マンガの神様「手塚治虫」が描いた未完の傑作「どろろ」が、2019年3月、待望の舞台化、主演「百鬼丸」役には、鈴木拡樹、また、2019年1月よりアニメの放送もあり、 鈴木は、同役で声優にも初挑戦。原作は「週刊少年サンデー」(小学館)にて1967年8月27日号から1968年7月21日号まで連載された後、「冒険王」(秋田書店)1969年5月号から10月号まで連載された。戦国時代の北陸や能登半島を舞台に妖怪から自分の身体を取り返す旅をする少年・百鬼丸と、泥棒の子供・どろろ。この2人の妖怪との戦いや、乱世の時代の人々との事件を描く。
時代劇で妖怪物という、かなり特殊なジャンル、しかも明るい作品が多い中で当時はかなり不人気であった。1969年のアニメ版ではコミックで描かれていなかった部分も描かれている。しかし奪われた身体を取り戻すために妖怪と戦いながら冒険するという設定や、義手、義足の中に刀や爆薬などの武器を仕込んだ主人公というアイディアが一部に受け、カルト的なファンが多いのもこの作品の特徴だ。
激しい雨の音、琵琶の音色、醍醐景光(唐橋充)に男の子が生まれる。舞台上には無数の髑髏が散乱、これから始まる物語を予感させる。醍醐景光は叫ぶ「神仏に頼ろうとは思わん!・・・・・・取引だ!」、寺のお堂で魔物に通じる48体の魔神像に天下取りを願い出て、その代償として魔神の要求する通り、間もなく生まれる自分の子を生贄として彼らに捧げることを誓う。誕生した赤ん坊は身体の48箇所を欠損した状態で生まれた。化け物としてそのまま川に流され、捨てられてしまうのであった。そしてたまたま医者である寿海(児島功一)に拾われたのであった。医者・寿海は彼を百鬼丸と名をつけ、義手や義足を与えたのであった。
畳み掛けるようなストーリー展開、オープニング、映像と布、ダンス、アナログな表現が生きている。一方、醍醐景光の息子・多宝丸(有澤樟太郎)、立派な青年武将に成長している。
百鬼丸とどろろ(北原里英)、親は死んで天涯孤独な少年、生きていくためには泥棒をやらなければならないが、めっぽう明るく元気な少年だ。そんな中、無数の死体が・・・・・・妖刀「妖蛭」を持つ仁木田之介(影山達也)、彼は妖刀『似蛭』に取り憑かれた浪人の男、もともとは心優しい男であったが重要機密保持のために大工たちを殺せと命令され、精神的に崩壊してしまった。そんなエピソード、辛く物悲しい。そんな彼を倒す百鬼丸、自分の体を奪った元凶である48の魔物を1匹ずつ倒すごとに、倒した魔物が奪った部位が徐々に戻っていく。一方、多宝丸は百鬼丸に関する『秘密』に近づいていく。最終的には知ることになるのではあるが・・・・・・。
脇を彩るキャラクターにも悲しいバックボーンがある。それでも彼らは生きていく。時代背景は戦乱の世、そこに妖怪との戦いがからみ、重層的な物語になっているのが作品の特徴、子供を捨てられた母・縫の方(大湖せしる)の深い後悔、どんなことがあっても手放してはならなかったと嘆く。兄の存在を知った多宝丸、父・醍醐景光、己の利のためならどんなことでも厭わない、そんなクールさを持つ。少年・助六(田村升吾)、自分の村が焼かれ、両親は行方知れず、どろろに励まされ、少しづつ希望をとり戻す。賽の目の三郎太(健人)原作に登場する槍の名手、彼もまた辛い過去があった。
2幕ものであるが、長さを感じさせない。和楽器の音色が戦いのシーンでは和太鼓中心の力のあるリズムで激しさを表現、琵琶、笛、作品世界をぐっとリアルなものにする。映像は最新というものでもなく、オーソドックスな使い方で、布やダンサーのフォーメーション、全体がひらひらとはためく衣装などのアナログ表現を彩り、舞台上に原作コミックやアニメとはまた違った印象で、しかし、「どろろ」の世界観をブレさせることなく、舞台らしい手法で再現する。今年から放映されているアニメを視聴しているなら、ここは比較してみると興味深いところだ。1969年のアニメ版では全ての魔物を倒しているが、舞台版では「続く」という印象。
見所は視覚的にはアクションや殺陣になるが、キャラクター同士の心の交流、会話、回想シーンは心に染み入る。どろろは最初は口も聞けず、顔もなかった。それが一つづつ取り戻していくのだが、耳が聞こえるようになって耳を押さえたり、またようやく口がきけるようになったりする場面があるが、これは普通にセリフをいうよりも難しいと思う。そんな百鬼丸を鈴木拡樹が熱演する。アニメでも同役だっただけに舞台版は当たり役。またどろろを演じる北原里英、原作通りの元気キャラで飛び跳ねたらり、駆け回ったりと片時もじっとしていない。多宝丸演じる有澤樟太郎、まっすぐな気性の青年ぶり、後半は兄の存在に悩む。
妖怪、戦乱、生きるか死ぬか、そんな中にも絆や友情、愛、といったテーマが散りばめられており、ちょっとしたやり取りにそんなところがそこはかとなく感じられる。琵琶丸(赤塚篤紀)は舞台上では語り部的なポジション、厳しい現世を生き抜いている、という設定、原作では主要なキャラクターである。
手塚治虫作品はこの「どろろ」に限らず、ストーリーの面白さ、キャラクターの多彩さ、深いテーマで世紀を超えても愛され続けている。この後の物語も気になってしまう。なお、3月17日の千秋楽、ライブビューイングが決まった。またCSテレ朝チャンネル1でも3月17日の午後4:55〜放送も決定!
