国立劇場5月文楽公演@北千住・シアター1010

国立劇場は、首都圏の各劇場にて主催公演を続けており、今回は足立区・北千住のシアター1010(センジュ)にて3度目となる文楽公演を開催。

第一部・第二部では、平安時代の陰陽師(おんみょうじ)・安倍晴明(あべのせいめい)誕生の伝説を下敷きに親子の情愛を描く『芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』、源平合戦における平家滅亡の悲劇を描く『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』と、文楽の異なる醍醐味を堪能。第三部は、本格的な文楽を短い時間とお求めやすい価格でお楽しみいただける《文楽名作入門》として、『平家物語』で知られる俊寛僧都(しゅんかんそうず)の悲劇を題材にした『平家女護島(へいけにょごのしま)』を解説付きで。

伝説の陰陽師・安倍晴明出生秘話 『芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』

保名物狂の段
葛の葉子別れの段

享保19年(1734)10月に大坂竹本座にて初演された、初代竹田出雲(たけだいずも)による全五段の時代物です。
平安時代の陰陽師・安倍晴明は、その卓越した能力ゆえ、和泉国(現在の大阪府)信田の森の白狐と安倍保名(やすな)の間に生まれた子であるという「信田妻」伝説がもと。本作は、人間以外の者と人間が夫婦になる「異類婚姻譚(いるいこんいんたん)」として、柳の精と人間との婚姻を描いた『卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)』と並ぶ代表的な作品の一つ。

今回は、実在の天文博士・加茂保憲(かものやすのり)の秘伝書をめぐり、安倍保名が芦屋道満(あしやみちたる)との継承争いに巻き込まれる「加茂館(かもやかた)の段」からの上演。騒動で心乱れた保名が狐の化身と出会う「保名物狂(ものぐるい)の段」は、歌舞伎舞踊として名高い清元の名曲『保名』のもとにもなり、舞踊的要素を持つ場面。 そして、葛の葉(くずのは)(狐の化身)と童子(どうじ)(のちの晴明)との母子の情愛が際立つ「葛の葉子別れ(こわかれ)の段」は、葛の葉が正体を顕す際の人形の早替りや狐手の仕草、狐らしさを表現する太夫の特徴的な語り(狐詞(きつねことば))や三味線の演奏など、見どころや聴きどころに富んだ場面です。狐と人間という種を超えて描き出される親子の情愛は、時代を経ても変わらない大きな感動をもたらすでしょう。続く「信田森二人奴(しのだのもりににんやっこ)の段」は、人形の三人遣い発祥とされ、騒動の収拾を描く。ぜひ、どの演技が三人遣いであることを要したかを予想しながらご覧ください。多彩な場面が織りなす一大叙事詩をどうぞお見逃しなく。

“人形浄瑠璃の三大名作”の一つ『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』

渡海屋の段
行初音旅

二世竹田出雲、三好松洛(みよししょうらく)、並木千柳(なみきせんりゅう)(宗輔(そうすけ))による合作で、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』とともに“三大名作”と呼ばれる、全五段の時代物。延享4年(1747)11月、大坂竹本座で初演されました。源氏と平氏の戦いの後、都から落ち延びる源義経を中心に、史実に様々な伝説や虚構を織り交ぜて大胆に脚色し、平氏滅亡の悲劇を描く。

