2023年度 日本レコード大賞企画賞 受賞曲竹島宏が歌う「プラハの橋」「一枚の切符」「サンタマリアの鐘」『ヨーロッパ三部作』をモチーフにして生まれたミュージカルが2025年1月7日より開幕する。山田ひろし:作詞、幸耕平:作曲、ドラマティックな楽曲だ。人生には出逢いと別れ、幾つもの橋があり、それらの橋の中には、避けられない「運命の橋」が存在する。この作品は「運命のプラハの橋」を渡る三人の登場人物の心の葛藤と苦悩と闘いを描いた、愛と感動のミュージカル。
ミュージカル界の鬼才、宮川彬良の作曲・編曲、ロマンティックな言葉を紡ぎ出す安田佑子の作詞、そしてストリーテラーとして海外進出を志す田尾下哲の脚本・演出により繰り広げられていく。
キャストは、癒しのボイスでロマンティック歌謡を探求する竹島宏。魅惑のボイスで心を惹きつける庄野真代。男性的なボイスで優しく魅了する宍戸開。今回、作曲・編曲の宮川彬良さんと脚本・演出の田尾下哲さんのインタビューが実現した。
ーーまず、オファーを受けた感想をお願いいたします。
宮川:竹島さんありきでのプロジェクトということ自体が変化球ですよね。そして曲がすでにある、それでも作曲家が必要…。僕の感想としては、『それは楽かも』(笑)。そうはいっても、テーマ曲(ヨーロッパ三部作)が、日本の歌謡曲の世界を彷彿とさせるかんじで、それそのものが完成しているので、僕にとっては「取り組みやすい」ような「取っ掛かりづらい」ような、そんなプロジェクトだなという印象です。この曲を作曲されたかたとは全く面識はなかったのですが。失礼にならないのかしらと気になって「本当にいいんですか?」って、確認をした覚えがあります。
田尾下:竹島さんのヨーロッパ三部作をもとに物語を作ることを伺いまして、まず曲を聞きました。元々の三部作がある中で、作業としては歌詞を聞いたり、読んだり、自分で歌詞を書き出して、手で打って文字で見て、そして曲を聞いて…楽譜はなかったです。実際に詞と曲を聞く、実際に竹島さんが歌ってらっしゃるのを聞きました。
これを物語にする…許されぬ恋、大人の恋、不倫の恋を描いている中でこれを物語にするという時に、作詞家の方が当然いらっしゃいますが、インタビューとか質問は一切してないです。お話を聞くこともできたとは思いますが、それとは全く違うところで、イチからわかる物語、きちんと最初から最後まできちんと繋がる物語、さらに楽曲をきちんと取り入れて描くにはどうしたらいいかと考え始めました。秋山さんがプロデューサーですが、僕は以前も平幹二朗さんとギリシャ悲劇をご一緒にしたり、宝塚OGの方々との『THE CLUB』のお仕事をした中で、秋山さんは情熱を持ってらっしゃる方であることはわかっていましたし、その作品を作り上げる力のあるプロデューサーであることもわかっていたので、私はその船に乗ろうと思いました。
物語をどうするのか…まずは時代設定、人間関係をどうするかを徹底的に考えました。これが現代、1990年代からインターネットはありましたが、情報が個人的な結びつきが即席にできる現代的な状況では、こういう物語は描きにくいかなと思いました。FAXと固定電話は必要。逃避行する人たちの話なので電話はあるけれども、インターネットでみんながバリバリ検索してるような時代ではない物語にしたら成立するんじゃないかと思い、どう物語を展開させていけば、この不義の物語を描くことができるのか…秋山さんと作詞の安田佑子さんとお話ししながら、これは物語としていけるんじゃないかなと判断したとき、我々としてはもう言うまでもなく作曲家の宮川彬良さんにお話を…それしかなかったですね。大人の恋の物語で不義の物語だからといって暗いだけではやっぱりミュージカルにならない。明るさも必要、かつ、すごくこの叙情的な郷愁を帯びたメロディ。ヨーロッパなので実際に舞台美術でここはプラハだとか、パリだとかというのは、なかなか描き分け難しい。ものすごくお金をかけてやったとしても転換に時間がかかります。そうなると音楽の編成、メロディー、楽器の選択、そういうところを含めてヨーロッパのテイストをストーリーテリングしてくださる、物語の中の音楽、そこで宮川彬良さんのところに口説きにお伺いしました。しかも最初にも曲がある…原作があるのと曲が既にあるのは全然意味合いが違うので、もちろん失礼にもなりうる。このプロジェクトを成功させるには、どうしても宮川さんのお力を借りて参加していただきたい…覚悟のもとでお伺いしました。その時点では、まだプロットでしたが、台本が全部書けていたわけでもないので、”こういうふうに展開します”というのを書いたものをお送りしてこちらに伺ったと言う状況です。
ーー時代設定についてお伺いしたいと思います。フランス革命200周年、物語にはベルリンの壁の崩壊、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、出てはきませんが、天安門事件など、時代がドラステイックに動いた時期だと思います。
田尾下:湾岸戦争でアンディが怪我をしますし。
ーー事件が多い時代というのは物語が作りやすいとか、そういうことはありますか?
