舞台「シーボルト父子伝~蒼い目のサムライ~」最新作 上演中

舞台「シーボルト父子伝~蒼い目のサムライ~」の最新作が上演中だ。
およそ200年前に長崎の出島に来航したフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトは有名であるが、その息子アレキサンデル、ハインリッヒのシーボルト兄弟が父の遺志を継いで日本政府に奉職し、幕末明治の志士たちと日本の未来の為に走したことは余り知られていない。
今年の新作公演はハインリッヒが西洋人として初めてアイヌ民族の集落に長期滞在した1878年の夏から白人社会による侵略と迫害に抗い奇跡の利を得た日露戦争までを中心に、父シーボルトの時代は来年200周年を迎える江戸参府とその際に起こったいわゆる『シーボルト事件』についても子孫の方と日本シーボルト協会を中心とした研究者の最新研究をもとにした新事実を描いていく。


鳳の演じる主人公ハインリッヒの幼年期を元AKB48の市川美織、初演再演でアレキサンデルを演じた塩谷瞬、再演で兄弟の強大なライバル、アーネスト・サトウを演じたパッファロー吾郎の竹若元博、更に渡辺裕之、辰巳琢郎、京本政樹と日本を代表する名優たちが繋いできた大役『シーボルト』役にはヨーロッパで生まれ日本に帰化、俳優としてはNHK朝ドラくカムカムエブリバディ>で主人公の恋人役、大河ドラマ<どうする家康>で三浦接針を演じたリアル『蒼い目のサムライ』村雨辰剛。

最初に登場するのはフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(村雨辰剛)、そして少年・ハインリッヒ(市川美織)、可愛らしく、好奇心旺盛な少年、そんな息子が好きな父、良き親子関係、そして成長したハインリッヒ(鳳恵弥)、少年・ハインリッヒと青年・ハインリッヒが重なる瞬間は演劇的。

それから、この作品のテーマ曲『ジパングにやってきたヤァ!ヤァ!ヤァ!』、キャスト全員で歌唱、パッパラー河合がアイヌ民族の衣装を着てギター、ワイワイと楽しく。それから本編が始まる。

今回は今まで出てきたことのないエピソード、ハインリッヒは西洋人としては初めてアイヌ民族について民俗学的な研究をしている。ハインリッヒは日本語が堪能で1878年には大隈重信の依頼でアイヌ民族の視察と研究に函館、森町を経て平取に赴く。

また、イザベラ・バードが登場、日本海側から北海道に至る北日本を旅行、『日本奥地紀行』にまとめており、明治維新当時の日本の地方の住居、服装、風俗、自然を細かく書き留めてあり、近代以前の日本の情勢を知ることのできる貴重なもので、特にアイヌに関する記述も豊富。今までは大森貝塚のエピソードは、この作品の中心だったが、ここでは出てこない。アイヌの信任を得ていたハインリッヒ、ペンリウク(パッパラー河合)との出会い、実はハインリッヒやバード以前の北海道に行く西洋人の大半は「宣教」、そういったこともさりげなく語られる。

ハインリッヒはペンリウクらアイヌの人々と親交を深めていく。この当時、政府はアイヌの人々に対して「同化政策」、江戸時代は松前藩がアイヌ民族に対する支配を強め、アイヌ民族は過酷な労働を強いられていた。この作品でも、そういったことを描いており、ハインリッヒは、彼らとは一線を画し、アイヌの人々に対してフラットに平等に接する。また、劇中で着用のアイヌの民族衣装だが、これが本物!髭は偽物(笑)。そういった細かいこだわりも本作の特長だ。

今回、新しいエピソードを中心に構成されている「シーボルト父子伝~蒼い目のサムライ~」、だが、貫かれているテーマは一貫している。フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト、その息子アレキサンデル、ハインリッヒの日本への想い、ヒューマニズム。ハインリッヒは病を得て公使館の職を辞して帰国、1908年病没、享年56。

ハインリッヒを演じるのは初演から一貫して鳳恵弥、今回も脚本・演出も手がけ、熱い演技。北海道に足を運び、執筆。熱い想いが詰まった脚本。そして父であるフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトは初登場の村雨辰剛、出番は少なめだが、しっかりと爪痕を。兄であるアレキサンデルは塩谷瞬、鳳恵弥と魅せる殺陣・アクションは注目。また、イギリス公使館のアーネスト・サトウは竹若元博、安定のヒール役、そのほか、歴史上の人物が多数出演、大隈重信、伊藤博文、井上馨などなど。エンターテイメントで日本史の勉強もできる。

劇中歌「カムイ レラ」、この『カムイ』とはアイヌ語でアイヌ語で神格を有する高位の霊的存在だが、「神」と訳されることが多い。そして『レラ』は一般的に「風」と訳されることが多い言葉。歌詞に志が垣間見える、聴かせる曲。上演時間は休憩なしの2時間だが、途中、ゲストが登場、金曜日はジャッキーちゃん。ゲスト登場場面は「小休止」的な時間、ジャッキーちゃんのパフォーマンス、そしてなんと最近結婚したそうで、客席から拍手。サービス満点。ロビーにはシーボルト父子がよくわかるパネルが。作品を見る前にみれば予習に、観た後に見れば復習に。公演は13日まで。

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シーボルト兄弟について
父の再来日に同行をしたアレキサンデルは、父の帰国後も日本に残りパリ万博の便節団に随行、その行程では渋沢栄一など後の明治政府を支える傑物たちに語学や西洋事情を教えるなど交友を深め、その帰路で弟ハインリッヒを連れて来日。その後にシーボルト兄弟は各国との条約改正やジュネーブ条約への調印を経た日本赤十字社の設立、大国ロシアとの緊張を高める中でヨーロッパ諸国でのロビイスト活動を展開し、戦費調達、そこからに繋がる大戦への勝利を得るなど外交面で大いに活躍をし、さらに研究分野においても父の跡を引き継いだハインリッヒは考古学者としては大森貝塚など様々な遺跡を発掘、著書『考古説略』において日本で初めて考古学という名称を用いた。また、2人の異母姉である楠本イネも姉を慕う兄弟の協力をもって築地にて日本人女性として初の産院を営み、宮内省御用掛となっている。医学、外交、民俗学、博物学など多くの分野に精通し活躍をしたシーボルトであったが、その血は子供たちに脈々と引き継がれ、父の愛した日本の為に生き抜いた。

概要
舞台「シーボルト父子伝~蒼い目のサムライ~」最新作公演
日程・会場:2025年7月10日~7月13日銀座博品館劇場
原案・企画/関口忠相(日本シーボルト協会会長/シーボルト子孫)
総監修/木村ひさし、
音楽&出演/パッパラー河合(爆風スランプ)
出演/鳳恵弥、市川美織、竹若元博、村雨辰剛、塩谷瞬 他
公式X:https://x.com/siebold_fushi

舞台写真:主催者提供