藤崎竜の漫画作品『封神演義』がミュージカル化する。原作は安能務の講談社文庫版の『封神演義』。この漫画をテレビアニメ化『仙界伝 封神演義』、またバンダイよりゲーム化もされている。2018年にテレビアニメ『覇穹 封神演義』と、この漫画の続編および外伝『封神演義 外伝』が製作されている。
そもそもの作者は誰なのかについては諸説あり、定説はない。『封神演義』の直接の前身となった作品は元の時代の至治年間 (1321 – 1323) に成立したとされる歴史小説『武王伐紂平話』とされる。また『封神演義』の作者は明代の余邵魚の小説『春秋列国志伝』第一巻も同時に参照していたようである。だが『武王伐紂平話』と『春秋列国志伝』があくまで歴史小説であるのに対し、『封神演義』は神怪的要素が大量に挿入された怪奇小説となっている。元々の原作が神怪的要素が強いので、漫画のミュージカル化であるが、そういった要素が多くなる。
古代中国、最古の国、殷の時代のこと。厳かなイメージの楽曲で幕開き。聞仲(畠中洋)、手には書物、これは「封神演義」の本、高らかに歌い上げる。主にミュージカルで活躍しているだけあって聴かせる歌声。バックボーンが歌でつづられる。殷の紂王(瀬戸祐介)は名君であったが、絶世の美女である妲己(石田安奈)を娶ったが、これがとんでもない女性で邪心を持つ仙女、術をかけて紂王を意のままに操るようになった。これは大変とばかりに仙人界は道士である太公望(橋本祥平)に「封神計画」を命じるが、ここはテンポよく進んでいく。
少々、のほほんとした主人公、この計画書には名のある365名が書かれており、それを見て「1日1人でも1年はかかるのだ・・・・・・」とややトホホな感じ。元始天尊様からあるものを授かる。これが四不象(吉原秀幸)、「ご主人様、よろしくっス!」そんな太公望のことを申公豹(大平峻也)は「妲己を倒せるとは思いませんが・・・・・」と皮肉まじりに言う。しかし、太公望は少しずつ変化していく。そして2幕で大バトルに突入していく。
このような内容の作品なら特殊効果や映像表現を多用するのがいわゆる『2.5次元舞台』らしさかもしれないが、この作品ではそういったものは一切出てこない。あくまでもマンパワー、布やアンサンブルのフォーメーション、照明、効果音などで表現する。布はあらゆるものになり、想像力をかきたてられる。アンサンブルの衣装は中国的なものに和風なテイストをのせ、襟元のところがおしゃれ。動くたびに揺れる裾も一種の視覚的効果があり、ここはなかなか憎い。さらにミュージカル仕立てにしたことによってキャラクターの心情や場面状況がすんなり観客の心にしみていく。基本的には妲己との頭脳戦、この妲己がかなりの策士、太公望もなかなか太刀打ちできない。そんな太公望だが、彼に賛同する者は確実に増えていく。一見、頼りなげに見えるが心はまっすぐ、端からみると「大丈夫?」な状態だったのが、様々なことを見、そして経験することによってだんだんとたくましくなっていく。そんな彼に皆がついていくようになるのも頷ける。また相棒である四不象、基本的にはいわゆる『傀儡』であるのだが、これが四不象としての存在感が増していき、本当にいるかのごとく。日本は人形浄瑠璃など傀儡が発達した国であるが、こういった表現が実は日本の伝統芸能に根ざしている。
原作を知っていれば、太公望と妲己の頭脳バトルがどうなったかはわかっていること。バッドエンドではないが、単純明快なハッピーエンドではない。そして各キャラクターの見せ場、バックボーンも丁寧に描かれている。哪吒(輝山立)の出生のエピソード、黄飛虎(高松潤)のドラマなど、見せ場も多く上演時間は15分の休憩を含めて2時間45分と長めであるが、さほど長さは感じない。ラストの四聖、聞仲とのバトルは圧巻、プロジェクション・マッピングなどを使わなくても十分に魅せることは可能なことを証明。また畠中洋が演じる聞仲、祖国である殷に対して絶対なる忠誠心があるが、妲己に国を乗っ取られている状況、太公望には少なからずシンパシーを感じているものの立場が異なる故の揺らぎを見せてヒューマニズムを感じるキャラクターだ。
