こつこつプロジェクトStudio公演『夜の道づれ』開幕 コメントも到着

この『夜の道づれ』は、2021年からスタートした第二期からの参加作品。
22年2月に行われた最終試演会後、さらに作品を深めてはどうかという協議がなされ、演出家の柳沼昭徳は、引き続き第三期メンバーの一人として、2024 年にプロジェクトが再始動。今回は初めての試みである「Studio 公演」として本プロジェクトの現時点の成果を披露する公演。
三好十郎によって書かれた『夜の道づれ』は 1950 年に文芸誌「群像」に初出、敗戦後の夜更けの甲州街道をとぼとぼと歩いている、男二人の一種のロードムービーのような戯曲。実際に夜の甲州街道で見聞きしたことをありのままに取り上げた、「いわばドキュメンタリイを志したもの」という三好の言葉通り、三好作品の中でもストーリー性は控えめで、とても演劇的実験性の高い作品。
この作品に、約4年にわたり挑み続けているのは、京都を拠点に活躍する劇団烏丸ストロークロック主宰・柳沼昭徳。自身の創作のなかでも、「歩く」ことで人や事物と出会い、対話し、気づくことで過去を清算・懺悔するといった作品を作っていることもあり、本作に惹かれたとのこと。稽古では、実際に甲州街道を歩くフィールドワークを 2 回も行い、戯曲をフィジカル面でも検証。新宿を起点に徒歩移動した実距離と劇進行のタイムラインが重なる部分が多いことにも気づいたという。

舞台上は木が1本、他には何もない。一人の男が登場、名は御橋次郎(石橋徹郎)、夜更け、行き交う車の音、ここは甲州街道という設定。なお、甲州街道は、甲斐国(山梨県)へつながる道。江戸幕府によって整備された五街道のひとつ。彼は歩く、ちょっとよろける、どうもしたたか、飲んでいる様子。様々な人とすれ違う。そして見知らぬ男、リュックを背負っている。彼の名前は熊丸信吉(金子岳憲)、熊丸は御橋の小説を読んだことがあるといい、会社員という。会話しながら歩く二人、舞台なので、位置は変わらないが、歩いているように見せる。御橋は電車がなくなって金がないから歩くのだという。熊丸は御橋の小説をだいぶ読み込んでいる様子。途中、風呂敷を担いだ男や若い女など登場する。御橋と熊丸、とめどもなく会話が続く、なぜ、熊丸は歩いているのか、また、彼の考え方、思想も透けて見えてくる。

”事件”は起こらず、ただただ、二人は歩くが、時間が経つにつれて、その歩き方にも微妙な変化が見える。作品が書かれた時代は1950年、戦争が終わってまだ5年、そこかしこに戦争のあとが残っている時代。会話から見えてくるもの、そして戦後、戦争のことは語られないが、そこからの登場人物たちも含めての日本人の”歩み”、時折、舞台後方にシルエット、木は俳優が動かす。少しづつ景色が変わる、それと同時に二人の内面も微かに感じ取れる変化。歩く、という行為、はっきりとしたストーリーではなく、時間の経過とともに心情や状況の変化を”スケッチ”。一風変わっているが、幸福とは、生きるとは、人間とは、様々なことを問いかけてくれる作品。こつこつプロジェクトから生まれているが、練り上げた成果、シンプルな舞台セットでテーマをクローズアップ、歩き方や二人の距離感で状況を雄弁に語る演出、クリエイトな作業には「これで終わり」というものはないが、この公演は一つの区切りとも受け取れるがさらなるステップアップへと向かうことももちろんできる。”こつこつ”という言葉通り、少しづつ積み上げていったという丁寧さが伝わる。公演は20日まで。

