
バロック音楽劇『ヴィヴァルディ~四季』ドラマコンサートが2025年5月8日~11日に新国立劇場 小劇場にて上演される。ヴィヴァルディの「四季」は、誰もが聞き覚えのあるヴァイオリン協奏曲で、春夏秋冬それぞれに3楽章ずつ計12楽章から成り立つ楽曲。この曲が産まれるまでには、作曲家のアントニオと、父ジョヴァンニの父子の栄光と希望、挫折や葛藤の感動秘話を、ドラマ仕立てのコンサートに作り上げ、名曲の誕生をひも解く。
父/ジョヴァンニ・ヴィヴァルディ役の石井一孝と、自慢の息子/アントニオ・ヴィヴァルディ役の矢田悠祐に話を聞いた。
≪時代を超えても父と子の関係は変わらない≫
――稽古が始まり、作品に対して印象の変化などお聞かせください。
石井:もう楽しみしかないですね。イメージはできてたんですけど、想像以上にみんな上手くて、いい声の人ばっかりだよね。すごく彩り豊かだし、感情が入ってくるし、出演者は5人だけど、何役もあるんですよ。特に北翔さんと宮原さんがいろんな役を演じられるので人物相関図が欲しくなりました(笑)うちの息子(矢田)が美形な上に優れているので、2人で頑張って紡いでいきたいです。
矢田:最初にお話をいただいた時、クラシック音楽のお話なので固いイメージを想像して、ひとりで台本を読んだ時も想像しながらけっこう難しい印象でしたが、演じる方が読んでくださると全く違いました。 ファンの方にどんな舞台ですか?と聞かれた時に、音楽があるから初めて観る方でもわかりやすいと思いますって、言っていた通りになりそうです。家族の歴史を追うとともに、音楽と皆さんのお声を存分に楽しんでいただけると思います。
――稽古でパパの圧をとても感じました。
石井:(笑)親子の確執が出てきて、お父さんが果たせなかった一流の作曲家になるという夢を息子に託します。親のありがたさと鬱陶しさと腹立つ感じ、でも本当は父のことをちゃんと思ってくれていたり。これは時代を超え、今でも普通にある話で、父と子の関係って変わらないよね。
――お互いの印象はいかがでしょうか。
石井:ビジュアル撮影の時は赤い髪の美形の若者と思っていたんですけど、先日歌稽古をさせてもらって、今日本読みをして感じたのは、すごくセクシーな俳優さんだなって。声も色っぽいって言われない?色気があるよね。いくつだった?
矢田:34です。そうですね。ありがたいことに(照)そう言っていただくこと多いかもしれない。
石井:俺57だから、実際の親子の年齢でもおかしくないね。役者にとって色気はすごく大事で、この色っぽい声も魅力だと思う。
矢田:嬉しいです、ありがとうございます。僕も初めてビジュアル撮影でお会いした時に、『息子よ!』っていう感じで迎え入れてくださったんです。大先輩に会えるんだと思ってちょっと緊張したんですけど、もうお父さん!ていけるような雰囲気で、とてもホッとしたのを覚えています。 そして父と息子としてお芝居させていただいて、すごく包容力があって、深みのある声で導いてくれる。でも物語の中ではぶつかり合ったりもしないといけないんです。 そうなるにはやっぱり親しくなるところからはじめないと、と思いますので、よろしくお願いいたします!
≪いろんな役を演じる北翔さんと宮原さんは要チェック≫
――役どころについて、現在考えていることや共感する部分は?
