新原泰佑 インタビュー『球体の球体』9月上演 @シアタートラム

第68回岸田國士戯曲賞を受賞し、さらに第32回読売演劇大賞演出家賞上半期ベス5に選出された池田亮が、脚本・演出・美術を手掛ける最新作 舞台『球体の球体』が9月にシアタートラムにて上演される。
池田自身がアート作品として発表したことのあるカプセルトイの「ガチャガチャ」から着想を得て、「親ガチャ・子ガチャ」といった要素を取り入れつつ、生まれたものが「自ら選べない状況」と「環境」、「優生思想」と「独裁者」についての寓話が描かれる。主演は、初W主演ドラマ『25時、赤坂で』 が大きな話題となり、映像やミュージカルのみならず、ストレートプレイでも進境著しい新原泰佑。『インヘリタンス-継承-』(`24年2月)のでは二人の性格の異なる役柄を見事に演じ分け、第32回読売演劇大賞男優賞上半期ベスト5に選出。本作が初の主演舞台となる。
そして、注目の出演者には、ダンスパフォーマンスグループs**t kingzのメンバーで、ダンサー・振付、俳優で活躍の小栗基裕。 多くの演出家や監督から信頼を寄せられている前原瑞樹。確かな演技力で、舞台や映像でも長きにわたり活躍するベテラン俳優相島一之が出演。主演を務める新原泰佑さんのインタビューが実現した。

ーーまず、出演にあたっての感想を。

新原:池田さんの演出・脚本ともに初めてですが、池田さんワールド全開っていう印象はすごくありました。お話は事前にさせていただいていたので、お人柄はわかっていたのですが、最初会った印象がすごく少年心のある方と思ったので、池田さんの子供のような無邪気な夢みたいなのがいっぱい詰まった作品なのかなって思ってます。

ーー最初の質問で作家の池田さんの感想が出ましたけれど、シノプシスをお読みになったとお伺いしてます。お読みになったご自身の感想をお願いいたします。

新原:とっても好きでした。ガチャガチャがテーマ、この親ガチャだったり子ガチャだったり選べない状況に紐付ける…みなさん多分、1回は考えるようなことだと思うんですけど、何かそれをこうやって形に起こす、また、その起こし方も含めてすごく面白いなと思っていて、シノプシスは脚本だけではなく、美術プランについてもいろいろ書いてあったんですけど、僕はそちらもすごく刺さって、世界観の作り方…多分、池田さんはお客さんをもうこの世界に、シアタートラムに入った瞬間から、この『球体の球体』の世界に閉じ込めたいんだなって…『このまま逃がそうとしない』っていう(笑)。脚本の作り方だったり、空間の描き方っていうのも相まって、僕はシノプシスだけでなく、早く脚本がなおさら読みたくてウズウズして、さっきも池田さんに『脚本まだですか?』『早く読みたいんですけど』って(笑)、急かしたわけではないですけど、池田さんも『今、本当に昨日ぐらいに完本して。そこから今、ちょっと直してる最中で』という話もわくわくしながらさせていただいてて今から楽しみな状況です。

ーー脚本が届くのを待ち焦がれている状態

新原:そうですね。シノプシスだけを読むと、ファンタジーにも寄ってるし、現実味も帯びてる…でもそのファンタジーと現実をずっと並行して送っていくような作品、現実にあるかもしれない世界をずっと描いていくので、そこのリアリティと、寓話的なものの乖離性と、逆に紙一重なところはこの作品の目玉だと思うし、面白いところだと思うんですけど、シノプシスだけを読むだけだと、それだけでは語りきれない部分が本当にまだ詰まってて、僕も未知数な部分が多いので、早く脚本を読みたい一心ですね。

ーーシノプシスは読みました。どこかにありそうな部分と、これはやっぱりどう考えてもファンタジーっていう部分がありますね。

新原:そうなんですよ。はっきりわかれていそうなんですけど、ここの境界線は非常にまたぎやすいものになっていて。この世界に、シアタートラムに入った瞬間から、この『球体の球体』の世界になると思うんです。普段過ごしている中で、結びつかない点と点が、あの空間の中だったら多分結びつくんですよ。観ているお客様とのそんな奇跡的な瞬間を池田さんとともに作り上げたいなって思います。

