Shake&Speare!!Stage 宮川彬良×木村龍之介 『ナツユメ』脚本・演出:木村龍之介インタビュー

Shake&Speare!!Stage 宮川彬良×木村龍之介『ナツユメ』が6月6日よりKAAT神奈川芸術劇場の大スタジオで上演される。
400年前にシェイクスピアが見たであろう世界とこれから訪れるであろう未来の世界を、最新のAI技術を用いて表現する全く新しい「夏の夜の夢」。
数々の演劇賞の栄冠を手にし、ミュージカル界の鬼才とうたわれる宮川彬良が音楽を担当。脚本・演出にはシェイクスピア作品を多く手掛ける木村龍之介。最新技術を駆使したAIアバターとして、作中に登場する白石加代子。演劇界のレジェンドが最新鋭のAIキャラクターと化した姿はみどころのひとつ。企画から脚本・演出までを手がける木村龍之介さんのインタビューが実現、AIとシェイクスピアの組み合わせについて、見どころなど、語っていただいた。

ーー企画の発端、企画のきっかけはどこから?

木村:最初のきっかけは、「AIと演劇の未来」に対する問いかけでした。AIが急速に進化する今、人間にしかできない“演じる”という行為の意味を、もう一度ゼロから考えてみたくなったんです。そんなとき、シェイクスピアがそっと差し出してくれたのが『夏の夜の夢』でした。
「夢」「変身」「境界のあいまいさ」――この作品には、現代を予言するようなテーマがすでに息づいています。僕自身、役者としても、演出家としても、観客としても、そして読者としても、何度も向き合ってきた作品です。誰もが知る名作であり、笑えて、華やかで、間違いなく“面白い”。でもどこか、ずっと「最後のピースが足りない」と感じていました。
それが今、生成AIやアバターといったテクノロジーの登場で、地球そのものが新しいステージに向かおうとしている。――そのとき、ピースが“かちり”とハマったんです。もしもシェイクスピアが今を生きていたら、きっとこの『夏の夜の夢』を再び書き、上演していたはずだ。そう確信しました。
そうして生まれたのが、この『ナツユメ』です。

ーーA1とシェイクスピア、他にも様々な作家の作品もあるかと思いますが、シェイクスピアをチョイスした理由。

木村:シェイクスピアの戯曲には、400年の時を超えてなお生き続ける、驚くほどの普遍性があります。そして何より、彼の作品は“言葉の力”そのものです。言葉が人を動かし、社会を揺さぶり、世界を変えていく――そんな演劇を、彼は書き続けました。
だからこそ、AIが言葉を模倣するこの時代に、僕はあえてシェイクスピアを選びました。人間が“言葉で世界をつくる力”を、もう一度取り戻すために。
とはいえ、シェイクスピアの原文を読みこなすのは簡単ではありません。松岡和子さんの翻訳も素晴らしいですが、文学や演劇の言葉であり、私たちの生活とは少し距離があります。その“宙に浮いた言葉”に背伸びして触れるのも楽しいけれど、もっと気軽に、日常の延長で、シェイクスピアの世界で遊んでもいいと思うんです。
きっとシェイクスピア自身も、言葉を“目的”ではなく“道具”として扱っていたはずです。大切なのは、言葉になる前の彼のイメージ――なにを伝えたかったのか、どんな問いを投げかけたかったのか。演劇を通して、なにを分かち合いたかったのか。そこに光を当てながら、原文も翻訳も過去の上演もすべて参照しつつ、言葉そのものにも“演出”を施していく。シェイクスピアなんて知らない、という人たちにも届くような言葉にする。
文学は普遍でも、演出は時代とともに変わります。だからこそ、演出家として大切にしているのは、大胆に、勇気を持って「浅く」すること、広げること。それがむしろ、より「深く」、より豊かに世界が響き合う道だと、シェイクスピアが教えてくれている気がします。『夏の夜の夢』の核心も、まさにそこにあると僕は思っています。

ーーお稽古に入っていらっしゃると思いますが、キャストさんもとても個性的ですね。また、セリフも今風だけでなく、テンポ感もかなり早い印象で、言葉遊びも多い感じです。

木村:今回のキャストは本当に個性豊かで、何より“自分のまま”で舞台に立とうとしてくれる人たちです。僕が演出家として信じているのは、「役を“演じる”ことより、まず“存在する”こと」。彼ら自身の身体や声、感覚がそのまま物語と重なっていくことでしか、生まれない瞬間があると信じています。
シェイクスピアの戯曲には、“自分のリアル”を信じて戯曲の世界を生きようとすればするほど、キャラクターが役者に憑依してくるような不思議な力があります。遠くの誰かになろうとするのではなく、「これは自分自身の物語だ」と信じて進むことで、むしろどこまでも遠くへ行ける。今回の俳優たちは、そんな“シェイクスピアの旅”を心から楽しんでくれていると思います。楽しむというのは、ものすごい才能なんです。彼らのエネルギーに僕も毎日感化されて、創作が楽しくて仕方がない。きっと観客のみなさんも、役者たちに惚れ込んでしまうはずです。ぜひご堪能ください。
セリフについては、原文の美しさや響きを残しつつ、現代のスピード感や空気感を意識して再構成しています。今回はAI時代の『夏の夜の夢』ということで、まるでショート動画のように短くテンポよく展開されるシーンの連続。それに合わせて、“処理速度の速い言葉”でやりとりする構造にしています。テンポは速いけれど、情報量は濃く、心は置いてきぼりにしない。俳優たちは大変だけど、原文の重厚な言葉だとつい「シェイクスピア的演技術」の見せ合いになってしまいがちで、逆に観客との距離が開いてしまうこともある。今回の台本では、展開のスピード感そのものがエンタメになっていて、観客を夢の世界にぐいぐい引っ張り込んでくれるといいなと思っています。
そしてもちろん、言葉遊びもたくさん仕込んでいます。もともとシェイクスピア作品はダジャレや掛詞の宝庫なんですが、それを現代の感覚でパッと笑えるように、あるいは意味が自然と通じるように、再構成しています。英語の語源を忍ばせたり、SNSやゲーム文化を取り込んだりしながら、言葉そのものが踊る感覚を、観客の皆さんにも味わっていただきたいですね。

