浜中文一主演 若き日の近松の青春を通して現代社会に訴え得る秀逸な舞台「THE BLANK! ~近松門左衛門 空白の十年~」

近松門左衛門といえば、江戸元禄期の浄瑠璃戯作者として知られる、いわば“東洋のシェイクスピア”とも例えられる著名な人物ではあるが、彼が戯作者として頭角を現していく30代よりも前の若き日の人生に関しては、その多くが謎に包まれている。

その中で彼の子孫である近松洋男が近松家に代々伝わる口伝を基に、さまざまな歴史のベールに包まれた謎を解き明かした『口伝解禁 近松門左衛門の真実』(中央公論新社刊)を基にした舞台『THE BLANK!~近松門左衛門 空白の十年~』が9月14日から25日まで東京よみうり大手町ホール、9月27日から29日まで大阪COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて上演となった。

ここでは20代から30代にかけての近松門左衛門が、何と『忠臣蔵』でおなじみ大石内蔵助と行動を共にして友情を温めながら、やがて戯作者としての基盤を固めていったという内容なのだ。

若き日の近松門左衛門を演じるのは、関西ジャニーズJr.卒業後、舞台『50Shades~クリスチャン・グレイの歪んだ性癖~』(16)『スケリグ』(19)などで活動中の浜中文一。

大石にはジャニーズJr./宇宙Sixのメンバーで、18年『スクアッド』(18)や『のべつまくなし』(19)と、舞台活動に積極的な江田剛。

演出は『BOSS CAT』などで知られる俊英・鈴木勝秀。

13日夕方、よみうり大手町ホールでのゲネプロを拝見させてもらったが、これがなかなかに硬派な青春ドラマ、“漢(おとこ)”たちの舞台であり、またそれ以上に現代社会を見据えた内容に仕上がっていることに感服した。

若き日の近松は京都で宮中侍として仕えていたが、徳川幕府と対峙し続ける後水尾上皇(ラサール石井)を支えるべく、幕府には内密で赤穂藩の塩を運ぶ海のルート「塩の道」を、若くして同藩の城代家老に就任した大石とともに全国的に開拓していき、ひいては周辺の諸外国と塩貿易をしていきたいとの想いを胸に抱いていく……。

大筋としてはざっとこんなところで、女優がひとりも登場しない男ばかりの(しかもそのほとんどがイケメンの!)麗しい世界観の下、20代の近松と大石のおよそ10年にわたる友情などが硬派な青春ドラマとしてきっちり描かれている。

劇中ユーモア描写もあるが、それもくだけたものではなく硬質の笑いといったものが多いのが逆に微笑ましい。
(現代パートを担う学者役の小林克弥&細見大輔も、全体の狂言回しとして好もしい味を出している)

もっとも、その域のみで本作を語ってしまうのはあまりにも勿体ない。

つまり、近松が塩の道を開拓していくおよそ10年の歩みの中、彼が戯作者として大成していく上での原点となるエピソードが、ここでは見事にまぶされているのだ。

注目すべきは、当時の日本が鎖国政策によって海外との交流が原則的に禁じられていた中、近松は国内に在住するスペイン人セファルディー老師(陰山泰)の教えを受けながらスペインをはじめとする海外演劇の翻訳をはじめつつ、遠き異国に想いを馳せていく。そうした彼の行動は、それまでの国内にはなかった斬新なドラマツルギーを取得することになり、ひいては中国人を父に、日本人を母に持ち、中国からの台湾復興運動に準じた国性爺(史実は国姓爺)を主人公とする『国性爺合戦』を発表するに至る。

そういった要素を観客にスムーズに納得させるために、舞台音楽はスペインのフラメンコを基調としつつ、劇中劇として近松らがスペイン語で『騎士イメネオ物語』を披露するなど、異国情緒の発散にさりげなくも勤しみ続けながらワールドワイドな視点を強調しているのが興味深い。

また、こういった「鎖国」という閉ざされた世界の中で外の世界を夢見る若者の構図は、「嫌いな国との交流など、いっそ閉ざしてしまえ」とばかりに感情のコントロールもきかせぬままSNSなどで発散しまくる現代日本の風潮を制するに足る説得力を伴っている。さしたる話し合いもせず、むやみやたらに誹謗中傷のみを繰り返すことは、今から300年以上前の日本の若者からすれば、贅沢かつ愚かしいことでしかないのだ。

