原作は京極夏彦の長編推理、伝奇小説で百鬼夜行シリーズの第2弾。第49回日本推理作家協会賞受賞作。2007年12月22日にこれを原作とする映画が公開され、さらに、2008年10月から12月までテレビアニメが放送された。2019年初の舞台化ということで話題性も高い。物語の発端は1952年(昭和27年)の8月15日。中央線での人身事故。
暗い性格だった楠本頼子(平川結月)は、クラス一の秀才で美少女の柚木加菜子(井上音生)に突然「私たちは互いが互いの生まれ変わりなんだ」と声をかけられる。互いに孤独だった2人は仲良くなり、2人で最終電車に乗って湖を見に行こうと約束するも、加菜子は中央線武蔵小金井駅の高尾方面ホームから何者かに突き落とされ、列車に轢かれてしまう。
その電車にたまたま勤務帰りの刑事・木場修太郎(内田朝陽)が乗り合わせていた。木場は頼子と共に加菜子が運ばれた病院へ向かうが、そこへ女優・美波絹子こと加菜子の姉・柚木陽子(紫吹 淳)と出会う。陽子は「加菜子を救える可能性があるところを知っている」といい、加菜子は謎の研究所に運ばれ、集中治療を受けることに。一方で、小説家・関口巽(高橋良輔)は新人小説家・久保竣公(吉川純広)と出会う。そして雑誌記者・鳥口守彦(高橋健介)と稀譚社社員・中禅寺敦子(加藤里保菜)と共に、武蔵野連続バラバラ殺人事件を追って道に迷い、とある「匣」のような建物と遭遇する。そ子は加菜子が収容された研究所・美馬坂近代醫學研究所だった。
その後、加菜子はいなくなり、陽子は脅迫文を受け取る。同じ頃、鳥口は「穢れ封じ御筥様」を調べており、関口の紹介で拝み屋・京極堂に相談を持ちかける。
バラバラ殺人、加菜子の誘拐、事件の裏に渦巻く「魍魎」は・・・・・・・。
舞台のセットはほぼ何もないに等しいのだが、壁面は箱が無数にあるイメージ。
ストーリーは基本的に原作通りに進んでいくのだが、テンポよく見せていく。家の中のシーンは枠組みだけの『箱』、象徴的だ。それを動かして場面を変えていく。
エピソードをいくつかはしょり、エッセンス的な感じにまとめ、原作がわからなくても、テーマ性や物語の世界観はわかるようになっている。
事件と事件、点と点が結びつき、そして意外な人物が鍵を握る。日本では魍魎は死者の亡骸を奪う妖怪・火車と同一視されている。
原作を読んでいれば、展開もオチもわかっているのだが、それでもキリキリと作品世界が迫ってくる。
柚木加菜子は実際には誰に突き落とされたのか、美馬坂幸四郎(西岡德馬)の真の目的はどこにあるのか、中禅寺秋彦(橘 ケンチ)、中野で古本屋「京極堂」を営む。店の屋号に因んで「京極堂」と呼ばれ、家業は安倍晴明を祀る神社の宮司で陰陽師、副業は拝み屋。この事件に関わることとなり、関口巽や鳥口守彦とともに真実に迫っていく。
時折、映像で今はめったに見かけなくなった原稿用紙に言葉が浮かんでくる。それが、原作らしさを醸し出す。小説の決め台詞、中禅寺秋彦は「この世にはね、不思議なことなど何もないのだよ」という。この言葉は、ストーリーが進行するに従って、具体性を帯びてくる。それぞれのキャラクターの心理状況、彼らの生い立ち、感じ方、女優の柚木陽子、憂いを帯びた眼差し、深い悲しみの理由もラスト近くになって明らかになる。美馬坂幸四郎の思いと理想、無骨者であるが、純粋な気持ちを持つ木場修太郎(内田朝陽)、またサイドストーリー的な立ち位置のエピソードもまた、人間の性を感じさせずにはいられない。時には狡猾さをむき出しに、時には心折れ、時には立ち向かおうとする。そして無償の愛と、理想を追い求める。
キャストは橘 ケンチはじめ、キャラクターによく合っており、原作ファンも納得の出来栄え。様々な『Facter』がラストに向かって突進していく。それぞれの気持ちを考えれば、必然的な流れにも感じる。人が人を想うことには偽りがなく、それが幸福な形になるのか、不幸な形になるのかは、それはきっと神のみぞ知る。小説の舞台化なので、決まったビジュアルは実は存在しない。そこがこういった作品の面白さ、また演出も様々な形態が考えられる。伸びしろの多い作品だ。
ゲネプロ前に囲み会見が執り行われた。登壇したのは演出の松崎史也、キャストは橘 ケンチ、内田朝陽、高橋良輔、北園 涼、高橋健介、紫吹 淳、西岡德馬、そして演出の松崎史也。
「1ヶ月培っていた稽古、初めて今日、お客様の前で・・・・・嬉しく思います。『魍魎の匣』、舞台という形態でどのように箱が開くのか、楽しんでいただけると思います」(橘 ケンチ)
「怖い作品です。テーマもなかなか・・・・・ホラーな部分もありますが、文学的で言葉が面白かったり、橘さんはじめ・・・・・色っぽい作品だと思います。キャラクターも・・・・一生懸命頑張ります。見て何か感じてもらえたら」(内田朝陽)
「素敵な言葉をたくさん綴られております。一つ一つ、皆さんの前でお届けできれば」(高橋良輔)
「演劇で舞台で行われているのですが、身近に起こりうる内容になっていると思います」(北園 涼)
「言葉のみでの戦いが魅力の一つでもあります。2時間、皆さんに味わっていただけたらなと思います」(高橋健介)
「長いこと舞台に立たせていただいておりますが、愛をテーマにしたハッピーな作品が多かったんですが・・・・・こんな愛の表現もあるんだなと、私自身も新しい扉を開かせて・・・・この魍魎ファンで柚月のイメージが確立されているようですが、そのイメージを壊さないように演じられたらと思います」(紫吹 淳)