ーー見どころを。宮川さんが楽曲を手掛けていますが、宮川さんの楽曲について。聴きどころや面白さなど。

木村:いや〜〜、本当に楽しいですよ!今回の宮川彬良さんの音楽を聴いたら、人間はもちろん、AIだって笑顔で踊り出すと思います。それくらい、この『ナツユメ』の世界に命を吹き込んでくれている。音楽が始まると、空気が変わる。言葉が躍る。俳優の身体が軽くなる。そんな瞬間が何度もあるんです。宮川さんの音楽は、まさにこの作品の“心臓”です。クラシックでもミュージカルでもない、“演劇のための音楽”。俳優の息遣いや言葉のテンポにぴたりと寄り添いながら、キャラクターの感情をすくい上げ、物語の流れを導いてくれます。しかもすべて生演奏。これはもう、“今ここ”でしか味わえない熱です。
今回のようにAIやアバターといった非人間的な要素を扱うからこそ、“人間にしか生み出せない音楽”が舞台を貫いていることに大きな意味があると感じています。音楽が流れるたびに、観客の想像力も物語の中へと巻き込まれていくんです。
僕はずっと思ってきました。シェイクスピアの戯曲って、実は“言葉とキャラクターでできたオーケストラ”なんじゃないかって。宮川さんは、そのスコアを手に取るように読み解いて、脚本を一読したその瞬間から、すでに音を聴き始めていた。きっと、あのシェイクスピア本人が聴いても、思わずガッツポーズしてしまうはずです。

ーー読者に向けてメッセージを。


木村:これまでの日本は、「シェイクスピアを本格的に楽しむ」ことにかけては得意だったと思います。ちゃんと装置を立てて、衣装を着て、高貴な空気をまとった舞台に仕立てる。その美しさや凄みは、僕も大好きです。
でも、僕たちがつくりたい未来は、ちょっと違う。
本当に大切なことを大切にしながらも、誰もがポケットにポイっと入れられるようなシェイクスピア。
決して“選ばれた人”だけのものじゃなくて、どんな人でも、好きなときに、好きな角度から楽しめるもの。
劇場は、何かを囲ったり、誰かを線引きする場所じゃなく、もっと自由に、もっと開かれていていいと思うんです。
まだちょっと、その「劇場の壁」は高く見えるかもしれません。
でも、もしよかったら――あなたの軽い翼で、ヒョイっと飛び越えてきてください。
中華街のそばにある“劇場”という名の広場で、皆さんとお会いできるのを、心から楽しみにしています!
オススメは応援席チケットです。一般的にいう前方エリアの「S席」にあたるお席なので、俳優の息づかいはもちろんのこと、最新鋭のAIアバターを「体感」していただけること間違いなしです。「ナツユメ」の世界にどっぷり浸かってください!

ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。

イントロダクション
人類という一夜の幻を、AIの少女は夢に見た
ロボットは、夢を見てはならない。
恋に堕ちてはならない。
芝居をしてはならない。
―――それでも、AIの少女は夢を見た。
恋に惑い、芝居に酔い、魔法にかけられた、ひとりの「少女」の物語。
シェイクスピアを演じるロボットが生まれたとき、人間も、妖精も、ロボットも踊り出す!―――
​テクノロジーと幻想の魔法が交差する、新たな『夏の夜の夢』。
シェイクスピア × AIが織りなす、『ナツユメ』、開幕。
この体験に、あなたは何を夢見る?

概要
日程・会場:2025年6月6日(金)~8日(日)KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
原作:ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』(松岡和子 訳)
音楽:宮川彬良
脚本・演出:木村龍之介
出演:
宮川安利 日下七海 沢栁優大 加藤ひろたか(劇団「柿喰う客」) 町田水城(はえぎわ)
宮川誠司 神谷敷樹麗 / 我膳導 / 白石加代子(AIアバター出演)
スタッフ
照明:根来直義(Top.gear) 音響:島貫聡 音響協力:大園康司 美術:松岡泉
舞台監督:株式会社URAK 映像収録:株式会社カラーズ
協力:劇団「柿喰う客」/はえぎわ/ワハハ本舗
当日運営:土屋竣暉 制作:八木井里緒/田村恭子 アシスタントプロデューサー:小野明日香
プロデューサー:木村龍之介/谷渕寿江

問い合わせ
『ナツユメ』制作:natsuyume2025@gmail.com

X(旧Twitter)/Instagram/Bluesky:
@natsuyume2025

公式HP:https://www.natsuyume2025.com/