田尾下:それは確実にありますね。最終的に不義の恋を良いものとして描くのは倫理的になかなか難しい、でも叙情的に描きたい…どうして2人が愛し合うようになったのか、なぜ夫の方は許すのかっていうのをきちんとお客様にも納得する形にしないと…善し悪しは別にして。しかもそれをミュージカルとしても音楽としても昇華させるとなると最後にやっぱり音楽、最後のセリフ。その音楽や音色がどうなるのかは物語次第、最初からそこが一番肝になるなとは思ってました。
ーータイトルが『プラハの橋』、秋山さんのプロデュース公演で『マディソン郡の橋』は小説から舞台化しましたし、日本では『君の名は』が数寄屋橋。『橋』と聞いてイメージすることは?
宮川:自分の名前に『川』がついてるので、僕にとっては身近な存在ですし、川には興味もあって。ある種のリアリティを感じながら生きています。例えば、地図を人体として捉えると、川は血管であり、その血管に何かが起これば人は生きてはゆけない…といったふうに。そんな川の上に架かる橋。
田尾下:川がなければ橋はいらない。
宮川:僕にとって川がリアリティであるとすれば、橋はドラマティックそのもの。そこは誰が通っても『絵』になるし、こちら側と向こう側があって…渡るときには誰しも必ず風景を見る。走ったり、歩いたり…と、速度も伴って橋をわたるその時に”場面”が動いていく。これは舞台の立体感と似ていますね。ドラマティックが浮き立つような土台が、魅力が、橋にはあります。
ーー今まで繋がらなかったところが橋によって繋がる。
宮川:そうですね。逆に分断して、”ここだけで命を繋ごう”というような考えもある。また、お城に攻め入りにくくする「隔てるための」橋の作り方…ヨーロッパでもみかけますよね。橋…興味深い存在ですね。
田尾下:何かを隔てるものが川…これが障害とは必ずしも限らないし、愛でもあるし。やっぱり相手側に行くまたこちら側に来るっていうことの象徴、シンボルだとは思いますね。ただ確かに物語の中で橋の上のシーンはないですね。
ーーそこはかとなく橋が何かベースにある…。
田尾下:オリジナルの曲の歌詞があるので。
宮川:それが最後に浮き出てくる。
ーー元々3曲あるところから、企画が始まったと思うんです。先ほども宮川さんからこの3曲を聞いた感想も出ましたけども。
宮川:この三部作はすごくクオリティの高い作品で、ヨーロッパというキーワードだけでよくできるな…正直、僕だったら、1曲はワルツにするとか、思い切ってロックンロールにするとか、全部変えるっていうことを考えがちなんですが。ところがこれは3曲ともちゃんと同じところに、ストライクゾーンを…。なんというプロフェッショナル!すごく練られていて熟した日本の歌謡曲。こういうものをつくられる方がいらっしゃるのだな…と。ということで、僕は1度聴いてから敢えて時間を置き、そののちに取り組みました。「その続きを書く」みたいな気持ちでは田尾下さんが僕に頼んだ意味が半減してしまうなと思ったので。安心して忘れた状態で、1ページ1ページ全てをかいていきました。そうしたら「その続き」ではなく、ちゃんと最初のプロット…台本の1ページ目を開いたときに、同じスタートラインに並んで立つことができたんです。
田尾下さんのお話を聞いてなるほどと思いましたが、曲を全部分析してこういうふうに使えるんだという青写真を捉えていたから、上手に切り離すことができて、自分の世界や自分に聞こえてくる音に対して安心して突き進んでいけた、びっくりするぐらいどんどん聞こえてきた。かなりうまくいっている。僕にとっては花のミュージカル。中心に花言葉、お花屋さんも含めての”花”。そこに対する安田さんのアプローチが、とても素直にうまくいって、歌詞が出てきている。こっちも素直に思いついたことをどんどんどんどん進めて、繋がりは考えずに(笑)。そうしたら、最後まで筋が通っていた、というわけです。改めて竹島さんの曲を聴き、これはもう大丈夫そうだなと。非常にいい感じで、筆が進みました。
ーーいろんな花が出てきますが、その花言葉を入れていこうと。
田尾下:そうですね。竹島さんが実際に花言葉、SNSとかでも発信してらっしゃる…秘められた恋なので2人だけの暗号的なものは欲しいですよね。また夫の方が花言葉に全く通じていない、ピンとこないっていう…それぐらいなので、夫の方はまるで気づかない。アンディとローズの間だけでは、”言葉”が通じる、その思い、分かり合える。しかも夫が疎い。
