ドラキュラの物語と言えば、このブラム・ストーカー著「DRACULA」が有名である。もちろん映画にもなっているが、それは列挙出来ないくらいに多い。また、ドラキュラのイメージは、この作品から構築された、と言っても過言ではないだろう。最近ではフランク・ワイルドホーン作曲のミュージカル版(2001年)が記憶に新しいところ。
この作品が刊行されたのは1887年で物語の時代背景が1885年なので、当時の「現代」ということになる。物語は3人称で語られており、日記や新聞、電報等による記述で構成されている。それらの発言によってドラキュラの企みが少しずつ明るみになっていく形になっている。映画や演劇においては演出上の理由からキャラクター設定が多岐に渡って改変されている。
さてスタジオライフ版の「DRACULA」、副題は「The Point of No Return」とある。意味は「帰還不能限界点」、またミュージカル「オペラ座の怪人」にも同名のナンバーがある。ここでは、どんな意味合いになるのか、そこは観てのお楽しみ、脚本と演出は倉田淳。
基本的にはストーリーは原作に沿っているが、ドラキュラは単なる恐怖の存在ではない。当初、ジョナサンには極めて紳士的に振る舞うが、次第にドラキュラの真の姿が明らかになっていく。それを知ったジョナサンは囚われの身となってしまう。表情ひとつ変えないドラキュラ、その心の奥底は孤独感と寂寥感でいっぱい。その憂いをたたえた姿、恐怖であるには違いないのだが、ジョナサンを想う姿は、ちょっと切ない。所詮、叶わぬ想い、ラストの衝撃的な瞬間に集約される。ルーシーの無念さ、おぞましい姿になるが、哀愁漂う姿には涙する。
表面的には人間vsドラキュラ、わかりやすい構図であるが、心理的には様々な想いが交錯する。お約束の十字架等はもちろん登場し、アクションシーンもあるので、ここはウエストエンドスタジオならではの濃密な空間故に迫力満点。
異形、ドラキュラもご多分に漏れず、このカテゴリーに入ってくるが、そういった物語は古今東西存在する。有名なミュージカル「オペラ座の怪人」も、異形の怪人が美しい歌姫・クリスチーヌに恋するが、結局は届かなかった。このドラキュラもまた、熱い想いを抱いているものの、【吸血鬼】であることが障害となる。「愛したこともないくせに!」というジョナサンに対してドラキュラは「愛したこともないくせに?!」と言い返す、その顛末は……。
光と闇、明るく照らされている部分があれば、当然のことながら影もある。ジョナサンとドラキュラの【立ち位置】は、ちょうど、光と闇、そのコントラストが物語とテーマ性を明快にする。「愛してくれる人が1人もいない」というドラキュラ、どんな人間よりも人間らしい心を持ち、気高く、プライドも高い。悪人は出てこない物語、そこに愛がある。
<ストーリー>
ジョナサンを想うあまり集中力を欠いていたのか気が急いたのか、有り得ないミスを犯したドラキュラ伯爵。棺に横たわっていた女性はルーシーという名の女性だった。本当はミナの喉元に噛り付くはずだった のに・・・・。
永遠の命を授かってしまったドラキュラ伯爵の孤独は年々増してゆく。 上弦の月を見上げ、深い吐息をつくドラキュラ伯爵 ―――――――― 彼の心が癒される日はくるのだろうか・・・・
【公演データ】
Studio Life 公演
DRACULA
~The Point of No Return~
期間:2018年2月15日(木)~3月4日(日) <全22ステージ>
会場:ウエストエンドスタジオ (中野)
原案:ブラム・ストーカー著「DRACULA」
脚本・演出:倉田淳
<出演>
[WeirD ]
ドラキュラ伯爵:曽世海司
ジョナサン:松本慎也
ミナ:宇佐見輝
ルーシー:関戸博一
魔女1:仲原裕之
魔女2:宮崎卓真(客演)
魔女3:吉成奨人
アーサー:鈴木翔音
キンシー:千葉健玖
セワード:江口翔平
ヘルシング博士:船戸慎士
鈴木宏明(Fresh) 前木健太郎(Fresh)
[AberranT]
ドラキュラ伯爵:松本慎也
ジョナサン:曽世海司
ミナ:宇佐見輝
ルーシー:若林健吾
魔女1:仲原裕之
魔女2:宮崎卓真(客演)
魔女3:伊藤清之(Fresh)
アーサー: 鈴木翔音
キンシー:千葉健玖
セワード:江口翔平
ヘルシング博士:船戸慎士
鈴木宏明(Fresh) 前木健太郎(Fresh)
公式サイト: http://www.studio-life.com/stage/dracula2018
文:Hiromi Koh