田尾下哲(演出) × 池内 響(平清盛) × 川越未晴(平徳子) クロストーク 新作オペラ「平家物語 ー平清盛ー」10月開幕

新作オペラ「平家物語 ー平清盛ー」がいよいよ大宮ソニックシティにて10月4日、開幕。この作品はソニックシティ新作委嘱作品オペラ、日本を代表する制作陣・オペラ歌手が大宮に集結、琵琶法師役に八木勇征。物語の中心である平清盛に池内 響(バリトン)、平徳子に川越未晴(ソプラノ)、平時子に池田香織(メゾソプラノ)、前子に林 眞暎(メゾソプラノ)、源義経/牛若丸は村松稔之(カウンターテナー)、源義朝は小堀勇介(テノール)と第一線で活躍している歌手が集結、脚本はNHK大河ドラマ「篤姫」の脚本を担当した田渕久美子、その脚本に、日本を代表する現代作曲家である酒井健治が曲をつけた。ともにオペラ初挑戦。また、演出家として、ミュージカルやストレイトプレイ、映像作品など多彩な作品に携わっている田尾下哲、世界的指揮者下野竜也、演奏は読売交響楽団と最高の布陣。


「平家物語」は、日本文学史上に残る壮大な物語であるが作者不詳。鎌倉時代に成立したとされ、平家の栄華と没落、武士階級の台頭などが描かれている。「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす…」この冒頭は超有名、作品自体は様々な形でメディアミックスされており、22年にはアニメ化も。
只今稽古真っ盛り、池内響さん(平清盛)、川越未晴さん(平徳子)、そして演出の田尾下哲さんのクロストークが実現、作品について、役について大いに語っていただいた。

ーー田尾下さんにお尋ねいたします。和物を題材にしたオペラですが、『平家物語」のオペラ化にあたって、いわゆる西洋もののオペラとの共通点、相違点などをお願いいたします。

田尾下:後白河法皇が清盛の戦果に対して、武士で初めて太政大臣の位を授けます。清盛にとってはまさにそれがマクベスにおける魔女の予言の役割を果たし、清盛の野心が雪だるま式に膨らんでいきます。もちろんきっかけは予言と昇進と違いはしますが、人間の心に望外の野心を抱く後押しをする出来事です。マクベスと違うのは、妻時子が清盛の野心を嗜め、未来を見据えて助言をすることで、そこが本作の大きな特徴となっています。男たちの野心に振り回される女性たちの強い抗議の言葉や態度が、現代の私たちにもこの物語が普遍的な、時代も場所も超えた田渕久美子さんだからこその、時代を超えたメッセージを強く打ち出した人間ドラマだと告げています。
また行動動機は古今東西に普遍的であっても、その表現手法は西洋と日本では違います。オペラですから純粋な和物の舞台やドラマとは表現が異なり、音楽が抒情を拡大し、歌手の芝居も大振りになる場面もあります。そんな時にこそ、繊細な目線の高低や目配せ、姿勢や足のたたみ方までを殺陣師の滝洸一郎さんのご指導をいただきながらリハーサルを進めています。

ーーありがとうございます。続いて池内さんと川越さんにお尋ねいたします。この作品のオファーを受けた感想をお願いいたします。

池内:まずは嬉しかったの一言です。清盛という役を演じるプレッシャーももちろん感じましたが、その役を演じる高揚感が完全に勝っておりました。今回のキャスティングはオーディションによって選出され、オーディション内容としては、歌唱審査に加え脚本読みの審査もありました。歌唱審査に関しては普段受けているオーディションと変わらずでよかったのですが、脚本読み審査には台詞だけでなく、立ち上がる、倒れる、といった指示も書かれていましたので、審査の時は舞台上で思いっきり倒れさせていただきました。脚本読み審査に入る前に、演技をするため舞台上で靴まで脱いで挑んで良かったです(笑)

