演劇界を牽引する、劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の過去の名作戯曲を、才気溢れる演出家たちが、新たに創り上げるシリーズ「KERA CROSS」。その第一弾として、第43回岸田戯曲賞を受賞した『フローズン・ビーチ』が、鈴木裕美の演出により上演されるが、全国公演に先駆け、7月12日より神奈川県・橋本の「杜のホールはしもと」で、プレビュー公演が始まった。
出演は第24回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞し確かな演技力で高評価の鈴木杏、初舞台となるブルゾンちえみ、宝塚歌劇団出身の実力派・花乃まりあ、ミュージカルで活躍し歌唱力に加え演技力に定評があるシルビア・グラブ、実力もあり、個性的な4人の女優が揃った。
1998年にナイロン100℃によって、ケラリーノ自身の演出で新宿紀伊國屋ホールにて初演、2002年に同劇団により再演され、第43回(1999年度)岸田國士戯曲賞を受賞した。「シリアス・コメディーの代表作」と言われ、5人の女性たちの間に起こるある事件とその8年後、16年後を描いている。
1987年、カリブ海と大西洋のあいだにある島に建てられた別荘の3階にあるリビングが物語の舞台。千津(鈴木杏)は友人・市子(ブルゾンちえみ)とともに、大学生活最後の夏休み、幼馴染の愛(花乃まりあ)の別荘に遊びに来た。愛には双子の姉・萌がおり、父親の後妻である咲恵(シルビア・グラブ)がいる。複雑な家庭環境だ。市子はエキセントリックで突飛な行動に出る。千津と市子、友達同士ではあるが、彼女たちの関係性は少し複雑な匂いがする。咲恵は事故により目が見えなくなっているが、明るい性格、しかし、見えないがゆえに何かを感じ取る感覚は鋭い。千津は常に何かと葛藤し、心が揺れているようにも見える。そんな女性たちの16年、節目のところで映像が流れる。冒頭では物語の設定が説明され、そこから次は8年後、16年後の状況が説明される。
第1場では、ある事件が起こるが、これは物語の『きっかけ』、そこからキャラクターの感情や思いが透けて見えてくる。2場はそこから8年後になるが、ここでも事件が起こる。そして3場はそこから8年後、女たちが再び、一堂に会する。
ストーリーは全てこの別荘の一室で起こり、別の場所で起こったことは合間に挟み込まれる映像のイラストとともにモノローグで語られるのだが、日本語ではなく、スペイン語で内容は字幕で観客に伝える。この演出が心憎い。これがもし、画像もなく、単純なモノローグであったら、ここまで作品の『旨味』は増量されなかったかもしれない。この手法により、シリアスさと滑稽さが強調され、作品全体の輪郭をはっきりさせる。原作者を知り尽くしているからこそ、の演出。また、舞台セットも含め、全体を海を彷彿とさせるブルーでまとめ、視覚的にはスタイリッシュで美しく、ビジュアル面でもおしゃれ。そして第3場、この戯曲が書かれた時点では『未来』、だが、今は2019年、観客はこの場面をどう捉えるか、ここはきっと千差万別であろう。そして1場、2場、特に1場は1987年、今から30年以上も前の出来事ということになる。特に千津の髪型は時代を感じさせるが、これは千津というキャラクターの性格をここに見ることができる。
寓話性の強いシリアス・コメディー、客席からも笑いが起こる。そしてラストは、少し、切なさも感じるが、全体としては原作者の愛情がそこはかとなく感じられる。登場する全てのキャラクターは愛おしく、そして共感できる部分も多々ある。ここが、この作品の深淵なところであり、時代を超えて今後も愛されていくであろうことは想像に難くない。
<鈴木杏:コメント>
「戯曲自体もスリリングですが、少人数で台詞量も多い芝居なので、舞台上にいる私たちもスリリングな日々を送っています。でも、やればやる程KERAさんの戯曲の、面白さ、難しさ、楽しさ、を体感しながら日々過ごせているので幸せです。この面白さを観客の皆様にもお伝え出来たらと思い、私たちも稽古を重ねてきました。これから色々な場所で公演をさせて頂きますが、皆様にお楽しみ頂けるように、更に精進して各地に伺いたいと思います。是非、劇場に足を運んで頂けたらと思っています。宜しくお願いします。」
【公演概要】
KERA CROSS 第一弾『フローズン・ビーチ』
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:鈴木裕美
出演:鈴木杏、ブルゾンちえみ、花乃まりあ、シルビア・グラブ
公演日程
<神奈川・橋本プレビュー公演>7月12日(金)〜14日(日) 杜のホールはしもと・ホール
<新潟公演>7月25 日(木) 長岡市立劇場 大ホール
<福島公演>7月28 日(日) いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
<東京公演>7月31日(水) ~8月11日(日) シアタークリエ
<大阪公演>8月16日(金)~18日(日) 大阪・サンケイホールブリーゼ
<静岡公演>8月21日(水) 静岡市清水文化会館マリナート
<愛知公演>8月23日(金) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
<高知公演>8月28日(水) 須崎市立市民文化会館 大ホール
<高松公演>8月31日(土) レクザムホール(香川県県民ホール) 小ホール
公式HP:http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/keracross_frozenbeach.html
文:Hiromi Koh
撮影:桜井隆幸