もともとの明の時代に書かれた「封神演義」を漫画やアニメにする、キャラクタービジュアルをみると今の時代にあった出で立ち。それまでは日本ではあまり知られていなかったこの「封神演義」であるが、現代に合わせたことによって日の目が当たり、人気も出てくる。作品に力があれば、時代も国も超えられる。そう考えると「封神演義」のミュージカル化は感慨深い。
太公望のこのあとの活躍も舞台でみることができれば、と思わせる余韻。橋本祥平らキャスト陣の熱演、エネルギーも感じさせる舞台であった。
ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは太公望役:橋本祥平、楊戩役:安里勇哉、哪吒役:輝山立、黄天化役:陳内将、妲己役:石田安奈、申公豹役:大平峻也、聞仲役:畠中洋。
大平峻也は「稽古場から意識してまして、アプリとかで勉強しました」とコメント。石田安奈は「衣装が独特で着るのが恥ずかしかったです。物語のきっかけを作る人物、テンプテーションの魅力で悪いことを仕掛けるので、甘めの香水に変えて稽古して見ました」と語るが、何といっても殷の名君を惑わすキャラクター、セクシーで可愛らしく、これなら惑わされても当たり前という雰囲気。畠中洋はキャラクターについては「圧倒的な存在感」とコメントしたが、始まって早々に登場、歌を聴かせるだけでなく、大型作品に多数出演しているだけあって、登場しただけで空気感が変わるのはさすが。「ゆっくり動くのを意識しています」と語る。橋本祥平はキャラクターについては、まず「悪い仙人を倒す」。「のほほんとしてるのか真面目なのか、力の戦いというよりも頭脳戦」と語る。1幕はほぼ出ずっぱり、途中、アドリブも飛び出して大汗かいての大健闘。ゲネプロ後の挨拶では「放心状態です」とコメント。段取りも多く大変だったと思うが、軽やかさも感じる太公望、チャーミングな感じに仕上がっていた。安里勇哉は見所は「変化シーン」とコメント、「舞台ならではの変化」と語ったが、アナログな表現で演劇的な場面に。輝山立は「手に武器がついています」と語るが、この哪吒のバックボーンは泣ける。「どう表現するのか見ていただければ」とコメント。また、稽古場では筋トレスーツが流行ったようで、体の線が見えるような衣装、これは気を抜けない!陳内将は「僕は『チャンバラ』1本で!硬派な役です。僕らが太公望をどう受け入れていくかが見所の一つです」と語るが、少しずつ太公望の周りに集まっていく、太公望自身も変化するが、そんな太公望を見ている彼らも必見!大平峻也は「熱量は他の『2.5』には負けません」と胸を張る。石田安奈は「可愛らしさの中に邪気があります。良い意味で裏切れるように」と意気込む。畠中洋は「ほとばしる若いエネルギーを!」とコメントしたが、カンパニーの年長者らしく場面を引き締めていく。安里勇哉は「空を飛びます!舞台ならではの見せ方で『生』感を!」とコメントしたが、太公望が四不象に乗って空を飛ぶシーンはファンタジック感に満ちており、また太公望と四不象の仲の良さも感じられる幸福な瞬間だ。輝山立は見所を「戦いのシーン」とコメント、特に宝貝を持っている者同士の戦いは注目。陳内将は「平成でこれだけテクノロジーが進化してていますが、すべてのシーンを『演劇』で行う、その良さが随所に現れている」と語るが、ここはクリエイター側のこだわりポイント、『特殊効果』もアナログ感満載。橋本祥平は「今回はキャストが23名!四不象が生きている!魂が入っています」と語り、最後に「20年前に生まれた作品ですが、根強いファンも大勢いらっしゃいます。こうして舞台化、素敵なご縁、原作が面白いし読んだことのない人にも『読んでみたい』『気になる』と思っていただけたら。演出の吉谷さんが『音楽の力で空を飛ぶことができる』と。ぜひ、劇場で!」と締めくくって会見は終了した。
