荒井遼×和田琢磨×北村優衣 クロストーク 『更地』子役11人!土居裕子&大森博史が声の出演

日本を代表する劇作家・演出家の太田省吾が92年に初演した『更地』。現在でも様々な形で上演され続けている作品。演出は、『Reading Drama BLINK』(作:フィル・ポーター)、『NOT TALKING』(作:マイク・バートレット)、『ポート・オーソリティ-港湾局-』(作:コナー・マクファーソン)、『テンダーシング-ロミオとジュリエットより-』(シェイクスピア原作 ベン・パワー脚色)などの、海外戯曲の演出を手がけることが多い荒井遼。独自の解釈で久々に日本戯曲に向き合う。出演は、『ガラスの動物園』/『消えなさいローラ』(演出:渡辺えり)や『首切り王子愚かな女』(作・演出:蓬莱竜太)などのストレートプレイから『鋼の錬金術師』、『花郎〜ファラン〜』、『魔道祖師』など様々な話題作に立て続けに出演する和田琢磨。映画『ビリーバーズ』ではヒロインを演じ、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞にノミネートされ、『初恋不倫~この恋を初恋と呼んでいいですか~』、『つづ井さん』などのドラマに出演、先頃上演された『花と龍』(演出:長塚圭史)での好演も記憶に新しい北村優衣。
演出の荒井遼さんと出演の和田琢磨さん、北村優衣さんのクロストークが実現、稽古のことや作品について語っていただいた。

荒井:これは選ぶのにはちょっと勇気がいりましたが、周りはみんな僕に向いてそうと言うんですよ。ちょっと驚きました。人類の話をやるつもりで選びました。今回は和田さんと何かできないかっていうことから考え始め、和田さんがあんまりやってないようなもので、僕もやったことがないものにしたいなと思って。一見どうなっちゃうんだろうって作品。それで「和田さん、これやろうよ」って。あと、今回の演出の見所は、二人芝居ではないところ。十三人芝居くらいになるはずです!沢山の子供たちが出ます!

和田:事前にお話はいただいてまして。この作品は知らなかったので、荒井さんから「これどうですか?」っていうプレゼンテーションを受けたときに、あまり僕は自信がないんですよっていうのを先にお伝えしたんですけど、「いや、でもこれでいきましょう」っていうことだったので、今は荒井さんを信じてやってます。

ーーお2方にお伺いします。この戯曲を読んだ時の最初の感想、ファーストインプレッションをお願いいたします。

和田:最初に感じた感想は浮き沈みがない感じ…2人芝居もやったことないですし、果たして自分で務まるのかなという不安が最初に頭をよぎりました。

北村:率直に難しいなというのが最初の感想です。荒井さんからお話をいただいたのですが、この役、どうして私なんだろうと最初に思いまして、荒井さんに聞いたんですよ、そうしたら「いろいろやってるじゃない、ドラマとか映画とか舞台とか」っていわれて、この舞台も挑戦になるんじゃないかなと思って…荒井さんから「挑戦好きでしょ」って言われて、「好きです!」って…私のいろんな挑戦を見てくださってて…。今回も挑戦になると思って呼んでくださったんだと思ってます。

ーー台本は読ませていただいたんですが、確かに和田さんのおっしゃる通り、浮き沈みがないというか、2人の会話が延々続いてるという感じですね。お稽古も進んでいらっしゃると思います。進めていくうちにわかったことや感じたことをお願いいたします。

和田:今回は権利管理者の方から潤色自由という許可をいただいているそうなので、1週間ぐらいしかまだやってないですけども、ものすごく自由度の高い”枠”で…本当にいかようにもなりますし、それをいろいろ模索しながら、荒井さんを中心に稽古しています。

ーーご自身の中で変わっていったことはございますか?

