加藤健一事務所公演『灯に佇む』上演中

加藤健一事務所公演『灯に佇む』が紀伊國屋ホールで上演中だ。この作品は名取事務所25周年記念公演の第二作目で内藤裕子が書き下ろしたもの。

物語の舞台はどこかの町の小さな個人経営の医院。舞台上にはそんな小さな医院の待合室、診療室が設えてある。現代という設定なので、よく見るポンプ式(手でプッシュする)アルコール消毒が置かれている。ちょうど、診療時間が終わったタイミング、やれやれ、といった雰囲気。椅子に座ってるのは篠田秀和(加藤健一)。今は息子の宏和(阪本 篤)に経営を任せ、自分は土曜日のみ診察をしている。ここで働いているのは篠田真由美(占部房子)、看護師で秀和の長女、同じく看護師の津山晶子(加藤 忍)、ベテラン。秀和は患者の話をゆっくり聞くタイプなので患者を多くさばけない、経営肌の息子・宏和とは逆のタイプ。診療が終わる頃にやってくる製薬会社MR、野原 整(西山聖了)、すっかり顔馴染みの様子。そんな「ある、ある」の光景。そこへ、町村紘一(新井康弘)がやってくる。

重大な病気が見つかったのだった。それがきっかけで治療についての対立が始まる、というのが物語の流れ。医者としての矜持や方針が相違、また、患者親子、紘一と肇(加藤義宗)もまた、対立する。合間に野原の”解説”が入る。日本の保険制度や製薬会社についてのレクチャー、なかなか専門用語が多く、覚えるのに難儀しただろうと思うくらい。
病気、治療、現代医療は目覚ましい進歩を遂げたが、まだまだわからないことが多い。丸山ワクチン、ゼリア新薬工業が厚生省に「抗悪性腫瘍剤」としての承認申請を行うが、薬効を証明するデータが提出されていないので1981年8月に厚生省が不承認に。ただし、「引き続き研究継続をする」とし、異例の有償治験薬として患者に供給することを認め、現在に至っている。

手に野球のグローブ、そのわけは…?劇場で!
小道具や壁のポスターがリアル。今や、どこにでもあるアルコールの”プシュプシュ”も。

重いテーマだが、時折、笑いを挟んで進行する。秀和はパソコンが使えない、それに対して宏和はサクサクっと。野原も手にパソコン。小さい町の個人経営の小さな病院、故に皆、顔見知りの様子。また肇が激昂するシーン、親を思う気持ちが痛いほど伝わるが、親子の間にある”隙間”も垣間見える。自分が考える父親にとっての最善の治療が果たしてそれで良いのか?と考えるとそこははっきりしないが、いずれにしても肇の思いは共感できる。そして秀和と宏和、親子の医療に対する考え方の違い。

治療をめぐっての人間模様、家族間の確執、考え方の相違、そして避けて通れない、”生きる”ということ、医療が進歩したといっても、様々な病、ガン、他人事ではなく、人類全ての人々が罹患する可能性がある(国民の2人にひとりがガンに罹患し、3人にひとりが亡くなる)。

ラストシーン、医院の待合室で篠田親子が長椅子に座っている。父はうつむき加減に座り、苦悩の表情を浮かべ、息子はそんな父に背を向けて座るが、彼もまた、何かを想う。結論の出ない終わり方、だから、観客は様々な想いや考えを巡らすことができる。休憩なしのおよそ1時間50分、公演は13日まで。

配役
加藤健一 … 篠田秀和(篠田医院・元院長)
加藤 忍  … 津山晶子(篠田医院・看護師)
阪本 篤  … 篠田宏和(秀和の息子、篠田医院・院長)
占部房子 … 篠田真由美(秀和の長女、篠田医院・看護師)
加藤義宗 … 町村 肇(紘一の長男)
西山聖了 … 野原 整(製薬会社MR)

新井康弘 … 町村紘一(患者)

作品について
初演は2021年9月。名取事務所・名取敏行からの依頼を受け、内藤裕子が書き下ろし、演出した。名取自身が丸山ワクチン接種を希望する友人からの電話を受けたこと、また、名取の実家が丸山ワクチンを取り扱う仕事をしていたため、多くのガン患者の姿を見てきた経験が、作品を生み出すきっかけとなった。
本作を上演するのは、名取事務所に続いて加藤健一事務所が2団体目である。

STORY
宮城県角田市にある診療所、篠田医院。
秀和(加藤健一)は院長業を息子に任せ、土曜日のみ診察を担当している。
患者一人一人に対してじっくりと時間をかける診察スタイルを貫く秀和は、病院経営を軌道に乗せた息子には少々煙たがられているが、家族ぐるみで昔から付き合いがあり、そして今は患者となった友人にも、医者として寄り添いながら真剣に向き合っている。
秀和は言う―「医者にしかわからないことがあるように、患者にしかわからないことがある。だからこそ医者は患者の気持ちを傾聴しなきゃならない。」
患者本人にとって大切なものとは、何なのか。秀和や篠田医院のスタッフ、患者、家族…それぞれの経験や立場から思いをぶつけて、“生き方”を考えていく。

概要
日程・会場:2024年10月3日(木)~13日(日) 新宿東口・紀伊國屋ホール
作:内藤裕子
演出:堤 泰之
出演:加藤健一、加藤 忍、阪本 篤(温泉ドラゴン)、占部房子、加藤義宗、西山聖了・新井康弘
◎10月13日(日)14時の公演に限り、目のご不自由なお客様を対象とした舞台装置の説明会を開催いたします。
いずれも当日のチケットをお持ちの方は、どなたでもご参加いただけます。
公式サイト:http://katoken.la.coocan.jp/
撮影:石川 純

来年1月は久しぶりの上演、「詩人の恋」本多劇場にて。出演は加藤健一&加藤義宗。
加藤義宗、只今、絶賛歌稽古中!詳しくは公式サイトを。