好評のうちに日本での初公演が終了した“人間”と“VRゲーム(仮想現実世界)のAI”との友情を描いたミュージカル「OZ」。現実よりも、手軽に多くを手に入れることの出来る仮想現実世界の方が楽だと感じる人間と、仮想現実世界の中だけで存在し、人間と同じ感情を手に入れたいと願うVRゲームのAIキャラクターの出会い、そして二人が仮想現実ゲームの中で共に友情と人生の意味を見つける旅路をあたたかく描いた作品。
出演は今野大輝、ソン・ユテク、藤岡真威人、中村浩大、波多野翔、日本と韓国のキャストが物語を彩る。キャストだけでなく日本と韓国のクリエイティブチームのタッグも実現。特別な演出によりさらにバージョンアップ。公演終了間近の某日、ブリキ役のソン・ユテクさんのインタビューが実現した。
ーーこの作品についての感想をお願いします。
ソン・ユテク:ゲームは結構長くやらなくちゃいけない、自分は飽きやすい性格、そういうのもあり、ゲーム自体はそんなに好きな方ではなかったんです。どちらかというと「鉄拳」とか短編で終わるものや一回で終わるもの、そういうゲームはやってました。今回の作品はRPGゲームみたいなものですよね。ポケモンもそうですが、自分がその中で人間ではない違う存在として、そこに存在することは珍しいけれど、面白いんじゃないかなという気持ちを持って台本を読みました。台本を読んでいくうちに、この台本自体がゲームをやりながら、いろんな物語が進行していく…本当にそのゲームをやるようにミッションをクリアしながら、関係性ができたりしていくので、これは面白いかな、と思いました。ここではそのゲームをやることによって、ジュンと自分が演じるブリキが関係性を作っていき、思い出ができたり、たくさんの冒険ができる。そういういろんなものが積み重ねていく話で、新しい記憶が作られていくので、読んでいくうちに愛着も湧いてきて。自分はゲームが好きじゃなかったのに、そういうタイプの人でも物語が進むにつれて愛情を持てるので、そういう力を持ってる作品だと感じました。
ーーお芝居を見た感想では2人はその関係性を作っていくのと同時にいわゆる成長していく、気持ちの変化が出てくるところが面白いなと思いました。ブリキ役は初演から演じてらっしゃるんですよね。
ソン・ユテク:そうです。
ーーキャラクターについてですが、ブリキのキャラクターについての感想とか何か想いとかがあれば、お願いいたします。
ソン・ユテク:旧型のAIであることがまず大前提。なので、このゲームを通じて物語が進むにつれてジュンとの関係性ができていきますが、ゲームの設定としては「ロシー」を待つ、と設定されているので、とにかく「ロシー」を待つ。自分のゲームの中でそれがブリキの姿。個人的見解ですけど、「ロシー」はユーザーの名前なので、「ロシー」が男性なのか女性なのかも見る側の見方によって変わりますよね。作品を観ると、ブリキがどういうキャラクターでどういう特徴を持っているかは、台本で描かれていて、そこは観ればご理解いただける部分だと思います。キャラクターは演じる役者さんによって変わってしまうこともありますが、僕自身はそうしてはいけないんじゃないかなって思いまして…僕の声や喋り方は自分自身ではないものにしなきゃいけないんじゃないかって…役作りはそこから出発してます。なので、喋り方も歌い方も全部、元の自分の声ではなく、きちんとブリキという役としての声を作り、歌い方も全部それに合わせていましたので、(公演期間中)全てをずっとそうやらなくちゃいけない、自分はそういうふうに作らないといけないと思いました。大変でした!そこはみんなが理解してくれました、「それでもいいよ」って。すごく難しかったです。
ーー確かに難しいですね。ベーシックな質問ですけど、日本は初めてですか?
