新作オペラ「平家物語 -平清盛-」 開幕

新作オペラ「平家物語 ー平清盛ー」が大宮ソニックシティにて開幕。
この作品はソニックシティ新作委嘱作品オペラ、日本を代表する制作陣・オペラ歌手が大宮に集結。
琵琶法師役に八木勇征。物語の中心である平清盛に池内響(バリトン)、平徳子に川越未晴(ソプラノ)、平時子に池田香織(メゾソプラノ)、前子に林 眞暎(メゾソプラノ)、源義経/牛若丸は村松稔之(カウンターテナー)、源義朝は小堀勇介(テノール)と第一線で活躍している面々、脚本はNHK大河ドラマ「篤姫」の脚本を担当した田渕久美子、その脚本に、日本を代表する現代作曲家である酒井健治が曲をつけた。ともにオペラ初挑戦。また、演出として、ミュージカルやストレイトプレイ、映像作品など多彩な作品に携わっている田尾下哲、世界的指揮者下野竜也、演奏は読売交響楽団と最高の布陣。

「平家物語」は、日本文学史上に残る壮大な物語であるが作者不詳。鎌倉時代に成立したとされ、平家の栄華と没落、武士階級の台頭などが描かれている。「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす…」この冒頭は超有名。


重厚な調べ、題材が日本だからといって日本の伝統的な楽器に拘らない楽曲、そして琵琶法師(八木勇征)が登場、物語の輪郭を語る「平家の栄華と没落の物語」大河ドラマにもなっている「平家物語」、大筋はすでに知ってる観客も多いことだろう。そしてあの有名な言葉。


平安末期、保元の乱・平治の乱、源義朝や平清盛ら武家が政界へ進出することになったのが1156年の「保元の乱」で、保元の乱の勝者である源義朝と平清盛が1159年「平治の乱」、ここで平家が源氏を倒す。ここでは「平治の乱」から。つまり、すぐに平家と源氏が拮抗するシーン、初っ端から劇的、音楽、言葉、そして舞台上のフォーメーション、これらがお互いに絡み合い、グッと立体的になる。圧倒的な兵力の差で平家の勝利、源頼朝と牛若丸(源義経)、頼朝は少年、牛若丸に至っては赤子。平時子は「哀れな子らに寛大なお沙汰を」と清盛に進言。よって頼朝は伊豆に島流しに、義経は寺に預けられた。この「平治の乱」で本格的に武士が力をつけ始めるのだが、長きにわたりの貴族社会、当然よく思われていない、陰口、「くさい、犬ども」と言われる。階級社会、貴族は武士を下に見ている。だが、圧倒的なパワーの平家、清盛は太政大臣に任命され、娘の徳子は高倉天皇に入内、中宮に迎えられる。平家の栄華の絶頂、「平家にあらずんば人にあらず」。このフレーズを児童合唱団が歌う。


今風な言い方なら「イケイケ」な清盛ら男性陣、対する時子ら女性陣はこの恐ろしいくらいのスピードで天下をとった平家に対して一抹の不安を感じる。清盛の娘・徳子は成長し、天皇に見そめられ、中宮になり、息子を出産、ここは徳子の純粋な子が生まれたことに対する喜び、ここは聞かせどころ。


権力、富、地位、そして可愛い孫(しかも将来を約束された孫!)欲しかったものは全て手中に納めた清盛、そんな夫を見ている徳子、清盛との落差が将来起こるであろう悲劇を予感させる。

2幕、「平家にあらずんば人にあらず」の児童合唱、これが不穏な空気感を醸し出す。権力者となった清盛、後白河を幽閉、国政を牛耳る。安徳天皇、3歳で即位、もちろん3歳の子供に天皇の務めができるはずもなく、院政となるが、この”天下”は長く続かなかった。源頼朝と源義経は成長し、打倒平家を目指す。有名な「水鳥の飛び立つ音」で平家が撤退するエピソード、フォーメーション、音楽、これからあっという間に没落していくであろうことを示唆。怒る清盛、興福寺の焼き討ち、多くの仏像・仏具・経典などがこの兵火によって灰燼に、大仏までも甚だしく焼けた。争いは終わらない、男性は戦をやめない、巻き込まれるのは女性や子供、そんな折に高倉上皇が病で死去、続けて清盛も病に倒れるが、ここは圧巻な見せどころ。

実はこの作品、壇ノ浦は描かれない。ラストは時子と徳子、もちろん、その後の自分達の運命など知っているはずもない、「何が男を狂わせるのか?戦へと駆り立てるのか奪い合うのか」と疑問を投げかける。世界中見渡しても戦争を仕掛けるのは男性。そして未来に希望を見る二人。ここがよく知られている「平家物語」と違うところ、田渕久美子の脚本らしいラスト。最後に八木勇征が登場、ここでは琵琶法師ではなく、武神。刀さばきが美しくシャープ。


