KAAT 神奈川芸術劇場 2019 年度主催公演のラインナップ発表会が2月6日、行われた。登壇したのは芸術監督の白井晃、そしてケラリーノ・サンドロヴィッチ、小金沢健人、杉原邦生、 多田淳之介、長塚圭史、松井周、森雪之丞、山田うん、 山本卓卓、渡邉尚(敬称略、50 音順)。
舞台、ダンスなど主催タイトル20作品を発表し、舞台を作り上げる演出家・クリエイターたちが、作品に対するそれぞれの思いや豊富を語った。
KAAT 神奈川芸術劇場は演劇のみならず、総合的なアートを目指してプログラム作りに取り組んでいる。芸術監督の白井晃は「より多くの方に足を運んでいただけるように取り組んできました。今年は特に幅を広げて『アート』でプログラムを組んでみました」とプログラム自体が『挑戦』であることを示唆した。
それから登壇しているクリエイターが順番に挨拶、長塚圭史は秋元松代原作の「常陸坊海尊」に挑戦するが、演出するに当たっては「光栄です」とコメント。日本古来の伝承・信仰を題材にした、重厚な作風で知られる傑作、物語の時代設定は戦争末期、学童疎開と人間の『生』と『性』の問題を絡ませた傑作。公演は2019年12月。
『シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!』は白井晃が惚れ込んだ作品、テキストはチェーホフ、これは地点との共同制作となるが、開館当初より共同制作を継続的に行っており、これは第9弾となる。代表の三浦基は登壇はできなかったが、VTRでコメント、「明るくコント風に」とのこと。公演は2019年5月27日〜6月2日、7月13日〜16日まで、中スタジオにて。
『ゴドーを待ちながら』は言わずとしれたサミュエル・ベケットの傑作。海外からの注目を集める多田淳之介が演出を務める。これを2バージョンで上演するという。「体を使って待つ」と演出の多田がコメント。待たなくなってきている昨今、「待っている人を見続ける」のがこの作品の真骨頂、今の時代だからこその上演かもしれない。公演は2019年6月、大スタジオにて。キャストはこれからの発表になる。
『ビビを見た!』は「埋もれている作品を掘り起こしたい」という白井晃の考えで検討していく中で浮かび上がった作品。絵本であるが、かなり衝撃的な内容、松井周は「怖くって押入れに隠したいけど気になる絵本」と評し、「子供が読んだらトラウマになる」とコメント。この作品には岡山天音と石橋静河がキャスティングされている。岡山は主人公の盲目の少年・ホタルを石橋はタイトルロールになっているビビを演じる。演出プランについて松井は「VRもありますが、アナログなところもあり・・・・・できるだけアナログに」とコメント。公演は2019年7月上旬〜中旬、大スタジオにて。
新作ミュージカル『怪人と探偵』では脚本・作詞・楽曲の森雪之丞が登壇。白井晃から「森さんからミュージカルやりたい、江戸川乱歩で書いてみたい」と言う話があったそう。それを受けて森雪之丞は「日本独特のミュージカルを」と言い「『あの作品から日本のミュージカルの歴史が始まった』と言われたい」と意気込んだ。演出は芸術監督である白井晃自らが手がける。挑戦的な作品となる気配、キャストも中川晃教、加藤和樹、大原櫻子など、実力派を揃える。「極上のエンターテイメントに」と白井晃も意気込んだ。公演は2019年9月14日〜29日までホールにて。その後、10月3日〜6日まで兵庫県立芸術文化センターにて上演。
『ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜』(仮)では作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチが登壇、白井晃は「3年前から作ってくださいと・・・・・やっと作ってもらえることに」と3年越しのラブコールが実現。ケラリーノ・サンドロヴィッチの着用シャツがカフカ!カフカ4作目の長編小説の遺稿が発見されたとしたら???!!!という設定(捏造)、ケラリーノ・サンドロヴィッチは「KAATさんではいろんなことができる」とコメント、かなり面白そうな作品になる予感。
KUNIO15『グリークス』、演出・美術の杉原邦生が登壇、自身のプロデュースプロデュースカンパニーKUNIOをはじめ、木ノ下歌舞伎などで様々な挑戦を続け、歌舞伎やシェイクスピアなどの古典から新作まで独自の視点で読み解く杉原が10本のギリシャ悲劇を一つの長大な物語に再構築した長編戯曲『グリークス』に挑む。翻訳はこのために小澤英実が新翻訳する。18歳頃にこの作品の存在を知ったそうで「こんなに長い作品?」と思い、そして「念願かなって!」とコメント。「女性の視点が重要・・・・・・現代的な翻訳になっていて瑞々しい」と語り、KAATとKUNIOと共同制作となっている。また「公共ホールと共同で作っていきやすい環境も作りたい」と語る。公演は2019年11月大スタジオにて。