川越:この役のお話をいただいたとき、まず胸がぎゅっとなる感覚がありました。勿論とても嬉しかったのですが、やったー!嬉しいー!と手放しには喜べないというか。徳子は歴史上、非常に深い悲しみと強さを併せ持つ実在した人物で、演じるのはとても責任が大きいと思ったからです。でもその分、自分にしか出せない声や表現で、彼女の人生を丁寧に描くことができたらと思い、稽古が始まるのをとても楽しみにして参りました!これまでの私の経験や学びを総動員して、共演者やスタッフの皆さんと舞台を作っていきたいと思います。本番を迎えるのが待ち遠しいですし、同時に緊張もしていますが、この徳子という人物とじっくり向き合えることが、今はとても幸せです。

ーー田尾下さんにお尋ねいたします。このオペラの見どころ、注目すべき点などをお聞かせください。

田尾下:私の立場からは、ヴィジュアル面のお話をお答えします。黒床に赤い美術という松生紘子さんの壮大で機能的な美術は幕開けから一瞬でオペラ『平家物語』の世界へと誘ってくれます。時広真吾さんの衣裳はあらゆるタイプの布を組み合わせ、シルエットだけではなく質感もパターンも非常に個性的で、時広さんの衣裳だけでキャラクターを表現できるほどの力を持っています。実写の『平家物語』ではあり得なかった表情豊かな衣裳はオペラ『平家物語』のまさに顔、です。壮大な空間と申しましたが、その空間を密室にし、海にも火事にもするのは稲葉直人さんの照明です。稲葉さんとの仕事は多いですが、今回の赤い空間をどのように表情を変え、昼に夜に、また時には心情明かりにするのか、私も今から楽しみです。

ーー池内さんと川越さんにお尋ねいたします。ご自身の役柄についてはどのように捉えていらっしゃいますでしょうか?平清盛は日本人でその名を知らない人はいませんし、平徳子は壇ノ浦の戦いで息子・安徳天皇を失い、生き残り、京都に送還され、その安徳天皇と一門の菩提を弔った人物で、「平家物語」では大原を訪れた後白河法皇に自らの人生を語りますね。

池内:おっしゃる通り、平清盛は日本の歴史を代表する超ビッグネームです。その名を知らない人はきっといませんよね。様々な逸話もあり、人によって清盛のイメージは多少違うかもしれませんが、彼の人生、生き様には「正義」と同時に「悪」という言葉がついてくるように思います。今回のオペラ《平家物語》では、その正義と悪が交錯し、清盛の心情を深く問いていくシーンが多く描かれていると思います。観る人によって清盛が正義か悪かは違うと思います。強さもあり弱さもあり、時には迷いもあり、悪を正義としないといけない時もあったことでしょう。清盛は何を信念として生きてきたのか。様々な葛藤が渦巻く彼の人生を、観に来てくださるお客様方と共有することができれば幸いです。

川越:徳子は、壇ノ浦で息子を失い、平家の一門の悲劇を生き延びた女性です。その悲しみや哀愁は計り知れませんが、一方で、過去や現状を受け止めて前に進む強さもとても印象的です。聴きどころは息子・安徳天皇を出産する前後のシーン。戦のシーンが多い平家物語ですが、命の誕生に対するキャラクターそれぞれの心情や、徳子の温かな母性を感じられる大好きなシーンです。あ、でもやっぱりこの舞台の、女性の強さを感じられるラストシーンもかっこよくて好きです!とにかく根底には芯の強さがある徳子、1本筋の通った彼女の生き様をしっかり演じたいと思いますので、皆様には是非ご注目頂きたいです!徳子が直面する人間としての複雑な感情や、まだ見ぬ未来への不安と覚悟を、一瞬一瞬の演技と歌声で感じてもらえたら嬉しいです。

ーーお稽古の様子は?

