俳優として活躍中の小笠原健が初の脚本・演出に挑戦する舞台『Get Back!!』が上演中だ。数年前から脚本や演出に興味はあったそうで、ここにきてようやく実現した、という次第だ。
物語の主人公はどこにでもいそうな若者・薫(太田将熙)。何をやりたいのか、目標もなく、夢と呼ぶものも特にない。そんな自分に苛立ち、父・徹(横山真史)に当たり散らし、反抗的だ。そんな薫、自分の誕生日だというのに、また父に当たり、家を飛び出して路上で喧嘩、ところが思いっきり殴られて意識を失う。ようやっと目が覚めたら、傍らには見知らぬ女性が・・・・・妊娠している様子、「大丈夫?」と声をかけられる。名前は夏織(藤田奈那)、彼女に連れられてとある店に連れていかれ、そこでご飯を食べていると・・・・・「?!」、父である徹が・・・・・いつもの父と違う・・・・若い!何かが違う。テレビを見ても・・・・・お昼の定番番組「バイキング」「ヒルナンデス」がない!新聞を見て、そこでわかる、「俺が生まれる5ヶ月前!」、驚愕!じゃあ、この父親そっくりの若い大工は・・・・・そして妊娠中の若い女性は・・・・・・・図らずも自分の若かりし頃の両親に遭遇、ここから物語が動き出す。
出てくる人物は皆、お人好しを絵に描いたようないい人たちばかり。ちょっと間が抜けたところもあるが、情に厚く気持ちの良い人たちばかりだ。そして父・徹も母・夏織も、人懐っこい笑顔が眩しい。初めて見る母親の姿、そしてきっぷの良い父、夏織の父母に夏織の妹・秋恵(林田真尋)や薫のライバルである龍司の父親・寅二郎(佐藤弘樹が一人二役で演じる)、その他、東大受験に失敗しまくりの8浪さん(古賀司照)に徹の弟子の涙脆いヤス(上堂地かんき)などなど、愛すべきキャラ立ちした人々が賑やかにワチャワチャとやっている。薫は、現状いくところがない、さりとて現代に戻る術もわからない。「名前は?」「山田太郎」ととっさに偽名、そこで生活することにしたが、若い両親の思い、そして周囲の人々の生き様に接していくうちに彼の内なるものが変化していく。しかし、薫は知っている、母・夏織の将来を・・・・・。そして自分が生まれる前からどれだけ愛されてきたのかを知るにしたがって心が痛くなる。体の弱い夏織にとって出産はかなりきつい状況、薫は・・・・・。
薫の心の成長を軸にし、サイドストーリーもしっかり。基本、エンタメなので楽しく歌うシーンもあり(歌が懐かしすぎる!)、ゲスト出演シーンはアドリブ!毎回違うのでここはお楽しみポイント。そして劇中劇は抱腹絶倒!日本人なら誰もが知っているおなじみのキャラクターに扮してお笑い要素満載の内容でここは素直に笑いたい。そしてセリフのいたるところに小ネタが散りばめられており、思わず笑ってしまうところも。手に持っている携帯電話が・・・・・すっかり見なくなった機種だったり、テレビ番組ネタは懐かしく、ネットが普及していないので『郵便』、ちょっとノスタルジックな雰囲気も手伝って全体が温かい印象。ところで薫は無事に現代に戻れるのか?という疑問があるが、それはタイトルが示している。過去を変えることはできないが、未来と心の持ち方は変えられる。そしてささやかな幸せと思い出、何の変哲もない日常、卵焼きのように。そしてタイトルの『Get Back』、意味は「帰る」「元に戻る」「復帰する」「返り咲く」などの意味がある。
ゲネプロ前に会見が執り行われた。登壇したのは太田将熙、藤田奈那、横山真史、林田真尋、佐藤弘樹、丸山敦史、脚本・演出の小笠原健。舞台には大きな酒樽、これを前にしてまずはパチリ!
まずはキャストから意気込み。
「この台本を一ヶ月以上前にいただいてまして移動中とかも読んできまして、どうやって演じようかといろいろと膨らませてきました。これがお客様に届けられるのが嬉しいです。小笠原健さんも初の脚本・演出、僕も単独主演が初めてです。初めて同士のタッグではありますが、楽しみにしていただけたら嬉しいです」(太田将熙)
「キャスト全員怪我なく無事に初日を迎えることができて、ほっとしています。小笠原さんの初の脚本・演出、太田さんの単独主演ということで、初めてがたくさん詰まった作品です。私自身も今回、初めて挑戦する役をいただいて、お稽古ではたくさん悩みましたが、小笠原さんに導いていただき、積み上げてきたものを出し切ってお客様に楽しんでいただけるように精一杯頑張りたいと思います」(藤田奈那)
「作・演出の小笠原健とはプライベートでも仲が良くって、やっと幕が上がるので感慨深いです。作り上げてきたものはまちがいないと思っていますので、自信を持ってお客様にお届けできると思います」(横山真史)
「秋恵という役は普段の私とは全然性格が違うので、稽古の時には苦戦しましたが、千秋楽まで秋恵として頑張りたいと思います」(林田真尋)
「僕自身は健さんとは今回が初対面なのですが、本当に温かくて、演出、作品自体も温かい作品になっていますので、それがみなさんに届くように!」(佐藤弘樹)
「今回、小笠原さんの台本を見た時に、完璧な本があるんだ!と目を疑いました(一同笑)。この作品に参加できることを嬉しく思っています。今回は当て書きという形で、やらせていただく役で、しっかりと!」(丸山敦史)
そして小笠原健からは
「初めて脚本・演出のお話をいただいた時に温かい家族のお話をもともとやりたいなと思っていまして、今回はいろんな方に助けていただいて自分の力ではできなくって、素敵なキャストの皆さんに読んでもらって稽古していく中で僕の脚本をどんどん超えていって、みんながそれぞれのキャラクターにどんどんなっていって、そのキャラクターにしか見えない、という風に役者が広げて作っていってくれて、夏織という妊婦さんのお話ではありますが・・・・・ちっこい子供だったのにこんなに大きく成長して今日生まれるという、それがリンクしまして、感情が高ぶっています。でも、まだまだこれからですので、信頼できる役者たちと一緒にお客様に最高の笑顔と涙を届けられたらと思っております」
そして作品のテーマ選びやきっかけについては
「作る時に自分の実体験っていうんでしょうか、今、いろいろな作品がありま菅、自分の、僕自身の要素を取り入れないとオリジナルにはならないなと思いました。親に愛情を注がれていたのに、反抗期があったり、親のことが嫌いだった時期もありました。親に迷惑をかけながらも・・・・いっぱい親孝行したいなと思うようになり、家族に喜んでもらえるような、誰が見ても親に『ありがとう』と言えるような、感謝の気持ちを伝えたくなるような作品を、王道のストーリーではあるのですが、王道の中でもそういった気持ちになれるような作品に、と思い脚本を書いて演出しました」と語る。特別はことはおこらないがハートフルな作品に仕上がり、ラストはちょっと『うるっと』くる。
そしてキャストからの見所シーンについて
「薫は父親に反抗してほとんど会話していないやつですが、過去にタイムスリップして人の温かみやいろんな人と接してやっとそれが肌で感じた時にちょっとずつ何かが変わっていって、最後に向かっていきますが、そういった些細な感情の変化や人との接し方、そういう部分、ちょっとずつ変わって行ってるところを楽しんで見ていただければと。全体としてはそれぞれ個性が強くってみんながもともと持っている個性を小笠原さんが引き出してくださって歌の人もいれば踊る人もいる、そういう部分もありますので、ぜひ、楽しんで見てもらえれば!最後はちょっとほっこりするようになればいいなと」(太田将熙)
「お気に入りのシーンやセリフはたくさんありますが、特に薫と徹と私がいて、短いシーンですが3人それぞれの思いを抱えていてすごく温かいのですが、どこか切ない幸せな時間が流れているシーンで、そこがすごく好きなのでぜひ注目していただければ」(藤田奈那)
「大工の格好がこんなに似合うやつはなかなかいないんじゃないかと(笑)。ここに注目していただければ!今回の作品はすごく愛に溢れた作品で、家族の愛だったりとかいろいろな愛がありますので、そこをぜひ!」(横山真史)
「普段はフェアリーズというところにいるのですが、舞台中にもフェアリーになるので(注目ポイント!一同笑!)そこを見てください!」(林田真尋)
「たくさん試行錯誤しまして、ずっと稽古しました。しれはひとえにいいものを絶対にのせたいという思いという演出家、役者の熱意と、あとはみなさんの笑いで!助けていただければ」(佐藤弘樹)
「始まる前のアナウンス・・・・ね。小笠原さんの!声の出し方が独特で!」早くに劇場にきていただければ!」(丸山敦史)
さらに太田将熙から稽古の様子について「健さんは役者なので、演出が役者の視点、目線がありまして笑いのところも実際に経験していないとわからないところも、実際にやってくださるので、すごくわかりやすく、やりやすいです。稽古場の雰囲気も健さんが暖かく作ってくれて、感謝しています」としみじみとコメント。
最後に締めの言葉、
「作品としてはとにかく楽しく、何も考えずにきて笑っていただける作品になっています。どの世代、老若男女楽しめる、家族できたらさらに!家族との時間を大切にしたいなと思えるヒューマンなコメディになっています。めちゃくちゃ盛りだくさんですが、難しいことは考えずにきてもらえたら!」と締めて会見は終了した。
<ストーリー>
もし、今日が最後だとわかっていたなら、あなたは誰に何を伝えますか?
主人公の薫は、夢も目標もなくただ毎日を何となく過ごしていた。そんなある日、喧嘩の末、意識を失い目を覚ますと、そこは自分が産まれる前の世界だった。戸惑いながらも、自分の若き日の両親と、その仲間達との奇妙な生活をスタートさせるのだが、物語は、薫が知らなかった結末へと向かっていくのだった。
生きる意味を見つけられなかった人間が、何のために生まれてきたのか、その意味を知った時・・
愛を知らなかった人間が、どれだけ愛されて産まれてきたかを知った時・・
母親にとっての子供とは、家族のあり方とは。目に見えるものだけが全てではない。目に見えないものにこそ、本当に伝えたい想いがある。
挫折感や劣等感と闘いながらも、懸命に生きる人々を描いた、感動のヒューマンドラマ。
【公演概要】
日程・場所:2019年9月22日(日)~29日(日) 俳優座劇場
脚本・演出:小笠原健
出演:
太田将熙/藤田奈那 横山真史 林田真尋(友情出演) 君島光輝 佐藤弘樹 古賀司照 真田怜臣 西原健太 重友健治 毎熊宏介 上堂地かんき/斉藤レイ 長戸勝彦/丸山敦史
公式サイト:
http://www.getbackstage.biz
公式 Twitter: