
ゴツプロ︕第⼗⼀回公演 『流浪樹〜The Wanderer Tree〜』が下北沢の本多劇場にて開幕。
本公演は東京公演のほか、【台湾・台北】関渡アートフェスティバル(25年6⽉26⽇〜6⽉29)への参加も決まっている。
本作は、戦争と統治の時代を⽣きた⽇本⼈と台湾⼈の若者たちの物語を通じて、異なる⽂化やアイデンティティを超え、「⼈と⼈のつながり」が国境を越えて輝く姿を描く。 出演はゴツプロ︕メンバーの他に林⽥⿇⾥、⻘⼭勝、⼭本亨、そして台湾からは張寗、⿈冠智という実⼒派俳優陣が参加。
戦後80年という節⽬の年に、国境を越えた⽇台の競演が実現した。
開演前、昭和の歌謡曲が流れている。昭和の戦前の大ヒット曲、歌詞をよく聴くと…。この歌詞をちょっと記憶に留めてから観ると『なるほど』と思うので。

時代は戦争真っ只中、物語の舞台は台湾料理の食堂「華珍食堂」、ここの名物は炒飯、卵とご飯のシンプルなもの、だが、戦時中のこと、米も卵もなかなか手に入らない。夫婦で営んでいる食堂、そんなに広くもない店内、カウンターで夫が腕を振るうも、食糧難ゆえ、平和なときに普通に出せる料理が出せないものの、それでもこの食堂には人々が集う、あれこれと喋っている、どこにでもある風景。

この店の女主人・淑華には明という弟がいる。その弟がやってくる、仲の良い姉弟。明はすっかり、軍国主義に染まっている、日本が勝つと信じているし、戦況も日本が有利と信じ切っている。新聞記者の宇津井は連載を書くためにこの地を訪れている。ここに集う人々全員が日本の勝利を信じているわけではない。大ぴらに反戦は言えない、言えば特高に捕まる、そんなご時世、田所は元大学教授、大学を辞めたのには理由があったが、もちろん、自らははっきりとは言わないし、言えるはずもない。ところどころ、宇津井剛志のモノローグが入る、「今みたいな時代だからこそ、人情が必要」。戦争は激しくなり、空襲も。



それでも新聞は日本有利と書き立てる。それを信じる者、本当にそうなのだろうかと心の片隅で思う者も。やがて終戦、玉音放送、テレビで見たことが、聞いたことがある人も多いかと思う。戦争に負けた、だが、それは戦争が終わったということ、空襲が来ることも無くなった。だが、それまでの価値観が一気に変わる、今まで『NG』だったものが『OK』になる。

戦前の台湾、日清戦争後の下関条約で台湾は日本の植民地となった。皇民化運動、国語運動、改姓名、志願兵制度、宗教・社会風俗改革の4点からなる、台湾人の日本人化運動。だから、台湾人であるのに、日本風の名前、明、フルネームは岡本明、だが、台湾ネームは陳志明。戦後、アイデンティティを見失う。当時、明のような立場は「三国人」と呼ばれていた。闇市に進駐軍、逞しく順応して生きていく者もいれば、今まで自分は何をしてきたのだろうかと思い悩む者もいる。それでも皆、寄り添って生きている。

しっかり者の淑華とのほほんとした夫・靖、いいコンビネーション、新聞に連載を持っていた剛志は戦後、今まで自分が書いてきたことについて深く傷つき、そのことについて反芻する姿、純粋で生真面目な性格ゆえにその暗闇からなかなか脱出できない。だが、ラスト、舞台上、希望の光が見える。休憩なしのおおよそ1時間50分。
ことあるごとに卵炒飯、卵炒飯の卵は黄金色、それを食べれば元気になれる。ちなみに下北沢には美味しい台湾料理の店があるので!ゴツプロ︕のいつものメンバーに台湾からの客演俳優とのハーモニーが時には重厚に、時には軽やかに、時は笑いも。重苦しい時代だが、そこに生きる市井の人々の逞しさと優しさは観る人の心に響くはず。公演は8日まで、本多劇場にて。

コメント
ゴツプロ!主宰 塚原大助より
ゴツプロ!は2018年から台湾との演劇交流を続けてきました。言葉も文化も異なるなか、芝居を通じて少しずつ信頼を育んできました。その積み重ねの先に生まれたのが、本作『流浪樹 ~The Wanderer Tree~』です。
台湾からは、張寗(Chang Ning)さん、黃冠智(Akira Huang)さんという素晴らしい俳優を迎え、さらに台湾出身の劇作家・沈琬婷(Shen Wan-Ting)さんが共同脚本として参加。演出はゴツプロ!の泉知束が担当し、東京・本多劇場と台湾・国立台北芸術大学にて上演いたします。
戦後80年という節目のいま、この作品を通して過去を見つめ、そして日台それぞれの未来に希望を抱きたいと願っています。
海を越えて、人と人とが出会い、心を通わせる——そんな演劇の力を信じて、この作品をお届けします。皆様のご来場を心よりお待ちしております。
演出 泉知束より
戦後80年という節目の年に、このような舞台に取り組めることに大きな意義を感じています。
簡単に行き来できるようになった今の時代。
けれど、あの時代には――行きたくても行けず、帰りたくても帰れなかった現実がありました。
その中で、誰かを想い、想われ、ほんのわずかな希望にすがりながら必死に生きた人たちがいます。
この物語は、戦中・戦後という激動の時代を懸命に生き抜いた、市井の人々の群像劇です。
その姿から、きっと“生きる”ということの本質が浮かび上がってくると思っています。
ゴツプロ!がお届けする、日台の記憶をたどる物語。
未来へ向けて、この作品が届くことを願いながら、劇場でお待ちしております。
イントロダクション
1943年、東京郊外――。
戦闘機部品を製造する工場の近くに、ひっそりと佇む台湾料理の食堂「華珍食堂」がある。
若き台湾人の女主人・淑華は、琉球出身の夫とともにこの食堂を営み、周囲の人々に温かな台湾の味を届けている。
淑華の弟・明は、東京で学ぶ留学生。学生勤労動員の一環として工場に動員され、同級生たちとともに懸命な日々を送っている。
一方、新聞記者の宇津井剛志は、連載記事の取材のためこの地を訪れ、「華珍食堂」の人々と少しずつ心を通わせていく。
職人、工員、学生、警官、教師──
さまざまな立場の人々がこの食堂に集い、戦時下の厳しい時代を支え合いながら生き抜いていった。
やがて戦争が終わり、社会の大きな変化が人々を引き離していく。
明もまた、進むべき道に迷いを感じはじめていた。
そんな折、ある危機が静かに忍び寄る──。
戦後80年の節目に、ゴツプロ!が放つ。日本人と台湾人が共に歩んだ記憶を、未来への一歩に。
概要
日程・会場:2025年6⽉2⽇(月)〜6⽉8⽇(⽇)下北沢・本多劇場
演出:泉知束
配役
宇津井剛志(塚原大助) 新聞記者
岡本明(陳志明)(⿈冠智 / Akira Huang) 台湾人学徒
下地靖(佐藤正和) 沖縄出身の食堂店主
下地淑華(張寗 / Chang Ning) 下地の妻・台湾出身
鮫島栄吉(山本亨) 工場経営者
梶原鉄夫(奥津裕也) サメの会社の工員
風間英二(銀ゲンタ) 大学生・学徒
鈴木武雄(浜谷康幸) 工員・ヤクザ
大倉チヨ子(林田麻里) 女給
遠藤五助(渡邊聡) となり組組長
山根信五(片山享) 特高警察官
田所万作(青山勝) 元大学の先生
協賛︓ニューロードグループ / ヘアークリアー / イベント・レンジャーズ / 炭⽕焼⾁ホルモン劇場den / 麺屋⿊⽥ / PASTA DINER PITANGO / 中華とお酒 新花 SHINKA / make me me / BARBER-BAR
後援︓SPC GLOBAL
企画・製作・主催︓ゴツプロ合同会社
ゴツプロ︕公式サイト︓https://52pro.info/