2023年度 日本レコード大賞企画賞 受賞曲竹島宏が歌う「プラハの橋」「一枚の切符」「サンタマリアの鐘」『ヨーロッパ三部作』をモチーフにして生まれたミュージカルが1月7日、開幕。
男が一人、登場、彼の名はアンディ(竹島宏)、歌うは「1枚の切符」『ヨーロッパ三部作』、遠くにいる女性、名はローズ(庄野真代)、カバンを持って立ち去る。そしてアンディのモノローグ「僕たちは出会わない方が良かったかもしれない」と呟く。
それから時間が遡る。時は1989年フランス革命200周年、パリはお祭り騒ぎ、パリサミットもこのタイミング、華やかなイベントが目白押し、世界の目がパリに集中した年だ。アンディはフリーのジャーナリスト、働いている新聞社のパーティが催されていた、手にはシャンパングラス。もちろん、アンディも出席、そして彼を”推してる”編集長・マルク(宍戸開)、上司と部下の関係だが、男同士の友情のような空気感も感じられる。そこへマルクの妻・ローズがやってくる。上機嫌なマルク、腰に手を当ててシャンパンを飲む。互いにごく普通な自己紹介をしたところ、同じ出身地・花の都、フィレンツェであることがわかる。”同郷あるある”なローカルな話題で盛り上がる二人、さらに花言葉で盛り上がる。
その会話についていけないマルク、”ぽっち”を持て余す、顎に手を当てて二人を見ている。花が好きな二人、花言葉の起源は、セラムと呼ばれるトルコ流の恋文にあるとされている。セラムは小箱に入れた花や果物や絹糸などの小物に意味を持たせて、気持ちや言葉を伝える表現方法。アンディは「花たちのラブレター」と言い、ローズは「言葉が分からなくても読める恋文ね」と返す。意気投合、「花のラブレター」歌詞もメロディもロマンチックだ。運命の出会い、だが、この時点ではまだ二人は気が付かない、いや無意識のうちに惹かれあっているのかもしれない、そんな想像ができるナンバーだ。
この年、世界情勢はどこかドラスティックに動く”予兆”はあった。旧東ドイツで民主化を求める市民の動き、編集長・マルクはその空気をいち早く感じ取っていた、「政治の動向がきな臭い」と。アンディはベルリンに取材にいく予定があった。壮行会を開こうというマルク。出会いから1週間後、おしゃれなレストランでアンディ、マルク、ローズで食事、上機嫌のマルクは自分たちの馴れ初めを即興芝居で。気のいいマルク、演出、主演(笑)ここでマルクが”あることに”挑戦するので、ここは必見。彼の話によるとマルクがローズに猛アタックしたということがわかる。小芝居は他のお客からも拍手、すっかり気分良く、だが忙しいマルクは慌ただしく中座。
故郷のフィレンツェの話、ローズは「初めて会った気がしない」と言う。好きな花、二人ともオレンジのばら、花言葉は「絆」。そして見たことのない青いばら、花言葉は「奇跡」。この当時は青いばらは存在していなかった。「見つけるのは不可能」と歌うローズ。レストランでの食事、忙しいマルクは途中で会社に戻る、ローズとアンディもそれぞれ帰路に着くもお互いの心の中に小さい”何か”が灯る。アンディは帰り道、たまたま通りかかった花屋でオレンジのばらを見つけ、ローズの家の玄関にそっとおき、ローズは人の気配でドアを開けるとそこにオレンジのばら。
ここから、この3人の関係に変化が。花言葉と花の都、フィレンツェが結ぶ縁、このミュージカルの基になっている竹島宏が歌う『ヨーロッパ三部作』、まさにこの3曲からインスパイアーされた作品、そこに宮川彬良の多彩でロマン溢れる楽曲が加わり、よりドラマチックな印象に。アンディ、ローズ、マルク、実は3人ともどこか寂しい。独り身のアンディ、両親が離婚、そのために大好きなフィレンツェを離れ、パリに、しかもフリージャーナリストとして世界中に取材に行くも、恋愛には奥手の様子。ローズは、マルクの熱いアプローチを受けて結婚、新婚時、マルクはローズのために花を買ったりしていたが、次第にそれもなくなり、隙間風が吹くようになり、食事を支度をするも、それが無駄になることがたびたびあり、次第に寂しさと虚しさが募る。マルクは仕事人間で基本的に人はいいが、妻がいることが当たり前になり、ローズの気持ちを察することができなくなっている。それぞれの立ち位置、気持ち。アンディ役の竹島宏とローズ役の庄野真代、さすが、歌唱力も抜群。ローズよりグッと年下のアンディは志を持って仕事をし、自分の気持ちに正直、そして図太いキャラではなく、むしろ繊細、そこを体現。ローズ演じる庄野真代、落ち着いた大人の女性、だが時折少女のような声のトーン、可愛らしさと円熟味が同居。そして編集長・マルク、宍戸開が演じているのだが、パーティや食事のシーンではムードメーカー、ただ、妻がいることが当たり前になってしまい、仕事ばかり、そして浮気疑惑も、人間臭い、本来なら「ダメダメ」でもキャラの良さで愛嬌も感じる。