それから美術、キッズ、ダンス部門の発表に。
KAAT EXHIBITION 2019 小金沢健人展 『Naked Theatre-裸の劇場-』で美術作家の小金沢健人が登壇した。個展としては大規模、劇場の持つ構造を最大限に活用し、劇場と美術の融合を目指す。小金沢はある例えを話した。「『演劇』『芝居』『舞台』・・・・人によっていうことが違う、絵描き、画家、いろんな言い方があります」と語る。そして「この劇場から『舞台』『芝居』を取っ払う、時間や空間の可能性を発揮できるのか」とコメントし、それを受けて白井晃は「現代美術と演劇が出会う機会がなかなかない、そこで出会う場をもうけて劇場を考えてみる」と語るが、じっくりと組み合わさったことのない分野が融合することによって新たなものが生み出される可能性、挑戦的な企画、4月14日〜5月6日まで中スタジオにて。
『キッズ・サマー・パーティーパーティー2019 in KAAT 高原キャンプ場』、白井晃から説明があった。これは劇場をキャンプ場にするという試み、0歳から親子で楽しめるイベント、撮影自由、90分で1泊2日が体験できる?!ミュージシャンも集結、たった4日間の限定ステージとのこと。5月3日〜6日まで大スタジオにて。
KAATキッズプログラム『グレーテルとヘンゼル』あの有名な童話であるが、タイトルが・・・・・『ヘンゼルとグレーテル』ではないところがポイント。現代版と白井晃から解説があった。「僕も!僕も!」と言ってばかりいる弟の話だそう。7月下旬大スタジオにて公演し、その後は全国を回る。
KAAT キッズプログラム 2019『Loo』、毎年海外から招聘しているそうだが、2019年はスペイン・バレンシア地方から。ノンバーバルで幻想的な作品だそう。
KAAT キッズプログラム 2019 『二分間の冒険』上演台本・演出は山本卓卓。「小学生の頃は映画ばかり見ていた」と自身のことを語る。作品については「非常に面白いファンタジー小説で多様性があり、人間の生き様が描かれている、これは豊かなものになるな、と。またキャストが面白い!本当の小学生が出演します。あらゆる可能性を描いていきます」といい演出については「映像、デジタルを駆使して」と語る。出演は百瀬朔、佐野瑞稀、下川恭平、亀上空花、小林那優/若松武史。8月大スタジオにて上演。
KAAT DANCE SERIES 2019『妖怪ケマメ:L’esprit des haricots poilus』、出演の渡邉尚が登壇した。ダンスやジャグリング、サーカスの垣根を超え、各界から注目を集めるカンパニー「頭と口」の日仏国際共同製作による新作となる。山本は「ジャグリングはどんな文化にもある」と山本。「新しいジャグリングをイチから作ろうと、『この作品のためだけ』のを作りたい」と意気込みを。
KAAT DANCE SERIES 2019 日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念ラグビーW杯日本開催 特別文化プログラム テロ・サーリネン×韓国国立劇場招聘公演『VORTEX』
クリエイターであるテロ・サーリネンが韓国の舞踊団に振付した作品で2014年に初演された80分に及ぶ大作。初演以来世界各地で上演され続けている話題作が日本に上陸!「とにかく素晴らしいので招聘した」と白井晃。韓国舞踊の伝統を新鮮な振付で現代に花開かせ、凛とした美しさを湛える『コンテンポラリーダンス』となっている。10月ホールにて上演。
KAAT DANCE SERIES 2019 『NIPPON・CHA!CHA!CHA!』
2020年は劇作家・如月小春没20年の節目の年にあたるが、この傑作を振付家・ダンサーの山田うんが挑戦、「ダンス版」と「演劇版」の2本を同時上演する。如月小春が1988年に発表したオリンピックと日本人をテーマにしたこの戯曲、「言葉と体の間を行きつつ」とコメントしたが、同じ作品でありながら表現を変える、そこから何が見えてくるのか、「全身で感じて、身をもって感じる」と語る。作品の時代設定は高度成長期の日本、生活が豊かになっていき、人々は浮き足立っている。ダンス版と演劇版、2つをやることの意義と意味、いずれにしても挑戦ではないだろうか。
バラエティに富んだ2019年度のラインナップ、演劇に偏らずにアート、芸術という括りで考えられた内容、意欲に溢れた会見であった。
公式HP:https://www.kaat.jp/