『火花 ~Ghost of the Novelist~』

 

お笑いコンビ・ピースの又吉直樹の芥川賞受賞小説『火花』が『火花 ~Ghost of the Novelist~』として舞台化された。単行本・文庫本の売上げは累計部数300万部超え、社会現象をも巻き起こした話題作が、2016年のドラマ化、17年の映画化に続き、そして舞台化。
舞台版キャストには、女優で歌手の観月ありさ、『弱虫ペダル』や『おそ松さん on STAGE』などに出演する若手俳優の植田圭輔、本格的な舞台にも多数出演しその演技には定評のあるNON STYLEの石田明。そして、同作の原作者である又吉が作家本人として出演する。

物語は2本仕立てのストーリーで展開。ノンスタ石田を軸にした原作の物語とは別に、観月と又吉が作品の世界観を朗読する“アナザーストーリー”を追加した。双方の話が交錯しながら、クライマックスに観月が又吉に『火花』を書いた意義を問いかける。

 

 

 

 

舞台上には中央にスクリーン、始まる前は作品に沿った映像が流れている。中央には本、もちろん「火花」。

オルゴールの音が鳴り響き、始まる。まず最初に登場したのは原作者である又吉直樹。「原作者です」と挨拶、続けて「僕じゃないです。原作者を演じている本物の原作者です……本物が演じている原作者の役です。これ、全部台詞です」と語る。つまり、舞台上の又吉直樹はこの芝居での【又吉直樹】であり、リアルな本人とは異なる。続けて「僕が言わないことも書かれています」と語る。そこへ観月ありさが登場する。この観月ありさもこの芝居での【観月ありさ】を演じている、という設定。いきなり又吉に向かって「大好き!」と抱きつく。「完全に台詞ですよね」「結婚してください」「してますよね」「小説家になりたいんです」「好きなものについて書いてください」「パン!山食好きなんです!」この人を食ったような会話が続く。さらに観月は「『火花』を私にください」「は?」「私が書いたことにしてください」このシュールで不思議なやり取り、これもこの舞台の中で進行していく。

場面は変わり、小説で知られているあの物語が始まる。8月の熱海のシーン、小説では最初のところに当たる。小説の一節がスクリーンに浮かび上がる。熱海のお祭りで相方と漫才をする“僕”、徳永(植田圭輔)そこで神谷(石田明)に出会う。「あほんだら」というコンビ、客席に向かって「地獄、地獄、地獄、地獄!」を連呼する。原作もそうだが、強烈な個性の持ち主・神谷の登場だ。挑むような目つき、唾をとばしながらの「地獄」連呼は衝撃的な場面だ。

 

 

 

物語は原作通りに進行する。スクリーンに時折ページ数と、その場面を説明する文字が浮かぶ。さらに、それをイメージする風景が写しだされる。しかし、原作通りと思いきや、突然に観月ありさと又吉直樹が“挿入”される。この“挿入”のされ方はシュールでサプライズ。瞬間的に原作と、もうひとつのサイドストーリーが交錯する。観月と又吉のこの作品での立ち位置、確かにもうひとつのストーリーを担っているには相違ないが、原作ストーリーを俯瞰して観ているポジションにも受け止められる。

 

 

 

 

 

 

小説の舞台化には違いないが、原作者を【原作者】として登場させ、さらに【小説家志望の女優・観月ありさ】を観月ありさが演じ、原作とクロスさせ、「火花」という作品を舞台にのせるという具現化の行為に奥行きと哲学を加味させる。観客はいわゆる【観客】として舞台を観ることも出来るし、【又吉】、【観月】の立ち位置で舞台を観ることも出来る。神谷を演じる石田は狂気を感じさせ、破滅的であるが、真実を見据えるキャラクターを好演する。彼もまた芸人であるが、近年は舞台の演出をしたり、舞台俳優としても活躍している。そんな石田だからこそ、リアリティも感じさせる。キャスティングの妙、といったところであろう。徳永を演じる植田は基本的に舞台俳優であるが、最近は声優にも挑戦している。年齢的にもこれから、という時期、徳永も物語の出だしでは20歳なので、演者と登場人物、ちょっとした接点を持たせているところが、この舞台のスパイス的な要素でもある。ラスト近くの漫才のシーンでは、植田は本当に鼻水垂らし、唾を飛ばして客席に向かって「死ね!死ね!」と暴言を吐きまくる。リアルに徳永がそこにいるような錯覚に陥る。神谷、徳永、もし本当にいるなら、こんな感じなのかも、と思わせてくれる存在感が舞台版の「火花」の世界に熱さと真実をもたらす。

