「ラジオ番組からスター声優を生み出したい」という想いで2013年12月にスタートし、2016年3月の番組終了までニッポン放送とラジオ大阪で122回放送した人気ラジオ番組「ニッポン朗読アカデミー」のスピンオフ企画・朗読劇の第五回公演、2019年1月29日〜2月3日まで銀座・博品館劇場で上演中だ。
今回の公演は、シリーズ累計58万部突破の人気ミステリー小説で、2018年11月には北川景子主演で映画化もされた大ヒット作品、志駕晃 著「スマホを落としただけなのに」を初の朗読劇化。出演は伊東健人、神尾晋一郎、駒田航、中島ヨシキ、米内佑希、ランズベリー・アーサー、茜屋日海夏、上田麗奈、高木美佑、田中あいみ、田中美海、南早紀といった人気声優陣に加えて、前回のトライアル公演に引き続き、若手声優陣から植木慎英、土田玲央、馬場惇平、古賀葵、射場美波が出演。
30日の夜に観劇、女A:茜屋日海夏 男A:米内佑希 / 男B:中島ヨシキ 男C:馬場惇平 女B:古賀葵という布陣。物語は男と麻美と警察の3者の視点で語られる。
舞台上は男は舞台の下、それ以外の登場人物は上段にいる。視覚的にキャラクターの立ち位置がわかるようになっている。幕開きはピアノの調べ、ドラマチックな音色、それがクレッシェンドになり、突然静寂に。スマホのベルの音が響く。「もしもし」「もしもし」「あなた、誰ですか?」これが全ての事の発端だ。麻美(茜屋日海夏 )は彼氏の富田(中島ヨシキ)に電話をしたはずであった。富田はスマホを落としており、それを第三者に拾われていたのだった・・・・・・。
映画や小説を知っていればオチもわかっている。だが、出演者の声の『力』というのだろうか、想像力を掻き立てられ、またリアルさも。富田は正直で明るいが、かなり抜けているところがあるキャラクターであるが、中島ヨシキが明るい声のトーンで『お間抜け感』を強調するが、ラストは男気を見せる。ヒロインを演じる茜屋日海夏、アイドルっぽさを封印し、次第に追い詰められ、また知られたくない過去を持つ、年齢的にも焦りのある複雑な役を渾身の演技でやりきる。そしてこの物語の鍵を握る男を演じる米内佑希、不幸な生い立ちをモノローグで語り、後半の狂気を爆発させる瞬間は客席を釘付けに。その狂気の瞬間、バックに流れる音楽はちょっと『可愛い』系、これが効果的で狂った男の性根をそこはかとなく暴いている。じわじわと真犯人を追い詰めていく毒島徹の馬場惇平、冷静に推理していくところをクールに、そして映画・原作では若い巡査・加賀谷学を女性キャラクターに変更、加賀谷真美子役は古賀葵、そして麻美の友人である加奈子役の2役を演じ、物語を支える。
照明は全体的に紫がかった色でトーンは暗め、スポットもパーンと明るくせずに控えめな明るさでミステリーらしく。背景のセットはアシメントリーで主要キャラクターの心の不安定さをどことなく醸し出す。タイトルにもなっている「ただスマホを落としただけなのに」という言葉は複数回出てくる。麻美は富田のスマホを受け取るために指定された場所にいく。ところが拾ってくれた人物はそこにはいなかった。麻美はつぶやく「ただスマホを落としただけなのに」と。このフレーズは登場するたびごとに少しずつニュアンスが変化する。「ただ・・・・だけなのに」日常でもよく使われるフレーズ、「ただ・・・・しただけなのに、そんなことしなくってもいいのに」とか「ただ・・・・だけなのに、そんなに大げさな〜」とか、いろんな場面で使われる言葉、これを複数回繰り返すことによってそのことがクローズアップされる。そして今や日常生活に欠かせないスマホ、そのスマホがもたらす重大な結果。物語の序章では、登場人物たちはそれがどんなことになっていくのかわかっていなかったが状況が、ストーリーが進行するに連れてその不気味さがひたひたと忍び寄ってくる。そういった物語の流れにしたがって声優陣はちょっとずつであるが、声やニュアンスを変えてくるのはさすが。
またキャストによって雰囲気が変わっていくのが、こういった朗読劇の面白さ。茜屋日海夏はこの日が「初日で千秋楽」と公演後に挨拶していたが、それ以外の4名はまた違う日に出演する。2月2日は中島ヨシキと米内佑希が再び出演するが、なんと役変わり!また他のキャラクターも他の声優陣がキャスティングされているので、これもまた楽しみだ。衣装は皆、揃いのTシャツを着用(ロビーで販売)しているが、4人はボトムは白のパンツか黒のパンツを着用、しかし男の役は赤いカーディガンを上に着用、色彩的にキャラクターの関係や立場をわかりやすくしている。また、他にもキャラクターはいるのだが、ここは『整理』、すっきりとさせてストーリーを際立たせる。
同じ原作でも映画、朗読劇と形式を変えると同じ物語でも印象はガラリと変わる。いわゆる『ヒール役』、確かに行為は許されないが、彼もまた一種の『被害者』、そう考えるとこの作品には本当に悪い人間、絶対悪な人物は実はいない。そのヒューマンなところが作品の魅力でもあり、救いの部分。
「映画は観たよ」ということなら、ぜひこちらも!声だけで表現することの奥深さを感じられることであろう。
【公演概要】
タイトル : 朗読劇「スマホを落としただけなのに」
期間・場所:2019年1月29日〜2月3日 博品館劇場
日時・出演: 伊東健人 神尾晋一郎 駒田航 中島ヨシキ 米内佑希 ランズベリー・アーサー
茜屋日海夏 上田麗奈 高木美佑 田中あいみ 田中美海 南早紀
植木慎英 土田玲央 馬場惇平 / 古賀葵 射場美波
<配役>女A:稲葉麻美 男A:男 / 男B:富田誠 男C:毒島徹 女B:加賀谷真美子&加奈子
A 1/29(火) 女A:田中美海 男A:ランズベリー・アーサー / 男B:伊東健人 男C:植木慎英 女B:射場美波
B 1/30(水) 女A:茜屋日海夏 男A:米内佑希 / 男B:中島ヨシキ 男C:馬場惇平 女B:古賀葵
C 1/31(木) 女A:上田麗奈 男A:駒田航 / 男B:神尾晋一郎 男C:土田玲央 女B:南早紀
D 2/1(金) 女A:田中あいみ 男A:神尾晋一郎 / 男B:ランズベリー・アーサー 男C:馬場惇平 女B:射場美波
E 2/2(土) 女A:南早紀 男A:中島ヨシキ / 男B:米内佑希 男C:植木慎英 女B:田中あいみ
F 2/3(日) 女A:高木美佑 男A:伊東健人 / 男B:駒田航 男C:土田玲央 女B:古賀葵
チケット問合せ先:ニッポン放送らくらくチケット 0570-07-1242 (平日9:00~17:00)
主催 :ニッポン放送/ラジオ大阪/ポニーキャニオン
協力: 81プロデュース/ニッポン放送プロジェクト
公式サイト:http://rouacastage.com