石井:やっていて面白かったのは、息子を溺愛しているところですね。息子の才能は並じゃないと、この父は自身が音楽家でもあるからわかる、ベートーヴェンやモーツァルト、バッハもいない時代にこんな曲をかける人は天才中の天才じゃないですか。
四季を聞いていると、今のポップミュージックとなんら変わらない美しいポップス感があるじゃない?ああいう音楽って、ヴィヴァルディより前はないんですよね。こんなにメロディアスでちょっとロックっぽくて、ハードロックの元祖みたいな激しい旋律もあってね、この才能の息子を持った喜びを表現するのは面白いです。でも司祭にしてしまったので、女の人といちゃいちゃできないっていう。それは僕(父)が芽を摘んでしまったのかなと。自分は子供がいるのに、結婚することも子供を作ることもできないわけじゃない。そこの刹那というか悲しみっていうか、人の人生を翻弄してしまった、この2つで揺れていますよね。僕自身が世界一のファンで心酔している感じと、子供の人生を左右しすぎちゃったのかなっていう想い。きっとステージパパと同じことだよね。
この子をスターにするために頑張ってるけど、勉強させる機会を奪っちゃったりやりすぎちゃう。そのあたりは共感できますよね。
――才能ある息子アントニオ役はいかがでしょうか。
矢田:青年期ぐらいから人生の歩みを演じますが、朗読なので年数の経過の表現としては主に声になるのかなと。若々しくて利発で世間知らずな部分から、どんどん大人に成長していく姿。短い時間ですけど、人生の曲折を声で表現できたら、その部分は意識したいと考えています。
共感できる部分としては、やっぱり大人になると父親の凄さがわかりますよね。あの時言ってたことは間違いじゃなかったなと思うことは多々あります(笑)
――本作では書き下ろしの曲がたくさんあり、楽曲も見どころになると思いますが、稽古に入り、ご自身が見てほしい部分や注目して欲しいところは?
石井:やはり親子の関係と、他の3人の方々も見てほしくて、宮原さんがフランコや興行主とかいろんな役を演じますが、声色を変えられて演じていて、それは面白くて!俺が客席にいたら、きっとクスッとなったりすると思うよね。役者の腕を見られる。
矢田くんと俺は基本的に1役しかやらないけど、いろんな役をやってる北翔さんと宮原さんは見どころだと思います。
矢田:カタカナの名前の方がいっぱい出てきます。今日セリフを言った後に、あ、この人あんまり好きな人じゃなかった、言い方間違ったっていうのがありました(笑)」
石井:そうそう!(笑)それ俺もある。演じ分けも面白いと思いますね。役者はこういうの大好きなんで、とっても楽しい。
矢田:北翔さんは男性の役を演じてきた方ですし演じ分けが見どころです。
石井:そしてね、後半に彗星のようにやってくる辰巳真理恵ちゃんが演じるアンナ・ジローという、実在のプリマドンナ歌姫もまたすごい重要。真理恵ちゃんのソプラノの歌を早くフルで聴きたいですね。今回クラシック経験があるのは、彼女と宮原さんかな。いろんなジャンルの方々の化学反応が楽しみだね。あとはね、アンナ・マリアとアンナ・ジローのアントニオをめぐる悲喜こもごも、息子を取り巻く女性関係が面白くって、ここも見どころだよね」
矢田:ぐいぐい推しに強いアンナ・ジローと、控えめなアンナ・マリア。裏主役みたいな2人です。
石井:矢田くんが素敵なことが罪という(一同笑)
矢田:(笑)ヴィヴァルディって音楽の教科書で見る人物で、ちょっと高尚なイメージがあるんですけど、何百年経っても人間と人間のお話。石井さんもおっしゃっていましたが、現代に通じるテーマでもあり、人間ドラマとして面白く観られると思うので、そこは楽しみにしていただきたいです。音楽が時を越えて、この現代でも素敵だなと同じ感性で聞けることが不思議です。生演奏は僕も楽しみですね。
石井:楽しみだよね。まだピアノがないチェンバロの時代だよね。チェンバロ演奏を生で聞けるっていうのが楽しみだね。
≪アントニオにはすごく共感≫ ―
――この作品では父親が息子を導きますが、お二人がご両親から影響を受けたことなど、父親とのエピソードをお聞かせください。
石井:うちの父は俳優や歌手とは全く関係ない世界で仕事をしていて、僕は中学ぐらいから歌手になりたいと思っていたんですよね。職業的には全然影響を受けてないんですけど、父はトランペット音楽をよく聞いてて、それもカセットよりも大きな機械が家にあって、親がいない時にこっそりかけたりね。あと父が持っていたLPレコードも勝手に聞いたりしたことが、音楽に慣れ親しんだ最初なのかな。
子供の頃、親とカラオケに行ったことがなかったんですよ。カラオケボックスとかない時代で。でもね、俺が35くらいになった時に、家族で温泉旅行に行って、温泉ってカラオケがあるじゃないですか。そこで親父の歌を初めて聞いたらね、めちゃくちゃうまかったの!すごいいい声で。これは血をひいているのかなと思って、自分でうまいって言っちゃってますけど(笑)それが影響を受けたというか、いい声をもらったのかなと、矢田君は?
