世界初演! 細川俊夫×多和田葉子×大野和士 新作オペラ『ナターシャ』新国立劇場_

新国立劇場では、現代音楽で世界をリードする細川俊夫に新作オペラを委嘱、8月に『ナターシャ』が世界初演となる。台本は、ドイツから世界を見つめ、世界的評価と人気を博す多和田葉子。「日本発の多言語オペラを創ろう」という誘いに、「脳に電光が走った」と述べている。
新作のテーマは、人間のエゴと地球環境の破壊。故郷を追われた移民ナターシャと少年アラトが、トリックスターの”メフィストの孫”に導かれ、ダンテの『神曲』のように様々な地獄を巡る。そこにはプラスチック汚染、異常気象による洪水、山林火災、干ばつといった様々な現代の“地獄”が現出し、ドイツ語、日本語、ウクライナ語など最大36の多言語によって、現代文明と人間の始原の姿が対比されていきます。人間に破壊された地球のうめきが響き、欲望の渦で傷ついた心と希望とが、多文化を鍵に描かれるオペラの誕生となる。

『ナターシャ』トレイラー映像

あらすじ
海、そして宇宙の響き。アラトは母なるものを求め地底への入口を探し、故郷を追われ彷徨うナターシャと出会う。言葉が通じないながら名を伝えあった二人の前に、メフィストの孫と名乗る男が登場。二人はメフィストの孫に誘われ、海辺から森へ、そして現代の様々な地獄へと旅していく。

台本の多和田葉子は、ドイツを拠点に世界を見つめ、国境や言語、環境をテーマにした小説やエッセイ、演劇で環境破壊、自然破壊へ痛烈な批判を繰り広げ、世界で評価されている。多和田葉子がオペラ台本を書くのは、今回が初。登場人物それぞれの感情の吐露が重なり響きあう「重唱」というオペラ独特の美に強く惹かれるという多和田が、多言語を同時に響かせる、新たな形態=”多言語オペラ”に挑戦となる。

多和田葉子(台本)

作曲は世界の著名音楽団体、音楽祭から次々に新作を委嘱される作曲家で、作品の並外れた国際的影響力、特に日本の音楽の伝統と現代の西洋の美学に架け橋をかけたことが評価され「スペインのノーベル賞」と称されるBBVA財団Frontiers of Knowledge賞(音楽・オペラ部門)を受賞したばかりの細川俊夫。『ナターシャ』は、自然への畏怖を忘れた人間の姿を書き続けている細川俊夫の到達点と言える作品です。細川俊夫にとって、これまでのオペラは全て海外の音楽祭や劇場からの委嘱であり、『ナターシャ』は日本で世界初演を迎える初のオペラとなる。

細川俊夫(作曲)

世界第一線のオペラ指揮者である大野和士と、大野を自らの「最大の理解者で、最も信頼する指揮者」とする細川のタッグによる新作オペラ初演は、エクサン・プロヴァンス音楽祭『班女』(2004年)に続くもの。一方、細川と多和田のコラボレーションは、18年国際交流基金賞受賞の折の初コラボレーションに続き、21年にルクセンブルクで発表した朗読とアンサンブルのための『遠くから来た君の友だち』。大野は多和田を「世界人として様々な人間のアイデンティティ・クライシスを考察し続ける作家」と評し、3人で長い時間をかけ、オペラならではの形態で現代を照射する新作の構想を練り上げる。

大野和士(指揮)

現代と向き合って、分断の進む今日の世界へ向け、人間の姿を問う“多言語オペラ”を日本からの発信となる。

左より大野和士、多和田葉子、細川俊夫

 

『ナターシャ』で核となる登場人物は、ウクライナから逃れてきたナターシャと、やはり住処を離れ彷徨っている青年アラト、そして、二人に現代の“地獄”を案内する自称「メフィストの孫」。2人の若者はメフィストの孫に導かれ、7つの“地獄”――樹木が伐採し尽くされた樹海「森林地獄」、マイクロプラスチック汚染とグロテスクな消費欲「快楽地獄」、大雨と濁流が覆う「洪水地獄」、金儲け主義が支配する「ビジネス地獄」、泥沼でアジテーションが渦巻く「沼地獄」、山林火災の「炎上地獄」、砂漠と古代文明の「干ばつ地獄」を巡る。テキストはそれぞれ異なる言語が当てられ、ゲーテの『ファウスト』をはじめ、シェイクスピア、屈原など古今東西の文学からの引用を含む世界各地の言葉で語られ、地獄めぐりの道行きが人間の叡智の旅に重なる。そして、絶望の淵から言葉を超えて他者を理解し、結ばれていく若者の姿を通して、人間の始原の姿が浮かび上がり、地球の危機と対比されていく。

左上よりI.エーレンス、山下裕賀、C.ミードル、森谷真理、冨平安希子

タイトルロールのナターシャを演じるのは、現代音楽のスペシャリスト、細川音楽の理解者として細川の信頼も厚いソプラノ、イルゼ・エーレンス。ナターシャと共に地獄を旅するアラトには、日本のトップ歌手に躍り出て、飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進中のメゾソプラノ山下裕賀。地獄への案内人メフィストの孫は、近年特に現代作品で評価を高め、世界の主要な歌劇場での活躍が著しいバリトン、クリスティアン・ミードル。ポップ歌手として森谷真理、冨平安希子。演出は舞台美術も手掛けるドイツのオペラ演出家クリスティアン・レート。
概要
令和7年度日本博2.0事業
新国立劇場2024/2025シーズンオペラ『ナターシャ』 <新制作 創作委嘱作品・世界初演>
会期会場:2025年8月11日(月・祝)/13日(水)/15日(金)/17日(日) 新国立劇場オペラパレス
スタッフ・出演: 台本:多和田葉子/作曲:細川俊夫/指揮:大野和士/演出:クリスティアン・レート/出演:イルゼ・エーレンス、山下裕賀、クリスティアン・ミードル、森谷真理、冨平安希子、タン・ジュンボ/サクソフォーン奏者:大石将紀、エレキギター奏者:山田 岳/合唱:新国立劇場合唱団/管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
Commissioned by New National Theatre Tokyo with the support of the Ernst von Siemens Music Foundation
チケット料金:S:26,400円・A:22,000円・B:15,400円・C:9,900円・D:6,600円・Z(当日のみ):1,650円
チケット: 03-5352-9999 https://nntt.pia.jp/

新国立劇場オペラパレス

WEB:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/natasha/