桑田真澄監修 舞台「野球」 飛行機雲のホームラン ~ Homerun of Contrail 上演中 「友のために投げます」

第二次世界大戦中、”野球”に憧れを抱き、白球を追いかけた少年たちの物語、舞台「野球」。2018年夏以来の待望の再演が6月22日〜 東京・天王洲 銀河劇場にて好評上演中だ。7月6日からは大阪・サンケイホールブリーゼにて開幕する。
野球場の土を思わせる舞台、「試合開始!!」そして暗転。時代は太平洋戦争真っ只中、敗戦色が濃くなっていく、学徒出陣、本来は勉強にスポーツに励む世代が戦争に駆り出されていった。赤紙が届く、手にする高校球児たち、一旦、俯く。だが、そのあとは…。当時、赤紙が届くと「万歳」「おめでとうございます」な時代。歌が流れる。

穂積均(橋本祥平)
唐澤静(中村浩大)
会沢商業高校の球児たち。
皆、野球が大好き。

この作品のテーマソングとも言える歌、我々観客は結末を知っている、彼らの末路を知っている、だから早々に切なくなる。だが、彼らはただ、今を、命の限り生きている、野球にかけている、。バットにボールが当たる音、「ホームランだな」と(川原和久)が呟く。会沢商業高校の穂積均(橋本祥平)と伏々丘商業学校の唐澤静(中村浩大)、幼馴染。二人は誰もいないグラウンドで対峙していた、高校球児といえば甲子園、もちろん、この二人も甲子園へ共に行くことを夢見ていた。だが、時代がそれを許さない。野球はアメリカのスポーツということで排除され、圧力がかかっていた。今のZ世代には信じ難いかもしれないが、野球用語は全て「日本語」に置き換えられる。「アウト」は「無為(ぶい)」「ストライク」は「よし」、「ボール」は「駄目(だめ)」。大本営の決定で特攻隊が組織された。予科練に入隊した野球少年たち、そして彼らの多分、人生最後の野球の試合、明日はない、そんな1日を描いている。

懸命にバットを振る。
声を出して気を引き締める。

野球の試合シーンと様々な回想シーン、彼らを取り巻く大人たちの様子などが挿入されながら、物語は進行する。最後の試合だがら負けたくない、悔いのない試合がしたい、ただただ野球がやりたい。そのシンプルな想いが劇場いっぱいに充満する。少年たちの熱い気持ち、もう後がない、出撃しなければならない、野球との別れ、友との別れ、登場人物全てに物語があり、それを丁寧に見せていき、試合シーンも抜かりなくしっかりと。投げる、打つ、走る、効果音と照明と、そして本物の野球ボールも。その動作、リアルさを持って観客に迫る。スライディング、「無為(ぶい)」なのか、それとも「安全」なのか、舞台上の登場人物と同じ気持ちでついつい見入ってしまう。

負けられない試合、絶対に塁に出る!
打つ!

手に汗握る試合展開もさることながら、選手たちの想いも。2幕の出だしは体当たりを志願させられるところから。体当たりは「死」を意味する。みな、夢があった、将来の夢、ささやかな夢、大きな夢。軍部の面々、海軍中尉・穂積大輔(猪野広樹)はいかにも軍人らしい雰囲気で少年たちを容赦なく怒鳴り、殴る。だが、本当は弟の均が可愛くて仕方ない。

穂積大輔(猪野広樹)、バリバリの軍人。
遠山貞明(川原和久)の眼差しはどこか優しい。
唐澤ユメ(傳谷英里香)、夢を語る球児を励ます、その夢が実現しなくても。

「弟に野球をやらせてください!」という下りは彼の本来の姿だ。海軍中佐・遠山貞明(川原和久)、懐の深さを感じる眼差し、海軍少尉・菊池勘三(村田洋二郎)は軍人らしからぬ優しい性格、それゆえに悩むが少年たちにはそういったそぶりを見せない、自分に与えられたポジション、軍国主義と彼自身が持っている他者への愛、それゆえに心が引き裂かれていく。穂積は「友のために投げます。夢になります」と言う。自分のためではなく、友のために投げる、その気持ちが清々しくもあり、時代のせいか、ちょっと哀しく。野球監修は桑田真澄、真剣勝負な舞台。初日、ハンカチを手にする観客も。「彼らは英霊となる」と遠山は言い、穂積大輔が無言で立ち尽くすシーンは重い。

