崎山つばさ主演 演劇集団Z-Lion 『a Novel 文書く show』開幕レポ コメント到着

Z-Lion 2024 stage『a Novel 文書く show』が7月12日、六本木・俳優座劇場にて開幕。2025年4月末で閉館が決まっている同劇場。2012年より公演を続けているZ-Lionは、2016年の第7回公演以降、計7回もの公演をここで行っているが、本作品がZ-Lion最後の俳優座劇場となる。

そんな大事なステージで上演されるのは、2013年、2019年にも上演された『a Novel 文書くshow』。売れない小説家が奮闘する“ヒューマン・ハートフル・ファンタジー・コメディ”である。

主人公・高橋裕樹は学生時代に文学賞を獲ったことがきっかけで小説家デビュー。しかし、華々しい経歴は最初だけで、その後はヒット作もなく、スランプに陥っていた。2019年の上演時には22~23歳の設定だったという主人公だが、今回は年齢が20代後半に引き上げられている。新卒ではない分、ぶっちゃけ現状はよりシビアだ。そんな今回の主人公・裕樹を演じるのは崎山つばさ。舞台に限らず近年では実写ドラマでも活躍中の崎山が、うだつが上がらない“ダメ男”を見事に演じる。くるくると変わる表情がいじらしく、愛らしい裕樹には、どことなく“ヒモ男”の才能も感じてしまう……。これが、この後の展開のフラグでもあった。

そんな裕樹の嫁・梨絵を演じるのは柳ゆり菜。明るく大雑把でありつつも、綺麗で品もある。さぞかし自慢の嫁だろうと思うが、実は彼女、料理も掃除もからっきしである。とはいえ、裕樹をサポートする、なくてはならない存在だ。

梨絵の仕事は派遣パートで、いつ首を切られるかも分からないため、やむをえず夫婦は裕樹の実家に身を寄せている。そこは裕樹の唯一の肉親である父・鉄斗が運営している寂れたネジ工場であった。鉄斗役の星田英利は今回唯一2019年の公演から続投での出演となるが、父のキャラクター性は前回とは全く変えているという。昔ながらの頑固親父といった風貌の鉄斗とは、梨絵はおろか、裕樹もろくに目を合わせられずにいた。ギクシャクした親子関係が冒頭から見て取れる。

仕事もプライベートも上手くいっている様子がない裕樹だが、そんな彼に無慈悲にも締め切りを迫ってくるのは担当編集の斉藤。松島庄汰演じる彼が、ある意味今作のストーリーテラーに近い。寝ても覚めても作品を書き進められず、このままだと作家生命が危うい裕樹を見かねて、彼は1つの提案をする。

「書けないのなら、実際に小説の中に入って物語を進めてください!」

斉藤がそう言って不思議な力を使ったとたん、裕樹と梨絵は、裕樹が書いている小説の中の世界に飛ばされる。そこは、“ヒモ男”の裕樹のために稼ぐ3人の嫁と、にぎやかな従業員たち、そして明るくひょうきんな父親がいる――まるで裕樹の理想を形作ったような世界であった。

この世界の裕樹の嫁は、やきもち焼きだが気が利く料理担当の美羽(演・山本沙羅)、裕樹にゾッコンな若くてかわいい掃除担当の杏(演・谷口めぐ)、売れないお笑い芸人として奮闘するパワフルなみき(演・藤原ひとみ)の3人。そこに一緒に現実から飛ばされてきた梨絵が第4夫人という形で“書き加えられる”。今、起こっていることがリアルタイムに小説に書き加えられていくのだ。
その他にも、ネジ工場には、とにかく終始うるさいみきの相方・としゆき(演・京典和玖)や、“ハードロックパンク”というジャンルを布教しようとしているハードロックパンク中村(演・中村哲人)、ややカタコトな外国人労働者のサマンタ(演・川島広輝)など、とにかく濃い人物たちが集う。

自分が小説の中で想像していた人物たちが自ら踊り出す光景に興奮する裕樹だったが、嫁が3人もいる上に自分が苦手な料理や掃除が得意という設定に、実嫁の梨絵は憤慨。早くこんな世界は離れて、自力で小説を書くべきだと裕樹を諭す。

致し方ないと現実世界に戻ろうとする裕樹たちだったが、そこに「裕樹ーー!」と聞き覚えのある声が――。
そこにいたのは、高橋めぐみ。1年前に亡くなった裕樹の姉だった。このネジ工場の要であり、家族の要でもあっためぐみ。母を早くに亡くした裕樹にとっては母親代わりの存在でもあった。高橋家の時間は、彼女が亡くなったことで止まってしまったのであろう……そんなことが、説明されなくても容易にわかる。清水由紀演じる姉・めぐみはそれほど器の大きい人物であった。

ハーレムを味わいたいからでも、姉と一緒にいたいからでもなく、あくまで小説のために……姉と接していれば、小説を書き始めた頃の気持ちを思い出せるかもしれないと主張し、小説の中の世界にしばし留まることを望む裕樹。
そんな中、裕樹が意図しない形で小説の中に出てきた企業コンサルタントの中山(演・金児憲史)、その側近の森(演・栗原航大) が、現実世界にも現れる。小説内でも現実でも、どこか不穏な空気を醸し出す彼らの目的とは……?