柳沼昭徳(演出)
何かを積み上げていくというよりも、『夜の道づれ』の作品の登場人物たちのように、出会った人々と道づれとなって、どこまでも続いてゆく道のりを対話しながら歩き続ける。私にとってのこつこつプロジェクトとはそうした体験でした。作品がいま、稽古場から劇場へと移り、ようやくお客様と作品を共有できる段階となりました。これから、ご覧いただいた皆さまも一緒に道づれとなって、こつこつできることにワクワクしています。

石橋徹郎(御橋次郎役)
自分のいのちの嬉しさに気づくことができたら。それはどんなときに気づくことができるのか。
特別な状況になった時だけでなく、できれば今をあらためて見なおしてみて、当たり前に思っていたことや、大したことだとは思っていなかったことが、ほんとは少し有難いことだったんだと感じることができたなら、生きることには甲斐がある。と思える。
そんな舞台になっていれば嬉しいです。

金子岳憲(熊丸信吉役)
言葉の多い『夜の道づれ』を立体化するのに皆で本当によく話し合いました。僕は去年から皆はもっと前から。当初はどうすればいいんだ?と途方に暮れていました。分からないんです。分からないから今日はここまでしか出来ないと正直に稽古場に通うのは最初は勇気がいりました。そこに皆の知恵や雑談混ぜ込んで少し前進したりまた分からなくなったり他の人の分からないも共有しながら今日まで来ました。派手に誤魔化したりせず、シンプルに人間が演じる舞台になったような気がします。公演中もこつこつ発見し話し合っていきたいです。

林田航平(洋服の男役 ほか)
この4年間を通じて『夜の道づれ』の稽古場は、自分にとって演劇とはなんだろうということと、改めて向き合える場所になりました。
あーでもないこーでもないと、メンバーと話し合い稽古を重ねてきた今回の作品作りは、なにか皆で楽しめるお祭りを、一丸となって作っているような感覚です。
ご観劇くださる皆様と、夜の甲州街道を共に歩いていけるよう、最後までこつこつし続けたいと思います。

峰 一作(復員服の男役 ほか)
一人では到底太刀打ち出来ない事も、ひとりの問題とせず、皆と共有して作品づくりに取り組んできました。こつこつプロジェクトだからこそ出来た事だと思います。『夜の道づれ』のカンパニーの一員として舞台に立つという事は、数多くの助け合いを、積み重ねた結果だと思っています。手を取り合ってようやく初日まで辿り着けた事を奇跡の様に感じています。そしてお客様とも僕らの体験を共有できたら、それ以上の喜びはありません。

滝沢花野(戦争未亡人役 ほか)
2021年からこつこつ積み重ねてきた『夜の道づれ』に、ついにお客様の視線や息づかいが加わったこと、なんだか胸がいっぱいになりました。
ある意味愚直なまでに真正面から「生きていくこと」に向き合ったこの戯曲は、戦争直後に書かれたものでありながら、今を生きる私たちにもそっと寄り添ってくれるような気がしています。
短い上演期間ではありますが、ぜひこの作品のいっときの道づれとして、いろいろなことを感じていただけたらうれしく思います。

あらすじ
敗戦後の夜更けの甲州街道。作家の御橋次郎は、家へ帰る途中、見知らぬ男、熊丸信吉と出会う。歩く道すがら、2人の目の前には、若い女や警官、復員服の男、農夫などが次々と現れる。会話しながら進むうち、なぜ熊丸がこんな夜中にここを歩いているか語られだすのだが 。

概要
2025年4月15日(火)~ 20日(日) 新国立劇場 小劇場
作:三好十郎
演出:柳沼昭徳
出演:石橋徹郎(御橋次郎)、金子岳憲(熊丸信吉)、林田航平(洋服の男・警官2)、峰 一作(警官1・復員服の男・中年の農夫)、滝沢花野(若い女・戦争未亡人)
照明:鈴木武人
音響】信澤祐介
衣裳:山野辺雅子
ヘアメイク:高村マドカ
舞台監督:川除 学

芸術監督;小川絵梨子
主催:新国立劇場

公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp

舞台撮影:田中亜紀