結末はなんとなく見えてしまうが、結末よりもそこに至る過程、散りばめられた花と花言葉、オレンジのばらと青いばらが呼応する。ベースにある「橋」、舞台上には橋のようなセットが組まれており、そこに佇む、愛し合う二人が話しあったり、遠くを見つめていたり。橋、行き来する、すれ違う、出会う、立ち止まる、象徴的。社会的には許されない恋路、わかっているし、葛藤もあり、抗おうとするも愛の力が勝る。3人3様の気持ちと行動、観客は、共感したり、いや自分はそうしないと思ったり、様々な捉え方をするだろう。しかし、そこに正解はない。だから、人間。そして花と橋が物語を彩り、語りかける。パリ、プラハ、フィレンツェ、3つのヨーロッパの都市、そしてそこにある橋、『ヨーロッパ三部作』の楽曲にこのミュージカルのために創作された楽曲が加わり、客席に”語りかける”、愛は絆、奇跡。大人の観客はもちろん、若い世代にも響く作品、東京は13日まで。京都は2月。
<宮川彬良×田尾下哲対談記事>
配役
アンドレア・ドゥブレー (Andrea Debray):竹島宏
フィレンツェ出身の父、フランス出身の母を持つ。 ローズと同じ小学校。
親の離婚で苗字がフランス名になる。 愛称はアンディ。
ロザンナ・アダン (Rosanna Adam):庄野真代
フィレンツェ出身のイタリア人で、結婚のためにパリに移住。 愛称はローズ。アンディと同郷。
マルク・アダン (Marc Adam):宍戸開
パリの新聞社の編集長。ロザンナの夫。フランス人。 部下のアンディを信頼し、 指示を出し、ヨーロッパ中のニュースを集めさせている。
Story
時は1989年秋。
パリではフランス革命200年祭が日夜盛大に行われている。
新聞社のパーティに出席しているアンディは、ヨーロッパ諸国のニュースを追う根無し草のジャーナリスト。
雇い主の編集長マルクの計らいで革命祭の取材を兼ねて久々に帰国していた。
パーティの席で編集長の妻として紹介されたローズは、マルクがイタリア出張時に一目惚れしたイタリア人。
実は母がイタリア人だと告げるアンディとローズは同じく花の都、フィレンツェの出身だった。
母国イタリアを離れて暮らすローズは花言葉の話題でアンディと盛り上がり、いつしかローズの求める奇跡の花の話に。
久々に見た明るいローズの笑顔に喜びながらも、一人話題についていけないマルクによって話題は中断される。
出会った当時は大好きな花をいつもプレゼントしてくれていたマルクも今は仕事にかまけてそれもなくなり・・・ローズは寂しさを新たにする。
そのことを察したアンディは、ローズの好きな花を街角で見つけ、その夜そっと玄関に届ける。こうして三人の関係が変わり始め・・・
概要
日程・会場
東京:2025年1月7日〜13日 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
京都:2025年2月10日~11日 京都劇場
出演
竹島宏
庄野真代
宍戸開
スタッフ
作曲:宮川彬良
脚本・演出:田尾下哲
作詞:安田佑子
音楽監督:宮川 知子
美術:松生 紘子
照明:稲葉 直人
音響:清水麻理子
衣裳:大東万里子
ヘアメイク:宮﨑 智子
演出助手:平戸 麻衣
舞台監督:蒲倉 潤
宣伝デザイン:山本 利一
写真撮影:石郷 友仁
宣伝広報・運営・票券 サンライズプロモーション東京/羽谷 薫
制作プロデューサー:杉田智彦
プロデューサー:秋山佐和子
制作(株)アズプロジェクト
企画・製作:(株)リリック
後援 チェコ政府観光局協力(株)オフィスK (株)ルフラン(株) acali