和田:それは結構あります。重々しいホンなのかなと思ったんですけど、北村さんと一緒に進めていくと、重々しさを我々から提示しなくとも、意外とそこにいることをむしろ楽しみながらやった方が、もの悲しさや虚無感みたいなものが、逆に伝わるんじゃないかなっていうのが稽古をしてだんだんとわかってきたことです。

ーー更地って聞くと”何もないところ”ですね。

和田:自分の中では、登場人物2人が老人夫婦っていうイメージがすごく強かったので。またまだ人間として、自分がやるのは大丈夫なのかなと思ったんですけど、そこをうまく凌駕してやれるような感覚は持ってきました。

ーー読んでみた感じではここに出てくる2人は50代半ばぐらいかな?と思いました。北村さんはいかがでしょうか。

北村:台本を読んでるときよりも、声に出して読んだりすることで見えてくるものがすごくありました。字面だけではなく音で聞き、心地の良いセリフだったり、そこで印象がまた変わりました。まだ模索しつつなんですけど、本当にいくらでもやりようがあると荒井さんがおっしゃっているように稽古で試せることは試さないと本番を迎えられないなっていうのはすごく感じました。

ーーこの『更地』という作品はいろんなカンパニーでやっているようで、舞台写真を見ると多種多様な写真があり、自由度が高そうな印象はありますね。

北村:野外でやってるものもありましたし。

ーー野外だと”いかにも更地”。

北村:権利管理者の方が「潤色自由」とおっしゃってたそうですけれど、ここまで自由なんだっていうのは思いました。

ーー見どころ、ここを見て欲しいなっていうところがありましたら。

和田:いかようにでもなる題材です。演出の荒井さんも非常に面白いアイディアをお持ちで、2人芝居なんですけども、今回は、子供たちも沢山出ますし。お客様のその見ている状態によって、見え方が変わるような作品じゃないかなと思っています。例えば、戦争に対してすごく心を痛めてらっしゃる方が見たら、あるいは震災で被害をこうむった方が、こういう更地を見たときのその心情とか、または両親を亡くしたとか家族を亡くしたとかいろんな見る方の状態によって見え方が変わってくるのがこの作品の面白さなんじゃないかなって思います。僕らもお客様についてきていただけるような感覚を持ちながらやりたいなと思っています。

北村:これが全てです、(和田さんが)言いたいことを言ってくれた!みたいな気持ちなんですけど(笑)。セリフは多いのですが、すごく印象に残るセリフだったり、核心を突いたような素敵なセリフ、私の中では生きるってこういうことだよねと…大切にしたいような言葉があったので、ふと耳に入る、耳に残る、心に残る瞬間があるんじゃないかなと思います。2人芝居です、2人以上出てくるかもしれないんですが(笑)、その雰囲気や空気の機微を感じていただけたらなと思っています。

ーー稽古場では荒井さんからいろんなアイディアが出てきて面白いということですが、ネタバレにならない程度に、演出的にはどんなアイディアでいこうと思ってますか。

荒井:”破壊と再生”です!意識世界の大人たちに対して無意識世界の子供たちが駆け回ります。例えば更地になったところに人がやってきて、「かつてあったこと」を確認する作業は、ものすごく意識の世界だと思うんです。意識があるということで人間たりえている。もし動物が同じところにやってきても確かめたりはしないと思うんですよね。意識っていうのは秩序を探そうとすること。「本当にあったんだってことが欲しい」というセリフは、人類みんながやってることだと思います。実際は過去もなければ、未来もない、現在だって、今、認識してることしか確かなものはない。けれど確認しようとする。そこに無意識の存在の子供たちが絡むというのが今回のコンセプトです。子供の頃、自我が芽生える前は、未来への心配も過去への執着もない。動物から進化した人間の悲喜劇です。

ーー実際の更地、私の経験ですが、住んでた家を取り壊して更地になったときに、「ここがリビングでここが庭だったね、そこにお母さん寝てたね」と思いましたが、それは自分の意識の中の話なので、台本読んだときにそれに近い感覚がありましたね。

荒井:そこに思いがあるじゃないですか!人間だから。戯曲はすごく細かく書かれていて、戯曲の意図はきっとこうだろうと理解しつつ、あえて無視しているところもあります。勉強すればするほど、太田さんのもの真似にしかならないと思うから資料も敢えて見ていません。敢えて誤読して、膨らませるところは膨らませています。僕はこの台本は、家族史ではなく、人類史だと捉えました。

