
医師・中村哲が遺した⽣涯の活動をテーマに、「⽣きること」の本質を問うオリジナル⾳楽劇『⽣きるということ 〜The Meaning of Life〜』が、`25年4⽉25⽇〜27⽇に、吉祥寺 ROCK JOINT GBにて上演される。 作品は中村医師の⼈⽣を凝縮した劇場版ドキュメンタリー『荒野に希望の灯をともす』(監督・撮影:⾕津賢⼆)からインスピレーションを受け、中井智彦が脚本・演出・出演を⼿掛けるオリジナル新作音楽劇。中村哲医師は、アフガニスタンで戦乱や干ばつに苦しむ人々を救うためには医療だけでは限界があると痛感し、誤解や障害に晒されながらも、水路を作り、土地を潤し、農作物を蘇らせ、多くの命を救った。戦争や干ばつに苦しむアフガニスタンの人々を救うために、中村医師は医療の枠を超えて水路建設というプロジェクトに挑み、多くの困難を乗り越えながらも土地を潤し命を懸け続けたが、志半ばで凶弾に倒れた。 彼の行動が示した「平和」と「共存」の姿勢は私たちに「生きる」ということの本質を問いかけている。本作では上野哲也・中井智彦・樋口祥久が、中村医師とアフガニスタンの人々、そして取り巻く社会情勢を演じ、シリアスかつユーモアが織りなすステージ構成で医師の想いに敬意を込めた舞台。企画の発案者である中井智彦と中村医師役の上野哲也、そしてドキュメンタリー映画『荒野に希望の灯をともす』の⾕津賢⼆の鼎談が実現、企画のきっかけ、中村医師について、そして作品のテーマなどについて語っていただいた。
ーーこの企画の発端、中村医師のお話を音楽劇にしてみようと思ったきっかけをお願いいたします。
中井:僕はミュージカルに出演する側で、色々やらせていただいてるのですが、アーティスト的な思考も結構ありまして…自分の主義や主張、今、社会に対して考えてることを自分の言葉にして発信したくなっちゃうんです。その中で曲を作ったりしてましたが、曲の中では収まりきれず、脚本にしてお芝居にしようと。僕自身が責任を持って今の社会において、誰かの助けになったら、誰かの励みになったらいいなという思いで作品を作っています。僕が中村哲医師を初めて認識したのは、国会中継でした。2001年9月11日のテロの時、僕は高校生でしたが、日本がどうなってしまうのかとか…それこそ戦争が始まるような恐ろしさを感じ、その恐怖の解決策が国会中継を見るしかなかったんです。それを見ていた時にちょうど、中村哲先生が出られていて、その時の国会中継がすごく印象に残ったんです。アフガニスタンの現状を淡々と話す中村哲医師。「彼らに必要なのはミサイルではなく水です、食料です」と…ミサイルを共有することが当たり前の議論の中で野次を入れられながらも、訥々と話す中村医師の平和とアフガニスタンの人たちを思う心のお話が、国会ではすごく浮いてる存在に見え、僕には不思議な存在に感じました。その印象をずっと持ったまま、大学生になり、ミュージカルや舞台をやってました。その後2019年に中村医師が亡くなったと聞き…大きなショックを受けました。あの国会中継でお話ししていた方だと。用水路を作ったことは知ってましたが、中村医師のことをもっと詳しく知りたいと思っていた頃に、何かに導かれるように谷津監督作品の『荒野に希望の灯をともす』を映画館「ポレポレ東中野」で観劇しました。人間の尊厳を大切にし、争わずにこれだけの信頼を得てアフガンの人たちと生活している中村哲医師の姿を見て「生きるってこういうことじゃないか」という深い確信を映画からいただきました。そして、僕はこれを作品にしないと後悔すると思い始めて、そこから脚本を書きました。
ーー今の中井さんのお話を聞いて感じたことは?