 

 

 

 

映像の使い方も効果的、照明もまた作品世界を彩り、時には2人の関係性を象徴的に示す。ひょんなことで出会った2人、例えば漫才の頂点を目指すとか、そういったきれいなことではない。ただひたすらに生きていくこと、彼らにとって生きる事は漫才なのであろう。【又吉】と【観月】の話も一緒に終息していく。小説家にはなれなかった【観月】、「生きている限りバッドエンドはない」という言葉に全てが集約される。心と心がスパークする。このスパークにこの作品の観客も原作小説の読者も魅了される。スパークの色も激しさもそれは人それぞれだ。そういえば神谷の漫才コンビ名は「あほんだら」で徳永の方は「スパークス」。愛すべきあほんだらがスパークス、【火花】が散る。最後にかかる曲は「ALL NEED IS LOVE」。

 

【キャストコメント】

〈観月ありさコメント〉

私は原作には登場しない「観月ありさ役」を演じるのですが、

小説の火花を朗読しながらストーリーテラーのように進行しつつも、

観月ありさ役をやったり、神谷君(石田明さん)の恋人役をやったりと忙しく、切り替えが難しかったです。

又吉さんとは普段も交流が多いので、正直照れてしまいます。

コメディ要素が多い舞台で、芸人さんたちの前で笑いを取るのが難しいのですが、

そんなときは笑いのバロメーターとして又吉君の笑い方を確認しています。

肩の力を抜いて楽しんでいただきたいです。

 

 

 

<又吉直樹コメント>

ーーゲネプロを終えての率直な感想を一言お願いします。

 

そうですね、稽古で長い時間かけてやってきたんで、それがようやく形になって。

どちらかというと、緊張感はあるんですけど、今は楽しみになってますね。

 

ーーゲネプロを楽しんで演れたという感じですか?

 

あの~……、他の演者にもたぶんこの声が聞こえてしまってるんでアレなんですけど(笑)、

僕だけが特に緊張してたみたいなゲネになったかなとは思うんですけど、

でもみんなの芝居を見ていていい意味で引っ張られるというか、

「なるほど、こういう話なんや」っていうのがさっきのでなんか、わかりましたね。

稽古で何回も通してきたんですけど、なんか「あぁ~……!」みたいな。いろいろ、つながりました。

 

ーー間に合いましたね(笑)!

 

ギリギリ、間に合いました。

 

ーーこれから初日の公演を迎えるわけですが、最後にメッセージをお願いします。

 

やっぱり舞台はその場その場といいますか、一回一回違いますし、

1回目と2回目も違いますし、日によっても全然違いますから、その時しか見れないものなんで、ぜひ。

特にそういう、舞台の「その場でしか見られへん」っていうものと、

今回のお芝居のお話自体がすごく相性いいと思うんで、

ぜひ、足を運んでいただきたいなと思います。

火花を読んだことない方も、読まれた方にも楽しんでいただけると思います。

よろしくお願いします。

 

 

<あらすじ>

ステージに立ち、語り始めた「火花」の原作者又吉。そこに女優観月ありさが現れ又吉を抱き締める。
又吉を愛しているという観月はその愛と引き換えに「火花」を私に下さいと言う。
「作者」観月によって語られる火花の物語は小説の世界をなぞりつつ、歪めつつ、又吉の原作世界の核心をあぶり出してゆく。
スパークス徳永は祭りの営業で出会った神谷に心酔し、弟子入りを志願する。行動を共にする中で、神谷が転がり込んでいる家で一人の女性・真樹に出会う。
真樹は女優が演じている。自分こそが真樹であり、これは自分が見届けた一部始終なのだと女優はいう。
交流を深めるにつれ、徳永の神谷に対する憧れや嫉妬が渦巻いていく。好調だったスパークスも解散。
やがて破綻を迎える。
同時に破綻する観月の物語世界。
観月は又吉に問う「なぜこの小説を書いたのか?」 物語にはまだ続きがあった。
小説の世界と「作者」の世界は交錯し、同時にクライマックスを迎える。

 

 

【公演概要】

原作;又吉直樹

脚本・演出:小松純也

 

<出演者>
観月ありさ / 植田圭輔 /石田明 / 又吉直樹 ほか

 

<東京公演>
日程:2018年3月30日(金)~4月15日(日)
会場:東京・紀伊國屋ホール

<大阪公演>
日程:2018年5月9日(水)~5月12日(土)
会場:大阪・松下IMPホール

 

公式サイト:http://hibana-stage.com

 

文:Hiromi Oh