劇団四季 新作ファミリーミュージカル「カモメに飛ぶことを教えた猫」4月20日開幕!全国へ!

ーー自分の翼を信じて広げて!見えなかった景色が広がるはず、だから!小さくても一歩を踏み出そう!ーー

1964年『はだかの王様』以来、半世紀にわたり四季が上演しているファミリーミュージカルは、30作品以上。「命の尊さ」「愛と勇気の素晴らしさ」「友情や助け合いの大切さ」などを、メッセージとして織り込んできた。
2019年より全国ツアーが開始される新作、原作は、チリの小説家、ルイス・セプルベダの同名児童小説。ひん死の母カモメから卵をたくされた猫のゾルバが、彼女と交わした3つの約束を果たすため、仲間と力を合わせて奮闘する姿を描く。
物語の舞台はハンブルグ。風光明媚な港町で、ここに住んでいる黒猫・ゾルバ(笠松哲朗)が主人公である。
幕開きはかもめたちの群舞、衣装をよく見るとちょっとずつディティールが異なっている、『かもめたち』とひとくくりにせずに皆、ちょっとずつ個性がある、ということであろう。「前方にニシンの群れ!」「元気な卵を産まないと!」そしてそのうちの一羽が!大変なことに!

場面が変わってここはハンブルグ。猫達が陽気に元気良く歌い踊る。ゾルバはネズミ退治が得意、「猫の誇りをしっぽに込めて!」と高らかに歌う。様々なダンススタイルを取り入れて楽しいシーン、ストンプも取り入れられており、賑やかだ。そして何かの音が!ゾルバが見に行くとそこには黒くなって横たわっている一羽のかもめが・・・・・。「次の命をつなげたい」と歌い、ゾルバに卵を託して息絶える。ちょっと粗暴なところもあるが性根は優しいゾルバはかもめとの3つの約束を胸に抱く。それは「卵を食べないで」「ヒナが孵るまで面倒を見て」「飛ぶことを教えて」というもの。猫がかもめに空を飛ぶことを教えるなんて無理!と皆が反対する中、大佐(志村要)は街中の猫たちの協力を得る「しっぽの誓い」の実行を提案する。その誓いが守れなければしっぽを切られ、しかも街を追放される、というもの。ゾルバはそれに同意するのだった・・・・・。
スピード感のある展開、卵を孵化させる方法など全くわからないゾルバは物知りな学者猫(奥田直樹)を訪ねに行く。しかし、学者猫がいる館の入り口にはチンパンジーのマチアス(町田兼一)がいた。かつてはパイロットとすごしたことがあったが、今は酒に溺れている日々。

ゾルバたちはそんな彼を見下し、彼の大事な飛行用の帽子を落としてしまったが、ゾルバたちは気にせず、マチアスは激怒するのだった。
そんなこんなで卵は無事に孵化、猫たちは生まれたかもめのヒナに「幸運な者」という意味、フォルトゥナータ(横田栞乃)と名付け大切に育てたのであった・・・・・・。
劇団四季の26年ぶりの新作ファミリーミュージカル、セットは基本的に俳優陣が動かす。ダンススキル、歌唱、さすがな水準。そしてこの作品には多くのことが詰まっている。フォルトゥナータの母親が死んでしまった理由、『死の波』という言葉が出てくるが、これはいわゆる海洋汚染、廃油で汚れた海、それにまみれてしまい、死にかけた状態でうち上げられたのであった。そして日常でもよくあること、他者にとっては気にも止めないことが、本人にとっては大切なこと、ゾルバはマチアスの大事な帽子を落とし、それを「大したことがない」と捉えたが、マチアスにとっては宝物であった。それを邪険に扱われれば怒るのは当然だ。そして猫vsネズミ、ネズミたちはただ、ただ自由にいたいだけ、と言うが、猫に追われて肩身が狭い思いをしている。だから彼らはゾルバを嫌っている。そう、一見、ヒーローに見えるゾルバであるが、粗暴ですぐに手(爪)が出る。憎まれてしまう理由はもっともだ。そしてかもめのヒナを猫達は大事に育てるが、『猫可愛がり』しすぎ、しかも猫に囲まれて暮らしているので自分は猫と思い込んでしまっており、ちょっと笑えるところだが、子供や孫が可愛くて仕方がなく、ついつい甘い顔をしてしまう親御さんや祖父母は「!」と思うかもしれない。そういったちょっとしたところも考えさせられてしまう。

「私、猫だもん」と言い張っていたフォルトゥナータ、しかし他のかもめたちに出会い、ゾルバに自分自身が生まれた経緯を聞かされ、少しずつ何かが変わっていく。それはゾルバとて同じこと、フォルトゥナータはかもめであって猫ではない。ずっと一緒には暮らせない、いつかは別れがやってくる。飛ぶことが怖いフォルトゥナータ、本当はフォルトゥナータにずっとそばにいて欲しいと思うゾルバや他の猫たち。そんな姿を見てマチアスも変わっていく。ラスト近くゾルバとフォルトゥナータは高い塔に登り、思い切って!
たかが一歩、されど一歩、その一歩に勇気と渾身の力を込めて踏み出すこと、“殻(から)をやぶる”こと、休憩込みの2時間に濃厚にテーマや問題点を込めたミュージカル、映像演出もなく、フライングもなく、もちろんプロジェクション・マッピングもなく、全てがマンパワー。計算されたフォーメーションにシンプルなセット、卵からヒナが生まれるシーンは必見!海外ミュージカルや長年培ってきたオリジナルミュージカルのノウハウがぎっしりと!
俳優陣もゾルバ役の笠松哲朗はじめ、キャラクターにマッチしており、また、みっちり稽古した成果も存分に発揮。ゲネプロにもかかわらず、もう何度も上演してきたかのようなこなれっぷり。またクリエイターはほぼ全てを劇団内から選出、4月20日より全国津々浦々で上演される。

<ゾルバ役:笠松哲朗コメント>
26年ぶりの新作ファミリーミュージカルとして劇団が一丸となり、いちから作品を創り上げてきました。この作品に携われたことを大変嬉しく思います。ゾルバはある日突然、かもめの子フォルトゥナータの母親代わりを任される役どころ。彼女との出会いを通じて、自分の殻を破り、成長していきます。
この作品のメッセージである「勇気を持って一歩踏み出すことの大切さ」を全国のお客様にお届けできるよう、精一杯舞台を務めてまいります。

【公演概要】
2019年4月20日より全国ツアー公演
公式HP:https://www.shiki.jp/applause/kamome/
撮影:上原タカシ
文:Hiromi Koh