一昨年、好評だった舞台の再演であるが、昨年にアニメ放映されてタイトルも一気に浸透、その壮大な世界観で感動した視聴者も多いことであろう。舞台版はアニメより先に制作されたので、あくまでもコミックの舞台化である。
原作は梅田阿比原作の『クジラの子らは砂上に歌う』 (秋田書店「月刊ミステリーボニータ」連載中)、2013年より連載が開始され、現在、単行本は既刊6巻。『このマンガがすごい!2015』オンナ編において10位にランクイン。さらに『次にくるマンガ大賞』にノミネートされている。
舞台上はなにもない。ただ、砂をイメージしたカラーで覆われ、八百屋になっている。祈りのシーンから始まる。主人公のチャクロ、舞台上では語り部的な役割も果たす。泥クジラの説明をするが、チャクロ自身は記録係、言葉を紡いで書き留める。
基本的に初演と流れは一緒であるが、キャストも一部、入れ替わり、フレッシュさも感じる。アニメ化されているので、アニメを視聴して興味を持ったファンも多いかと思うが、あくまでも原作の舞台化なので、アニメに引きずられていることはなく、原作の繊細さと壮大な世界観が舞台上に出現する。それはアニメしか知らない観客でもその世界観に没入出来るくらいの空気感。
閉ざされた世界、自給自足、 住人たちは感情を発動源とする情念動(サイミア)を使える「印(シルシ)」と呼ばれる短命の能力者と、 能力を持たない⻑寿のリーダー的存在「無印(むいん)」がおり、513人が共に生活していた。この外界から閉ざされた場所で一生を終える運命を受け入れている住人たち。そんな彼らの平穏な生活に1人の少女がやってきて、【大きなさざ波】が起こる。それは大きなうねりとなって、やがて皆の運命を変えてしまうほどになっていく。
彼らを滅亡させようとする帝国軍、“処刑”という言葉を使って殺戮を行う。兵隊たちは皆、ピエロのような表情の面を被っていて、機械的に住民を殺していく、もの凄く簡単に。それに抗う泥クジラの住人達、たちまち、島は死体でいっぱいになっていく。この絶望の中で一筋の希望の光りを見いだす主人公たち。そこに行き着くまでの過程、成長と気付き、そんな姿を見て大人たちもまた、大きなものを見いだしていく。
生と死は隣り合わせ、彼らが直面する状況と比較すると、我々の日常はなんの変哲もなく、なんの疑問も持たずに明日が来ると思い込んでいる。しかし、先頃、白根山の噴火があり、死者も出た。実は平和に見えている我々の世界もまた、生と死が隣り合わせなのだ。懸命に生きようとする人々に襲いかかる帝国軍、しかし、彼らもまた生と死の隣り合わせ、帝国軍にも死者は出る。狂気に満ちた発言をする帝国軍側のキャラクター・リョダリ、チャクロを愛するあまり、自分が犠牲になって死んでしまうサミ、頭脳明晰で冷たい一面もあるオルカ等、こういったキャラクターから我々は多くのことを学ぶことが出来る。
演出も再演ということもあり、全てにおいてブラッシュアップされ、見応えのある舞台。アンサンブルが使う白い布も効果的で、ファンタジックな世界を構築する。何度でも観たくなる、そして何度でも涙する。アクションシーンも見応えあり、映像も効果的。
人は何の為に生きるのか、生きるということはどういうことなのか、そんな深淵かつ根源的なことを問いかける作品だ。
【公演データ】
舞台「クジラの歌は砂上に歌う」
期間:2018年1月25日~1月28日
会場:AiiA 2.5 Theater Tokyo
期間:2018年2月2日~2月4日
会場:サンケイホールブリーゼ
©「クジラの子らは砂上に歌う」舞台製作委員会
文:Hiromi Koh