ソン・ユテク:今まで日本には来たことあるんですけども、一度もプライベート旅行とかで来たことはなくて、全部お仕事できてます。
ーーお仕事での来日は過去にも何度かあったのですね。
ソン・ユテク:はい。今回は滞在期間が結構長く、ひと月ぐらいあるので、もうちょっと日本の文化に接したりできるかなと思ったんですけど、実際はお稽古もあるし。また、自分のセリフが日本語であることもあって、意外と余裕がなかったのですが、そのおかげで今、一緒にやってる仲間たちとはとても順調にできていて感謝してます。今回の共演の方々は、みんな自分の領域とか責任をしっかり持っておられるので、自分自身も自分がきっちりやることをやればいいと…そういうふうに出来ました。共演の方々だけではなく、スタッフの方々、一緒に関わってくださった全ての方々、日本での環境が、皆さんその自分の領域で責任を持ってきちんとやってくださるので、そこに対して自分もそれに一生懸命乗っかって、うまくできてよかったなと。それが今の日本の感想になります。また、普通にショッピングに行ったりご飯を食べに行ったりもしましたが、その店で働いてる方々みんな自分の仕事にちゃんと責任を持ってしっかり対応してくださる、そうしたらそれにちゃんと応えないと。しっかり美味しく食べるとか、例えば店員さんが細かく色々してくださったら、それにちゃんと答えなくちゃいけない、そういう部分をすごく感じました。
ーー日本はいい印象なのですね。
ソン・ユテク:はい。他の人に迷惑かけたりすることは好きではない性格なので、そういう部分が逆に目に入ってきたのかもしれません。日本に対してはとてもいい印象です。
ーー先ほどショッピングも行ったとおっしゃってましたが、ご飯も食べに行って、ちなみに日本で食べたもので好きな物は?
ソン・ユテク:日本の牛乳がすごく気に入ったんです。韓国の牛乳ももちろん美味しいんですけど、日本の牛乳の方がちょっとより香ばしい…乳製品が全体的に美味しかった、牛乳とかチーズとか。あと料理が大好きなんです。自分で料理をするので、いろんなところに食材を買いに行きました。韓国も、もちろんきっちりしてるんですけれど、例えばコンビニでも小さいスーパーでも大きい店でも、お店の規模関係なしにきちんといろんな商品が置いてあって。なので、そういう所に買いに行く楽しみも満喫できました。韓国のコンビニだとあまり生物は売ってなくて加工食品とかお菓子とかを買いに行くんですけど。日本のコンビニは結構食材も置いてあったりしてそれを見たりするのも楽しかったです。
ーーお仕事以外で結構楽しみもたくさんあった。
ソン・ユテク:はい。そこから繋がるんですけど、こっちにきて自炊をしていたんです、稽古期間に韓国のトッポッギと、あとキンパを20人分ぐらい作って、一緒にみんなで食べたり。同じ食べ物を一緒に食べる、そういう感じが僕は好き。韓国の人はみんなで一緒に食べる、ご飯は大人数で食べる、同じものをみんなで分け合って食べていて、それが自分は好きなので。自分が作ってきたものをみんなが美味しく食べてくれたのはすごく良かったし、嬉しかったです。
ーー共演者の方々について
ソン・ユテク:まず最初は言葉も違いますよね。韓国語、日本語、年齢も結構離れてるんですよ。一番下が20歳、分野も違う、僕は舞台ですけど、テレビなどの映像に出ている方もいますし。アイドルも声優さんも、結構違うので、どうやったら仲良くなれるのかなって本当はすごい悩んだんです。でも、実際にはじまってみて、一緒に過ごす時間も長かったので、もう自然と仲良くなっています。自分はもうこの作品は経験者。だから後は言葉の問題だけかなって思っていたんですけど。実際に彼らがこの作品にすごく愛情を持ってとっても熱心に作品作り、お稽古もして…。一緒の場面も多く、例えば、ダンスも一緒に踊るシーンが多かったりしましたが、彼らが本当に愛情を持って一生懸命頑張ってくれました。自分ももう1回この舞台を頑張らなくちゃいけないんだなっていうふうに思えるようにしてくれました。実際に自分たちだけで、通訳さんなしだと、話をするにしてもそんなに難しい言葉は使えない。でもそれをちゃんと理解しようとして聞いてくれたり、逆に話すときも、わかりやすく説明しようとしたりとか。楽屋は全員で一緒に使っているのですが、そこでもいろんな会話ができています。
