舞台『ノンセクシュアル』上演中 愛と執着は同じなのか、違うのか……。

Zu々(主宰:三宅優)プロデュース、舞台『ノンセクシュアル』が2025年2月7日~ 2025年2月12日、横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホールにて上演中だ。
2020年のコロナ禍に朗読劇に切り替えて配信した作品を5年ぶりにストレートプレイとして当初の企画通りに上演。
演出は、朗読劇に役者として出演した鯨井康介。役柄を変えて、今回は村山蒼佑役として朗読劇に続いて出演の松村龍之介。松村とWキャストに新井將。そして、藤木瑛司役には、星元裕月と加藤ひろたか(柿喰う客)がWキャストで出演する。シングルキャストには、秋野侑李役 小柳心、富永秀樹役 神里優希、浅井塔子役 立道梨緒奈と実力派が揃った。
舞台を取り囲むように客席。舞台セットは抽象的で中央にベッド。このセットの模型がロビーに飾られており、これは撮影可能。村山蒼佑役に新井將、藤木瑛司役に星元裕月で観劇。


男が舞台に佇んでいる。彼の名前は富永秀樹(神里優希)、そこへもう一人、藤木瑛司(星元裕月)。二人は愛し合っている仲だが、瑛司は他に好きな人ができたら、そちらにもいく、女性とも付き合えるタイプ。対する秀樹は一途、浮気は許容できない。そんな二人、さざなみが起きるのは必然。元恋人・浅井塔子(立道梨緒奈)、彼女は瑛司とよりを戻したい。瑛司も満更でもない。秀樹はそんな瑛司にキレる「ゲス野郎!」。瑛司はバイセクシュアルとサラリと言う。それが彼にとっては”普通”。彼らのやりとりは時にはシリアスで時にはコミカルに映る。客席からは時折、笑いも起こる。

そんなおりに背の高い男が現れる、彼の名は村山蒼佑(新井將)、これがことの始まり、夕食を自分の家で食べないか、と誘う瑛司。瑛司を中心に蒼佑、秀樹、塔子、瑛司、絡み、絡まれる。愛、狂気、嫉妬、相手を想うからこその感情。蒼佑の行動、狂気をはらみつつ、瑛司への執着、愛と執着は同じなのか、違うのか、そこは見る人の解釈、また、キャストが醸し出す雰囲気によって空気感やニュアンスは変わってくる。舞台の上にベッドではなく、中央は低くなっており、舞台とベッドの表面は並行。この舞台とベッドの間、ベッドを囲むように”溝”とでも言うのだろうか。

マネキン、リアルなタイプではなく、抽象的であり、性別不明にも感じる。男とか女とか、そういったものを乗り越えた、人と人とのつながり、気持ち。秋野侑李(小柳心)、この中ではちょっと変わったタイプ、立ち位置。瑛司を友達として捉えている。カモノハシ、コツメカワウソをこよなく愛している、一風変わった人間だが、情が厚く、共感できるキャラクター。ショッキングな展開もあり、濃密な空間で没入感もあり、彼らは何処へいくのか、何処を目指しているのか、そして翻って、自分はこの物語に対してどういう思いを抱くのか、明快な答えはない。ただ、そこにある感情と思いだけが、彼らを支配しているだけだ。星元裕月演じる瑛司、色気が漂う、この瑛司なら秀樹や塔子、蒼佑らが心奪われるのも納得。新井將の蒼佑は妖しい魅力をたたえながら、舞台上に佇み、そして行動する。

生真面目な秀樹、神里優希がその実直さを見せ、立道梨緒奈の塔子は闊達そのもの、女性らしさとしなやかさを見せる。物語の展開もさることながら、登場人物たちの心に渦巻く複雑な心理。アセクシュアル、ゲイ/ホモセクシュアル、ヘテロセクシュアル、皆、違うタイプだが、彼らの感情や思いは特別なものではなく、誰しもが持ちうるもの、だから共感もするし、時には戦慄も覚える。

ノンストップの100分。会場になっている横浜赤レンガ倉庫もよくある劇場と異なり、建物自体、風情がある。公演は12日まで。季節はちょうど春節、劇場の外は賑やかな催しものをやっているので、その雰囲気を味わってから芝居を見るのも一興だ。

<鯨井康介インタビュー記事>

舞台『ノンセクシュアル』演出・鯨井康介インタビュー

<初演レポ記事>

朗読劇『ノンセクシュアル』~森奈津子芸術劇場 第2幕~、濃密な「NO MEETS」、感じたままを心に留める

概要
『ノンセクシュアル』
公演期間:2025年2月7日 (金) ~ 2025年2月12日 (水)
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホール(神奈川県横浜市中区新港 1丁目1番1号)
出演者
村山蒼佑:松村龍之介/ 新井將 ※Wキャスト
藤木瑛司:星元裕月/加藤ひろたか(柿喰う客) ※Wキャスト
秋野侑李:小柳心
富永秀樹:神里優希
浅井塔子:立道梨緒奈

公式サイト:https://www.zuu24.com/non_sexual_2025/
舞台撮影:NORI