2001年、文化庁芸術祭舞踊部門で優秀賞を受賞した初演から17年。不朽の名作、近松門左衛門の「曽根崎心中」をフラメンコで描いた「フラメンコ曽根崎心中」が「Ay 曽根崎心中」とタイトルを改め、4年ぶりに東京で上演される。 全国各地やスペインで公演を重ね、日本のフラメンコ作品では史上最多数上演を誇る本作は、 近松の描いた日本的な情緒、情念を情熱的なフラメンコで表現。本作品のプロデューサーで ある阿木燿子が作詞、音楽監督と作曲を宇崎竜童が担当。この楽曲はもともと、ロック版「曽根崎心中」のために作られたものであるが、それをフラメンコ化(フラメンコ独特のリズムに乗せて)して歌っている。
楽器編成はピアノ、パーカッション、さらに今回の公演では土佐琵琶を津軽三味線に変えている。この画期的な試み、20年前のロック版「曽根崎心中」を創作した阿木燿子と宇崎竜童と、日本で最も活躍しているフラメンコ舞踊家・振付の鍵田真由美・佐藤浩希との運命的な出会いから生まれたもの。フラメンコに演劇的手法を大胆に取り入れ、物語の展開や登場人物の心情までも巧みに表現する舞踊を追求。2001年の初演時にはフラメンコファン及び舞踊・音楽ファンから絶賛。文化庁芸術祭舞踊部門で優秀賞を受賞、再演、ロングランを重ねている。スペインの世界的な「フェスティバル・デ・ヘレス」で上演。国際的にも高い評価を得ている。フラメンコ界の第一線で活躍する 鍵田真由美(主演)、佐藤浩希(主演・演出・振付)とタッグを組み、曽根崎心中の究極の愛の世界を表現する。
幕開きは和太鼓の音から始まる。強弱の音色、遠くに浮かび上がる2人は徳兵衛とお初、電子音にツケの音、笛の音、現代音楽的な、それでいて日本のテイストを感じさせる楽曲。フラメンコではあるのだが、シアトリカルな味付けを施し、エレキギター音も加わって、新しい『曽根崎心中』を感じさせるに十分だ。ナレーションは仲代達矢、朗々と響く声が雰囲気を盛り上げる。ストーリーは言うまでもない。歌舞伎や文楽でおなじみのあの物語だ。九平次のいかにも、な表情、金を手にしてイケイケな雰囲気。人のいい徳兵衛はそれが仇となって窮地に陥れられる。徳兵衛とお初は相思相愛の仲、そんな2人の行く末はもはや解説する必要はない。
出演するダンサー陣は皆、スキルが高く、群舞のシーンは目を見張るものがある。コロスの使い方も効果的でよりドラマチックに物語やテーマが観客に迫ってくる。
フラメンコはスペインのアンダルシア地方に伝わる芸能、手拍子や掛け声による伴奏が主体、つま先やかかとで床を踏み鳴らしてリズムを取る(サパテアード)。手の動き(ブラッソ)は独特なもの、これは表現の肝となる。
この「曽根崎心中」とフラメンコ、相性が抜群であることが改めて認識させられる。情感、愛、憐れ、絆、様々なものをフラメンコで表現する。楽曲、歌、演奏、これらが渾然一体となって世界観を舞台に現し、観客の心を揺さぶる。2幕はこの作品のハイライト、真夜中にお初と徳兵衛は手を取り合って曽根崎の露天神の森、冥途への旅へと行く場面だ。白い衣装のお初、健気さや心中への覚悟、徳兵衛への一点の曇りもない愛情が手にとるようにわかる。ここの2人のフラメンコは心揺さぶられる。歌舞伎でも文楽でもそうだが、徳兵衛はお初を刺すことに躊躇する。ここは音楽も歌もなく、ただただフラメンコの足の音だけで表現する。もはや、それだけで徳兵衛の心の痛さが伝わってくる秀逸なシーンだ。そしてクライマックス、わかりきっているストーリーでも感涙するの物語の力。フラメンコギターだけでなく和太鼓や笛、三味線などを用いた音楽も個性的かつエモーショナル。セリフはなく、ナレーションと音楽と歌とフラメンコと、このシンプルな構成で余分なものをそぎ落としたステージ、もし再演があるなら、もっともっと進化していくことであろう、そんな予感がする。
本編が終わると・・・・・ちょっとしたお楽しみがあるので席は立たないように。思わず「本編も良かったけど、このお楽しみは美味しい!」と思うこと、請け合い。宇崎竜童の歌も聴けるし、ダンサーさんたちのフラメンコ対決も!三浦祐太朗とRay Yamadaのデュエットも!
ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは阿木燿子(プロデューサー・作詞)、宇崎竜童(音楽監督・作曲)、鍵田真由美(お初/踊り)/ 佐藤浩希(徳兵衛/踊り)/ 矢野吉峰(九平次/踊り) 三浦祐太朗(徳兵衛/歌)/Ray Yamada(お初/歌)/若旦那(九平次/歌)。
阿木燿子は「最高のキャスティング!イメージ通りです」と開口一番。完成度も高いステージ、必見の作品に仕上がっている。「縁を感じる作品です」とコメントし、続いて宇崎竜童は「プロデューサーの言う通りです(笑)」とおどけてみせた。そして「楽器も特殊でプレイヤー同士こミュニッケーションを取りながら」と語ったが、息のあった演奏はクオリティが高く、音楽だけ聴いても情景が浮かぶほどだ。鍵田真由美は「いつも初めて踊る気持ちで、いつも以上に新鮮な気持ちで」と語り「フラメンコはこの作品のためにあったのかと思うくらい」とコメントしたが、その相性の良さは劇場で!佐藤浩希は「18年間やらせていただいてますが、常に新しい気持ちで挑戦しています、踊り慣れることは全くないです」と語ったが、徳兵衛の苦悩や思いが直球で伝わるフラメンコ、熱いダンスは観る者を圧倒する。さらに「常に緊張感が・・・・振りも同じではなく細かいところを見ていただきたい」と胸を張る。細かいところがちょっとずつ変化する、これはライブパフォーマンスだからこそ、の醍醐味。矢野吉峰は「主役2人を心中に追いやる悪役です。毎回、一生懸命、2人を!」とおどけた。三浦祐太朗は「心中という重いテーマに、どれだけ光を乗せられるかと・・・・・」とコメント、そこで阿木燿子が「優しさとつらさが声のひだになって伝わる。大人になったなあ」とコメントしたが、伸びやかな歌声で徳兵衛の心情を歌い上げる。Ray Yamadaは「お初をやります。一人の女の子としての心中への覚悟、いろんな思いがあります」とコメントしたが、綺麗な歌声でお初の心情を歌い上げる。「曽根崎心中」ではお初は19歳ということになっているが実際には21歳だったそう。若旦那は「歌だけですが、紗幕の中では(顔)作っていますので、見てもらいたいです。九兵衛なりの正義や愛、歪んだ形ですが」とコメント。
振り付けについての質問が出たが「オリジナルの振付」とコメント。フラメンコではあるが、演劇的な見せ方や動きを取り入れで作品の持つテーマや深い心情がぐっと迫る感じに仕上がっている。
最後に阿木燿子が「本当に見所がいっぱいです。心に深く、深く感じていただけるように、ぜひ、劇場へ!」と締めて会見は終了した。
【概要】
『 Ay曽根崎心中』
公演日:12月12日(水)〜12月20日(木)
会場:新国立劇場 中劇場
プロデューサー・作詞:阿木燿子
音楽監督・作曲:宇崎竜童
出演:
鍵田真由美(お初/踊り)/ 佐藤浩希(徳兵衛/踊り)/ 矢野吉峰(九平次/踊り) 三浦祐太朗(徳兵衛/歌)/Ray Yamada(お初/歌)/若旦那(九平次/歌)
公式サイト: http://sonezaki.jp/
文:Hiromi Koh