ーー池田さんから、新原さんにこの役を決めた、決め手や期待されていることなどお話は聞かれましたか。

新原:ちょうどさっきも話していたんですけど、僕は元々ダンスをずっとやっていって、自分で何かを作ったりとか、演出したりとか、そういうことがすごく好きなので、『もの作りという視点において、現代アーティストっていう役は新原さんで本当によかったなって思ってます』っておっしゃってくださって。さっき…『まだ始まってないんですけど』って笑顔で言ってましたけど。池田さんにそう言っていただけることを本当に嬉しく思ってますし、池田さんと2人でお話してると、共感するところがあるなと個人的には思っています。池田さん、お喋りなんですよ。僕は、自分はすごく喋る方だと思ってたんですね。ところが池田さんも止まらなくて…僕が相槌を打ったりするまもなく喋ってるような感じ。話が絶えない、どの話も濃密!お互いに突き詰めすぎていろんな話に脱線してくんです。どんどんどんどん枝わかれして結局、『何の話をしてましたっけ』っていうのが(笑)3回ぐらいありまして。一緒にいて楽しい方なので、稽古が今から楽しみです。こうやって何か一緒の熱量で、一緒のベクトルで物事を語れる演出家の方とセッションして、世界を作りあげられる期待感しかないですね。今日お会いしたのは3回目ぐらい。過去2回もすごく短い時間ではあったんですけど。一つは、『テラヤマキャバレー』を僕が観劇させていただいたときにご挨拶して、もう一つは僕が出演してた『Amuse Presents SUPER HANDSOME LIVE 2024 “WE AHHHHH!”』を観に来てくださって、さっきも『あのハンサムライブすごい楽しかったですよ!』っておっしゃって…男性にも楽しんでいただけてる!って。『これ毎年やる理由がわかりますよ。また行きたい』ってすごい熱量で喋ってくださってて。これから池田さんの言葉の引き出し、まだまだ聞けると思うので、これからもっともっと楽しみです。

ーー小栗さん、前原さん、相島さんの4名とのお芝居で小人数でさらにシアタートラム、客席と密接な空間のお芝居になりますね。

新原:以前、KAAT神奈川芸術劇場の大スタジオで、『ラビット・ホール』で5人芝居をさせていただいたのが僕の人生で初めてのストレートプレイだったので、こうやってまた少人数になって少人数の作品をやることになって、ちょっと思い返して…あのときは開演1時間後に、バーッとお手紙を喋って帰ってくっていう衝撃の始まり、ゲネプロとか足ガクガクだったし、ボロボロだったなと。あのときから考えたらついこの間のような出来事、まだ実感がわいていない、そこからさらに少ない4人で、しかも男だけの空間、本当に大先輩の方々ですし、年代がわかれてる、みなさんの役もそれぞれ知ってはいるんですけど、シノプシスから想像するキャラクター像が皆さんぴったりハマりすぎてて!プロットを読んだだけなのに、皆さんも、僕もそうですけど、池田さんのすごいところって当てがきで新作を書いてるので我々が動いてる、喋ってる絵が想像できるのが僕はびっくりしてしまいまして。何かホログラムみたいに浮き上がって動いてるのが目に見えてわかるような言葉たちが紡がれていたので、多分、4人でお話し合いをしながら作っていく感じになるなと僕は思っています。池田さんのお話を聞く限り、セッションしながら試行錯誤を繰り返しながら、やっていく話になっていて、先ほどそれを池田さんがおっしゃってて。『これすごい面白いな』と思ったのが『その場で生まれたハプニングをそのままお芝居にしてもらいたくなるときがある』っておっしゃって、例えば稽古中にセリフを噛んだとしたら逆に、その噛んだ時のちょっとテンポが崩れる感じが池田さん的に良かったとしたら、それをお芝居にしてもらうっていうお話をされてて、それって面白いなって。(普通)噛んじゃいけないっていうのがあるし、お客さんとして観劇してても、噛んだら『おっ?!』となるじゃないですか。でもその『おっ?!』って、お客様がぼーっとならないように、それすらも前向きっていうんでしょうか、どんどんどんどんアテンションがかかるような作り方をするのかなと思ってて、僕は楽しみなんですよね。これを小栗さん、前原さん、相島さん、皆さんがどうやって作っていくのか…今回の作品で僕自身もすごく変化があるのかなって思ってるのでそこが楽しみですね。

ーー先ほど4人それぞれが役にぴったりだとおっしゃいましたが、本島幸司に関しては?

