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Zu々(主宰:三宅優)プロデュース、舞台『ノンセクシュアル』が2025年2月7日~ 2025年2月12日に横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホールにて上演される。
2020年のコロナ禍に朗読劇に切り替えて配信した作品を5年ぶりにストレートプレイとして当初の企画通りに上演。
演出は、朗読劇に役者として出演した鯨井康介。役柄を変えて、今回は村山蒼佑役として朗読劇に続いて出演の松村龍之介。松村とWキャストに新井將。そして、藤木瑛司役には、星元裕月と加藤ひろたか(柿喰う客)がWキャストで出演する。シングルキャストには、秋野侑李役 小柳心、富永秀樹役 神里優希、浅井塔子役 立道梨緒奈と実力派が揃った。稽古真っ盛り、演出の鯨井康介へのインタビューを行った。
ーー2020年の公演は拝見させていただいてます。スペードバージョンでした。
鯨井:ありがとうございます。僕が村山蒼佑を演じたバージョンですね。
ーーあの当時はちょうどコロナ真っ最中でしたね。急遽、朗読劇の形式にしたんですよね。
鯨井:元々はストレートプレイでやろうと思ってた作品でした。コロナ対策として俳優一人一人にブースを作っていただきました。
プロデューサーの三宅優さん始め、演出の西沢栄治さんに模索していただき、作品を世の中に届けるという思いが強かったからこそ、ブースでしっかりと区切っての上演となりました。コロナ禍のさまざまな苦労を皆さんも経験されたと思うんですけれども、その中で考えて、ああいう形になったと認識してます。
2020年公演
ーー最初はストレートプレイでやると思っていたら、コロナ禍で急遽朗読劇になって…実際にやったときの思い出や印象に残ったことなどございましたらお願いします。
鯨井: Zu々プロデュース公演で、『怜々蒐集譚』という作品をやった際、共演した相葉裕樹と相馬圭祐と僕の3人が世代も近くて…。3人で何か芝居がしたいねっていう思いがわき、三宅さんに何か僕ら3人でできないだろうかと話を持ちかけたところ「ノンセクシュアル」を紹介していただいたのが企画のスタートでした。
濃密な人間関係を描いた作品を、あえて一番隔離されたブースの中という状態で、濃密さを逆に出していく。朗読というスタイルでそれを出していく作業は逆にとても面白かったし、すごく興味深かったです。
あの時期、一緒にいること、同じ空間にいることを極力減らさなくてはいけなかったので、その分すごく短期集中で稽古していたことがまず印象的で、集中力がいつもとまた違うものがありました。
演出で一番すごく残っているのは、蒼佑が最後にブースをナイフを使って破っていく…。これは演出の西沢さんによって生まれたんです。それはキャラクターに対する執念が、あれを表現として産んだし、僕の中ではどこか、当時の世の中に対する憂さ晴らしじゃないですけれども、もう一つ何か脱却したいような気持ちもちょっと乗っかったりして…作品的にはすごくそこが印象に残っています。
ーーコロナ対策でブースを作りましたが、それによって、物語がまたひとつ濃い感じの印象でした。最後のブースを破るシーン、作品の提示の仕方、コロナ禍でやむにやまれぬ状況ではありましたけど、これは面白い表現だと思いました。
鯨井:ピンチはチャンスじゃないですけれども、さすが西沢さん、素晴らしい演出してくださった、作品を届けてくださったなっていうのはすごくありますね。僕は”観て”という感想ではないのですが、もう無我夢中でやってました。朗読という形、本当に言葉のみに集中できる環境がまたすごく良かったんじゃないかなと。この作品は会話が基本ベースで、2人のシーンがすごく多い。朗読という形は表現の一つとしてはいい形だったのかなと思いました。
ーーほぼ3人しかいないというところが…。
鯨井:そうですね、僕ら発起人である3人がキャラクターを回していくっていうのも面白かったと思いますし、2役ずつ…それぞれの仲間の自分とは違うアプローチを見るのは単純にすごく楽しかったですね。”初めまして”の人とかだと、役者としては緊張したり、(相手が)どうやるんだろう?というのもあるし、先にやられた!って感じることもあるんですよ。でも仲の良い役者たちでやったので、すごくポジティブで楽しかったのを覚えてます。いい意味のライバル感というんでしょうか、”お前がそうやるなら俺はこうやろうかな”っていうような、ポジティブにいろんなものが考えられたのはやはり仲間と一緒にやってたからかなっていう気持ちもしますね。
ーー今回、劇場も再び赤レンガ倉庫一号3Fホールです。ただ、今回は演者ではなくて、演出という立場で、ストレートプレイ。2020年に元々やろうとしていた形式で今回はやることになるわけですが、何か演出プランなどございましたらお伺いさせてください。
鯨井:役者として出演していたので、役者側から見た作品の性質やキャラクター性は理解しているつもりです。それは今回演じてくださる皆様に対していいディスカッションができる材料にはなるだろうなと思ってます。登場人物が5人というシンプルな構成の作品だからこそ、よりキャラクターの関係性にフォーカスをした演出をしたいと思っています。
朗読劇ではある意味、関係が言葉としてよく見えた。これを実際にフィジカルを使って演じたときに失ってはいけない。(実際にフィジカルで動くと)大きな要素として”情報”は入ってくるので、それを信じた上で、中身をすごく大事にしていこうと言うのが、僕の中で大きく持っている演出プランだと思います。
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ーーメインキャラクター2人、プラス3人の5人で演じていく空間と、あの朗読劇で感じた良さをストレートプレイにも反映させたいと。
鯨井:そういう思いはすごくあります。朗読の形式も好きでしたので、僕としては出演経験を持っている人間が演出するなら、そこはやはり大切にしたいです。
ーーご自身が前回公演では2つのキャラクターをやっていたので、そこがやっぱり強みになっていますか?
鯨井:なってると思いますね。だからこそ逆に、演じたことのないキャラクターたちが、自分が演じたキャラクターをどう見ているのかだったり、あるいは”そもそもの彼の本質は何なんだろうな”っていうところに関しては時間をかけてます。
僕としては普段は俳優をやっている身なので、1回全キャラクターをやってみるのが演出する場合、正しい道なのかなとも思うので、ずっと1人で自分が全キャラクターやるとしたらっていう感じですね。
蒼佑と侑李を演じたので、蒼佑と侑李を演じる俳優には、もしかしたら、今している”オファー”は一歩先に行ってる可能性もあるなと思っています。僕が持っている核心… 彼らの準備を待たずに言ってはいけないなって逆に制御してるところもあります。僕が焦らないようには気をつけてます。
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ーー今回の座組もいい感じですね。松村龍之介さんは再びの登場ですが、前回とは違う役柄での出演です。
鯨井:(松村)龍之介は初演では、シングルキャストで秀樹の役でした。彼には僕が演じた蒼佑をお願いしたいと思っていました。実はこれも当時から龍之介には多分話してたと思うんですよね。
初演時、コロナ禍で朗読形式になってしまいましたけど、もう一回、自分たち同じキャストで演じる感覚はなかったんですよ。当時のコロナ禍は先が見えないし、いつまで続くかわからなかった。2020年はコロナ禍の初期でしたから、時間が進んでいけば進んでいくほど通常の感覚は失われていくし、その時キャスティングされた僕たちが再集合することもあまり考えられなかった。その中で龍之介は、蒼佑に絶対に合うよね、みたいな話をしてた記憶があります。時を経て年齢的にもちょうどいいので、僕の中で実はファーストチョイスでした。再演するならば、2020年の朗読の匂いも知ってるし、彼が蒼佑として入ってくることはすごくいいなと思ってました。なにせ顔がいいじゃないですか(笑)。松村龍之介、あの美しいお顔に蒼佑をやられたらもう勝てないっていうのもあるし、彼自身のお芝居を僕は好きなので期待はすごくありますね。
新井將は僕が演出させていただいた舞台『弱虫ペダル』に出演してくれて、彼の演劇に対する執着、演じるキャラクターに対する執着心を当時からものすごく見せてくれていて。この”執着”と言う言葉が蒼佑にとってはすごくキーワードになってくるので、誰がいいかなと思っていたときに…相性がピッタリでしたね。
瑛司役に星元裕月さんと加藤ひろたかくん。瑛司役にとって大事なことは”色気”だと思ってます。彼らにも、そして初演の相葉くんにも相馬くんにも、いい意味での”人たらし”な部分をすごく感じています。加藤くんは三宅さんからご紹介していただいたので”初めまして”ですが、実際に会ってみるとなんとも言い難い魅力。一見すごく朴訥として普通な青年に見えるんですけれども1度言葉を発したり、表情を動かすと本当に独特の魅力があって。それでいてナチュラルですごく人間らしい。魅力という言葉よりも色気の方が似合うような…。星元さんはすでにジェンダーの公表もしていますし。いろいろな話もしましたが、それより何よりも星元さん自身が魅力的。更に執着されている時の困り顔、逃げ顔の表情に、ものすごく色気があって。二人の瑛司がすごくいい。ぜひ、どちらのバージョンも見ていろいろな解釈、いろいろな目線で作品を楽しんで欲しい。瑛司目線で追うことが多い作品だと思いますが、彼らを通じていろんな”旅に”出てもらえると思います。
神里優希は可愛いんですよ。彼はナチュラルに素敵な男。これは秀樹と言うキャラクターにとても大事なこと。秀樹の人間性がすごくこの作品の救いになっている部分はとても多いですね。チャーミングっていうんでしょうか、稽古場自体にもすごく良い作用を起こしてくれてます。優希が秀樹でよかったなと思ってます。
立道(梨緒奈)さんもご紹介していただき”初めまして”なんですが、立ち姿の美しさはもう僕の求めていた浅井塔子だし、今の時代に合ってると言うんでしょうか、すごくウーマンパワーを感じます。女性としての美しい強さをとても感じる女優さんです。立道さんの塔子は魅力的ですし、強いだけでなく、コミカルな部分も持ってるので、そういう両面を持ってる女優さんですごく安心で信頼しています。
小柳心くん、友達です(笑)。彼は本当に演劇に対して情熱的で、紳士的。それでいてすごく真摯に、情熱的にふざけている。軽やかに世の中を歩いていくみたいな…僕にとっては出会った頃から不思議な存在で、ある意味、太陽みたいな男なんです。この作品において彼が演じる侑李はある意味天使だと思っているのですが、期待通り、その天使をとても朗らかに演じてくれています。僕は、他のキャストとは歳が離れていて、良くも悪くも先輩で演出家という立場ですが、小柳くんとは本当に世代も一緒で長く戦ってきた仲で、戦友…。正直な話、寄りかかれる存在がいてくれることにで、キャストと演出家という立場を超えて信頼というか、心強さを稽古場で今すごく感じています。あとはもう出してくるアイディアがいちいち面白いんですよ。”やってくれる?”、”OK”っていう感じで。俳優として面白いなと改めて実感しています。
ーー最後にお客様に向けてメッセージをお願いします。
鯨井:いろんな道を経て、今、僕らはここに居て、僕たちが届けようとしているのは、人間の話。セクシュアリティというものが前面に出ていますけれども、僕はその先にある人と人との関係性をすごく描いていきたい。それを感じていただける作品であり、実は日常的な作品だと思います。実はとても身近な話であると思うのです。きっとそこを感じてもらえると思いますし、観劇後に”自分って誰だろう”なんて思うのではないでしょうか。この作品を見ると、多種多様な人間、関係性があるからこそ、”自分って何だろう”って思える作品になるのではないかなと思います。
そんな作品にしたいなと思っていますので、観にきてください。しかも2バージョンあります。どちらも全然違う人たちが出てきます。ぜひ何度も見て、ぜひ迷って帰ってください(笑)。あなたという人はどんな人ですかということを迷って帰ってください。これが今、お伝えできる希望と所信表明です(笑)。ぜひ劇場で体感してください。
ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。
<初演レポート記事>
概要
『ノンセクシュアル』
公演期間:2025年2月7日 (金) ~ 2025年2月12日 (水)
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホール(神奈川県横浜市中区新港 1丁目1番1号)
出演者
村山蒼佑:松村龍之介/ 新井將 ※Wキャスト
藤木瑛司:星元裕月/加藤ひろたか(柿喰う客) ※Wキャスト
秋野侑李:小柳心
富永秀樹:神里優希
浅井塔子:立道梨緒奈
公式サイト:https://www.zuu24.com/non_sexual_2025/
取材・構成:高浩美