松本零士原作『スタンレーの魔女』、物語の時代設定は第二次世界大戦。歴史の授業で周知の通りだが、日本はこの戦争に敗れる。この『スタンレーの魔女』が再び舞台化された。脚本・演出は御笠ノ忠次、自身のユニット「サバダミカンダ」の旗揚げ公演としても上演しており、3度目の上演となる。
幕開きは寂しげな歌声で始まるが、『本編』が始まると・・・・・ラバウルで陣営を張っている日本軍。出撃の命令はまだ下されていない。パイロットの敷井(石井凌)らがワイワイとふざけあったり。だらだらしている者もおり、なんだか楽しそうだ。しかし、いつ出撃命令が下るともわからない。出撃すれば、生きて帰還できる保証もなく、まして敗戦の色濃い状況、舞台セットの飛行機のパーツは見るからにオンボロだ。
この物語の主人公である敷井は航空探検家・ハーロックが書いた小説『スタンレーの魔女』がすこぶるお気に入りだ。この小説に出てくるスタンレー山脈を超える夢を抱いていた。男たちの他愛もない会話、仲間をいじって笑い合う。しかし、そのちょっとした会話に戦争の影が入り込んでいる。恋人に手紙を書いている者もいる。しかし検閲に引っかかる、どんなことを書いていいやらわからない。現代では到底、ありえない話だ。こんな状況だからこそ、ふざけることに一生懸命なのかもしれない。
また中尉が出撃から帰還する。その様子から戦況が不利であることは一目瞭然だ。そしていよいよ出撃の時を迎える。舞台上にバラバラにおいてあるポンコツな飛行機のパーツを役者たちが運び、舞台中央に『飛行機』が出現する。それに乗り込み・・・・・。しかし、被弾し、プロペラが片方に・・・・・味方の零戦も打ち落とされ・・・・・・右エンジンだけではスタンレー山脈を越えることは困難、覚悟を決めるのだが・・・・・・。
主人公は敷井だが、群像劇的な要素もあり、セリフや行動でキャラクター一人一人の個性や生い立ちがそこはかとなくわかる。皆、気のいい奴ばかり、敷井はじめ、皆、仲間が大好き、結束力も高い。そんな敷井の『仲間たち』が最後にとる行動は熱く熱く、そして切ない。
この物語で登場する一式陸上攻撃機は大日本帝国海軍の陸上攻撃機、つまり彼らは海軍の所属であることがわかる。さらに劇中にカレーライスが出てくる。海軍では決まった曜日にカレーライスが出てくる。「今日は土曜日だ!」とウキウキした調子のセリフがあるが、これは曜日感覚を忘れないための配慮である。そんなことも念頭に入れておくと、作品の奥深さを感じることができる。
セリフ、芝居で作品の根底にあるものを表現する。笑って笑って、少しづつ、観客の心は揺さぶられていく。運命、時代に翻弄され、短くも懸命に生きる。「このまま戦争が続けば俺もお前も死ぬよ」、しかし「俺たちはまだまだ飛べる」という。俳優陣の熱演と緻密な役創りと作品世界の空気感。絶望と希望、笑いと哀しみ、命をかけてもやり遂げたいこと、大切なこと。テーマは普遍的で古びない作品、青山DDDクロスシアターという濃密な空間、90分の上演時間には大切なことがぎっしり詰まっている。
ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは石井凌、唐橋充、宮下雄也、松井勇歩、津村知与支、御笠ノ忠次。
見所やおすすめシーンについて脚本・演出の御笠ノ忠次は「難しい〜始まってから終わりまでの90分が見所」といい舞台化の許諾を取った経緯について「許諾を取りに僕は先生のお宅まで行ったんです。そこで『やらせて欲しいんですけど』って言ったら『いいよ』と(笑)、それが10
何年前」とコメント。「見所は松本零士先生の世界観」と改めて。石井凌は「みんなが自由に動くお芝居なので、毎公演、違うのかな?セリフは一緒だけど・・・・・感情とか・・・・・16公演、全部違うと思います」と語る。
唐橋充「稽古で昨日、つぶやいたんですが空気を作る稽古、毎回同じことをやるのですが・・・・・よどまないようにいかに新鮮な空気を作るかという・・・・・それが新鮮で楽しい稽古でした。これを伝えていけるように」と語る。宮下雄也は「個性を生かしている、このメンバーでしかできない・・・・90分全てが見所です」と力強く。松井勇歩は「最高にふざけながら、でもしっかりと道を作って進んでくれる先輩たちと、それに死に物狂いでついていく僕を含めて・・・・・その相乗効果っていうか・・・・戦争を題材にした作品ですが、心に残るものが」と語る。津村知与支は「僕は2008年の時も、今回は別の役ですが、2回目になります。前回以上に集まった9人、年代も出身も個性もバラバラですが、本当にこのバラバラな9人が舞台上で化学変化っていうか異種格闘技戦っていうか、そういう反応みたいなもの、毎回稽古をやって・・・・・・毎回違って、毎回新鮮で楽しい。毎回クオリティを足している、こんなことってなかなかない。劇団を20年やってますが、こういう風にバラバラなメンバーが集まったからこそ、スリリングな面白さっていうのがあるのかな?楽しみです」と熱く語った。
また、夏にちなんだ質問で「花火観たい(笑)」と御笠ノ忠次。石井凌は「海でBBQ。海、めちゃくちゃ好きです。あとは47都道府県回りたい、お芝居で」となかなかの回答。最後に
「がっちり、観に来てください!」(津村知与支)
「最高にふざけてて、最高に面白い!」(松井勇歩)
「夏にぴったりですよ」(宮下雄也)
「戦争もの・・・・ご観劇いただきたい」(唐橋充)
「毎公演違う空気感を感じて楽しんでいただけたら」(石井凌)
「演劇好きな人、演劇嫌いな人、両極の人たちにに観ていただきたい」(御笠ノ忠次)
< 『スタンレーの魔女』あらすじ>
「無念の涙をのんでひきかえす私が、ふと、ふりかえった時……。山が笑っていた。」
太平洋戦争中、ニューブリテン島のラバウルを飛び立った日本軍爆撃隊。海を渡り、標高 5千メートル級の山々を湛えたニューギニア島のスタンレー山脈を越えて、連合国軍基地のあるポートモレスビーを目指す。
その中の一機が最後に挑んだ頂とは・・・。
【公演概要】
タイトル:舞台『スタンレーの魔女』
日程・場所:2019年7月28日(日)~8月8日(木) 東京 DDD青山クロスシアター
原作:松本零士(小学館)
脚本・演出:御笠ノ忠次
キャスト:
石井凌 唐橋充 宮下雄也 池田竜渦爾 松本寛也 永島敬三 松井勇歩 宮田龍平 津村知与支
公式HP: https://www.marv.jp/special/stanley-stage/
公式Twitter:@stanley_stage
©松本零士/小学館 ©『スタンレーの魔女』製作委員会