ーー楽屋が一緒だと、コミュニケーションも取りやすいですね。
ソン・ユテク:はい。単語だけでも言ってみたりとか、とにかくいろんな話をたくさんしています。お互いにそういうふうにしています。
ーー楽しい楽屋。
ソン・ユテク:はい、とても楽しいです。僕もその年代に少し若くなれたような感じもします。
ーー確かに他の共演者の方と比べるとお兄さんですね。
ソン・ユテク:おじさんです(笑)。
ーー共演の方が男性しかいないから、男子校的な楽しさがあるのでしょうか。
ソン・ユテク:日本の高校がどんな感じかわかりませんし、日本の今の高校生たちはどういうふうに会話してるのかわからないんですけども、なんかとっても不思議な感じですね。楽屋で笑いすぎて公演に響かないかなって思うぐらい(笑)。今回昼公演と夜公演の間が長くて、合間の時間が3時間ぐらいあるんです。最初にまずみんなご飯を食べますよね。そこでみんな公演以上にエネルギッシュになり、ばあっと食べて30分ぐらい一生懸命全力で会話して、そのあともうみんな疲れて(笑)。
ーー楽しそうでいいですね。もしもまた「OZ」に出るとしたら、同じ役が良いですか?
ソン・ユテク:同じ役がいいんじゃないかなと思います。日本公演前提なら、違う役をやることになったらまた日本語を覚えなくちゃいけないので…。例えば違う役をやるのは、今その役を本当に頑張ってくれてた方々がいらっしゃるので、僕が入っていくのはちょっと違うんじゃないかなと思っています。この仲間たちが一緒にこの作品を作るときに「OZ」に対して本当に真摯に取り組んでくれて、一生懸命頑張っている姿を見ているので。
でも、今回の「OZ」を通じてものすごくいい交流ができたので、また機会があるとしたら、まずはちゃんと言葉を勉強して自分ももっともっと!より深く作品に関われるようにしたい、勉強してみたいと思ってます。
ーー全て日本語でのセリフ、難しかったと思います。作品はとても面白かったです。
ソン・ユテク:とても楽しい経験でした。ちゃんとできていたと思うけど…。日本語での初めての作品で、ゲネプロでマスコミの皆さんに観ていただいたのが、本当の初披露でした。もちろん(日本語は)難しいんですけど、稽古はしっかりできていたので、何とかできたんじゃないかなって思っています。
ーーありがとうございました。
<公演レポ記事>
あらすじ
多くの仕事が人工知能に代替された2045年。人ひとりいない無人VR機器工場で、唯一の人間労働者として働くジュン。ジュンの唯一の楽しみである仮想現実ゲーム[オズ]! [オズ]では、新シーズンであるストーリーモードが始まり、接続してこない自身のユーザーを待つ[オズ]のAIブリキは、運よくストーリーモードの入場チケットである黄金の蝶を捕まえることになり、ジュンはブリキにストーリーモードを一緒に進もうと提案するのだが…。
無課金ユーザーのジュンと、主人のいないAIブリキ、二人はストーリーモードを完走し、願いをかなえることが出来るのだろうか?
概要
日程・会場:2024年11月14日(木)〜11月20日(水) I’M A SHOW
脚本・作詞:キム・ソルジ
作曲:ムン・ソヒョン
演出:パク・ジヘ
日本語脚本:西垣匡基
訳詞:森雪之丞
出演:
今野大輝 ソン・ユテク 藤岡真威人 中村浩大 波多野翔
企画・制作・主催:AMUSE ENTERTAINMENT INC.
WEB:https://w.pia.jp/t/oz-imashow2024/
舞台写真撮影:引地信彦