この作品は1983~87 年まで「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載された高橋よしひろの人気漫画「銀牙 –流れ星銀-」の舞台化作品。熊と戦う犬たちの愛、勇気、友情、正義、諦めない心などがストレートに描かれ、連載から 30 年以上が経った今でも色褪せることがない少年漫画の名作。
舞台セットは無機質な印象、吹雪が吹きすさぶ音で始まる。場所は東北、主人公の銀(佐奈宏紀)はその名の通り、良質な熊犬(熊狩りを目的とした狩猟犬)の毛色とされている虎毛(銀色)が特徴。生後間もなく、父であるリキ(坂元健児)を失ったが、その素質は確かなもの、竹田五兵衛(平川和宏)の特訓を受けて子供ながらもたくましく成長し、熊犬としての才能の片鱗を見せるようになる。そして打倒・赤カブトを掲げる奥羽軍と出会い、彼らの仲間となる。彼らにはボスがいた。その姿を見たとき、銀は驚く。それは死んだと思っていた父・リキであった。そして人間ですら歯が立たない凶暴な赤カブトを倒すために、銀は奥羽軍第1班小隊長、立耳のグレートデンであるベンたち(郷本直也)とともに、リキの命により、強い犬(おとこ)を探すべく全国の旅に出る、というのがだいたいの流れである。
歌、ダンス、アクション、そして芝居、竹田五兵衛以外は皆、犬である。犬らしい動きをするために相当な稽古をしたそうで、手の動き、四つん這いで動く時の足の運びなどに工夫と稽古の成果が現れており、犬たちの世界を表現。ダンスはPOPなコリオだったり、あるいはエモーショナルだったり、ここは見ていてエンターテイメント性も高い。キャラクターもはっきりしていてしかも人間臭い。感情移入できる『犬』もいて、共感できる。
銀のまっすぐさ、堂々たるリキ、男気に溢れ、統率力のあるベン、一匹狼的で猛獣と戦ったことが自慢な、情に熱いジョン(安里勇哉)、その他、ムードメーカー的なスミス(塩田康平)、不穏な行動をするハイエナ(尾関 陸)、個性的な犬たちばかり。そしていく先々で出会う犬たちと交流し、絆を深めていく。そして銀はたくましく成長し、友情や愛の大切さを身をもって学んでいく。それは他の犬たちとて同じ。物語はまだまだ続いていく。ラストのバトルは圧巻で、セットの高低差を十分に生かしてのアクション、通路もふんだんに使って、俳優陣、張り切って!衣裳はそれぞれの個性を生かしたものになっており、これが細部にこだわりを見せてなかなかにおしゃれだ。主演の佐奈宏紀、銀を熱演、そして何と言っても坂元健児、動きにキレがあり、歌もさすがの歌唱力で、堂々たる佇まいは荒っぽい犬たちを統率するリキらしい。生と死、過酷な運命に立ち向かう勇気、シンプルだが『胸熱』な展開と犬たちの心意気、上演時間は約2時間ほどの1幕もの。「父さんのように強くなりたい」というリキ。そんなリキの冒険の旅はまだ始まったばかりだ。
ゲネプロ前に囲み会見が行われた。登壇したのは演出の丸尾丸一郎、 出演の佐奈宏紀、郷本直也、安里勇哉、荒木宏文、坂元健児。
佐奈宏紀は「事前稽古もあって一から犬の動きや、基礎を固めて、緻密な稽古をしてきました。稽古でこんなに疲労したのは初めて!ようやくこの劇場に立てて!怪我なく!」と挨拶した。
郷本直也も「ただただ早く見せたい!熱い男の物語を」とコメント。犬の動きはなかなか目を見張るものがある。また、犬を飼ったことがある人なら大きく頷けるシーンもあるので、ここはしっかりと見届けたいポイント。安里勇哉は「初めての犬です。犬になることを楽しみながら最後まで!」と語るが、皆、張り切って!
