大薮丘 初演出 宅間孝行 作 舞台『口笛』開幕 切なく、愛に溢れた夏の物語

宅間孝行 作、大薮丘の初演出による舞台『口笛』が、7月23日〜7月28日にシアターアルファ東京にて開幕。

東京セレソンDXが2002年に初演、`05年に再演。“切ない夏の風鈴三部作”と銘打ち3作品連続上演した際の一つ「口笛」は宅間以外の再演はなく、伝説の作品。`05年の再演以降一度も上演のない『口笛』をタクフェス・タクラボ出演で縁のある大薮丘が初演出。
始まる前に楽しい前説、これは「タクフェス」でもお馴染みの光景、「どちらからいらっしゃいましたか?」など聞かれるかもしれないので、そこは「よろしく」。また、舞台セットの説明もあるので!それから時間になり、始まる。

懐かしい!暴走族ファッション。

祭囃子の音、季節は夏、舞台にはひまわりもある。外も夏真っ盛り、劇場も夏!暴走族の格好をした二人、それも懐かしい系の!都会ではほぼないが、田舎には…そう、いた!いた!と大きく頷く観客もいるだろう。しかも言葉が…訛ってる(笑)、どこの訛りかはさておき。舞台上の畳やちゃぶ台がレトロ感満載。そして暗転。

辰吉の同級生の翔子、お互い気になる存在、季節は夏、浴衣姿におさげ髪。
現在、部屋の様子は変わらない、季節は夏。
怖いのを通り越してもはやウザい?!

主人公の赤城辰吉(久獅)は暴走族だったが、気のいい奴。弟の征吉(大薮丘)と一緒に親が遺した自動車整備工場を切り盛り。裕福とは言えないが、仲良く暮らしている、近所の面々もユニークな人ばかりだが、皆、人はいい。そんな日々、だが、辰吉もそれなりの年齢になり、お見合い話が持ち上がる。見合い、それなりに準備したいところだが、先方の都合で急遽!少々焦る。そこへ見合い相手とその父が。

見合い相手の栞とその父・八郎。
父・八郎は本当は見合いに反対。
可愛らしい栞。

見合い相手は栞(花澤桃花)、若い女性で清楚な印象、父の八郎(咲山類)はちょっと硬そうな雰囲気。「あなたと結婚するために来ました、岡安栞です」と挨拶。固まる辰吉(笑)。だが、父は実は結婚には”断固”反対。だが、二人は次第にいい雰囲気に。特に栞は積極的で、むしろ辰吉の方が奥手。その匙加減がクスリと笑える。

みんなで賑やかに。
積極的な栞、むしろ辰吉の方が奥手。かなりドキドキ。

そんな二人を微笑ましく見守る人々。不器用ながらも優しさに溢れた人たち。八郎だけが態度が硬い。そんな折に、高校を卒業して専門学校に行った翔子(竹内茉音)が帰ってくるという。しばし固まる辰吉、無理もない、彼は翔子が好きだった、そして翔子も。だが、翔子は東京に行ったきりで戻ってこなかった、なんと10年ぶりの里帰り。これは動揺必至の辰吉、昔の記憶が蘇る。

翔子は専門学校へ行くために上京するという。複雑な表情の辰吉。
「え?」10年ぶりに翔子が帰ってきた。垢抜けた様子に驚く征吉。

物語は過去の回想シーンを交えながら進行する。物語の場所は変わらないのだが、細かいところが変わる。例えば、ひまわりがなかったり、登場人物の服装が変わったり。そこで観客は季節や時間軸がわかる仕組み。
翔子が帰ってきて皆、懐かしがる。そして辰吉はついに翔子に再会、翔子「元気だった?」と言い、辰吉は「まあね」と答える。ぎこちない辰吉がどこか愛らしい雰囲気。翔子は尋ねる「奥さん、もらったの?」の問いかけに「もらってねえ」と辰吉。

10年ぶりに再会する二人。

コメディ的なシーンも交えての進行、町助役の善造(今井勝法)は頭の毛が…でも奥さんはフィリピン妻のリンダ(北條響)、若い!そのほか、船村豊春(岩田知樹)、妻のシゲ子(三戶なつめ)、向田清美(⻄郷真悠子)と娘の加奈(藤掛愛加)、全然怖くない松村組の組長・篠塚ケン(菊池颯人)と舎弟のまなぶ(江口航)、この二人の笑えるやり取りはかなり笑えるので大きな声で笑おう。

なぜかマツケンサンバを歌う二人。
町助役の善造の奥さんのリンダ、明るく情が深い。

言いたいことを言い合える兄弟。

そんなある意味”田舎らしい”雰囲気のところに影のある男が…新開(桐田伶音)、彼は何者なのか、そこは後半に明らかになっていく、そして翔子が帰郷した理由も見えてくる。

新開、キリキリした空気感を漂わせる。

上演に際し、原作者の宅間孝行は「ある意味美しきバッドエンドは思惑通りにお客様の心をえぐったんだと思います」と語っている。最後の方は悲しい方向に突き進んでいく。だが、根底に流れるのは愛、愛ゆえの行動、そこが愛おしく、また、泣かせる、切ない。2002年に初演、`05年に再演、そして久しく上演されていなかった理由もそこはかとなくわかる気がする。辰吉は不器用だが、愛に溢れた人物。その愛ゆえに彼は悩み、行動する。宅間孝行の言葉通りの「美しきバッドエンド」、キリキリと心痛むと同時にどこか温かい情も感じる。休憩なしの2時間10分ほど、笑いつつ、最後は涙、そして胸が痛くなる。公演は28日まで。

あらすじ
東京から遠く離れた嫁不足に悩む過疎の村で両親を亡くし弟と二人で自動車整備工場を切り盛りする男、赤城辰吉。元暴走族総⻑!そんな彼にお見合いの話が舞い込む。しかも先方の都合で明日の予定がつかず急遽、栞とその父八郎が赤城家を訪れる事に。辰吉を取り巻く面々は一同大慌て。
てんやわんやの中、栞を目の当たりにした一同は息を飲む。
「こんな美人は辰吉にはもったいねえ。」だが八郎は辰吉の伯母清美に本音を洩らす。
「私はこの結婚には正直反対なんです。」
しかしそんな父親の思いをよそに栞と辰吉の仲は急接近。しかも栞は何故だか辰吉に異様に積極的。 そんな中、衝撃的ニュースが舞い込む。「翔子が・・・翔子が帰ってきた!」10年前、辰吉と翔子は 将来を約束しあった仲だったが、翔子は夢を追い高校卒業後、東京の専門学校へ行ったのだった。
二人の間で揺れる辰吉。栞は何故辰吉に積極的なのか、翔子が10年ぶりに帰ってきた訳は・・・。

概要
公演タイトル:舞台『口笛』
会期会場:2024年7月23日(火)〜7月28日(日) シアターアルファ東京 (恵比寿)
作:宅間孝行
演出:大薮丘
出演:久獅 大薮丘 岩田知樹 竹内茉音 花澤桃花
今井勝法 桐田伶音 菊池颯人 江口航 ⻄郷真悠子 藤掛愛加 北條響
咲山類 三戶なつめ
スタッフ:照明:山田真輔/音響:野中明・松木優佳/美術:向井登子/舞台監督:仲里良 制作:上畑みさと・三村楽(Smile Power Company)

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