“森新吾へのオマージュ” アクトカンタービレ「GOLDEN LEMONADE」殺し屋が殺し屋を殺しに?!お笑いネタのマシンガン攻撃で笑い死に????

アクトカンタービレ「GOLDEN LEMONADE」、この作品はDIAMOND☆DOGSの森新吾が立ち上げた演劇プロジェクトであったが、先頃、森が心筋梗塞で死去したことに伴い、本公演は“森新吾へのオマージュ”と銘打たれ、昨年2018年11月に披露されたアクトカンタービレ「scene1『Smoky Dog』」を改訂、ブラッシュアップした作品が上演される。出演者には新たにDIAMOND☆DOGSの咲山類が名を連ねるほか、「Smoky Dog」脚本・演出を手がけた劇団ホチキスの米山和仁が協力者としてクレジットされた。
出演者には咲山のほか、町田慎吾、長澤風海、小寺利光、法月康平、冨森ジャスティン、若松渓太、桐生園加、水谷あつしが名を連ねている。
森新吾はDIAMOND☆DOGSのオリジナルメンバー、そのすべてに出演し振付も手がけ、その他、多くの作品で振付を手がけていた。その独創的かつエモーショナルな動き、これから、という矢先の急逝、類稀なる才能の持ち主だっただけにその死をいたむ声は多い。この公演はいわゆる追悼公演、劇場ロビーには故人への花も多く、ファンや関係者から愛されていたことが偲ばれる。
洒落た音楽で幕開き。暗闇に一人、タバコに火をつける男が。「人はいつか死ぬ。だから今、生きていることを謳歌すればいい」とつぶやく。彼は殺し屋(町田慎吾)、しかも腕は確か。「殺し屋に殺し屋を殺すことを依頼されている」。これだけでつかみはOK。そしてオープニング、それから物語が始まる。立ち入り禁止の波止場の第三倉庫。いかにも怪しい男(水谷あつし)がこっそり入ってくる。誰かきた!・・・・・急いで隠れる!・・・・・宅配業者(法月康平)だった。ここは殺し屋のアジト。

それから次々と怪しすぎる男たちが登場する。演じるは咲山類、長澤風海、小寺利光、冨森ジャスティン、若松渓太、サングラスをかけていかにも!な出で立ちだ。咲山類演じる殺し屋はこの殺し屋たちのリーダーっぽいポジションだが、いつも『本部』を気にしており、殺し屋にしては少々頼りなさそうな。この男たち、お互いを名前で呼ばずにタバコの名称で呼び合う。しかもキャラが立ってる!冒頭に登場した怪しい男も!そして隠れていた男を見つけ、ここで殺し屋勢ぞろい!というとなんだか凄そうな響きであるが、実は・・・・・。

細かいネタでどんどん観客を笑わせる。お菓子のネタ(人気のお菓子が販売中止になってみんなで残念がる、あるお菓子のパッケージが変わった等)など『ある、ある』ネタがこれでもかと続いていく。そのたびに盛り上がる男たち。この密室で繰り広げられるお笑い、見た目とのギャップがとにかく可笑しい。また、俳優陣の個性を生かした動きも見逃せない。無駄に宙返りをしてみたりもするし、テンション高すぎ、無駄にシャツを脱いでみたり(金髪だけど胸毛は黒いのはなぜ?というツッコミはなしで!)、またなぜかショータイムも。ラジオから流れる軽快なDJ、この舞台では唯一の紅一点の桐生園加、しかし、どうもただのDJではない様子。そして見た目は怖そうな彼らだが、少しずつ性根も見えてくる。

さて、冒頭に登場した殺し屋はミッションを遂行できたのか?ターゲットは誰だったのか?彼らは本当に殺し屋なのか?時々、顔を出す宅配業者、DJの正体は?部屋にやたら積まれているダンボールの中身は?謎の多い登場人物たちであるが、性根は心優しく、殺し屋には向いていなさそう。なぜ、こういう立場になったのか自ら語る。どんでん返しもあり、最後のオチはともかく、細かいエピソードがハートフル。そこにいろんな笑いを詰め込み、ラストはちょっと優しい気持ちになれる。殺し屋たちの呼び名、そのネーミングとキャラクターがマッチ、なかなか心憎い。

いわゆるシュチュエーションコメディー、ストーリーの軸は「殺し屋が殺し屋を殺しにきた」ということだが、群像劇的な要素もあり、そこにいる、という彼らの存在価値、皆、何かしらそこに存在している意味がある。冒頭の言葉、「人はいつか死ぬ。だから今、生きていることを謳歌すればいい」、ちなみにタイトルに使われているLEMONADEのLEMON、酸っぱいことから「欠陥品」「役立たず」「不良品」というスラング。そこから転じて「When life gives you lemons, make lemonade」という言葉があるが、意味合いは「マイナスなことをプラスに変えよう」。さしずめ「災い転じて福となす」に近い感覚。そして「lemonade」はスラングで「クズ野郎」という意味もあるとか。様々な意味が込められているタイトル。確かに出てくる人物たちは世間一般の感覚からしたらしょーもない男たちかもしれない。だが、それでも憎めない、いいやつばかり。“森新吾へのオマージュ”ということだが、決して湿っぽくない、むしろ爽やかさと清々しさを感じる。故人の遺志をスタッフ・出演者一同で引き継いでいく心意気、続けて欲しいシリーズだ。

【公演概要】
2019年5月9日(木)~13日(月)
東京都 博品館劇場
脚本・演出:森新吾
音楽:TAKA
協力:米山和仁
出演:咲山類 / 町田慎吾 / 長澤風海、小寺利光、法月康平、冨森ジャスティン、若松渓太 / 桐生園加 / 水谷あつし
劇場HP:http://theater.hakuhinkan.co.jp/