神野美伽×マキノノゾミ 舞台「『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』~ハイヒールとつけまつげ~」クロストーク

今年は戦後80年の節目の年、神野美伽主演の舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』~ハイヒールとつけまつげ~が8月1日より上演される。昭和の戦前戦後をとおして日本人離れした強烈な歌唱力とキャラクターで激動の時代を駆け抜けていった歌手笠置シヅ子の一生を、歌と芝居と生バンドで描く、パワフルかつ勇気をもらえる作品。初演は2019年、満を持しての再演。

脚本はマキノノゾミ、演出は白井晃、という強力タッグ。主演はもちろん、神野美伽が続投。『東京ブギウギ』『買物ブギー』『ジャングル・ブギー』『ラッパと娘』などの服部良一の名曲が生バンドで蘇る。猛暑真っ只中、絶賛稽古中、マキノノゾミさんと神野美伽さんのクロストークが実現、初演の思い出や笠置シヅ子という人物、時代背景、見どころなど、あらゆることを大いに語り合った。

2019年「SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE 」より

ーー初演時の思い出やエピソードをお願いいたします。

マキノ:初演時、稽古場にお邪魔してご挨拶し、それから観にいきましたが、印象としてはものすごく良かった、神野さんの歌の力がすごくって、「うまいなあ、歌」って(笑)『ラッパと娘』とか『東京ブギウギ』とかいわゆる戦前の服部さんが絶好調の頃に書いていたジャズ、あのエネルギーみたいなもの、舞台で見たときに「すごいな」と。それが思い出ですね。(脚本は)書くのに苦労したのは毎度のことなので(笑)。

神野:オファーが来たのは、初演の6年前からさらに数年前の話で…『笠置シヅ子やりませんか?』言われたときに、正直「なんで私?」って思いました。笠置シヅ子さんと聞くと、先生もおっしゃった通り、『東京ブギウギ』、それから『買物ブギー』そして『ジャングル・ブギー』ぐらい…演歌の歌番組の中で歌った記憶があるなという程度です。作品の説明を受けましたが、私自身はお芝居自体は大好きですが、その時はもう全くのゼロの段階でした。「やらせていただきます」というところに至るまでちょっと時間がかかりました。脚本がマキノ先生、演出が白井晃先生とお伺いしてすごくびっくりしました。お芝居は好きで、劇団の作品や商業演劇の作品など、いろんなものを観て歩いていましたが、このお二人とお仕事できるとは夢にも思っていなかったのですごく嬉しかったです。ただ、私自身が笠置シヅ子さんに関してあまりにも知らなかったので、出来上がった脚本を読ませていただき、「そうなんだ、そうなんだ、そうなんだ、こういうことがあったんだ」って教科書のように読ませていただきました。マキノ先生はどこからこんなに多くの情報を…現在と6年前では、笠置さんに関する資料の分量って全然違ったはずなんです。どこからこんなに情報を…それがプロのお仕事ですが、まず、笠置さんを誰がやるのかっていうのも先生の頭の中で作っているわけですよね、言葉選びとか、改めてすごいなと思いました。今は朝ドラの『ブギウギ』のおかげっていったら変ですけど、いろんな人が急に笠置シヅ子さんについての本を出されたり、晩年にインタビューに長く答えているような白黒の映像と、どこにあったんだろうか?っていうものや、個人の方が持っていらっしゃった笠置さんに関するものとかがいっぱい出てきて。6年という時間をもらったおかげで、先生がかいてくださった笠置シヅ子さんは大正解だったっていうのもわかったし、間違いなくこういうものの言い方をするんだろうなって…本当はものすごく潔癖症とか神経質で…舞台とは全く違う真逆な面を持っているからこそ、舞台に合うんだろうなとか。6年前にはそこまで行き着いてなかったんです。私はマキノ先生にも興味津々で(笑)、頭の中はどうなってるのか、どんな生活していらっしゃるのか…ちょっと伝え聞いたところによると、やはりご自身、音楽が好きだっていうこと、白井さんもそうですし。今回、両先生方にお仕事をしていただいたことが、もう私にとってはものすごくラッキーなこと、大正解だったんだと思うんですけど、とにかくあの60年近い歳月をこの2時間にまとめていらっしゃる。改めてお時間をいただいていろんなお話を伺ってみたいと思っております。