ーー確かにいろんな捉え方ができる本だなっていうのが台本読んでみての第1印象、お客様のいろんな経験値によって見方がずいぶん変わってくる作品じゃないかなという感じがします。例えば皆さん個人的に更地の経験はございますか?住んでた家を壊して更地にしたとか。

和田:この間…お2人にもお話したんですけども、長年住んでた山形の実家が事情があって家を壊すことになって、この間、何年かぶりに山形に帰ったときに(家があったところに)行ったんです。だからなんて言うんでしょうね。はたから見たらネガティブなことなのかもしれないですけど、自分がその場に立ったときに、居心地の悪さみたいのはなくて、どっちかっていうとポジティブな回想をずっと頭の中でぐるぐるぐるぐるやってました。これをやるにあたって、偶然ですけども、いい経験だったなと思ってます。

ーー家があったところが更地になって、それが自分の家だったりするといろいろ思うところは絶対あると思うんです。

和田:でも、こんなもんかってぐらいでした、なんでなくなっちゃったんだみたいなのは全然なかった。長く離れてたのもあるんだと思います。

ーー最後にお客様へのメッセージを。

荒井:破壊と再生の”波打ち際”。更地とは希望と絶望の場所。世界を捉え直して、生まれ直して、明日から生きる力をもらえる作品になると思います。そもそもこの戯曲はどこか楽天的なムードを持っているような気がします。大地を踏みしめて、未知の明日に向かう。そういうエネルギーを感じます。だから、今回上演しようと思ったんだと思います。根拠のないそういう力。それが生命だと思います。
あ、あと、僕はすごいせっかちなのでテンポは早いと思いますよ。翻訳劇をやる時でも、いつもいかにセリフを短くするかを考えてます。同じことを伝えるなら短い方がいい。今回もかなり大胆なカットをしています。和田さんが「せっか地」だねとふざけて言ったけど(笑)。

北村:堅苦しい芝居かと思われるかもしれませんが、そんなことはなく、上演時間もそんなに長いわけじゃないです。見る視点、見るところは割とはっきりしてると思うので、気軽に見に来てくれたら嬉しいなって思います。時間空いたから見に行こうぐらいの気持ちで全然大丈夫です!っていう気持ちです!

荒井:何億年もの人類たちが何度も感じたこと。「更地」をめぐる悲喜劇です。夫婦が更地にやってくるシーンは、今回は度々繰り返されます。何億年の時間の中で、人類たちは何度も更地にやってくるイメージです。

ーーそういった演出も楽しみですね。

和田:見ている方の心の状態によって、見え方がすごく変わってきます。吉祥寺シアターとこの作品はすごく相性がいい。荒井さんのお話に非常に共感しておりまして。劇場に芝居を見に行ってくるっていう感覚よりも、とある2人の人間を覗きに来るような本当にふら〜と、隙間からみているぐらいに…演劇というよりも、その空間に来る、劇場そのものがもう更地、見るというよりも体感していただくような作品だと思ってください、ぜひ!体感しに来ていただけたらなと思っております。

ーー長いお時間ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

イントロダクション
長年住み慣れた家が解体された更地に、ある夜、一組の夫婦がやってくる。
二人はかつてのわが家の跡をたどって、積み木遊びをしながら、記憶をさかのぼっていく。
なにもない地面の上、夜空の下、地球の上・・・。
生き物たちの、いくつかの記憶といくつかの希望についての物語を新たな解釈で。

概要
日程・会場:2025年5月16日(金)〜18日(日)吉祥寺シアター
作:太田省吾
演出:荒井遼
出演:和田琢磨 北村優衣
浅井みすず 市川晃子 河田実樹 桑原葵 滝澤このみ
中島優衣 野口大暉 堀江美菜 松原一栞 美濃部こな 山崎佑登
声の出演: 土居裕子 大森博史
スタッフ
美術 岩本三玲 / 照明 稲田桂 / 音響 藤田赤目 /
衣裳 藤崎コウイチ / 舞台監督 八木智 /宣伝美術 宇野奈津子
制作 三村楽 小見山千里 吉越萌子
制作協力 MAパブリッシング
主催:一般社団法人幻都

ホームページ https://theatertheater.wixsite.com/sarachi2025
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