新原:もの作りや、ゲーム好きだっていうのも、池田さんに僕の人となりを知っていただいた上で、今回こういう風に書いたりしていただいてるのもあって、でもだからこそ難しいところもあるんですよね。池田さんも“僕の地続き”で本島を演じてほしいともおっしゃっていましたが、そこに多分明確な違いはちゃんと存在していて、新原泰佑と本島幸司の差はちゃんとあるから、ぴったりっていうより、僕が多分これから本島になっていかなきゃいけない、どんどん本島っていうエッセンスを作り上げていかないといけないなっていう感じです。

ーー普段から役作りに対してはそんな感じでしょうか?

新原:そうですね。例えば原作モノだったら原作を読んで人間性…ビジュアルはもちろん、原作モノではないお芝居も、自分にあるものと紐付けながら、でも自分ではないものを演じたいっていう…どこかで僕であるようで僕でない。それが実現可能なのが“役者”なので、その魅力を最大限に生かせるようにと思っています。

ーー当て書きしてもらえるって幸せ。

新原:この上もない幸せですよね(笑)。一番自分に近いものを書いてくださってる、紐付けやすい、自分だけど、本島っていうキャラクターとして舞台上に乗ってお客様が観たときには、新原泰佑ではあってはいけないと思っていますし、絶対に作品中では、本島幸司でなければいけない。そこは僕の中でもポリシーがあって、自分だけど、自分じゃないものを、今から緻密に計算して作っていきたいなって思ってます。

ーー当て書きのお話がでましたが…。

新原:『ハンサムライブ』見てくださったので多分、素の僕を見てくださり、資料も多分見てくださったんだと思います。ライブ中の素の感じも見てくださり、『踊ってる生き生きさもすごく素敵でした!』っておっしゃってくださったり。そういうのも相まって…何が好きとかを言っていたわけではないんですけど、知っていただけたのかなっていう…多分まだまだ僕を解析したいんだと思うんですね。先ほど『ご飯行きましょう』っていう話もしまして。『もっと仲良くなりましょう』みたいな話をさせていただきました。『行きましょう、飲みながらでもなんでも行きましょう!』って言ってくれて嬉しかったです。『ハンサムライブ』をご覧になった際も、ご挨拶の時に池田さんが僕の方にササって早足で来てくれまして『ダンス入れてもいいですか?』っておっしゃって、『もちろんです!ありがとうございます』と。本当にそんな感じの会話でした。多分、自分はダンスをしてるときっていい意味で何も考えてない時間なので、20年ぐらいやってきたので自分を一番自分が理解してる…いい意味で自分が無になれる瞬間なんです。何も考えずにただ空間と共存してるだけの瞬間。それをもしかしたら見抜いてくれたのかなって思ってて。そういう意味でもダンスが作品のアクセントになるかなと思います。

ーーお芝居の中の踊りについては。

新原:作品中や自分で一人で好きに踊ってる時間は誰にも邪魔されない時間、空間ですので、そういう心持ちで作っていけるのではと思っています。明確な違いは存在しますが、僕であり僕でない瞬間が生まれる、その違いを埋める…というイメージです。

ーーどんな空間?

新原:わかりやすく言えば、客席が近い。それは舞台上からお客様全員に向けてメッセージが送りやすい、パワーとして熱量を送りやすい空間だと思っています。『Medicine メディスン』(5〜6月シアタートラムで上演)を観劇した際はマイクを使わずとも声と音が共存して心地よく聞こえました。音の響き方も何か包まれていくような感じがして、気がついたらずーーっと見ちゃう、気がついたらすごく前のめりになってて、自分が引き込まれつつ、逆に離れる瞬間は飽きているのではなく、多分演出的にも俯瞰に戻ってほしい瞬間とかに戻ってるんじゃないかって…演出とか脚本の意図、思惑通りに自分の体が操られてるような気がして、そういう空間が面白いと思いました。それぞれの劇場に強みや魅力があると思いますが、シアタートラムにはシアタートラムの良さがある。そして今回、池田さんはシアタートラム全体で『球体の球体』を描こうとしているので、お客さんは鷲掴みにされるだろうって僕は個人的には思ってます。

ーー俳優としては緊張しそう、でも楽しみな。

新原:緊張します、100%(笑)。未だに本当にどの作品でも緊張するんですよ。ゲネプロでも正直震えている、『インヘリタンス-継承-』はもってのほかですよ、最初一人で客席に降りてきますから(笑)向かう僕に、紗幕の裏や袖とかからみんなが『バイバイ』って言ってくれるんですけど(笑)、『一人で戦いに行かねば』って感じでもう手が震えました。今回はわかりませんが、逆にこの境界線が本当にないからこそ、新たないい緊張と面白みもあると思うので、それをも楽しみたいですね。劇場によって体感が全然違って、お客様の目の鋭さ…怖い目をしているという意味ではなく、目の“圧力”、というのも全く違います。お客様の数イコール目の“圧力”というわけでもないので、何か新たな経験ができるのではないかと思い、楽しみです。

ーーガチャガチャについての思い出はありますか?