一方、大石内蔵助といえば、先にも記したがやはり『忠臣蔵』の赤穂浪士による吉良邸討ち入りで知られるわけだが、その事件の根幹となった一因が“赤穂の塩”であったことを知っておくと、本作がまた一層興味深いものとして映えてくる。

正直、今回の舞台は前知識がなくても楽しめるが、たとえばウィキペデイアあたりで「近松門左衛門」「忠臣蔵」あたりを斜め読みでもしておけば、より深くその世界観を堪能できることであろう(本作のホームページ内「教えてラサール先生!」を押さえておいてもいい)。

エンタテインメントとは単に娯楽ということではなく、その面白さの中から何某かの探求心や知識欲などをもたらし、自身の心を(ひいては人生そのものを)啓蒙してくれるものであり、その意味でも本作はその資格を十分に持ち合わせている優れものなのだ。

さて、ここでの近松は最初生真面目なカタブツ男として登場するのだが、時折ドラマなどで見受けられる晩年の近松は、貫禄の中にもどこか洒脱で粋なものを感じることが多く、本作でいえばラサール石井が演じた後水尾上皇のイメージに近い(実はお恥ずかしながら中身も知らぬまま本作の企画を初めて聞いたとき、うっかりラサール石井が近松役だと勘違いしてしまっていた⁉)。

しかし、最後までこの舞台を見届けることで、上皇のスピリットみたいなものが近松に受け継がれていくことが容易に理解できるだろう。

最大権力者として君臨する上皇ではあるが、徳川幕府に逆らうべく策を練り続け(そのために子どもを作り続けた⁉)、彼の反骨精神は巧まずして後の戯作者・近松門左衛門の作品そのものに反映されていく。

当時の朝廷と幕府の確執は、今の皇室と政府の関係性とも相応する気がしてならないものもあるが、そこで必要なのはひとりひとりが反骨の精神を決して失わないこと。

即ち本作は、近松門左衛門という戯作者の若日の人生の説を通して、現代社会を生きる上で真に必要なものを問いかけていくものとして屹立しているのであった。

ゲネプロ前に舞台挨拶があった。登壇されたのは、浜中文一さん、江田剛(宇宙Six/ジャニーズJr.)さん、 内藤大希さん、ラサール石井さん、そして、演出を務めた鈴木勝秀さん。

まずは、それぞれの役どころからご紹介、

浜中「近松門左衛門をやらせていただきます。初めて実在の人物を演じるのでどうしようかなと思ったんですけど、すごい楽しいです」

ラサール「私は恐れ多くも、後水尾上皇(ごみずのおじょうこう)という役でございます。舞台上では“ごみのお天皇”と呼んでるんですけど。江戸時代では”ごみのお”が正しいとされているようで。でも、教科書では“ごみずのお“と記さているので間違いではないんです」

江田「のちの大石内蔵助、大石良雄を演じます。前に他の舞台では、近松門左衛門をやらせてもらったことがあるんですが、それのご縁といいますか、近松さんが呼んでくれたのかなと思って嬉しく思ってます。でも、本格的な和の舞台に出演するのは初めてなので、こうしたしっかりとした着物とかもそうですけど着付けとか教えてもらったりして、そういう勉強になったことが結構あります。」

内藤「松鹿平馬(まつがへいま)という役をやらせていただきます。文ちゃん(浜中文一)と江田君と塩の道という事業を一緒に立ち上げて進んでいくという役どころになっています。着物も稽古中から着させていただいていて自分で着れるようにもなりました。」

Q今回の舞台のこだわりは

鈴木「和ものなので、しかも登場人物が実際にいた人なのでそこら辺はあまり嘘ばっかり書くわけにはいかないので(笑)、いつもより脚本を書くのに時間が掛かったりとかはしました」

Q知的エンターテインメントというのは?