宮川:例えば帰国子女同士、内緒にしたい部分があれば『ここは英語で喋っちゃおう』みたいなことですよね(笑)
ーー花言葉、夫はそういうことには全く無頓着、興味がない。ほかの2人が花にものすごくが興味があり、片方が花屋さんの子…それで2人の合言葉が花言葉。
田尾下:だから2人で通じることができる、ともにフィレンツェ出身、花の都って言ったらフィレンツェ。世界中で花の都って言ったら本当にフィレンツェだけ。 そこに生まれた2人…何か惹かれ合うもの、単に見た目が良かったとか優しいそうだからとか寂しいから相手を求めていただと、その不義の恋にはまるっきり何も後押しできない。一般的には許されないものを何か少しでも理解できるなと。自分はしないし良くないと思ってるけど、何か理解できるなって思うもの、そのきっかけとしてその花、フィレンツェ出身っていうのはすごく大切な仕掛け。
ーー2人が同出身地であること、片方はお花屋さんの子、子供の頃は別に知り合いではなかったけど、話をしたら、「ベッキオ橋ですれ違ったかもね」みたいなセリフもありますね。仕掛けとしての花言葉は面白いですね。
宮川:そうですよね。旦那さんがまるっきり無知だった。
田尾下:僕も未だにわかってないです(笑)
宮川:よくまとまってるんですよね、感心しました(笑)。
田尾下:演奏をしていただける方が…本当に嬉しいです。命を吹き込む方がそうおっしゃってくださるのがやっぱり一番。(宮川)彬良さんがその作品に納得できなかったら、曲は生まれない。まずは伝わる言葉から生まれるので、その言葉を音楽家・作曲家に解釈していただいたものが役者や観客に伝わるので、そこに橋渡しができなかったら、本当に始まらない、彬良さんの曲がスムーズに出てくることがとにかく嬉しくて…「生まれてる、生まれてる」って。やっぱり歌にする理由が必要。
宮川:そうなんですよね。
田尾下:ミュージカルはそこが歌謡曲との違い。劇の音楽をかける彬良さんに、ヒット曲を10曲ではなく、この1時間が40分とかの中での物語、音楽ドラマを描けるっていうのはやっぱりちょっと歌謡曲のことも知りつつ、かつ劇音楽をかける彬良さんがそれをスムーズにかいてくださっている。これほど嬉しいことはないです。
ーー最後にアピールポイントを。
宮川:僕はもしそのほぼ同じような話であったとしても、今のデジタル的な社会設定での話だとしたら、そこまでの興味はそそられないかも(笑)。
田尾下:そうですよね。
宮川:デジタルな社会設定にしていたら、「メールのやり取りの後、ここで感動して音楽が入る…」みたいな流れをみんな考えるだろうし(笑)。テレビドラマでも「LINEが来たよ」なんて台詞で物語が唐突に進んでしまう流れがあったりしますが、僕はそういう展開にはどうにもついていけないことが。古い人間なのかもしれないけれど、こういうものは全部、フォーマットやソフトがあって、アプリケーションがあって…と、その中でしか成立しないものだから。今は譜面をコンピュータで書く人が95%以上。便利なのはわかるんだけれど、僕の場合は、発想が自由じゃなくなって、頭の中に音楽が聞こえてこないんですよね。労力ではあるけれど、ひとつひとつ音符を手書きするほうがとても自由になれるんです。本作は、利便性だけに捕らわれない力、そういうアナログの力が素直に発揮できている作品だと感じます。その設定云々も含めて、ゆったりと味わってほしい。あらゆることを丁寧にみつめること、そして大切な何かを感じ入ることができるいい機会になると思います。2020年代後半に入ろうとする今、若い方はデジタル100%の中に生まれてきているわけだけど、どうやら昔は違ったらしい…と薄々感づく程度でもよいので、「今の時代に紡がれた昔の話」に魅力を感じてもらえたらなと思っています。僕にとって、とても素直にかけた作品です。
ーーアナログ的ですね。
宮川:花言葉ですからね。「アナログな交流」に風流さも帯びている。
ーー花言葉を暗号として使ってる。
宮川:(花言葉を)誰が作ったのか知らないけれど(笑)。それが一般的に広がっていくって…不思議なことですよね。
ーー誰が考えたんでしょうか。
宮川:知らない人は知らない。知らないと通じない。日本の季語に似ているような気もします。