田尾下:酒井健治さんの音楽が描く『平家物語』を形にすべく、カンパニー一同が新しい作品の誕生に取り組んでいます。オペラは歌われるものですが、そこに滝さんの俳優たちが10名加わります。歌手の身体の豊かさ、俳優の言葉は発さずとも表現する力に改めて感銘を受ける毎日です。また、歌うという行為と同じかそれ以上に大切なのがオーケストラです。読売交響楽団との新作オペラという願ってもないこの機会に感謝をしながら、20年来の協働を行ってきた尊敬するマエストロ下野竜也の紡ぐ音楽のドラマの力に後押しいただき、思いっきり想像を膨らまして挑ませてもらっています。

ーーありがとうございます。最後に読者に向けてメッセージをお願いいたします。それでは池内さん、川越さん、田尾下さんの順にお願いいたします。

池内:現在稽古が進んでおり日に日に作品に命が吹き込まれていっています。自分自身に清盛が馴染んでいく時間、物語の世界が広がっていく時間は言葉では言い表せきれない至福の時間となっています。劇中では清盛に限らず全ての登場人物が重要な役割を持ち、強い生き様と人生を背負って物語が進んでいきます。この登場人物たちがどのような姿を見せていくのか。そこに音楽が奏でられ、言葉が紡がれていった先にどのようなドラマが生まれていくのか。オペラ《平家物語》だからこそ魅せられる、ここでしか観られない平家物語を楽しんでいただければ幸いです。会場にて皆さまのご来場をお待ちしております。

川越:今回の舞台では、平家一門、そして源氏のそれぞれの喜びや悲しみ、葛藤が丁寧に描かれています。徳子だけでなく、彼女を取り巻くキャラクター達の運命に翻弄される姿を通して、人間の弱さや強さが自然に伝わる物語になっています。また、オペラという総合芸術らしく、衣装と舞台の美しさも今回ぜひご注目頂きたいポイントです!視覚的にもとても楽しめると思います。一公演一公演、皆さまと共にこの世界に浸りながら、徳子たちの人生や想いを少しでも近くに感じてもらえたら嬉しいです。どうぞ劇場で、心ゆくまで物語の世界をお楽しみください!

田尾下:混沌とした現代だからこそ、過去から学ぶことは多いのが歴史です。オペラ『平家物語』は、史実に基づきながら人間の本質に、そしてそれぞれの立場の役割から深く描いた田渕久美子さんの作品で、田渕作品の一員になれたことに感謝をしながら、皆様に最も良い形でオペラ『平家物語』をお送りすべく最後まで取り組みたいと思います。

ーーありがとうございました。公演を楽しみにしております。

概要

新作オペラ「平家物語-平清盛-」

埼玉公演
日程・会場:2025年10月4日(土)/5日(日) 14 時開演
大宮ソニックシティ大ホール
作曲:酒井健治 脚本:田渕久美子 演出:田尾下哲
指揮:下野竜也
キャスト
平清盛:池内響
平徳子:川越未晴
平時子:池田香織
平重衡:工藤和真
前子:林 眞暎
源義経/牛若丸:村松稔之
源義朝:小堀勇介
源頼朝:高橋宏典
高倉帝:新堂由暁
後白河:木村善明
琵琶法師:八木勇征

管弦楽:読売日本交響楽団

合唱(大人):日本オペラ協会合唱団/(子供):杉並児童合唱団

大宮公演公式サイト:https://www.sonic-city.or.jp/heikemonogatari.html

兵庫公演(コンサート形式)
日程・会場:2025年11月1日(土)18時開演/2日(日)14時開演
兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
作曲:酒井健治  脚本:田渕久美子  演出:田尾下哲
指揮:垣内悠希
キャスト
平清盛:岩田健志
平徳子:川越未晴
平時子:池田香織
平重衡:工藤和真
前子:林眞暎
源義経/牛若丸:上村誠一
源義朝:市川浩平
源頼朝:温井裕人
高倉帝:新堂由暁
後白河:氷見健一郎
琵琶法師:八木勇征

管弦楽:京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団

合唱(大人):京都フィルハーモニー室内合奏団特別合唱団/(子供):宝塚少年少女合唱団

兵庫公演公式サイト:https://classics-festival.com/rc/performance/heike/

◆兵庫公演チケット
兵庫県立芸術文化センター チケットオフィス
(兵庫県立芸術文化センター 内)TEL 0798-68-0255