ゲネプロ前にキャストの挨拶があった。登壇したのは、鈴木拡樹、北原里英、有澤樟太郎、健人、影山達也、田村升吾 赤塚篤紀、児島功一、唐橋充 、大湖せしる、 西田大輔(脚本・演出)。
「作品が愛されているとひしひしと感じます。アニメ化され、映画にも舞台にも!家族で楽しんで欲しい」鈴木拡樹
「このお話は手塚先生の傑作です今日は雨ですが、どろろは太陽のようにみんなを照らしていけるように、舞台の上では太陽のように!みんなで走り抜けたい!」北原里英
「この作品は特に生の良さが全面に出ています、大阪公演からこのまま東京、頑張っていきたい」有澤樟太郎
「この作品にかかわれて嬉しいです。初心忘れずに!」健人
「刀を使うのが初めてです、怪我なく最後まで!」影山達也
「たくさんの愛で満ちている作品です」田村升吾
「手塚作品の名作、西田さんの演出、『どろろ』の世界!思う存分、楽しみたい!」赤塚篤紀
「育ての親の役です、家族の絆の話です。しっかりやっていきたい」児島功一
「父として家族としてどう関わっていくか・・・・・ダイナミックに!後世に残るように、鈴木拡樹の『どろろ』を!」唐橋充
「家族の思い、愛、絆あり、様々な思い刻めたら、舞台『どろろ』みなさまの心に長く残り続けるように全力で!」大湖せしる
「この作品に携われることに感謝しています。舞台では『暗転』しかしそれを『暗闇』と捉えて・・・・伝えていける何かがあるんじゃないかと。俳優たちが繊細に真摯に稽古に取り組んでくださいました。ダンサーも一緒に考えて・・・・・たくさんの人に見てもらいたいです」西田大輔
<あらすじ>
時は戦国。醍醐の国の主である景光は、ある寺のお堂で十二体の鬼神像に領土の繁栄を願い出た。それと引き換えに生まれた景光の世継ぎは身体のあちこちが欠けており、忌み子としてそのまま川に流され、捨てられてしまう。そして時は流れ、鬼神は景光との約定を果たし、国には平安が訪れた。そんなある日〝どろろ〟という幼い盗賊は、ある男に出会う。それは、鬼か人かーー両腕に刀を仕込む全身作り物の男〝百鬼丸〟は、その見えない瞳で襲い来る化け物を見据えていた。
<キャスト>
百鬼丸:鈴木拡樹
どろろ:北原里英
多宝丸:有澤樟太郎
賽の目の三郎太:健人
仁木田之介:影山達也
助六:田村升吾
琵琶丸:赤塚篤紀
寿海:児島功一
醍醐景光:唐橋充
縫の方:大湖せしる
【公演概要】
タイトル:舞台 「どろろ」
キャスト:鈴木拡樹/北原里英/有澤樟太郎/健人 影山達也 田村升吾 赤塚篤紀 児島功一/唐橋充 大湖せしる
スタッフ:
原作:手塚治虫
脚本・演出:西田大輔
公演日程・場所:★アフタートークあり!
<大阪>2019年3月2日(土)~3日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
<東京>2019年3月7日(木)~3月17日(日)サンシャイン劇場
<福岡>2019年3月20日 ももちパレス
<三重>2019年3月23日 三重県文化会館大ホール
主催:舞台「どろろ」製作委員会
企画制作:エイベックス・エンタテインメント/Office ENDLESS
公式HP:http://www.dororo-stage.com
公式Twitter: @dororo_stage
TVアニメ「どろろ」 2019年1月7日(月)よりTOKYO MX、BS11にて毎週月曜放送!
※キャスト※ 百鬼丸:鈴木拡樹 どろろ:鈴木梨央 琵琶丸:佐々木睦 ほか
※手塚治虫の「塚」は旧字体が正式表記。
(C)手塚プロダクション/舞台「どろろ」製作委員会
取材・文:Hiromi Koh