震災と原発事故後の空気感を2024年の日本で再現、『こんばんは、父さん』が俳優座劇場にて好評上演中だ。
初演の舞台は、大震災と原発事故の記憶も新しい 2012年の秋に、世田谷パブリックシアターで上演され、連日大入り満員を果たたが、未曾有の事態の中で露わになった「まさか!」の、しかしよく考えてみれば「やっぱり!」だったニッポン。あれから12年、この国はどのように変わったか、あるいは変わらなかったのか。この問いを 2024年の今、新たに投げかけていく。
日本の近現代史を背景にした濃密な人間ドラマ登場人物は年代の異なる3人の男性のみ。廃墟となった工場の中、夕方から夜にかけて、彼らがそれぞれ抜き差しならない状況にいることが明かされていく。お互い崖っぷちに立ちながら、その場の主導権を握ろうとしたり、嘘をついたりはぐらかしたりする男たちの姿は滑稽そのもの。わずか100分ほどの間で、客席を笑いの渦に包みながら、日本の近現代史を背景に濃密な人間ドラマを浮かび上がらせる、壮大かつ繊細な舞台。アングラから商業演劇まで縦横無尽に活躍を続ける“演劇界のレジェンド”風間杜夫が「父さん」役で二兎社に初登場。同じく二兎社初出演の萩原聖人が、一流企業の出世頭から社会の負け組へと転落した息子・鉄馬を演じ、また、ひょんなことから父子と関わりを持つ青年・星児に、さいたまネクスト・シアターで蜷川幸雄に鍛えられ、若手実力派俳優として評価の高い竪山隼太が出演。
舞台セットの工場、かつてはフル稼働していたが、今はすっかりボロボロ、ほぼ廃墟、ガラクタが雑然と置かれており、窓ガラスは割れている。時間になり、始まる。窓に映るシルエット、割れた窓から手が伸びて鍵を開ける。そして窓が開き、年配の男が侵入。
それから若者が入ってくる。彼はこの年配の男を追ってきたのだった。「あんたみたいな人が日本をダメにしたんじゃねーの?」と口が悪い、服装はどう見てもカタギな職業の人とは思えない。若者の名前は山田星史(竪山隼太)、年配の男は佐藤富士夫(風間杜夫)。そして中年の男、彼の名は佐藤鉄馬(萩原聖人)が…(ここのどこかにいた)。鉄馬は富士夫の息子、それから明らかになる富士夫や鉄馬のこれまでのこと。富士夫は中卒、集団就職で上京、この時代の集団就職はかつて日本で行われていた雇用の一形態。日本の高度経済成長期に盛んに行われており、子供を進学させる余裕がない世帯が多く、そのため、都会の企業に就職することで経済的に自立することを期待、地方の中学校は企業の求人を生徒に斡旋、集団就職として送り出した。富士夫もその一人だった。彼の話、スキルを磨いて結婚、独立し、子供も生まれた。模範的な製造業者として区から表彰され、郊外に家を建て、子供を私立の中高一環教育の学校に入れる。膨大な設備投資をして、手にはじゃらじゃらと指輪、ネックレス、そしてゴルフ、時代はバブル、まさに絵に描いたようなバブリーぶり!(再現ドラマのように風間杜夫が派手なアロハシャツを着て!)ところがバブルが弾けてあっという間に”転落”、闇金に手を出し、夜逃げ、たどり着いたのが廃墟のような工場。
一方の鉄馬もまた、激動の人生、大手メーカーに就職、33歳で課長に昇進、順風満帆に見える人生、イケイケだった頃は何かの講演会とかでパリッとしたスーツに身を包み、口角泡を飛ばして熱弁を振るう(これも再現ドラマ風に)。ところが投資(えびの養殖・投資詐欺っぽい)に失敗、闇金に手を出し、マンションも売却、離婚、そんなこんなで工場に住み付いたという。この親子、揃いも揃って崖っぷちな状況。借金取りの山田星史はバックボーンははっきりしないが、夢や希望もない様子、言葉使いが汚く、乱暴、当然ノルマもある、達成されないと何か酷いことがある様子。三人三様、親子はホームレス同然状態、だが、特に何かが起こるわけでもない。彼らの言動、”再現ドラマ”、笑いの要素もありつつ、この底辺にまで落ちてしまった男たちの哀しみが相まって、ほろ苦い。友達もいない、家族もいない、そんな3人が集まった夜。
ラスト、親子間の感情、中卒の父が息子を私立に入れる、当の息子本人は重荷だった様子。カップ酒、つまみ、ポテトチップス、一瞬、ほっとする親子の光景。風間杜夫、萩原聖人、竪山隼太のトライアングルが絶妙なバランス、派手なアロハの風間杜夫、その派手派手さは、風間杜夫の出世作を彷彿とさせる。萩原聖人はどこか繊細さを感じさせる空気感、竪山隼太のちょっとヤケクソな闇金融の下っ端の取り立て、作品のアクセントに。公演は26日まで俳優座劇場にて。
あらすじ
舞台は廃墟となった町工場。金目のものは全て持ち去られ、残っているのは機械の台座や工具棚、朽ちかけたコードなどのガラクタだ。2階に通じる階段にも廃材が山積みになっている。
そこへ1人の男が辺りをはばかるように入ってきた。続いて、彼を追ってきたらしい若い男も。いや、他にもまだ、誰かいるようだ。
それぞれの立場や役割が入れ替わりながら、世代の異なる3人の男たちのやりとりが続く。夜が深まるにつれ、男たちの抜き差しならない状況が明らかになり……。
概要
日程・会場:2024年12月6日(金)~26日(木) 俳優座劇場
作・演出:永井愛
出演:風間杜夫 萩原聖人 竪山隼太
全国公演あり。チケットのお問い合わせは各会館へ。
↓
○11月30日(土)埼玉/富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ ※終了
○1 月11日(土)滋賀/滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
〇1 月13日(月祝)愛知/メニコン シアターAoi
〇1 月18日(土)兵庫/兵庫県立芸術文化センター
〇1 月25日(土)愛知/パティオ池鯉鮒(知立市文化会館)
○2 月1 日(土)埼玉/所沢市民文化センター ミューズ
○2 月11日(火祝)愛知/穂の国とよはし芸術劇場PLAT
〇2 月15日(土)・16日(日)長野/サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)
○2 月22日(土)福島/いわき芸術文化交流館アリオス
〇2 月24日(月祝)山形/東ソーアリーナ