新作ミュージカル『いつか~one fine day』人は生まれ、死んでいく、だから、いつか・・・・人は何のために生きるのか。

新作ミュージカル『いつか〜one fine day』、韓国でコンスタントに人間ドラマを描き続ける映画監督イ・ユンギの2017年最新作『One Day』(主演:キム・ナムギル、チョン・ウヒ)をベースに、ストレート・プレイやミュージカルのフィールドで説得力ある作品を創り続ける板垣恭一(脚本・作詞・演出)による新たな解釈で開幕した。
街の雑踏、人々が行き交う、ありふれた景色、「何のために生きるのか」と歌う人々。人は生まれ、成長し、年を取って、そしていつか此の世を去る。それは古代から、そして未来もその営みは続いていく。
それから物語が始まる。会社での会話、損保会社、目の不自由な女性・エミ(皆本麻帆)が車にはねられて植物状態になっている、という案件、加害者はその損保会社の社長の知り合いの息子だという。厄介な案件で、案の定、若手社員タマキ(内海啓貴)ではできない、だからテル(藤岡正明)のところにお鉢が回ってきた、というわけだ。

上司のクサナギ(小林タカ鹿)は歌う「長いものに巻かれろ」という。できれば示談にしたい、余計な波風は立てたくない、という状況、そんな話は日常茶飯事。そしてテルは被害者のいる病室にいくとエミの友人が2人がいたが、明らかに敵対心を持っていた。
登場人物に寄り添うような音楽、ナンバー、そんな状況の中、テルの目の前に何と植物状態のはずだったエミが・・・・・。しかし、彼女の姿はテル以外には見えていない様子。驚くテル、しかし、エミはどこ吹く風「自由を手に入れた」と歌い、「外に出たい」という。

エミは施設で育ち、同じ境遇のマドカ(佃井皆美)とは無二の親友。回想シーンやテルとエミのファンタジックなシーン、テルの現実、苦しい思い出などがスケッチのごとくに描かれ、次々と流れるようにそれらが舞台上に紡ぎ出される。テルの妻、病をえてしまったこと、そして今はいない。テルの孤独と喪失感、それが切なく控えめに語られていく。エミの母親、エミは知っていた、そして尋ねに行ったのであった。

そしてエミの母親・サオリ(和田清香)もまた・・・・実はエミをずっと気にかけていたのだが、いざ、エミを目の前にして・・・・。
エミの事故の謎解き的な要素もあり、そして登場人物たちの心締め付けられるバックボーンが少しずつ明らかになっていく。どこにでもいそうな普通の人々、そして皆、ちょっとずつ切ない想いやどうしようもない状況を抱えて生きている。「長いものに巻かれろ」と歌っていたクサナギもまた、あることを抱えていた。仕事は可視化できる、それだけが彼を支えている。治る見込みのないエミ、心に闇を抱えるテル、それでも生きて行かねばならない。元気いっぱいに見えるトモヒコ(荒田至法)、音楽が大好き、しかし自分を「低所得者」と自虐的にいう。表面的には何もないように見える人々だが、その内面は複雑。テルはエミが気になりだし、いつしか心惹かれていく。

愛とか絆、そういったものをストレートにわかりやすく見せる作品もあるが、これはそうではない。実際には人の心理状況は複雑でしかも表立っては見えない、しかも本人自身も気がつかないということもある。テルはいう「ただ生きていることはエミの本意ではない」と。最後にまた歌われる「ここにただ生まれてここでただ死んでいくだけ」、シンプル、しかも真実だ。楽しいことよりも苦しいことの方が多いかもしれない。実際、ここに登場する人々は苦しい思いや悲しい思いをしている、しかも「ing」、それでも前を向いて生きていく。いつか、いつか、きっといつか、そんな思いを抱きながら。主演の藤岡正明始め、皆、手堅い芝居。切なく、しかし、どこか心温まる作品をしっかりと構築し、観客の心に寄り添いながらじんわりと提示する。one fine day、それを胸に抱きながら、人はただ営みを続けていく。大作ではないが、しっかりと心に染み入るミュージカルだ。

<キャスト>
藤岡正明
皆本麻帆

入来茉里
小林タカ鹿
内海啓貴

佃井皆美
和田清香
荒田至法

【公演概要】
公演日程
日程・場所:2019年4月11日(木)~4月21日(日) シアタートラム
原作:映画『One Day』
脚本・作詞・演出:板垣恭一
作曲・音楽監督:桑原まこ
企画・製作・主催:conSept
公式ホームページ&SNS
https://www.consept-s.com/itsuka
Twitter / Instagram / Facebook @consept2017

文:Hiromi Koh