ラッパ屋創立40周年記念 紀伊國屋ホール開場60周年記念としてラッパ屋 第49回公演『七人の墓友』が6月に上演される。2014年に劇団俳優座に書き下ろしされ、初演。好評を博し全国をツアー、10万人を動員したそう。初演の思い出や作品についての想いや稽古の状況などを脚本・演出の鈴木聡さんに語っていただいた。
ーーこの物語を書いたきっかけ、そして初演時の思い出を。
鈴木:10年前の初演の時は、俳優座のベテランの俳優さんたちが活躍できるものを書きたいなと思いました。ネットで墓友の記事を見つけて、「これはピッタリ」だと。で、取材をするうちにお墓の問題は家や家族のことに密接に関係があることがわかってきて。結果、新しい家族の在り方を考えるドラマになったと思います。俳優さんたちにはさすがの存在感がありましたね。年齢がリアルですし。(笑)。初演の演出は佐藤徹也さん。映像のお仕事もたくさんされている方なので、映像を巧みに使った場面転換が見事でした。砂を使ったアニメーションがすごくキレイで。「オシャレだなあ」と思いました。
ーー台本を読んでいて、家族の話など細かいやり取りが面白いなと思いました。例えばバーベキューのくだりとか、ファミレスのカプチーノの音とか……。
鈴木:カプチーノを作る時の「シュポシュポ、シュパー」の音など、生活の中で面白いな、と思ったことはなるべくメモするようにしています。日常生活はネタの宝庫ですからね。バーベキューのシーンの家族のやりとりも、実際の家族や友人とのやりとりの 記憶が生きています。お父さんが高度経済成長期の自慢話をさんざんするんだけど、あれなんか自分の会社員時代の経験が生きていると思いますね。僕はバブル期の会社員だったけど、「昭和の会社」の雰囲気はわかるんです。そのせいか『プロジェクトX』に出てくるような、家庭も顧みず仕事に人生をかけて全力を注ぐ熱い男たちの話、みたいなのがちょっと好きなんですよね。お父さんのセリフはノッて書けました。こういうセリフならいくらでも書けるぞ、という感じで。やっぱり自分には昭和の血が流れているんでしょうね(笑)。だから、主人公の恋人である自分勝手な理屈を言う編集長も身近に感じられるというか、憎めない感じがして。
ーーよくわかります(笑)。編集長が決めたことを勝手に白紙にしちゃうあたりも、経験しましたから(笑)。
鈴木:今の社会からすれば、そういう人ってNGですけどね。ハラスメントでクビになっちゃうかもしれない。ただ、なにかああいうダメさ加減というか、人間味みたいなものが面白いと思いますね。
ーーみんな基本的にはいい人なんですけどね。
鈴木:でも、ほぼ全員残念(笑)。まあ、それは僕の中にもあるし、誰しも残念な部分を持ってるんだと思います。完璧な人なんてひとりもいない。今はそういうものを排除して、全員がきちんと清潔、清廉潔白な大人になりましょうみたいなムードが勝っている。現実の社会ではそのほうがいいのかもしれないけど、舞台では、そうしたちょっと残念な人々が活躍しててもいいんじゃないかと思います。
ーー今回は、劇団が創立40周年。それから、紀伊國屋ホールが開場60年。そんなアニバーサリーイヤーにこの作品を選んだ意図は?
鈴木:40周年ということは、あまり意識していないんですが、今、この作品を選んだ意図はあります。ラッパ屋は「会社帰りにお芝居を」ということをテーマに、大人の観客層を対象に、あまり演劇に馴染みのない方でも楽しんでもらえる作品づくりをめざしてきました。でもコロナ禍以降、ライフスタイルが変わっちゃったみたいです。平日はすぐ帰ってお楽しみは休日に、というお客さんが増えたのかな。演劇界全般でも平日の夜公演が入らないという話はよく聞きますし。仕事の疲れを吹き飛ばすような爆笑コメディを目指していた時期もあるんですが、ラッパ屋に来てくれるお客さんの気分もちょっと変わってきたかもしれない。また、ここ数年でデジタル化やハラスメントに関する価値観が急速に変化して、笑いや共感のポイントも変わって来た。僕自身も「デジタル」と「アナログ」、「ハラスメント」と「人間味」の間で視点が揺れているようなところがあります。それらをしっかり見据えた上で、新しい視点を探る時期なのかなと思います。
「七人の墓友」は10年前に書いたものですが、「家族」や「お墓」をテーマにしているだけに、時代の変化を超えた普遍性があるように思うんですね。多様な価値観が集合する家族の姿は現在を予見しているようなところもあります。「ちょっと残念な人」がたくさん出てくるだけあって、笑いの要素もふんだんにありますし。休日にゆったりした気分で、「いいドラマが見たいな」というお客さんの期待にも応えられるんじゃないかと思います。
今は動画配信サービスとか、面白いコンテンツが手軽に安く観られますからね。劇場にわざわざ足を運んでもらうことへのハードルが高くなっている。大人の観客に来てもらうためには、ただ面白いってだけじゃなくて、観に来てもらうためには、「私にとってだいじな何かが観られそう」と思ってもらえるようなものをやらなきゃいけない。そういうあれやこれやの条件を『七人の墓友』は満たす可能性があるんじゃないか、と思うんですね。また、10年前だとラッパ屋の役者たちはまだ若かったので、『墓友』をやるにはまだふさわしくなかったと思いますが、今はそれなりの年齢になりつつある、ということもありますしね(笑)。
ーー今の稽古状況はどんな感じでしょうか。
鈴木:今のところ、地道にやっています。一つ一つの場面や登場人物について話し合ったりしながら。でもまあ、やっぱり、面白いこと好きのラッパ屋の役者たちですから、笑いに結びつきそうなところは自然にふくらみますね。俳優座さんがやったものとは一味違うものが出来上がる予感がします。
ーーラッパ屋の劇団員も、いよいよこの作品にフィットしたということでしょうか。
鈴木:そうですね。ずっと応援してきてくれたお客様も、いっしょに歳を取りましたしね(笑)。
ーーそれでは、最後にメッセージを。
鈴木:ずっとラッパ屋を応援してくださった方には、ラッパ屋らしさ全開の芝居として楽しんでもらえると思います。それに加えて、墓友という、広く関心を持っていただけるテーマですし、日ごろお芝居を観ない新しいお客さんにもぜひ来ていただきたい。若い世代や家族全般にも関わりのある話になっているので、若い方にも観ていただきたいなと思います。
ーー確かに、誰しも通る、避けて通れない話ですよね。
鈴木:すべての人に通じる話ですよね。ぜひぜひ、『七人の墓友』をよろしくお願いいたします!
概要
ラッパ屋創立40周年記念 紀伊國屋ホール開場60周年記念
ラッパ屋 第49回公演『七人の墓友』
日程・会場:2024年6月22日(土)~6月30日(日) 紀伊國屋ホール
脚本・演出:鈴木聡
音楽:佐山こうた
出演:岩橋道子 弘中麻紀 俵木藤汰 宇納佑 ともさと衣 中野順一朗 浦川拓海 /おかやまはじめ/ 桜一花 林大樹 磯部莉菜子 / 熊川隆一
/ 松村武(カムカムミニキーナ) 谷川清美(演劇集団円) 大草理乙子 武藤直樹 岩本淳
/ 木村靖司
公式サイト:https://rappaya.jp
公式X:https://twitter.com/gekidanrappaya
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし