舞台「タイヨウのうた~Midnight Sun~」は何度でも観たい秀作であった。舞台セットは極めてシンプル、抽象的で白を基調としたもの。抽象的な映像、それから物語が始まる。サイレンの音、小さな子供を抱えた父親らしき大柄な男性とちょっと年齢のいった女性、「助けてください!」、病院に担ぎ込まれる。そこで子供の病名がはっきりする。「色素性乾皮症(XP」、難病に指定されている不治の病。太陽の光を浴びると命がない。愕然とする父と祖母。
それから時は過ぎ、幼子は年頃になった。夜だけ外に出られる、太陽がないから。彼女の名は雨音薫(柏木ひなた)、ギターと歌が大好き、聴衆の前で歌を披露する。そのオーディエンスの中に同じくらいの少年がいた。彼の名は藤代孝治(辰巳雄大)、両親とそりが合わず、苛立ちも感じるが、彼には太陽と海がある。サーフィンが大好き、友達もいる、どこにでもいる年頃の少年。孝治は苛立ちから携帯電話を捨ててしまい、それを薫が拾う。これがきっかけとなり、薫と孝治は出会う。
いわゆる「BOY MEETS GIRL」であるが、この出会いは2人を大きく変えることになる。不治の病である薫は未来が描けない。長くは生きられない病であるからだ。一方の少年はエネルギーに満ちているはずなのにどこか陰りがあり、彼もまた未来を見いだせずにいた。そんな寂寥感のある2人、魂は呼応しあい、お互いに心惹かれていく。そしてある騒動で孝治は薫の病を知ることとなる・・・・・・。
ピュアで不器用な2人の恋愛を軸にしてストーリーは進行するが、この2人の出会いは周囲の人々をも変えていく。大切な何か、それはキャラクターごとに異なるが、皆、かすかな光を見出す。生きる意味、己が存在する意味、そばにいることの意味、人と人が寄り添うことの意味・・・・・多くの意味がこの物語に内包されている。
藤代孝治役の辰巳雄大は恋に奥手でぎこちない、しかし、薫に対して純粋な気持ちを持ったキャラクターを好演、雨音薫の柏木ひなたも初々しい、ヒロインを演じ、歌のシーンでは澄んだ歌声で薫を体現。松崎祐介と藤原丈一郎、明るく、ひょうきんな友人役、この明るさ、面白さは舞台のアクセントに。脇を固める“大人”たち、父親役の三戸大久、よく通る声と包容力のある雰囲気が温かみがあり、後半の歌はさすがのオペラ歌手。祖母の高橋恵子、孫娘への慈愛に溢れており、観ているこっちまでホッとさせてくれる。
この2人の行く末・・・・・・結末よりも、その生き方。映像は満点の星空だったり、青い雲だったり、華やかな花火だったり、また照明で波打ち際のさざ波だったりを表現、その世界観を後押しする。忘れかけていた、あるいは忘れてしまった“あの気持ち、あの想い”、この舞台にはたくさんの意味と気持ちと魂が込められている。
<タイヨウのうたとは>
2006年に公開されたYUI、塚本高史主演の日本映画、そして同年、山田孝之、沢尻エリカ主演のテレビドラマとしても披露 された作品。今年2018年にアーノルド・シュワルツェネッガーを父に持つパトリック・シュワルツェネッガーが好演し、ハリウッド版映画 「MIDNIGHT SUN」として、5月に日本でも公開され、話題となっている作品。原作の舞台化は、初となる。物語は、「色素性乾皮症(XP)」という 病を患い、夜しか活動できないギターと歌が大好きな少女と彼女に出会った少年の純愛とその行く末を描く内容となっている。
【概要】
タイトル:舞台「タイヨウのうた~Midnight Sun~」
<東京公演>
2018年9月5日~9月9日
中野ZWRO 大ホール
<大阪公演>
2018年10月13日〜10月14日
NHK大阪ホール
上演台本:モトイキ シゲキ
演出:佐藤幹夫
出演:辰巳雄大(ふぉ~ゆ~)柏木ひなた(私立恵比寿中学)松崎祐介(ふぉ~ゆ~)/藤原丈一郎(関西ジャニーズJr.)高嶋菜七(東京パフォーマンスドール)諸塚香奈実/ 三戸大久/ 中西良太 海部剛史 黒田こらん 鈴木健介 / 手塚理美/高橋惠子 ほか
企画・製作 :プロデュースNOTE/エイベックス・エンタテインメント
主催:舞台「タイヨウのうた~Midnight Sun~」製作実行委員会
公式HP:https://www.taiyouno-uta.com/
© 2006「タイヨウのうた」フィルムパートナーズ
撮影:曳野若菜
文:Hiromi Koh