舞台「君死ニタマフ事ナカレ 零_改」選ばれし少年少女たちの運命の歯車は何処へ・・・・・・。

「君死ニタマフ事ナカレ 零_改」」は、スクエア・エニックスの大ヒットゲーム「NieR:Automata(ニーア オートマタ)」のディレクターであるヨコオタロウ原作の漫画「君死ニタマフ事ナカレ」を原作とした舞台。「君死ニタマフ事ナカレ」は「月刊ビッグガンガン」(スクウェア・エニックス)で連載中。作画は森山大輔。2016年には同作の前日譚が「君死ニタマフ事ナカレ 零」として舞台化、演出は松多壱岱。「君死ニタマフ事ナカレ 零_改」ではヨコオの改訂による新たなストーリー展開を交え、引き続き松多の脚本・演出で“ダーク戦場アクション”を立ち上げていく。主演ハクジ役を植田慎一郎、ヒロインサクラ役を花奈澪、ボタン役を清水凜、ウスキ役を斎藤直紀が演じるほか、小栗諒、菊田大輔らが出演する。

物語の出だし、科学者が登場する。彼の名は蘇芳(小栗諒)、薬物投与による特殊能力の研究をしている。メガネに白衣でいかにもといった風貌、この訓練での技術面でのサポートをしている。舞台は架空の21世紀の日本、もちろん現実の日本とは異なるが、憲法により戦争はできないので自衛隊が存在する。軍備の代わりに戦闘能力の高い特殊能力者の育成をする、という設定だ。日本を取り巻く国際情勢は緊迫しており、そうするより他にない、と政府は考えていたのだった。少年少女たちは教官(菊田大輔)から告げられる「君たちは選ばれし者なのだ」と。

集められた少年少女たち、様々な生い立ちと事情、そして彼らが抱えている悩みや闇が独白によってところどころ挿入される。きつい訓練、同じ世代同士、友情や絆らしきものも芽生えてくる。そして訓練が終われば、年相応な少年少女たち、時には冗談も言い合い、楽しくカレーを食べたりもする。

そして訓練の成果、それなりに能力は向上するが、ティーンエージャー故の心の危うさや脆さはそのままだ。教官はそれをわかっており、それとなく彼らを気遣いながらも過酷な訓練を課していく。ところが、組織故のほころびやそれぞれの思惑が絡み合い、少年少女たちを巻き込んでいく。

設定や展開はハード、人間の業や隠されている影の部分が次第に見えてくる。差別、不信感、孤独、貧困などこれらは現代社会にもある問題点であるがそこに目を背けることなく舞台上で語られる。そして遂に後半からラストに向かってはあってはならないことが起きる。

アクションシーン、特殊能力を発動する場面では映像や効果音を使って表現、舞台上の高低、そして中央の盆を使って場面転換、スピード感を持って進行させる。ここはカンパニーの稽古の成果。楽曲も変化に富んでおり、物語を彩る。

登場するキャラクターは皆、どこか共感できる。周囲となかなか打ち解けられないハクジ(植田慎一郎)は他の仲間が楽しく談笑していてもその輪に入っていけない。かなり能力が高いが自分を主張できないサクラ(花奈澪)物事にあまり興味を示さないボタン(清水凜)にリーダーシップをとってみんなをまとめようとするウスキ(斎藤直紀)、人の顔色ばかり見ているクチバ(雛形羽衣)など『いる、いる、こんな感じの人』感がいっぱい。自衛隊のメンバーも然り、自分たちは国を守るプロなのに・・・・・とくすぶる感情、使命感に燃えているものの、そのくすぶりが彼らの虚無な感情を増幅させてしまう。また科学者の蘇芳、研究熱心で探究心旺盛、だから科学者になれるわけであるがそれ故の狂気は一見アブノーマルに見えるが、実はこういったのめり込みも人間誰しもが持ちうる危なさだ。

いわゆる本当の悪役はいないし、それぞれ信じていることがあり、それを大事にしている。休憩なしの1幕物。ルートは<赤END>で観劇。皆、その瞬間を懸命に生きており、そこに愛や友情、思いやりが一瞬スパークする。『悪』と『善』で割り切れないのが現実、この架空の設定の中に潜む真実と人の感情。ルートを2つ用意しているが、もう一つの<黒END>も合わせて観劇すると彼らの織り成す群像劇がより立体的に多面的に見えてくることであろう。

<あらすじ>

21世紀に入り、初めて実用化されようとしている“特殊能力”。
戦争することのできない国は、“軍備”に代わる戦闘力としての“特殊能力者”を育成しようとしていた。
その能力は少年少女にしか発現しなかった為、国は新たな教育機関を設立する。
第一期生にふさわしい学生を選抜する為、自衛隊の訓練施設に集められた中学生達。
彼らは、それぞれの“生存”のため、過酷な訓練に参加する。
そこは、訓練の名を借りた、“特殊能力”の限界を試すための試験場であった。
生き延びて、そして死ヌ。

死ぬために、今を生キル。

【公演概要】
舞台「君死ニタマフ事ナカレ 零_改」
2018年11月29日(木)~12月9日(日)
CBGKシブゲキ!!
原作:ヨコオタロウ
脚本・演出:松多壱岱
キャスト:
ハクジ:植田慎一郎
サクラ:花奈澪
ボタン:清水凜
ウスキ:斎藤直紀
クチバ:雛形羽衣
ミズカキ:土井裕斗
ツツジ:黒木美紗子
コウジ:荘司真人
ハジゾメ:兼田いぶき
スミ:細川晃弘
千草:村田恒
木賊:増田朋弥
洗柿:町田尚規
紅:門野翔
潤:松川貴則
赤住:舞川みやこ
煤竹:荒井愛花
刈安:大野愛
蘇芳:小栗諒
新橋:菊田大輔
アンサンブル:梅田祥平、大森将、小田崚平、寺田遥平、松田朋樹

公式サイト:https://kimishini-zero.com/kai/
(c)Yoko Taro/SQUARE ENIX (c)Daisuke Moriyama/SQUARE ENIX

取材・文:Hiromi Koh