小説の中に入れる、書いた内容がそのまま反映される――その設定だけを聞くと、主人公は「お金持ちになりたい」もしくは「売れっ子小説家になりたい」といったストレートな欲求を書くのだろうか?と思うだろう。しかし今作はホームコメディであり、根幹にあるのは“家族”の物語。裕樹が真に望むのはどんな未来なのか。ほしいのは地位?名声?小説家を目指したのは、そもそも何がきっかけだったのか……?観た人に、幼い頃の家族の思い出や成功体験を思い出させてくれるような、優しくて温かい作品だ。肉親と死に別れたことがある人には、特に刺さる物語であるとも感じた。

Z-Lionが思い出の俳優座劇場で最後に届ける“ヒューマン・ハートフル・ファンタジー・コメディ”。……公式から引用したワードだが、なんとも盛り沢山のジャンルだ。ぜひ全ての要素を楽しみながら、心に刻んでほしい。

<崎山つばさコメント>
無事にこの日を迎えられて本当に嬉しく思います。「繋がり」や「人と人」がテーマでもある作品だと思っていて、そういう作品だからこそカンパニーの温度感や距離感がとても大切な要素になりますが、舞台外でも物語の登場人物たちとほぼ同じような明るくて面白い空気がいつも流れています。稽古期間が短く始動した時はそこが不安でしたが、こんなにも本当の家族のようになれるんだと驚いています。皆が同じ気持ちで同じ方向を向いているからこそ成し得たことだと思っています。
大切な人がいたり、家族を想っていたり、夢を追っていたり、挫折を経験していたり、それぞれ観る人が何か自分と重なる瞬間があるのではないかと思っています。
もちろんそういう見方だけではなく、何も考えずにただただ笑って観ていただける物語にもなっています。
来年の4月で閉館してしまう俳優座という劇場で今しか出来ない演劇をお客様と共に作り、最高のストーリーを描いていけたら良いなと思っています。

あらすじ
学生時代に文学賞を受賞し、小説家として華々しくデビューを飾った高橋裕樹だったが、その後はヒット作もなく、鳴かず飛ばずの状態が続いていた。
父とは仲が悪かったが、収入もなくなり、妻の梨絵と共に実家のネジ工場に身を寄せることになる。
そんな中、担当編集者の⻫藤から「今作が売れなかったら契約は打ち切り」と告げられる。
人生がかかった作品。しかし、締切を過ぎても思うように物語が進まない。
見るに見かねた⻫藤は、不思議な提案をする。

「書けないのなら、実際に小説の中に入って物語を進めてください」

言葉の意味を理解できないまま眠らされると、そこは裕樹が書く小説の世界が広がっていた。
個性豊かな様々なキャラクターやまるで性格の違う父。そしてそこに姉のめぐみの姿も…。
裕樹はそんな登場人物達と協力し、無事に小説を完成させる事ができるのか。
Z-Lionが数年ぶりにお届けするヒューマン・ハートフル・ファンタジー・コメディ。

概要
タイトル 演劇集団Z-Lion2024年度公演『a Novel 文書く show』
脚本・演出:粟島瑞丸
日程・会場:2024年 7月12日(金)~7月21日(日) 俳優座劇場
出演
崎山つばさ  柳ゆり菜 松島庄汰 京典和玖 谷口めぐ 中村哲人 山本沙羅(演劇集団キャラメルボックス) 藤原ひとみ 川島広輝(東京ノ温度) 栗原航大/金児憲史/清水由紀/星田英利
制作プロデューサー:米田基(style office)
プロデューサー:仲村和生
協力(五十音順):アニモプロデュース/アミューズ/A.M.Entertainment/研音/Staff-up/Star Dream Company/Spacenoid Company/ナッポス・ユナイテッド/フォスター/プラチナムプロダクション/吉本興業
問合:stage.contact55@gmail.com
企画制作:演劇集団Z-LION

Z-Lion公式サイト: http://www.z-lion.net/