詩森ろばの新作『神話、夜の果ての』は、カルト宗教の子供たちという視座を通じ、そのすべてを演劇のかたちで問いかける問題作。7月5日から東京芸術劇場シアターウエストで上演中。
1995年、都心の地下鉄において化学兵器を使用したテロ。2022年、元首相が選挙の応援演説中に凶弾に倒れた。それぞれ違う宗教団体が関わっていた事件、社会に衝撃を与えた。直接的な関係を持たないふたつの事件は、現代人の寄る辺なさが縋るものを求めた結果、前者は歪んだ正義のかたちで、後者は他者への殺意をともなう怨恨のかたちで噴出し、結果として、無辜の命を奪ったという点で通底している。
信仰とは、本来、人間をこえた存在(神)を前提とした教義に基づき自分を律し、幸福や安寧を得るためのものだ。しかしその中で、多額の献金や過度の献身などが起り、狂信化していくことがある。それはどこで一線を越え、カルト化し、暴力へと転じていくのかを問いかける。
詩森ろばより
この作品がどこからやって来たのか、書いたわたしにも正直わかりません。構想をまとめるのに時間をかけるほうなのですが、この作品に限っていえば、珍しいことに構想ありきで、資料を集め、準備をしました。なのになかなか書き始めることができなかった。しかし、あるときさあ書こう、書き始めるのは今日だ、と思う日があり、書き始めました。テーマもあらすじも決まっていたのに、こんな話になるなんてわたしは想像もしていなくて、主人公のミムラが母と共に、ある架空の宗教団体の本部に行くシーンを書き始めたときに、物語の「→(ヤジルシ)」がはっきりと立ち上がったのを感じました。大人のリュックを背負い、持ちきれなかった服で着ぶくれして、母の背中を懸命に追ったミムラ。健気で愛おしい小さい背中が鮮やかにうかびます。その背中を追いかけるようにわたしはミムラの物語を書きました。でも、何もできなかった。何度くりかえしても、彼はその結末からたぶん逃れられない。自分が書いた登場人物の運命に対してこんなにも無力感を感じたのははじめてかもしれません。宗教をある意味否定してまうような物語を描きながら、わたしはずっと祈るような気持ちでした。そんな物語を、命を削るように、命に火を灯すように、俳優たちが演じてくれています。開幕致しました。ぜひ劇場にお越しください。
概要
serial number11『神話、夜の果ての』
【作・演出】詩森ろば
【日程】2024年7月5日(金)〜7月14日(日)
【会場】東京芸術劇場シアターウエスト
【出演者】
坂本慶介
川島鈴遥
田中亨
杉木隆幸
廣川三憲
【公式ホームページ】
https://serialnumber.jp/next.html
撮影:市川唯人