
新国立劇場が、作曲家 細川俊夫に委嘱、台本を多和田葉子が手がける新作オペラ『ナターシャ』が開幕。
現代音楽で世界をリードする細川俊夫とドイツから世界を見つめ、世界的評価と人気を博す多和田葉子。「日本発の多言語オペラを創ろう」という画期的作品。
新作のテーマは、人間のエゴと地球環境の破壊。故郷を追われた移民ナターシャと少年アラトが、トリックスターの”メフィストの孫”に導かれ、ダンテの『神曲』のように様々な地獄を巡る。そこにはプラスチック汚染、異常気象による洪水、山林火災、干ばつといった様々な現代の“地獄”が現出し、ドイツ語、日本語、ウクライナ語など最大36の多言語によって、現代文明と人間の始原の姿が対比されていく。
不穏な調べ、モノクロの映像、波が押し寄せる。大きな惑星の映像、主たる登場人物はナターシャ、アラト、そしてメフィストの孫。メフィストはドイツの伝説上の悪魔・メフィストフェレス、その孫というわけだ。ナターシャとアラト、災厄で故郷を追われた2人だが、ナターシャは故郷を破壊され、アラトは地震と津波で郷里を失ったという設定。よって2人は異なる言語を話すが、次第に想いが通じ合う。言葉を超える、そのほか、コーラスも多言語。実際の世界も多言語、よってファンタジーでも、リアリティもある。岸辺で遭遇する2人にもう1人の人物・メフィストの孫が近づく、2人を海から木のない森へと連れ出し、地球の地獄を案内しようと言う。アラトは地球のうめきが響くそこへ行きたいと言い、ナターシャは自分が巻き込まれている地獄を最後まで見たいと言い、メフィストの孫についていく、と言う流れ。
木のない森に快楽地獄、洪水地獄にビジネス地獄。森林の伐採、快楽を追い求め、消費社会で覆い尽くされる社会、プラスチック、チープな印象、大地震、宗教に頼る人々は祈るが、それで解決するはずもなく。2人はそこを潜り抜けるが、待ち受けていたのはビジネス地獄、高層ビルが立ち並び、人々が忙しく行き交う。いつの間にか2人はスーツケースを持ち、PASSカードをかけられる、金がものをいう社会、拝金至上主義。
映像演出と音楽、フォーメーション、今の時代を俯瞰して観ているかのような感覚。つい先ごろ、大地震があり、津波警報も出た。また、猛暑は地球温暖化の影響、金が全て、と言う考え方も今に始まったことではない。地球上の全てが消耗していく”地獄”を描く。その中で必死に世界を見、翻弄される2人は、我々、地球に住んでいる人間の代表なのか、とも思う。破壊によって地球がうめき声をあげる、人間の尽きない欲望。水の音や電子音、様々な音で奏で、表現する現代の地球。それから2人を沼地獄へと導く。この沼、観客によって様々な解釈ができると思うが、環境破壊に対しての抗議、プラカードを掲げる人々。だが、抗議の声を上げたところで、何かが変わるわけでもない。ナターシャはその群衆に踏みつけられ、そこをアラトが助けに入る。その先にもう一つの地獄が待ち受ける。
汚れた海、木の伐採、尽きない欲望、その先の破滅的な世界、地球。観客は息を呑む。傷ついたナターシャとアラトはどうするのか。逆三角形のピラミッドが舞台上に出現する。ナターシャ役のイルゼ・エーレンスのソプラノ、後半のラスト近く、胸に響くほどに聴かせる。
アラトは山下裕賀、年若いと言う設定だろうか、可愛らしさが滲む。ミステリアスだが、100%悪者でもなさそうなメフィストの孫、クリスティアン・ミードル、バリトン、新国立劇場初登場。存在感を示す。公演は11日から17日まで。
あらすじ
海、そして宇宙の響き。アラトは母なるものを求め地底への入口を探し、故郷を追われ彷徨うナターシャと出会う。言葉が通じないながら名を伝えあった二人の前に、メフィストの孫と名乗る男が登場。二人はメフィストの孫に誘われ、海辺から森へ、そして現代の様々な地獄へと旅していく。
公演情報
令和7年度日本博2.0事業
新国立劇場2024/2025シーズンオペラ『ナターシャ』<新制作 創作委嘱作品・世界初演>
公演日時:2025年8月11日(月 祝)14:00 / 13日(水)14:00 / 15日(金)18:30 / 17日(日)14:00
会場:新国立劇場オペラパレス
台本:多和田葉子
作曲:細川俊夫
指揮:大野和士
演出:クリスティアン・レート
出演:イルゼ・エーレンス、山下裕賀、クリスティアン・ミードル、森谷真理、冨平安希子、タン・ジュンボ/サクソフォーン奏者:大石将紀、エレキギター奏者:山田 岳
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
チケット料金:S席26,400円~D席6,600円 ・Z席(当日のみ):1,650円
チケット:新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999
WEBボックスオフィス: https://nntt.pia.jp/
新国立劇場公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/
(c)Rikimaru Hotta/New National Theatre, Tokyo