2019年「SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE」より
2019年「SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE」より

マキノ:ありがとうございます。資料に関してはできる限り手に入るものは何とか探して読んだり見たりとかしたんですけど、一番大きいのはやっぱり笠置さんの自伝ですよね、あの自伝が復刻されて…朝ドラのおかげですね。これを見つけたとき、ご本人が語ったことをおそらく近くにいた方が書いてらっしゃるんだと思うんですけど、これがご本人の語る言葉に近いのではと思うんですね…一番大きい資料になりました。6年ぐらい前に…(資料が)ボロボロでしたね。

神野:私はそのときまだ知らなかったので、私の全ては台本だったんです。先生がその本を読まれたときに、何が一番印象に残られました?

マキノ:やっぱり吉本穎右(よしもとえいすけ)さんとの…この時点では、彼が亡くなってからまだ時間はそんな経ってないんですよ。だからその思いみたいなものが、すごく赤裸々だったような印象があります。読んだときはそこがすごくリアルだなと思いましたね。

神野:出会いとか…あの時代ではお二人のお年の差が…今の時代ではなんていうこともないですけど、結婚していない人の子供を…その子供がどこかにもらわれるとか、誰かが育てるとか、その頃の日本はそういう時代でしたが、笠置シヅ子さんは当時のスーパースター、シングルマザーとして子育てをやってのけた、笠置さんの人生の全て、女性として、そして歌い手として…穎右さんと出会って、あんなに早い別れがあって、しかも結婚していない、九つも年下の彼の子供を産んで、すぐに舞台に復帰できた、女性としてものすごく共感できます。だからやっていても違和感もなく、笠置さんの穎右さんに対する物言いとか、そこはマキノ先生が作ってくださった言葉ですが、「まさにこんな人だった」っていうのを私自身の言葉として喋れるので…。6年前は「笠置さんを演じなきゃ…演じるってどないしたらええんやろ」みたいな感じで、もうほとんど素人みたいなところからスタートしましたが、結果的にはすごいことをやったことにはなりましたが、今は笠置さんを知ることができたので、セリフも自分の言葉みたいになりまして。6年前は「お芝居って言うていいんやろか?」っていうぐらいの感覚でした。

稽古風景

ーー今回、再演ですが、初演から再演の間に放送された朝ドラの『ブギウギ』の効果はすごく大きかったと思いますし、2019年に服部良一さんの唯一の軍歌『大空の弟』が発見されたそうですね。

神野:そうです。

ーー笠置シヅ子さんの弟さんが戦争で亡くなり、そのために服部良一さんが書いた曲だと聞いています。

マキノ:この作品で発見されたんです。資料には、そういう歌があるということ、リストにはタイトルはあったんですけど、確か、服部良一さんの本の中でも語られてたのと、笠置さんの自伝の中でも記述はあったと思うのですが、ただ曲がどう探しても見つからなくて。音源が残ってなかったんです。「あればね、見つかればね」みたいな話をしてました。