シンプルな赤を基調にした舞台セット、独創的なフォーメーション、照明、布を使った演出、そしてオーデションで選出されたキャストの熱演、また、埼玉発ということだけあって衣装(秩父銘仙)や足袋(行田市)、ここは注目ポイント。

開幕前に会見とゲネプロが行われた。

田渕久美子(脚本)、酒井健治(作曲)、田尾下哲(演出)、下野竜也(指揮)、八木勇征(琵琶法師)、池内響(平清盛)、川越未晴(平徳子)が取材会に登壇。

挨拶、今の気持ちなど。

田尾下哲「長い時間をかけて準備をして新作を、しかもコロナ禍を経て上演できる喜びを今かみしめております。この物語、皆さんが知ってる平家物語とまた違う切り口もありますし、違う表現もありますので、ぜひお楽しみいただければと思います」

田渕久美子「ご存知の通り脚本というのはもう平面に文字で書き連ねるものなんですけれども、特に今回はここに曲がつき、またそれに指揮する下野さんの、全く違うそれぞれのプロフェッショナルが集まって演者の方たちもいらして、こんなふうになるのかって毎度毎度私は自分の生み出したものがどう変化していくかと常に楽しみなんです。全く想像がつかないまま書いてるところもあるので、今回ほど誇らしい、嬉しい…興奮する舞台になったなというふうに思います。そこをぜひとも楽しんでいただければなというふうに考えております」

八木勇征「稽古を重ねてきて、ようやく今日がゲネプロ、明日、明後日と本番がもう迫っているんですけれども、通し稽古だったりとか何回も経験してるうちに、今回、僕自身がオペラというジャンルに新しい経験させていただくことが本当に多い中で、やっぱりオペラ歌手の方々の声量だったりとか、そのマイクを使わせのポイント響き渡る声、じかに自分自身が感じると、本当に感動的な気持ちになりました。またオーケストラの方々の演奏そして下野竜也さんの指揮で全体が盛り上がってる感覚を肌で感じたので、早く皆さんに見ていただけるのがすごく楽しみになってます。みんなで力合わせて頑張ってきたいなと思います」

池内響「僕はオペラ歌手ですので、普段は既存の1700年代や1800年代の作品をいろいろやってます。いろんな資料があったりする映像が残ってたりするんですけど、今回はもう本当に何もかもが新しいということで、真っ白な状態から挑ませていただきました。その真っ白、情報がないから不安はもちろんあったんですけど、それだけではなくて、真っ白だからこそこのプロダクションで集まった方々、脚本、作曲、指揮、演出、キャスト皆さん集まって、一つのものをみんなで一致団結して作り上げることができたなと思いました。まだ終わってはないですけど、その時間は本当に幸せで、それを明日から本公演として、皆さんにお見せすることができるかと思うと、もう血が沸き立つようにというか本当にもう興奮を隠せないっていうのがもう本音でございます。本当に少しでも皆さんに聞いていただけて、少しでもこの作品が長く続くものになればいいなと思う僕は思っておりますので、楽しみにしていただけたら」

川越未晴「今回世界初演ということで脚本も音楽も1からオペラのために作っていただいて、素晴らしい音楽スタッフの皆様と共演者の皆様とご一緒させていただけるのが本当に心から光栄に思っております。登場するそれぞれのキャラクターがみんな本当に魅力的なキャラクターばかりで素敵な音楽もついております。私が演じる平徳子しては、物語の中で、酒井健司さんがおっしゃっていたように女性、少女から女性と成長していくとこの成長物語っていうのも少し注目していただけたら少しあのすごく嬉しいと思います」

酒井健治「この企画プロジェクトは2020年から始まりましたが、途中はコロナ禍による延期。特にコロナ禍において声楽の方々とか、特に大変な思いをされてきたんじゃないかなと思います。でもその中でも、やっと5年のときを経て今回の実現に至るわけですけれども平家物語っていう物語は私達が生きている時代よりも850年前のお話なんですね。そういう昔の話を現代に生きる僕たちがどういうふうに受け止めるか、最初は正直言いましてちょっと縁遠く感じてしまいましたけれども、昨今の世界情勢の変化がすごい僕に何かインスピレーションといいますか一気呵成に書き上げる力を授けてくれた気がします。本当に現代に生きる私達に平家物語が攻め迫ってきたような、そんなイメージです。これを伝統芸能とかそういった枠内ではなく、あえて西洋音楽のおそらく最も完成された形であるオペラという形で表現できるっていうことでとても楽しみしております」

下野竜也「少し重複しますけれども、私が演奏するもののほとんどは、既存の作品ですが、今回は当然、今、隣に作曲家がいらっしゃる。その今を生きている作曲家の作品を演奏する緊張感と楽しさを感じています。平清盛や源頼朝という歴史上の人物が自分の指揮で歌っているっていうこと、不思議な感覚を持ってまして、そういうのも楽しみながらやっています。私、歴史が好きなものですから、目の前に平清盛、後白河法皇がいるっていうこと自体もすごく興奮していますが、素晴らしいキャスト八木さん始め、そして素晴らしいスタッフの皆さんとこうやって明日初日を迎えること心から感謝しております」