荒木宏文は「人間がどう犬を演じるのか、ビジュアル面からのアプローチは初めての体験です。舞台、エンターテイメントとして新しい形を提示できると思います」と意気込んだ。
坂元健児は『動物もの』はすでに経験済。「お隣の大井町では劇団四季が猫の物語とライオンの物語をやっています。ここ、天王洲アイルではいよいよ、この劇団鹿殺しの(笑)、丸尾さんが鹿より強い熊殺しに立ち向かう犬の物語を!打倒!大井町!打倒劇団四季!」と笑わせた。
演出の丸尾丸一郎は「手探りの中から、まずは4本足から歩くところから始めて、エチュードもやってみて、何が答えかわからないところから探し、僕たちなりの答えは出せたかなと自信を持って言えます。歌も入りますので、犬たちのミュージカルを楽しんでいただければ」と語る。随所に歌が多く、飽きさせない構成。
また辻本知彦の振付については「超クリエイティバー(新語)、固定概念がなく」と佐奈宏紀。さらに「どんどん新しいものを生み出していく人に渡していける人だなと。それを柔軟に飲み込んで理解していく、自分なりにやっていくっていうのが重要だった振り付けとはちょっと違っていて動きの演出・・・・ニュアンスを伝えてあとは自由っていうのが多く、センスを共有してもらっている感じ。自分になかったものをいただいたなと思います」とコメント。また坂元健児も「ミュージカルの振付は割と当て振りが多いのですが、辻本さんのは真逆で、セリフから発生するものではなく、空気感から発生する動きで、動物の動きも『爬虫類系じゃないかな?』っていう動きもよくあるので、見ていてすごく楽しめる動きだと思います。今までにない振付だったと感じています。僕はやってて楽しいし、見てても飽きないで見られる。お客様が入ってどういう風に感じてくれるのかな?と今は楽しみです」とコメント。丸尾丸一郎は「初めてお会いして、同い年で同じ大阪出身なんですよ。ああいう感性・・・・腹立つんです(笑)、方法論を積み重ねて積み重ねていって引き出しがあって答えがあるのに、そういうのを無視して作っていくタイプなので腹が立ちますね(笑)」と絶賛。「この作品の強い個性の一つになっているのは間違いないです」とコメント。また郷本直也は「僕は39になるんですが、ダンスがめちゃくちゃ嫌いで、苦手で、踊ることが嫌だったんですが、初めて今回、『こんなに動くことが楽しいんだ』って思って・・・・楽しいなって思えることができたのは本当によかったです。この物語、お客様も一緒の仲間となって赤カブトを倒して行こうという・・・・この旅を楽しんでもらえたら」とコメント。安里勇哉は「犬の特徴を出したようなビジュアル、本当にそう見えるし。注目して欲しいのはオープニングから結構、みんな死ぬ気で!熱くやってますので!注目して欲しいです」と語るがしょっぱなから!全力、全開!
荒木宏文は「犬として存在、登場しているのは衣装さんとメイクさんのサポートのおかげです。僕たちが自由に表現できることになっているので、すごく救われています。見てるお客様にも目に留めてもらえる作品だと思います。演出も犬の真似ごとをするのではなく犬だからここに犬の仕草が入る、というところでのバランスの取れた表現方法がたくさん盛り込まれています。細かくどこが犬の仕草なのかというポイントを探りながら作ったのですごく計算されていると思います。それがどれだけ自然に入っているので、物語に入ってしまうと見逃してしまうような・・・・(しっかりと)見てもらえれば」とコメント。ここは注意!
坂元健児は「ミュージカルって言ってもいいのかなぁと思った瞬間もありましたけど、でもミュージカルとはちょっと違う、お芝居の要素が強い、歌、踊りの上にお芝居がぐっと上に成り立っている状態。実際にやってると踊って歌ってる感じがない瞬間が多いです。不思議な感じです」とコメント。佐奈宏紀は「お芝居が超絶熱いのが続くので舞台上の熱が上がっていくんです。歌の時にパーーンと客席に一気に空間を広げていく感じが・・・・お客様と一体化させるような、歌の入り方・・・・最初の銀牙の世界観のスケールの大きさを音楽でより伝えたいっていう意向がありますね」と語る。また「体調管理・・・・・でも失敗するんです(笑)、浮かれ屋さんで(笑)、毎回、熱くやってて・・・・万全の状態でやらないとできないってことが発覚して(笑)、常にみんなの体調を気にしてマスクしたり、はちみつ飲んだりして(笑)犬であることが嘘じゃなくって、本当に『犬だな』と思わせるように!動きを追求しました!」と語る。
最後に佐奈宏紀がPR、「たくさん稽古してきて、圧倒的なものをご用意した自信があります。ぜひ、楽しみにしててください!お芝居は熱いですが、劇場の空調が寒いので羽織るものを!」と締めて会見は終了した。
なお、平日公演限定で終演後はアフタートークイベントが開催される。
[DVD発売決定!]
2020年1月発売予定!
価格:8000円+税
【公演概要】
<東京>
2019年7月6日(土)~7月15日(月・祝)
天王洲 銀河劇場
<神戸>
2019年7月20日(土)~7月21日(日)
AiiA 2.5 Theater Kobe
原作:高橋よしひろ「銀牙 -流れ星 銀-」(集英社文庫コミック版)
脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
振付:辻本知彦
※辻本知彦の「辻」の字は1点しんにょうが正式表記です。
出演:
銀 佐奈宏紀
ベン 郷本直也
ジョン 安里勇哉
スミス 塩田康平
ハイエナ 尾関 陸
赤虎 赤澤遼太郎
中虎 岩城直弥
黒虎 松井遥己
モス 千代田信一
黒邪鬼 北代高士
竹田五兵衛/語り 平川和宏
赤目 荒木宏文
いっとん(KoRocK)
永井直也
佐久本歩夢
岡田治己
前山義貴
矢野秀実
リキ 坂元健児
後援:東成瀬村 横手市
協力:一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会
一般財団法人 横手市増田まんが美術財団
主催:ネルケプランニング
公式HP:https://www.ginga-stage.com/
公式Twitter:https://twitter.com/stage_ginga (@stage_ginga)
(C)高橋よしひろ/集英社・舞台「銀牙 -流れ星 銀-」
取材・文:Hiromi Koh