上野:僕は中井さんから『荒野に希望の灯をともす』という映画があると聞き、先入観や予備知識なく、映画を見ました。今、中村哲先生を演じるにあたって自分なりに勉強しているのですが、当時は背景も何も知らない状況でスクリーン、映画で見まして…国とか、そういうものを全て超えて、そこにいる目の前の人と心の交流をしている中村哲先生の姿に感動、感銘を受けたのが最初でした。それで中井さんからこの企画をお伺いしまして、中村哲医師を知ってもらうにあたって難しいところは、パキスタンやアフガニスタン、中央アジアというのが、日本人にはなかなか歴史的にも文化的にもわかりづらいところがあることだなと思いました。しかし、音楽劇にするとそのような文化的背景や時間軸を音楽でダイナミックに超えて行けるところがある。中井さんがおっしゃっていた国会を見ていて違和感を感じたということが、中村哲さんの存在がある種、特異に見えたということの背景が音楽の部分でもどんどん表現されている感じになっているので、すごく面白い作品になるのではないかと思っています。
ーーありがとうございます。監督にお伺いいたします。ドキュメンタリー映画に触発されて、また中井さんが元々中村医師のことを知っていたということですが、中村医師の生涯が音楽劇になるということを最初に聞いた感想をお願いいたします。
谷津:私は中村医師の生き方を映像で長い時間伝え続けてきました。中井さんは私の映画を通して非常に深く中村先生と向き合ってくださり、音楽劇をやりたいと言ってくださったときは、端的に嬉しかったですね。私は長く中村医師を映像で伝えてきましたが、そんな中で、誰が言い出したわけでもなく、さまざまな方がさまざまな方法で中村医師のことを後世に伝えて始めています。例えば、さだまさしさんとか石橋凌さん、八神純子さんたちが中村医師のことを歌い、また私が知る限りではスタンダップコメディアンの松元ヒロさんが舞台にし浪曲や講談で語られ、さらには子供用のアニメになり、教科書で取り上げられる。そういった動きのなかで、中井さんは音楽劇中村医師を伝えてくださる。私は事実を積み上げて中村医師はこういう人だと表現するのですが、芸術家の皆さんが作った歌「生きるということ」YouTubeで聞いた時は、もう、なんというのでしょうか、芸術家として中村先生をきちんと捉えてくださっている、向き合ってくださっているということを強く感じ、とにかく嬉しいという表現しかなくて…。私も中村先生のことを後世に伝えていく一人、中井さんも上野さんもその中の一人で中村哲という人物はみんなの心の中に生きている。
ーー最初メールをいただいたとき、中村医師のお話はよく覚えていましたので、難しい題材ではなりますが、そういうことにチャレンジして後世に残し、繰り返し上演していくのだなと思いましたし、やりがいのある挑戦だと思います。その音楽劇ですが、中井さんのライブにゲストに来た上野さんが中村医師について語り始めるという設定で、そこから上野さんは中村医師の役になるわけですが、そういった構成の面白さや難しさをお願いいたします。
中井:この作品は上演場所がライブハウスなので、この場所の特性を活かそうと思い、トーク&ライブという形で始まる構成にしました。会場は僕が大好きな「ROCK JOINT GB」という箱で、ライブハウスの中でも、お芝居としての照明感がすごく作りやすくて、楽器の音の良さを繊細にピックアップすることができるライブハウスなんですよ。僕はここでよくお芝居を作らせていただいているので、僕らのリアリティが作りやすいんです。僕と上野さんのトーク&ライブから始まり、上野さんに中村哲さんの話をしてもらったところから、アフガニスタンに世界が飛んでいくなど、イマジネーションの世界に入っていく予定です。上野さんには、上野さん自身と中村哲医師の2役を演じていただきます。中村哲医師のセリフは物凄い量のひとり台詞なんです。僕が自分でやろうと思ったらちょっと青ざめちゃうようなりょうの台詞を脚本に書き起こしたのですが、上野さんだったら絶対やってくれるという思いからお願いしました(笑)。中村医師の人生観、見た世界を僕はいろんな人に見て、感じて欲しい。僕が演劇として、お芝居として作りたかったものは「生きる」ということ、その先に希望が見えてくるような、それを持ち帰っていただけるような・・そんな想いを込めて脚本を書きました。上野さんはご自身と中村医師の2役ですが、僕は谷津監督や国会議員など、いろんな役をやります。それからダンサーの樋口祥久さんにはアフガニスタンの人々や喫茶店の店員さんだったり、踊りだけでいろんなものを表現していただきます。僕のやりたいことをぎゅっと詰めこんだ作品なので、僕の頭の中にあるものを立体的に作る作業が楽しくてしょうがないんです。