鈴木「結構自分では歴史のこと分かっているのかなと思っていたんですが、実際書き始めていくと知らないことだらけで、それがまたすごく面白くて。近松門左衛門の人生というのが20代の頃の資料が全く残っていなくて、近松洋男(ちかまつ ひろお)さんという近松のご子孫の方が書かれた本があって、それが口伝として近松家に伝わっている。それが想像を絶するくらいの驚くべき話で。これは是非舞台化したいなという風に思って、構想し始めてから3年くらいかかりましたかね。」

Q浜中さんも近松門左衛門について調べられたりしたんでしょうか。

浜中「多少調べましたけど、調べてもすぐ忘れちゃうんで(一同笑い)。調べたっていう事実はあるんですけど、結果、調べてないってことになりますよね、忘れるから(笑)」

ラサール「私も結構調べさせていただきました。忠臣蔵あるでしょ、有名な。それから、近松門左衛門がいっぱい本を書いて。その前夜の物語。これから後に忠臣蔵がある。この後こうなっていくのかっていう前がわかる芝居なんです。まさか大石内蔵助と近松門左衛門が知り合いって思わないじゃないですか。そこら辺も面白いんですよね。名前だけですけど吉良(上野介)も出てきますから。」

ラサール「それを淡々とやるとそれほど面白くないっていたら失礼ですが(一同笑い)、興味ないじゃないですか、若い人も。だけど、鈴木さんがすごい遊び心のある演出ですごい面白いんですよ。すごいドラマティックで。音楽も和だと思ったらあっと驚くみたいな。」

Q.見どころ、見せどころは?

浜中「今回、初めて歌舞伎を・・・(一同笑い)勉強させていただいて・・・(一同笑い)先生にも教えてもらって」
鈴木「スペイン語で歌舞伎をやるんです。スペイン語を歌舞伎調で。何度も観ても抱腹絶倒?(一同笑い)」

江田「いろんな役者さんたちの芝居しているところを稽古場で見てて、こういう風にお芝居を作って楽しくしていくんだなっていう、作品作りとかが勉強になりました。あと、少しだけ振り付けもしました。スズカツさんからこういうイメージっていうのを渡してもらっていたのでそれに合うように考えて付けました」

内藤「文ちゃんが踊るスペイン歌舞伎のアシストといいますか(一同笑い)、より盛り上げるべく、少しですけど歌わせてもらってます。あと、女形も・・」
浜中「和ものの舞台は初めてじゃないので所作は教えてもらったこともあるんですけど、知らないこともたくさんありましたし、とくにかく先生が非常に丁寧に教えてくださって。歌舞伎は見得も切ります。スペイン語を話しながら歌舞伎をやる。そして見得(みえ)を切る。いろんな歌舞伎の中の形というか、ものもやってますし。獅子もやってます。獅子の舞も見ものです!もう、先生にめちゃめちゃほめてもらいました。「獅子サイコーだよ!」って(手を叩いて笑う仕草)。先生怒られそう(一同笑い)」

最後にそれぞれの意気込み

内藤「十分に稽古を積んできて、あとは楽しんで皆さんに観ていただくという状態なので明日からの開幕が楽しみです」

ラサール「パっと題材を見ると堅そうなんですけど、いろんなことが行われるのであっという間に終わっちゃうというか、楽しんで終わっちゃうと思います」

江田「作品の中で役的にも皆で力を合わせて大事業を成し遂げるということをやっているんですけど、カンパニーの皆さんと力を合わせて大成功をさせたいなと思います」

浜中「すごいいろんな角度から芝居を作っているので観ている方も飽きが来ず、あっという間に終わると思うので是非、楽しみに観に来てください!」

【公演概要】
タイトルTHE BLANK! ~近松門左衛門 空白の十年~
出演:
浜中文一 / 江田剛(宇宙Six/ジャニーズJr.) 内藤大希 小林且弥 細見大輔 香取新一 田村雄一 佐藤賢一 陰山泰 / ラサール石井
脚本・演出:鈴木勝秀
日程・場所:
<東京>2019年9月14日(土)~25日(水)よみうり大手町ホール
<大阪>2019年9月27日(金)~29日(日)クールジャパンパーク TTホール
参考文献:「口伝解禁 近松門左衛門の真実」 近松洋男著 中央公論新社刊
公式HP:https://www.theblank-stage.jp/
公式twitter:@the_blankJP
文(レビュー評):増當竜也