矢田:僕の親も芸能系ではなくて固めの職業で、僕は全然関係なく自由に育ってしまったというか(笑)中学生ぐらいの時には美容師さんかアパレルとか、そういう方向に行きたいと思っていたので、いわゆる反抗期もあって。だから今のこの年齢になって思うのは、おいおい高校入ったらしっかり勉強せぇよって(笑)その時は自分のことしか考えてなくて服飾の学校に行ったんですけど、アパレルで働いたり、今はこの職業をしていますが、自由にいろんなことを体験させてもらったことが今に繋がっていると思いますね。ピアノは幼稚園から小学校6年生ぐらいまでやっていて、ある程度は弾けます。作品にもよりますけど、ミュージカルで歌う時にクラシカルな要素の歌い方を求められる時もあるので。今作でヴィヴァルディという体験が増えるのはありがたいです。
石井:プロフィールに弾き語りとかするって書いてあったもんね、素敵!
矢田:ただ楽譜読むより耳コピの方で、楽譜を読むのが当時から嫌いで(笑)しかもクラシックの先生が凄く厳しくて、いやいや通っていたけど、今となってはすごく感謝しています。親の年齢になって、ありがたみがわかってきた。当時は何言うてんねん!て思ってましたけど、間違ったことは言ってないという。
石井:おおお、まるで今回のセリフみたいだね。
矢田:ほんとに。だからアントニオについてはすごく共感できます。若いうちは自分のやりたいことが先行して、はねのけたりしちゃいますけど。まだ人の親ではないですが、人間を育てるのってすごいことですよね。
――では最後にメッセージをお願いいたします。
矢田:実はヴィヴァルディの音楽劇をやりますって言われて、はじめヴィヴァルディの四季に合わせて歌うのかな?と思ったんですがそうではなく、こんなにたくさん書き下ろしてくださっていて驚きました。四季の曲自体はシーンを彩っています。ヴィヴァルディを知らなくて迷っている方、歌唱曲は新しい楽曲なので歴史を知らなくても大丈夫です。 そして何百年経っても人間と人間のドラマ、親と子の関係も、アントニオを取り巻く嫉妬や称賛とか、そういうものは時代を超えて現代でも変わることはありません。肩の力を抜いて観ていただけるものになると思います。新しいアプローチの作品になると確信しています。ぜひ劇場にいらしてください。
石井:中村さんの音楽がとても素敵です。美しくてドラマティックで、バロック感もそこはかとなく漂うアレンジにしてくださっています。この時代の空気もまとっていながら、ヴィヴァルディらしさも感じる楽曲で、素晴らしい才能だと思いました。
メロディアスで歌いがいのある曲がいっぱいあって、それを歌える喜びをまず感じています。きっとこの作品のチラシを見て、どんな作品なのかまだわからないと思いますが、まず曲がすごくいいですよってことはお伝えしたいです。
そして、めちゃくちゃ歌が上手い人ばっかり。この歌ウマメンバーが甘いバラードから、コミカルな楽曲までガッツリ歌います。
芝居としては、親子の愛や確執、愛しても結婚することもできない刹那、いろんな喜怒哀楽が描かれています。楽しい稽古場で、実力のある人たちと紡いだ作品が悪くなるはずないからね、楽しみにしてください。ご来場していただけたら幸いでございます。
概要
バロック音楽劇『ヴィヴァルディ~四季』ドラマコンサート
原案:伊藤 大
上演台本・演出:岡本さとる
音楽:中村匡宏
企画・製作:アーティストジャパン
出演:石井一孝、矢田悠祐、宮原浩暢、辰巳真理恵、北翔海莉
演奏:花井悠希、林 愛実、山本有紗
日程:2025年5月8日(木)~5月11日(日)
会場:新国立劇場 小劇場
料金:S席9,500円 A席8,500円(税込・全席指定)
取扱:アーティストジャパン、イープラス、ローソンチケット
問合:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp/
公式サイト:https://artistjapan.co.jp/vivaldi-drama-concert2025/
撮影:山副圭吾