上野:僕は最初、上野役で出るのですが、脚本を書いたのは中井さんで台本をいただいた時に「こういうふうに僕自身を見抜いているんだな」っていうところに面白みを感じました。実は中井さんが谷津監督になるのも、僕と中井さんの関係性の中から出てきていて、僕を通して何かを見ている、そういうところとうまく繋がっている。僕は中村医師役を最初からやりたいと言っていたわけではなく、彼が僕に何か重なるところを見出してくださったのですが、それが作品の中の上野役にちょっと投影されているのが不思議な感覚というんでしょうか、やはり彼の視点を通した登場人物・上野になっていますね。僕のことをこうやって外から見てる人がいたんだみたいな不思議な感覚があります。今は、その台詞とちょっと格闘している感じですね。
ーー元になっているのが谷津監督のドキュメンタリー映画ですが、ドキュメンタリー映画と、それから音楽劇、演劇、ファンタジック、フィクションなわけですけれども、でもドキュメンタリーはノンフィクションということである意味、逆な立ち位置にあると思うんですが、それについて監督はどう感じますか。
谷津:ドキュメンタリー映画はおっしゃる通りノンフィクションです。中井さん達がやってくださる音楽劇はフィクションというよりは、ノンフィクションがベースにあって、それをお2人が解釈されたものが出てくる舞台なんだと…ちょっと難しい言い方ですが、そう思っています。違和感はないですし、むしろ、中村哲という人物の生き様をシャープに描く場合、舞台が日本であるとかアフガンであるとかはあまり関係なく、中村医師が何を見つめ、何を考えて、どんな風に人と関わって生きてきたのかということが表現されれば中村医師の生き様が皆さんの力で、舞台上に立ち上がってくるんだろうなと思っています。
ーー会場がライブハウスで行うのがポイントかなと思うのですが。普通の劇場でもなく、小ぶりの劇場でもない…
中井:ライブハウスと言いながら、僕は小劇場だとも思ってます。ライブハウスとしての音響PAの素晴らしい腕があるので、エレキギターやバイオリン、キーボードと声のミックスが、この場所を愛している人が作り出す音感に感じるんですよね、わかりますかね?笑僕はそんな愛のあるこの場所が好きで、ここでやらせていただいてます。今回は音楽劇なので、本当にずっと音楽が流れ続けています。作曲の長濱司さんが僕の作品作りのパートナーなんですけども、僕が思うアフガニスタンのイメージの楽曲だったりとか「ここでこういうことが起きるからこういう拍子でこんな感じのメロディーを作ってほしい」という曖昧なリクエストをに呼応して最高の音楽を作ってくれる方なんです。『生きるということ』という表題曲をまずライブで歌わせていただきました。この曲はある種のロックだと僕は思っています。SNSや遠くの名前もわからない人の責任を取らない言葉ではなく、今ここにいる人たちを感じて、愛して、抱きしめあって生きていこうよ。そんな想いを中村哲医師から受け取り、この『生きるということ』という楽曲が出来上がりました。この作本をミュージカルと銘打ってないのは、歌う楽曲が2曲しかないからです。ただ、たくさんの音楽に溢れた作品なので、あえて音楽劇と言ってます。
ーーありがとうございます。難しい質問ですが、皆さんにとって中村医師はどのような存在でしょうか。
中井:僕は高校生の頃に見た国会中継から実は印象は変わっていません。周りの空気に揺るがされることなく、自分という主軸をしっかりと持っている人。これって本当にすごいことと思うんです。なので、僕も中村哲さんを見ながら、自分の平和への想いを再認識させてもらいました。自分という主軸を持って、一つ一つの言葉に責任を持ち、他者を想う心を感じさせてくれる存在、ですかね。
上野:僕にとっては中村哲さんは、勇気をくれる人です。本当に鮮烈に覚えているんですけど、映画の最初のシーンで、あの中村哲さんが喋っているのを見たときにまず僕の心の中から出た声が「こうやって生きていいんだな」っていう言葉だったんです。「こうやって生きていいんだ、僕もこうやって生きよう」何かそういうものを感じたんですね。目の前にいる人と心を大事にして生きている人がいる。僕もそういうことをやって生きていけるのかも、そう感じました。今、中村医師を演じる上で背景を見れば見るほど、そこには良いことばかりではなく、悩みや葛藤とか怒りとかいろんなものを抱えて生きていたんだなっていうのを感じるんです。演じるにあたってプレッシャーを感じますが、「あなたはあなたでやったらいいんだよ」って言ってくれるような、そういう優しさを持っている方じゃないでしょうか。中村哲さんに今回ちょっと背中を押してもらったような気もしていて…僕なりに頑張ろうみたいな、そういうことを感じさせてくれる人だなと思っています。
