、森井淳、黎霞、Rion Watley ほか
ミュージシャン
トウヤマタケオ、佐藤公哉、中村大史、萱谷亮一/服部恵