<あらすじ>
そのむかし―仙人は天空の仙人界に、人間は地上の人間界で暮らしていた。
殷の第30代皇帝、若き紂王(ちゅうおう)は文武両道に長けた名君であった。 彼こそは殷を更に発展させるであろうと誰もが思っていた。絶世の美女・妲己(だっき)を娶るまでは…。 妲己は邪心を持つ仙女だった。紂王に術をかけて己の操り人形にしてしまう。さらに仲間を王宮に呼び寄せ、悪しき仙人たちによって王朝の支配を始めたのだった。事態を重くみた仙人界は妲己を人間界から追い出す為、道士・太公望に「封神計画」を命じる。 「封神計画」とは人間界に蔓延る、悪しき仙人妖怪たちの魂魄を仙人界と人間界の間に新たに作った<神界(しんかい)>に封印し、人間界に平和 を戻す計画であった。 命を受けた太公望は旅路の途中で苦しむ多くの民の姿を見て真の平和のためには悪しき仙人・道士たちの魂魄を封印するだけでなく、殷に代わる新 たな王朝をつくる必要があると決意する。殷に攻め入る準備を進める太公望の元に『殷の武成王・黄飛虎窮地』の報せが届く。妲己の策略により、 飛虎は愛する妻と妹を殺され失意のなか殷を捨て、西岐へ向かっているとのことだった。
一方、殷では飛虎の裏切りを知り静かに怒りの炎を燃やす男の姿が…。 彼こそは金鰲三強の一人であり、殷の太師である聞仲である。飛虎とは殷の繁栄と安寧のために苦楽を共に過ごした親友であった。自らのけじめと して九竜島の四聖(しせい)を追手に放つ聞仲。
西岐の地を目前に太公望たちと聞仲らの激しい一戦が始まろうとしていた。
(※)四不象:中国音はスープシャン。シカのような角をもちながらシカでない。ウシのような蹄をもちながらウシでない。ウマのような顔をもちながらウマでない。ロバのような尾をもちながらロバでない。このように四つの動物に似た特徴をもちながら、そのいずれとも異なるためにこう呼ばれる。中国明代の原作では神獣として描かれており太公望が騎乗した。この漫画原作でも太公望の乗り物で気のいい相棒。太公望の苦労や心に秘めた決意を知り、尊敬するようになり、太公望の良き理解者。お人好しでおとなしい性格。
<封神演義とは>能務氏が翻訳した中国に伝わる怪奇小説を原作に、1996年から2000年まで「週刊 少年ジャンプ」(集英社)にて連載された、藤崎竜氏による漫画作品。1999年に「仙界伝 封神演義」と題してアニメ化され、2018年には再び「覇穹 封神演義」として再アニメ化。2019年1月からはスマートフォン向けゲーム「覇穹 封神演義 ~センカイクロニクル~」が配信中。
【公演概要】
タイトル:「ミュージカル封神演義-目覚めの刻-」
日程・場所: 2019年1月13日(日)~1月20日(日) EX THEATER ROPPONGI
チケット価格: 全席指定/8,500円(税込)
キャスト: 太公望役:橋本祥平、楊戩役:安里勇哉、哪吒役:輝山立、黄天化役:陳内将、 武吉役:宮本弘佑、四不象役:吉原秀幸、黄飛虎役:高松潤、太乙真人役:荒木健太朗、 妲己役:石田安奈、紂王役:瀬戸祐介、王魔役:青木一馬、高友乾役:武藤賢人、 申公豹役:大平峻也、聞仲役:畠中洋
アンサンブルキャスト
佐藤優次 澤邊寧央 多田滉 光永蓮 飯嶋あやめ さいとうえりな 熊田愛里 三宅妃那
原作:藤崎竜(集英社文庫コミック版)
安能務訳「封神演義」より
脚本:丸尾丸一郎
作詞・演出:吉谷光太郎
音楽:tak
振付: MAMORU
公式サイト:http://musical-houshin-engi.com
公式Twitter: https://twitter.com/musical_houshin
主催:「ミュージカル封神演義-目覚めの刻-」製作委員会
コピーライト表記:©安能務・藤崎竜/集英社 ©「ミュージカル封神演義-目覚めの刻-」製作委員会
文:Hiromi Koh