「この作品は、京極夏彦さんの傑作ですが、さっき北園くんが『どこでもありうる話』と言ってましたが、どこでもあったら困るな(笑)。人間の発想ではなかなかできない仕組みの本になっています。その仕組みが力つよいものになってるので、俳優たちはその仕組みに負けないように、芝居をしなきゃいけない。エネルギーある演技をお見せできたら愛を・・・・後半で・・・・これは『ある愛の歌』だと思っております」(西岡德馬)
「フィクションのエンターテイメント、大きな役割の一つに現実世界を生きる支えになること・・・・この作品を見ることでお客様にそのような・・・・支えになればいいなと俳優・橘ケンチの代表作になると思っていますし、役者たちみんな、素晴らしくってこのメンバーでシリーズを続けたいなと・・・・充実した稽古でした。シリーズとして続くかどうかは幕が開いてからの反応になると思います。そうなれるように取材陣のみなさま、よろしくお願いいたします(笑)」(松崎史也)
また橘ケンチは原作者の京極夏彦氏に実際に会ったそうで「初めてお会いしまして、今年が作家生活25周年ということで、本当に舞台化を喜んでくださって顔合わせのい時にもわざわざお越しいただきまして、ありがたいお言葉をいただきました。ものすごいいろんなことを言ってくださったのですが、感動したのが、”皆さんの思う『魍魎の匣』をやってください、面白いと思えば僕はいうことはないです”と言ってくださり、責任とプレッシャーを感じましたが、託していただいたということもあり・・・・その後に幸運にも先生のご自宅に伺い、僕も本が好きなので、京極先生の書斎に・・・・日本一の書斎と聞いておりまして、それを体験しまして、ものすごい書斎でした。本棚にびっしり、綺麗に詰まっているんですよ。先生が手に入れた本が全部・・・・・お金がなくて売ってしまった本はまた買い直して・・・・財産。これが『魍魎の匣』の役柄に生きているんだなと・・・・・京極堂という役を演じますが、先生の立ち振る舞いだったり、その他のキャラクターにも先生のエッセンスが息づいています。先生の・・・・初日にきていただくので・・・・・」とコメント。また内田朝陽は「プレッシャーはあります!先生のありがたいお言葉、”新しい『魍魎の匣』”それになおさらプレッシャーを!稽古してもがくしかなかった」とコメント。高橋良輔も「先生のお言葉をいただいて・・・・言葉がでない、言葉にならない」といい「最後まで楽しんでやっていければ」と語る。北園 涼も「こんなに緊張した顔合わせはないなと」とコメントし、高橋健介も「気合いを入れないとまずいなと(笑)」とコメント。紫吹淳は「年齢差も壁も感じさせず、楽しい現場でした。10代の方はずっとお菓子持ってて『若いな』と(笑)」と笑顔で。西岡徳馬は「芝居のテーマと仕掛けが大きいんでそれに負けないエネルギーで個人個人が立ち向かっていく、相当なエネルギーをぶつけないといけないんで、ちょっと和やかにしている舞台ではないなと。年齢に関係なく言ったりして・・・・同じ土俵に上がるので、『初舞台だから』とは言ってられない・・・・なるべく柔らかく言ってるつもり(笑)、みんないいやつばかり(笑)」。さらに西岡徳馬は「ケンチとは二本ぐらいやってて初めてではないんです。話しやすい、真面目で紳士でまちがいないなと。僕は遅れて稽古に入って、セリフはバッチリ入ってたし。胸突き八丁なシーンが終わりの方にあって通し稽古の時にすごい頑張った!この姿勢が好きです」といい、紫吹淳は「私も遅れて入ったんですが、率先してトイレ掃除を!私もよく主役はやるのですがトイレ掃除はしたことがなくって(笑)。掃除している姿を見てびっくり!その姿もかっこいい!」とコメント。最後に橘ケンチが「大作をさせていただきます。ハッピーエンドの作品ではないです。皆さまの記憶と心に刺さるようなものをお届けできるように、一丸となって千秋楽まで」と締めて会見は終了した。
【公演概要】
舞台「魍魎の匣」
日程・場所:
<東京>
2019 年6 月21 日(金)~6月30 日(日) 天王洲 銀河劇場
<神戸>
2019 年7月4日(木)~7月7 日(日) AiiA 2.5 Theater Kobe
原作:京極夏彦「魍魎の匣」(講談社文庫)
脚本:畑 雅文
演出:松崎史也
出演:
中禅寺秋彦役:橘 ケンチ
木場修太郎役:内田朝陽
関口 巽役:高橋良輔
榎木津礼二郎役:北園 涼
鳥口守彦役:高橋健介
楠本君枝役:坂井香奈美
久保竣公役:吉川純広
楠本頼子役:平川結月
柚木加菜子役:井上音生
中禅寺敦子役:加藤里保菜
雨宮典匡役:田口 涼
須崎太郎役:倉沢 学
増岡則之役:津田幹土
青木文蔵役:船木政秀
福本郁雄役:小林賢祐
里村絋市役:中原敏宏
寺田サト役:新原ミナミ
寺田兵衛役:花王おさむ
柚木陽子役:紫吹 淳
美馬坂幸四郎役:西岡德馬
企画協力:株式会社ラクーンエージェンシー
主催:ネルケプランニング
公式サイト:https://www.nelke.co.jp/stage/mouryou/
公式Twitter:https://twitter.com/stage_mouryou
(C)舞台「魍魎の匣」
取材:Hiromi Koh