神野:内容が内容なので、実はレコーディングもしていらっしゃらない。だから残っていなかったんですが、この公演のために、音楽監督の小原さんが服部先生の事務所と連絡を取ってくださり、資料をお借りするためにご一緒にお伺いした時に倉庫で偶然発見しました。スターバックスの袋ぐらいの色になってまして(笑)、時代を感じました。これは音楽劇にとってはすごくラッキーなことでした。今年戦後80年、たまたま8月、このお盆近い時期にIMM THEATERで上演できる、これはあらゆるものが全部味方して下さってる気がいたしました。歌の内容もそうですが、笠置さんの人生だけではなく、日本の音楽史、絶対に日本の今のJ-POPと呼ばれている音楽の元であると思いますし、終戦後、軍国主義から解放されて。この歴史がなかったら、多分、こういう音楽は今、作れなかったと思うんです。戦争は残酷で、人の命以外にも、文化、思想も変えてしまう。けれども敗戦国になり、こうやって生まれた斬新な新しい音楽文化もある、ということですね。しかも笠置さんは昭和25年にアメリカツアーに行っていらっしゃる、どんなコネクションがあったのか…向こうの素晴らしいジャズミュージシャンやアーティストたちと実際に会ってたり、一緒に歌う機会を得たり、誰がどうプロデュースして、コーディネートしてそんなことができたんだろうと…その後の江利チエミさんも…今、私達がそういうことをやろうと思っても、ものすごくハードル高いですから。あの当時は時代が良かったんだろうなって。笠置シヅ子さんも服部良一先生も人間同士として音楽家としてそういう経験をしていらっしゃる、ジャズに憧れて、憧れて、アメリカに憧れて、結果的に日本独自のものを作らなきゃ駄目だっていうところに服部先生がそこに行き着いた。今、現在、私自身が歌い手として感じていることはまさにそこなんです。その時の服部先生と同じ思いで、この音楽を逆に今、海外へ持っていったら、今こそ面白いだろうなと思います。この演劇作品と出会っていなかったら、私自身そういう思いを持たなかったと思いますので、これも私にとってはすごいご縁、ありがたい、音楽が素晴らしい!

ーー今年は戦後80年、公演も8月1日から、時期的にはジャストな印象。今回の見所や聴きどころ、また初演とちょっと変えているところとかございましたらお願いいたします。

神野:初演のときにやらなかった部分もありましたが、今回はそこを復活させて、物語をくっきりとそこを強調して、きちんとやります。そこにプラス、初演ではやらなかった、演出的にも加わっていることはたくさんあります。カットしてしまった部分をチェックして、やっぱりあった方がよりわかりやすいだろうということになりました。

マキノ:ありがたいです。

神野:だから書いてくださってるんですよね。私もすごくせっかちで、「やりたい、やりたい、もう1回やりたい」と思っていましたが、今回は体力的にはギリギリと思っているんですね。これがまた6年後、それより短い2年後、3年後でも、多分無理、今回が最後だろうなとか思いながらさせていただいてますが、これをまた、別の方がやってくださるようになったいいなと、そうならないとこの脚本が勿体なさ過ぎて…すごくお節介なことまで考えてます。日本の音楽史、それから日本の戦争、今現在と6年前と違うのは、戦争があっちでもこっちでも起こっている、その中でやる意味、ここは前回とは違うなと。日々、テレビのニュースを見ると戦地の映像が映る、時代は違えど、あの音楽も人間も同じ状況下に置かれている、このタイミングで上演すること、すごく意味が深いところに作品が連れてきてくれたな、と思っています。

稽古風景

ーー観るお客様も朝ドラを見ていらっしゃった方が多いと思うので、お客様の意識も少し変わっているかもしれないですね。

神野:正直言って、私世代の歌手でも、そのほかのプロの歌手でも、笠置シヅ子さんってピンとこないんですよ。お客様の中で朝ドラの『ブギウギ』を一通り視聴してくださった方は笠置さんの人生をさらっと予習していらっしゃる、それはこの作品にとってはありがたいことです。私のコンサート、映画音楽に特化したものだったり、演歌だけ、ジャズだけ、色々やってますが、ジャズのコンサートのときに、名古屋だったと記憶してますが、アンコールの声がかかったので「用意してませんが、何かやりますよ。何がいいですか?」って客席に向かって呼びかけたら、客席の後ろの方で、お子さんの声で『ラッパと娘』って…びっくりして「『ラッパと娘』って言うた?」って聞いたら「言った」って。コンサート終了後にサイン会をしたのですが、その子がお母さんと一緒にいらして、毎朝、幼稚園に行く前に子供が朝ドラを見てから幼稚園に送って行ってたと…それでコンサートがあるというのでこの歌を聴きにきたそうで、子供達が『ラッパと娘』がとても好きだと…私の普段のコンサートにはいらっしゃらない、比較的若いお母さんとちっちゃいお子さん、そういう現象が…今までにはないお客さまが客席にいてくださったりすることはやっぱりこの6年の中での変化、前回の大阪の公演とはまた違ったお客様が来てくれると嬉しいですね。