ーー監督はいかがでしょうか。
谷津:かっこつけすぎた言い方はよくないかもしれませんが、中村医師は、見上げればいつも同じ位置にある北極星のような感じがして、常に動かないんですね。生き方がぶれていない。極端な政治不信とか、物価の高騰とかガザの虐殺、ウクライナ戦争とか、今、さまざま不穏なことが我々の周りを取り巻く中で、何かに迷ったり、不安になった時には中村医師のことを思い出します。中村医師の様にぶれずに生きるのはなかなかできないですけども、我々と同じ時代、同じ時間を生きた人間が他者のために生きて、他者のために亡くなったという事実そのものを役者の方々が伝えてくださることは本当に嬉しいことだと思ってます。
ーー最後に読者へのメッセージを。
中井:オリジナル作品の創作者として、中村哲先生の紡いだ想いをお客様に責任を持ってお届けしたいと思います。もしかしたら、その責任を感じたいからこそ、この作品の中で僕自身、中井智彦が出演するのかもしれません。「生きるということ」という当たり前の権利を主張できる作品を、僕はずっと探してた気がします。シェイクスピアを観劇すると、「人間は愚か。そしていつまでも同じ過ちを繰り返し、争いを続けている」という感想が胸に溢れてきます。中村哲先生が掲げていた平和、情愛、ただそこに存在している人やものを愛して、ともに生きることの美しさを表現できる舞台にしたいと思っています。
上野:中村哲医師のことを言葉で説明するにはとても難しい方だなと感じています。舞台上で”僕自身”を使って、中村哲さんはどんな人なのかということが少しでも伝わるような演技がしたいなと思っています。「全力で生きること」、お客様に生きることって何だろうかという実感というんでしょうか、肌感というか、そういう言葉にしきれない何かを舞台上から届けたいなと思っています。
谷津:私が作った映画のタイトルは『荒野に希望の灯をともす』ですが、タイトルを考える際にこんなことを考えました。この”荒野”は単純に自然の中にある荒野だけではなく、人の心や社会の中にも荒野は巣食っているだろうなと思ったんですね。そういった人の心や、社会にも巣食っている荒野に、中村医師が希望の灯をともしてくれるような気がしてこのタイトルにしました。中井さん、上野さん、樋口さんの3人が見てくださる方の心の中にも希望の灯をともしてくださるような舞台になるのではないかなと思っています。
ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。
あらすじ
都内のとあるライブハウスで開かれている中井智彦のトーク&ライブにゲストとして招かれた友⼈の上野哲也。和やかな雰囲気で盛り上がる中、上野は「最近⼼が揺さぶられた出来事」として、中村哲医師について熱く語り始めます。そんなトーク&ライブから数⽇経ったある⽇、喫茶店で談笑する上野と中井。上野は思い⽴つように「中村哲医師の⽣涯を脚本として描いてみないか」と熱い視線で中井に持ちかけます。それをきっかけに中村哲医師の⽣涯を調べ始める中井。「平和」と「共存」を⽣涯かけて追求した中村哲医師の⾏動や⾔葉からは、今もなお戦争が続く世の中において、今、私たちどう⽣きていくべきなのかを、深く問いかけてきます。
概要
日程・会場:2025年4月25日〜27日.吉祥寺 ROCK JOINT GB
出演:上野哲也/中井智彦/樋口祥久
演奏:長濱司(ピアノ)/成尾憲治(ギター)/西原史織(ヴァイオリン・ベース)
脚本・演出:中井智彦
音楽:長濱司
振付:樋口祥久/米島史子
音響・照明:吉祥寺ROCK JOINT GB
制作:upcoming
<アフタートーク実施!>
4月27日(日)14時公演後、アフタートークを実施します。
登壇:上野哲也/中井智彦 ゲスト谷津賢二
<ライブ配信決定!>
4月27日14時公演につきまして、Streaming+でのライブ配信(アーカイブ付き)が決定。詳細やチケット購入方法は公式サイトをご覧ください。
公式サイト:https://udo.jp/concert/NakaiTomohiko_TheMeaningOfLife