田尾下:しかもそれを共通に理解してないと通じないですもんね。
ーー俳句の季語、すごいアナログですよね。
田尾下:本当に大人の恋の物語でアナログ、彬良さんがおっしゃった通り。彬良さんとはオペラ「ブラックジャック」からご一緒させていただいて。先ほどもちらっと申し上げましたけど、我々がどんなに物語を作ってどんなに作詞しても、やっぱり彬良さんのハートに火が付かないと駄目なんですよね。既に3曲決まってる中で、物語をきちんと納得をしてもらって、私情が、ポエジーが湧いてもらって曲を作ってもらうことは僕たちにとっては挑戦なんです。僕からは彬良さんへのファンレター。安田佑子さんは多分ラブレターなんです。本当に断られることや振られてしまうこと、途中でやっぱり別れようって言われることとか全然あり得るんですよ。本当に誠心誠意我々が積み上げて積み上げて彬良さんにファンレターとかラブレターを送って曲ができた、もう本当に嬉しいんですよね。「いい曲ですね」とか返すのは簡単なんです。でも、相思相愛になる喜び、しかも本番で生演奏をやっていただける。これだけ熱い思いで作ってるもの、絶対に皆さん楽しめます。すごく熱い思いで作ってきましたので、ぜひお客様に伝えたいなと思ってます。もちろん大人の恋なので大人には見てもらいたいんですけど、僕は若い人に見てほしいなというふうに思っています。
ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。
配役
アンドレア・ドゥブレー (Andrea Debray):竹島宏
フィレンツェ出身の父、フランス出身の母を持つ。 ローズと同じ小学校。
親の離婚で苗字がフランス名になる。 愛称はアンディ。
ロザンナ・アダン (Rosanna Adam):庄野真代
フィレンツェ出身のイタリア人で、結婚のためにパリに移住。 愛称はローズ。アンディと同郷。
マルク・アダン (Marc Adam):宍戸開
パリの新聞社の編集長。ロザンナの夫。フランス人。 部下のアンディを信頼し、 指示を出し、ヨーロッパ中のニュースを集めさせている。
Story
時は1989年秋。
パリではフランス革命200年祭が日夜盛大に行われている。
新聞社のパーティに出席しているアンディは、ヨーロッパ諸国のニュースを追う根無し草のジャーナリスト。
雇い主の編集長マルクの計らいで革命祭の取材を兼ねて久々に帰国していた。
パーティの席で編集長の妻として紹介されたローズは、マルクがイタリア出張時に一目惚れしたイタリア人。
実は母がイタリア人だと告げるアンディとローズは同じく花の都、フィレンツェの出身だった。
母国イタリアを離れて暮らすローズは花言葉の話題でアンディと盛り上がり、いつしかローズの求める奇跡の花の話に。
久々に見た明るいローズの笑顔に喜びながらも、一人話題についていけないマルクによって話題は中断される。
出会った当時は大好きな花をいつもプレゼントしてくれていたマルクも今は仕事にかまけてそれもなくなり・・・ローズは寂しさを新たにする。
そのことを察したアンディは、ローズの好きな花を街角で見つけ、その夜そっと玄関に届ける。こうして三人の関係が変わり始め・・・
概要
日程・会場
東京:2025年1月7日〜13日 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
京都:2025年2月10日~11日 京都劇場
出演
竹島宏
庄野真代
宍戸開
スタッフ
作曲:宮川彬良
脚本・演出:田尾下哲
作詞:安田佑子
音楽監督:宮川 知子
美術:松生 紘子
照明:稲葉 直人
音響:清水麻理子
衣裳:大東万里子
ヘアメイク:宮﨑 智子
演出助手:平戸 麻衣
舞台監督:蒲倉 潤
宣伝デザイン:山本 利一
写真撮影:石郷 友仁
宣伝広報・運営・票券 サンライズプロモーション東京/羽谷 薫
制作プロデューサー:杉田智彦
プロデューサー:秋山佐和子
制作(株)アズプロジェクト
企画・製作:(株)リリック
後援:チェコ政府観光局
協力:(株)オフィスK、(株)ルフラン、(株)acali
公式サイト: http://musical-prague.com/prague
公式X:https://x.com/Praguebridge
聞き手・構成:高浩美