ミュージカル「ドリアン・グレイの肖像」『美』と『若さ』と『永遠』、狂気を持って追求するドリアンの末路は?

「ドリアン・グレイの肖像」、オスカー・ワイルド唯一の長篇小説であり、幾度となく映画化、舞台化された作品。今回の舞台は原作をそのままやるのではなく、時代設定を原作が書かれたおよそ100年後のロンドンとし、ミュージカル仕立てになる。ドリアン・グレイを演じるのは良知真次、彼に悪の囁きをするヘンリーに東山義久、画家のバジル、ここでは映像作家に改変されているが、演じるは法月康平、という布陣。

幕開き、セリフが響く。ドリアン・グレイが現れる。そこへバジルも・・・・・「君はあまりにも素晴らしい」「君は確か・・・・・バジル?」時代は1990年代、バジルは映像作家だ。ドリアンに魅せられて彼を映像に収める、その出来栄えに満足するバジル、そしてドリアンをある場所に連れて行く。そこはヘンリーが主宰するクラブ『悪の華』、ここに集う人々は芸術家、ヘンリーはドリアンを誘う「君は美しさで芸術家を虜にするミューズだ・・・・・・君自身を芸術家に作り替えることができる」と。このヘンリーの申し出にドリアンは従う。そして神の摂理に反しても美しくあることを願うようになる・・・・・・。

原作の骨格部分だけを残し、あとはオリジナル。よって主要人物は変わらないが、いわゆる“脇キャラ”はオリジナルな人物を散りばめる。ドリアンの“肖像”はダンサー(長澤 風海)が表現する。時はドリアンに寄り添い、時は相反する形にも見え、変幻自在にこの世界観に存在する。『悪の華』にて出会うドリアンと若い女優・シビル(蘭乃 はな)。原作もそうだが、恋に落ちるのも早いが破綻するのも早い。出会いは象徴的でシビルは「白雪姫」を演じ、パッとあの『魔女』に変わる。「鏡よ鏡よ、鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」、これがこの世界観とシンクロする。ドリアンは永遠を求めようとする、しかも狂気を孕んで・・・・・・。謎の女性・アガサ(剣幸)は探偵・エイブラハム(風間由次郎)にドリアンを探させる。彼女はドリアンにとって何者なのか、探し当てることができるのだろうか?

退廃的でちょっとロックな雰囲気で舞台は進行する。演奏は生、これが時にはけたたましいROCKになったり、叙情的になったり、そして全体として音楽が途切れない印象、旋律に乗って物語は時疾走する。

主演の良知真次はだんだんと悪に染まっていき、永遠の美しさや若さのためならなりふり構わないドリアンを熱演、2幕目からは、その想いは狂気を孕み、暴走する。対するヘンリー演じる東山 義久はワイルド&ワルな雰囲気を漂わせ、周囲の人間をも虜にする圧倒感を漂わせる。周囲にいる女たち、彩輝なお演じるヘンリーの妻・ヴィクトリアと風花舞演じるヘンリーの妹・グラディス、高い歌唱力とダンス力でダークな華やかさを添える。そして、時には周囲をあざ笑うかのようなコケテッシュさを醸し出す。アガサ演じる剣幸はさすがの貫禄で舞台を引き締める。バジル演じる法月 康平、実直さをにじませる。

そして2幕目で、さらに時間は20年経過する。皆、それなりに歳を取り、闊達さは失われるが、ドリアンだけは別。そして破滅・・・・・・美への醜いまでの執着の結末は?ドリアンはそんな周囲の様子を見るにつけ、ますます『永遠』に向かって加速しようとするが、それに従って映像のドリアンは醜く変化していく。それに比例するようにドリアンは破滅へと突き進む、もちろんドリアン自身はそれが身を滅ぼすことになろうとは思っていない。もはや彼には『美』と『永遠』しか見えていないからだ。

テーマは重く、そして普遍的。耽美さらに破滅的で歪んでいる。時代設定も原作の19世紀末ではなく、そこからおよそ100年後、そしてさらにそこから20年後と時を刻む。スキャンダラスでいながらも一種の輝き、そう、妖しくもまばゆい輝き、その輝きはいつか失われる、と知りつつも惹かれていく。それはドリアンたちばかりではなく、それ以外の登場人物も、また、である。猥雑でしかも直情的、神の法則に背いたドリアン、その顛末は?彼が最後に見た景色は?原作を知っていれば、オチも全て分かっているのだが、それでもドキドキしてしまう。「永遠なんてないのよ」というアガサ、「心が汚れても若く、美しく!」と叫ぶドリアン。生と死、人間の尊厳、そんなことに想いを馳せてしまう、濃密な2幕物であった。何度も映画化され、そして舞台化、この物語には真実が詰まっている。

<キャスト>

良知 真次
風花 舞
彩輝 なお(東京公演のみ)
星奈優里(大阪公演のみ)
蘭乃 はな
法月 康平
木戸 邑弥
風間由次郎
村井 成仁
長澤 風海
東山 義久
Special
剣 幸

【概要】
ミュージカル「ドリアン・グレイの肖像」
東京公演:2018年9月21日〜9月30日
博品館劇場
大阪公演:2018年10月10日〜10月11日
梅田芸術劇場シアタードラマシティー
原作:オスカー・ワイルド
脚本・演出:荻田浩一
プロデューサー:栫ヒロ
企画・製作:博品館劇場/M・G・H
主催:(東京)ニッポン放送
(大阪)全栄企画
読売テレビ
サンライズプロモーション大阪

文:Hiromi Koh