新原:僕はガチャガチャは小さい頃から好きでやることが多かったですね。アニメやゲームが好きだから、アニメコラボガチャガチャが好きでした。最近はちょっと値上がりしてますが、100円入れて、その100円が消えて得体の知れないカプセルが出てくる、そして何が出るかわからない。何かはBOXに書いてはあるけれど、どれが出るかわからない得体の知れない球体が出てくるのがすごく面白いと思っています。その魅力は、ランダム性だったり僕たちには何か操作したくてもできない、でも実はそのガチャガチャの確率だったりを操作してる、作ってる人はいるんです。ヒエラルキーじゃないですけど、弱肉強食みたいな、何か連鎖ができるのも面白いなって思ってます。池田さんが、ガチャガチャは大体が横に並んでる、それを『縦に積もう』と、天井まで高く積んだらすごく壮大で、ものすごく大きくて個性のあるものになるんじゃないかっておっしゃって、それを聞いたときに『僕にはその発想ないな』と思って。上にあるガチャガチャは手が届かなくてできないから、現実的にはないのに、そうやって上に積もうとするところが、やっぱりアーティストならではの発想だな、すごくいいなと思いましたし、久々にガチャガチャやりたいなって思いました(笑)。最近は高価なものもありますよね!500円、600円、お札入れるのもあるらしいです。また最近はもう回さないポチッと押すデジタルなものもあるとか…ガチャガチャも日々進化してるんですね。

ーーダンスがお好きということですが、何歳ぐらいから始められたのでしょうか。

新原:4歳からやってます。

ーージャンルは?

新原:キッズダンスなので、ヒップホップとか本当に簡単な動きから始めたんですけど、今はジャズダンスとコンテンポラリーを主ジャンルとしてやってます。

ーー古い記憶をたどっていただいて、生まれて初めてのダンス、一番最初に踊ったときの気持ちは?

新原:生まれて初めて出たダンスの発表会は覚えてて、まだ振りを覚えてるんですよ。4、5歳ぐらいでしたね。自分の記憶の中でですけど、舞台に立って人前で何かをするのが怖かった記憶はあんまりなくて、何か表現したりするのは好きだったんだろうなって思います。また作ったりするのも好きで小さいときから…保育園のときは外で遊ぶよりお絵かきなどをしてました。何かを作って、それを見てもらったりするのが嬉しかったので、そういうのが、今に繋がっているのかなと思っています。

ーーそのあたりから現在のお仕事につながっているのですね。

新原:小さいときから根本は変わってないと思います。保育園ではお遊戯会とかがありましたし、ダンスはスタジオに通ってやってました。保育園に行って、夕方からはスタジオに行って、ダンスという感じでした。

ーーダンスはスタジオに行って、保育園では保育園らしいのをやってたんですね。

新原:はい。この間、写真フォルダを見ていたら、僕が頭にバンダナを巻いて、紙で作った剣を刺している写真が出てきました。そういうお遊戯会みたいなのもちゃんとやってたんだろうなっていう(笑)。

ーー観に来てくださる方へのメッセージを。

新原:今回シアタートラムで主演をさせていただけることをすごく光栄に思います。ガチャガチャを見たら、この作品を思い返すんじゃないかってぐらいの衝撃的な作品になると思ってます。精一杯頑張りますので、皆様、楽しみにしていてください。

ーーありがとうございます。公演を楽しみにしております。

あらすじ
現代アーティストの本島幸司(新原泰佑)は2024年に遺伝と自然淘汰をコンセプトにしたアート作品『Sphere of Sphere 』を創作する。その作品が話題となり、独裁国家の「央楼(おうろう)」に招待されることで本島に思いもよらぬ人生が待ち受けていた。そして35年の時を経た2059年、本島の告白から物語が始まる。

概要
脚本・演出・美術:池田亮
出演:新原泰佑 小栗基裕(s**t kingz) 前原瑞樹 / 相島一之
日程・会場:2024年9月14日(土)〜9月29日(日). シアタートラム
企画・制作・主催:梅田芸術劇場

公式ホームページ:https://www.umegei.com/kyutai-no-kyutai/

取材:高浩美