ーー8月は学校も夏休みに入ってますね。親子連れのお客様もいらっしゃると思います。

神野:今回はペアチケット作ってるんです。あとはU-25。(主催は)いろいろ工夫はしてくださっているのでお一人でも。本当に今一番心配していることは、どれだけお客さん来てくださるかなっていう…毎回フルコンサート並みの分量を歌って、しかも1日2回公演があったり…なんとか頑張りたいと思います。

 

ーー最後に読者に向けてメッセージをお願いいたします。

マキノ:笠置さんの半生を通じて、それこそ戦争が終わって80年のタイミングなので、その時代のことや時代に対する思いに馳せてもらえるといいなと。それはとても大切なことだと、この国に生きる日本人としても大切なことだと思います。とても良い機会なのと、そうかといって辛気臭い話ではなく、大いに楽しめるエンターテイメントのショー、同時にそういうことに思いを抱けると良いかなというふうに思います。笠置さんの歌であったり、服部良一さんが作曲した歌、寿命が伸びる、やはり、こういうことはできるだけ歌い継がれたり、語り継がれたりしたほうがいいなと思います。神野さんのおかげで、確実に何十年間延びたと思うんです。ご覧になっていただいて、”もう1回見たい、もう1回聴きたい”というふうに、その時代の記憶の音楽がもっと寿命が伸びるといいなと思います。ぜひ、劇場にいらしてください。

神野:プロの歌手になって42年目、全部納得していろんなことをやってきました。今、マキノ先生のお言葉をいただきましたが、歌や音楽の寿命が伸ばせる、それは本当にすごく価値のあること、しあわせなことだと思います。この作品がもしもどこかでやっているなら、私は絶対に観に行きますね。こんなにユニークな音楽がある…私がずっと歌ってきた演歌、ジャンル…内容や深み、歌い手自身も時代と共に変わってきているから、だからこういう時代の音楽が羨ましいんです。この作品に出演できることはものすごく幸せ。最初にお話したように、これで終わったらもったいないなっていう思いがあります。コロナ禍を経て、みんながそこへ行かなくてもオンラインで繋がれる時代、この国、日本だけではなく、今だからこそもっと!もっと!発信したい!アルバムも制作しましたが、6年という時間があったからできたこと。服部良一先生の曲、しかも『大空の弟』まで、笠置シヅ子さんができなかったことも、今回アルバムに収録してしっかり残しています。自分で言ったら手前味噌すぎますが(笑)、無茶苦茶!意味のあることができてたんだなって思います。ぜひ、劇場にいらしてください!

ーありがとうございました。公演を楽しみにしています。

概要
日程・会場:2025年8月1日〜8月11日 IMM THEATER(東京ドームシティ内)

アフタートーク スペシャル対談ゲスト
☆8月2日(土)18:00回終演後 ⟪マキノノゾミ(脚本家) × 白井晃(演出家)⟫
☆8月4日(月)18:30回終演後 ⟪白井晃(演出家) × 服部隆之(作曲家)⟫
☆8月5日(火)18:00回終演後 ⟪國村隼(俳優) × キムラ緑子(俳優)⟫
※8月7日(木)、9日(土) 各日18:00回終演後のアフタートークゲストは近日発表

脚本:マキノノゾミ
演出:白井晃
企画・プロデュース:尾中美紀子/オフィス100%
音楽監督:小原孝
出演:神野美伽
加藤虎ノ介 福本雄樹 九条ジョー 鈴木杏樹
〈ミュージシャン〉
小原孝 (Piano)
ASA-CHANG(Drums)
竹中俊二(Guitar)
小松悠人(Trumpet)※8/1~7出演
河原真彩(Trumpet)※8/8~11出演
宮崎佳彦(Saxophone)
西村健司(Trombone)
主催:LIVE FORWARD
企画・プロデュース:オフィス100%
制作:吉本興業/よしもとブロ-ドエンタテインメント

WEB:https://sizukoboogie.yoshimoto.co.jp
神野美伽公式サイト:https://shinno-mika.com