今回は、二段目「伏見稲荷(ふしみいなり)の段」「渡海屋(とかいや)・大物浦(だいもつのうら)の段」、四段目「道行初音旅(みちゆきはつねのたび)」をご覧いただきます。「伏見稲荷の段」では、兄・頼朝との対立が決定的となった義経が、愛妾・静御前(しずかごぜん)に初音の鼓(はつねのつづみ)を託し、源九郎の名を与えた家臣・佐藤忠信(さとうただのぶ)を供に付けて別れ、都を離れるが、実は、この忠信は初音の鼓の革にされてしまった狐夫婦の子供が人間に化けた偽忠信。忠信の正体を三味線の旋律で暗示したり、狐の人形が登場して姿を消したところに忠信が現れたりするなど、鼓との関係もうかがえる演出も見どころ。
続く「渡海屋・大物浦の段」では、九州へ落ち延びようとする義経一行が、摂津国大物(現在の兵庫県尼崎市)の船宿に潜伏していた旧敵・平知盛(たいらのとももり)と対決。船宿の日常から一転し、謡曲『船弁慶』の詞章とともに白装束を身にまとって知盛が登場する場面は通称「幽霊」と呼ばれ、太夫の語りや人形の動きに風格や品格を求められる。安徳(あんとく)天皇を奉じ死力を尽くす知盛の奮戦と悲壮な最期、幼い帝を命がけで支える典侍局(すけのつぼね)の献身と哀愁、壮大なスケールを持つ一大戦記が展開される一幕。
最後は、三味線の豊かな響きに彩られ、満開の桜が舞い散る絢爛たる舞台を背景に、静御前と忠信が踊りなす名曲「道行初音旅」で締めくくります。二人の連舞(つれまい)や、軍(いくさ)物語で静が後ろ向きで投げた扇を忠信が受け止める演出など、見どころあふれる道行の代表曲を、三味線の華やかな合奏と満開の桜が咲き誇る吉野山の風景とともにお楽しみください。

近松門左衛門の傑作を解説付きで《文楽名作入門》『平家女護島(へいけにょごのしま)』

鬼界が島の段

全五段の時代物で、享保4年(1719)8月に大坂竹本座で初演。『平家物語』や謡曲『俊寛(しゅんかん)(喜多流では『鬼界島(きかいがしま)』)』で知られる俊寛僧都の悲劇を、近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)が浄瑠璃として再構成したのが、二段目の切に当たり、今回上演する「鬼界が島の段」。

俊寛僧都たち3人は権勢の絶頂にあった平清盛への反逆計画を企てたため、西海の孤島である鬼界が島に流罪に。そこへ都から訪れた使いが書状を持参するが、3人のうち俊寛だけは罪を赦されません。絶望し深い悲嘆にくれる俊寛。しかし、島ではさらに思いがけない出来事が展開……。流刑地での厳しい生活の中にあった穏やかな日常が、赦免船の到着によって大きく動き出します。岩によじ登って遠ざかる船を見送る印象的な幕切れにも注目。
今回、主人公の俊寛僧都を遣うのは、今年3月に日本芸術院新会員となった、重要無形文化財保持者(人間国宝)の桐竹勘十郎です。孤独の淵に追いやられる俊寛を本公演では初役で遣います。ますます磨きのかかる桐竹勘十郎の至芸を、ぜひ劇場でご堪能ください。
また、第三部は《文楽名作入門》として、入門「名作『平家女護島』の魅力を探る」と題し、お芝居の前に作品の面白さを解説します。お勤め帰りに、学校帰りに、お買い物帰りに、本格的な文楽を1時間余りの短い時間とお求めやすい価格でご覧いただけます。初夏の夕べは存分に感動を味わえる文楽鑑賞でぜひ北千住へ!

概要
日程・会場:令和7年5月9日(金)~27日(火) ※15日(木)は休演 シアター1010
【第一部】 午前11時開演 (午後2時30分終演予定)
芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)
加茂館の段
保名物狂の段
葛の葉子別れの段
信田森二人奴の段

【第二部】 午後3時15分開演 (午後6時20分終演予定)
義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
伏見稲荷の段
渡海屋・大物浦の段
道行初音旅

【第三部】 午後7時開演 (午後8時20分終演予定)
《文楽名作入門》
入門「名作『平家女護島』の魅力を探る」
平家女護島(へいけにょごのしま)
鬼界が島の段

(字幕表示がございます)

主催=独立行政法人日本芸術文化振興会

公式サイト:https://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/