見どころについて。
八木勇征「新作オペラで世界初演、まだ誰も見たことがない。まさに明日見に来てくださる方々が世界で初めて、僕自身としては、個人的に琵琶法師、役の見どころとしては、何か語り部として、今回僕は歌は歌わないんですけれども、何か物語のストーリーテラー、随所随所でしっかりとその物語、今後どうなって行くかっていう、高揚感が出るような存在でいれたらなと思います。そこは何か見ている方がその作品の世界観に入り込めるように」

池内響「史実とは別に、今回のプロダクションだからこそ、今回の『平家物語』だからこそ、この『平家物語』の世界を皆さんにお届けすることができると思います。僕たちは演奏家ですので、もちろん歌を聞いていただきたいっていうのもありますけども、耳だけではなくて、目で見ていただいて、舞台も綺麗ですし、いろんな感覚を研ぎ澄まして聞いていただいて、そのときを皆さんと共有することができれば、それが一番僕たちにとっては幸せなことだと感じております」

川越未晴「幕が開いた瞬間からもう平家物語の世界に入り込めるような舞台の美しさと衣装の美しさ、視覚だけでぐわっと世界観に入っていただけるような舞台になっております。音楽を聞いて歌を聞いて、またより『平家物語』の世界に没入できる舞台になっていると思います」

オペラ初挑戦の八木勇征、オペラ歌手との共演について聞かれ「ボーカルとして歌を歌わせていただいてはいるんですけども、マイクありきで歌っているので、まずマイクを全く使わず、本当に自分の声とか体を使って自分も楽器となって、声を存分に生かして表現をしてるっていうのが、やっぱり迫力がものすごいあります」と言い、今後、オペラの舞台で歌ってみたいかどうかの問いかけに「恐れ多いこと、何十年かけて勉強しなきゃいけない。逆にこんなに豪華な歌手の方々とご一緒できる機会もないと思います」と緊張気味に。
また、脚本家として作品の手応えについて聞かれた田渕久美子は「ドラマのセリフ書くのはもちろんずっと何十年もやってきてるんですけども、書いたものがそのまま歌になるっていうのが全くイメージがつかめないまま、この世界に入りまして。今回皆さんのお声を通して曲を通して、その落差といいますか、極端な違いにまずすごく驚きながらも、表現方法ってこんなにたくさんある、こんな贅沢な表現方法があるんだなっていうことを今回体験させていただいて、ちょっとこれから作るものが大きく変わるような気がするかもです。字幕が出るんですけども、あれを見て『やっとそうだな、私が書いたんだ』っていうことを…そういう意味で言うととても手応えについて新鮮な思いを味わわせてもらってます」そして「三部作までかけるとしたらこれはもうまず最後の清盛からスタート、常に男性の主人公の裏に女性の姿があるということを絶対に私は意識して今回も書かせていただいてることもありますので、最終的には建礼門院という女性も一つの縦軸にして、そこにいる男たちは戦う男だし、ラストに、ずっと全体的に壇ノ浦を意識はしてるんです が、女性の思いの表現とともに、そこは意識しております」

概要
新作オペラ「平家物語-平清盛-」

埼玉公演
日程・会場:2025年10月4日(土)/ 5日(日) 14時開演
大宮ソニックシティ大ホール
作曲:酒井健治
脚本:田渕久美子
演出:田尾下哲
指揮:下野竜也
キャスト
平清盛:池内響
平徳子:川越未晴
平時子:池田香織
平重衡:工藤和真
前子:林 眞暎
源義経/牛若丸:村松稔之
源義朝:小堀勇介
源頼朝:高橋宏典
高倉帝:新堂由暁
後白河:木村善明
琵琶法師:八木勇征
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱(大人):日本オペラ協会合唱団/(子供):杉並児童合唱団

大宮公演公式サイト:https://www.sonic-city.or.jp/heikemonogatari.html

兵庫公演(コンサート形式)
日程・会場:2025年11月1日(土)18時 / 2日(日)14時
兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
作曲:酒井健治  脚本:田渕久美子  演出:田尾下哲
指揮:垣内悠希
キャスト
平清盛:岩田健志
平徳子:川越未晴
平時子:池田香織
平重衡:工藤和真
前子:林眞暎
源義経/牛若丸:上村誠一
源義朝:市川浩平
源頼朝:温井裕人
高倉帝:新堂由暁
後白河:氷見健一郎
琵琶法師:八木勇征

管弦楽:京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団

合唱(大人):京都フィルハーモニー室内合奏団特別合唱団/(子供):宝塚少年少女合唱団

兵庫公演公式サイト:https://classics-festival.com/rc/performance/heike/

兵庫公演チケット:兵庫県立芸術文化センター チケットオフィス
 TEL 0798-68-0255