タイトルにある通り、助さん格さんといえば、あの「水戸黄門」である。しかし、『無謀漫遊記』とあり、『明日はない』とくれば、普通に水戸黄門をやるとは思えない。
幕開きは、そう、一世を風靡した劇作家・つかこうへいの作品を連想させるシーン。この作品は、つかこうへいのオマージュ作品であることはここで一目瞭然だ。畳み掛けるセリフ、スーツを着用の男が大きな旗を振る。時代劇ではない、とも言い切れず、かといって現代劇なのかと言われるとそういうものでもない。そう言ったくくり方が、そもそも違う。そういう型にはまったジャンル分けがそもそもナンセンスなのである。
水戸黄門も出てくるし、助さん格さんも、風車の弥七もかげろうお銀もちゃんと出てくる。しかし、スーツ姿のキャラクターも出てくる、ヘルメットをかぶった人々も。お約束感のある、いわゆる時代劇の『悪い人』的立ち位置の人も出てくるが、この『悪い人』がちっとも悪く見えないのだ。そして様々なストーリーや伏線が張り巡らされており、ラスト近くに急速に回収される。そこにはよくある「え?おかしいやん」的な矛盾はなく、しかも勢いのあるジェットコースター的なストーリー展開、「水戸黄門」の決め台詞に定番の設定、水戸黄門は越後の縮緬問屋と嘘をつく。川の治水工事を請け負っている土建屋、一方で役人に取り入ろうとする者、ラスト近くで「助さん、格さん、こらしめてやりなさい」、舞台いっぱいに大立ち回り、派手なアクション。「助さん、格さん、もういいでしょう」ご印籠をどどーんと出して「ひかえ!ひかえ!ひかえ!この紋所が目に入らぬか。ここにおわす御方を、どなたと心得る。こちらにおわすは、先の副将軍、水戸光圀公であらせられるぞ。御老公の御前である。頭が高い。控えおろう。」、今は時代劇チャンネルで視聴、かつては普通に地上波で放送されていた「水戸黄門」、これらのセリフは何度、聞いたことであろうか。そして水戸黄門から沙汰が言い渡される。言い渡される方は涙ぐむが、これは悔し涙ではなく、感涙。
熱く、泣けて、そして笑える。高揚、感動、最後の『落としどころ』に愛を感じる。セットは最小限。プロジェクション・マッピングとかの最新テクノロジーもなく、何か奇抜な演出もない。直球勝負、ラッキー池田の振付が楽しく、物語が終わってからの出演者全員のダンスは何だか味がある。むちゃくちゃ上手いとか、そういうことではなく、出演者が心から作品を楽しんで演じているからだ。まさに幸せな舞台、再演してほしい作品である。
【公演概要】
幻冬舎Presents「無謀漫遊記-助さん格さんの俺たちに明日はない-」
作・演出:横内謙介
企画:見城徹
2018年10月27日(土)・10月28日(日)
厚木市文化会館 小ホール
2018年11月4日(日)~11月11日(日)
新宿東口 紀伊國屋ホール
出演:岡森諦、六角精児、中原三千代、伴美奈子/西村陽一(客演)他
公式HP:http://www.tobiraza.co.jp/index.html
文:Hiromi Koh