生きることに懸命、野球を愛し、友を愛する。現代だったら思う存分野球ができたはずの少年たち。今もどこかで戦争が行われ、少年たちの夢が奪われていく世界。劇中歌がいつまでも心の中で響く、世界中の子どもたちが本当に笑いあえる日は来るのだろうか。硬派な作品、繰り返し上演してほしい作品だ。
初日は観客総立ちで大きな拍手、キャスト一同、感動、座長の橋本祥平は「#舞台野球、SNSでお願いします!」と呼びかけ、観客は大きく頷いていたのが印象的であった。

初日前日に簡単な会見があった。
「桑田真澄さんがご指導してくださり、野球練習をして本当に濃い稽古期間を過ごすことができました」と橋本翔平。あの!桑田真澄氏に野球指導、夢のような体験。「心が震える作品」と中村浩大。「15年ぶりに坊主になりました」と西銘駿。初日挨拶でも坊主アピール(笑)。「人生最後の1日を過ごす僕たちは、きっと喜びだけや悲しみだけではなくて、言葉にならない、自分でもよくわからない感情みたいなものがきっとあるのかなと」と語ったのは大隅勇太。夏の高校野球大会では、毎年8月15日の終戦記念日正午にサイレンを鳴らして黙祷、戦没球児たちをしのぶ。村田洋二郎は「明日、自分の世界がなくなってしまうとしたらと考えた時、彼らが選んだのは野球で、自分だったらお芝居をやっていたいなという風に思いながら、作ってきました」と語ったが、明日がない今日。なかなか想像できないことかもしれないが、これは史実に基づいた物語。また、戦局悪化で徴兵年齢の引き下げ(満17歳以上)によって、陸軍幼年学校や海軍飛行予科練習生、陸軍少年飛行兵などに召集され、また、戦場に行かないまでも勤労動員などで空襲にあい亡くなった球児も少なくなかった時代。
「僕らはただ一生懸命野球をやってるだけです」と橋本翔平。ただ一生懸命に野球をやってる、それが当時の彼らの姿と重なっていくであろうことは想像に難くない。30日まで天王洲 銀河劇場にて。その後は大阪にて7月6日~7日、サンケイホールブリーゼにて。

あらすじ
届かなかった、あのマウンドにーー。少年たちの生きた夏
1944年、夏。グランドでは、野球の試合が繰り広げられていた。甲子園優勝候補と呼ばれた伏々丘商業学校と、実力未知数の有力校、会沢商業高校の試合である。会沢の投手・穂積が、捕手・島田の構えるミットを目掛けてボールを投げる。ど真ん中に入った球は力強く打ち抜かれた。穂積と幼馴染の伏々丘四番打者で投手・唐澤も高い空を見上げた。それは紛れもなくホームランだったーー。
戦況が深刻化するなか、敵国の競技である野球は弾圧され、少年たちの希望であった甲子園は中止が宣告された。兵力は不足し、学生たちには 召集令状が届く。甲子園への夢を捨てきれず予科練に入隊した少年たちは、”最後の一日”に出身校同士で紅白戦を行う。
「たとえあと一球でもいいから投げていたい。時間があるなら何度でも。」
野球を心から楽しみ、仲間を思い、必死で白球を追う少年たち。それぞれの思いがグランドを駆け巡るなか、最後の試合が幕をあける。

概要
タイトル:舞台「野球」飛行機雲のホームラン ~ Homerun of Contrail
会期会場:
東京:2024年6月22日(土)~30日(日)天王洲 銀河劇場
大阪:2024年7月6日(土)~7日(日) サンケイホールブリーゼ
作・演出:西田大輔
野球監修:桑田真澄
音楽:笹川美和
出演:橋本祥平・中村浩大・財津優太郎・西銘駿 健人・大隅勇太・結城伽寿也・大崎捺希・大見拓土・相澤莉多・瀬戸啓太 猪野広樹・傳谷英里香・村田洋二郎
川原和久
料金:全席指定 9,900円(税込)
チケット一般販売: 販売窓口 ローソンチケット チケットぴあ イープラス
※対象公演:全公演 ※枚数制限: 各公演4枚まで申込可。
企画製作主催:エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ Office ENDLESS DisGOONie

公式HP: http://www.homerun-contrail.com

撮影:岩田えり