没後10年メモリアルイヤーに贈る、井上ひさし最後の戯曲 舞台「組曲虐殺」開幕!

2019年は、2010年4月に没した井上ひさしの没後10年目のメモリアルイヤーです。こまつ座では「井上ひさしメモリアル10(テン)」として、幻の初期作から最後の書き下ろし戯曲『組曲虐殺』まで、綺羅星のような作品を上演。こまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』は、プロレタリア文学の旗手・小林多喜二の生涯を、彼を取り巻く愛すべき登場人物たちとの日々を中心に描いた作品。一人の内気な青年が、なぜ29歳4ヶ月で死に至らなくてはならなかったのか。明るさと笑いと涙に包まれつつ、現代社会を鋭く照射する音楽劇が10月6日開幕!

[受賞歴]
≪2009年初演≫
第17回読売演劇大賞・芸術栄誉賞(井上ひさし)、最優秀スタッフ賞(小曽根真)、優秀演出家賞(栗山民也)、優秀作品賞
≪2012年再演≫
第63回芸術選奨文部科学大臣新人賞<演劇部門>・第20回読売演劇大賞優秀男優賞(井上芳雄)、同賞最優秀女優賞(高畑淳子)、第47回紀伊國屋演劇賞個人賞(神野三鈴)を受賞

母や弟や恋人や同志たちもとへ、
彼は死体となって戻ってきた。
コメカミの皮が剥ぎ取られている。
頬には錐で突き刺された穴がある。
アゴの下が刃で抉られている。
手首に足首に縄目のあとがあるのは
天井の梁から吊されて拷問されたからだ。
下腹部から大腿部にかけてが、
陰惨な渋色に変色している。
陰茎も睾丸も同じ色で、しかも、
大きく膨れ上がっている。
同志の中に医者がいて、丹念に調べた。
「この変色は、弓の折れか棍棒で、メッタ打ちに
撲りつけられてできた内出血のあとです。
錐を突き立てたような傷あとが二十近くもありますが、
これらは畳屋で使う針を突き刺して抉ったものでしょう」
右の人指し指が折れてぶらぶらしている。
『蟹工船』のような小説を、
二度と書けないようにするために、
刑事たちがへし折ってしまったのだ。
同志たちは後日の証拠のために、
何枚も写真を撮った。
おしまいに同志の千田是也と佐土哲二が、
ていねいにデスマスクをとった。

――――井上ひさし

[演出:栗山民也コメント]
今、ゲネプロを終え、自宅に戻った。早速、ビールを開ける。ものすごい熱がまだ体全体に残っている。舞台の時間は、これだからやめられない。
今回の舞台は7年ぶりの再々演だが、今までと随分と違った世界に見えた。2人の新しい俳優が参加してくれたこともあるが、皆7つ歳をとって、多喜二のあの暗黒の時代を通し、この歪んだ今の時代へと皆が正直真っ直ぐ向き合っているように思えた。勿論、井上ひさしの言葉が目の前にあってのこと、その一つひとつの言葉が、今の時代にとても強く痛く響くのだ。初演の時の台本の裏表紙に書き留めていた多喜二の言葉を、また思い出す。「革命とは、この田口タキという人を幸せにすることだ。」
とにかくゲネプロの今夜、6人の俳優と1人のピアニストによるセッションは、一つの熱い塊になった。足し算ではなく掛け算で、舞台の温度はぐんぐんと上る。あとは観客の皆さんとのぶつかり合いで、この作品がもっと新しく大きく成長していくことを心から望む。

[音楽・演奏:小曽根真コメント]
今回は上白石さん、土屋さんという新しいファミリーメンバーを迎えての再々演になりますが、栗山さんも、僕も、役者さん全員も、新たなインスピレーションをいただいたことで、今までよりも重心が低く、もう一歩も二歩も深い所まで届いたことを感じます。きっと井上先生が描きたかった世界、観客の皆さんにお伝えしたかったメッセージをよりクリアに伝えることのできる作品に仕上がったのではないかと思います。まさしく今の時代に生きている皆さんの心に、先生が鳴らし続けた警鐘が共振するのではないでしょうか。大切なことは、これは生でしか経験できないということです。おそらく、映像で観てもこの作品の良さは100%伝わらないでしょう。皆さんも、井上先生の仰る「運命共同体」として、生でこそ得られるものを感じるため、ぜひ劇場に足をお運びください。

[主演:井上芳雄コメント]
初演のとき僕は30歳で、多喜二と同年代でした。
それからずっと僕の中には多喜二と井上ひさしさんがずっといて、2人に恥ずかしくない自分でありたいと思って生きてきた気がします。今振り返ってみると「組曲虐殺」は自分が演劇をやる意味に気づかせてくれた、大きな転機となった作品です。すべての舞台は現代社会と繋がっていて、僕たちがお芝居をする意味を明確にしなければ、未来に繋がらないことを学びました。この10年で、結婚し子供もできて自分自身の環境も大きく変化しました。井上さんや多喜二から「綱を渡された者」の1人として、未来に希望があることを信じ、今の時代に僕が演じる多喜二にしなければと決意を新たにしています。

[今回の再々演より初出演:上白石萌音コメント]
井上ひさしさんの台詞は、口に出してみて改めて言葉の強さがわかりました。
今はこの作品の一部になれることが嬉しく、演じているとき、本当に幸せです。
全部の瞬間と言葉が本当に尊いと感じます。
私の演じる瀧子はあまり言葉を持っていない子なので、一言一言にシンプルで強い思いが込められています。それが難しい部分でもあるのですが、瀧ちゃんの信念を大切にしていきたいと思っています。自分で飾らず、台本に書かれてあることを全部そのまま受け取って、そのまま発すれば良いんだと稽古中に気付きました。全部井上先生の本に書いてあるんだなと。
タイトルが怖いので身構えていらっしゃる方もいるかもしれません。決して多幸感に満ちた時代ではないけれど、幸せになりたいと思って必死に生きていた人たちのお話です。
一緒になって一喜一憂してもらえたら嬉しいです。
そして言葉のもつ力と、音楽素晴らしさを存分に体感していただきたいです

【公演概要】
こまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』
作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:井上芳雄 上白石萌音 神野三鈴 土屋佑壱 山本龍二 高畑淳子
音楽・演奏:小曽根 真
[東京公演]
公演日:2019年10月6日(日)~10月27日(日)
会場:天王洲 銀河劇場
※福岡・大阪・松本・富山・名古屋公演あり
▼公演詳細はこちら
https://horipro-stage.jp/stage/kumikyoku2019/
▼こまつ座HP
http://www.komatsuza.co.jp/index.html
▼公式ツイッターアカウント
@KUMIKYOKU2019
撮影:宮川舞子